この記事の要点
- 「全財産を妻に」という遺言は有効ですが、その財産は妻が亡くなったときの相続(二次相続)で、今度は妻の相続人へ引き継がれます
- 夫婦に子がいない場合、二次相続の相続人は妻の親、または妻の兄弟姉妹・甥姪になり、もともと夫の側にあった不動産がその系統へ移っていくことがあります
- 相続人の顔ぶれが変われば、遺産分割協議の相手も変わります。名義を放置すると数次相続になり、協議の相手はさらに増えます
- 相続登記は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があります(不動産登記法76条の2第1項)
- 二次相続まで見据えた選択肢には、予備的遺言、配偶者以外への配分、遺言の書き直しなどがあります。どれを選ぶかは家庭の事情によるため、お近くの司法書士にご相談ください
「財産は全部、妻に渡したい」。遺言のご相談で最もよく聞かれる希望のひとつです。
結論から申し上げると、その内容の遺言そのものは有効です。ただし、財産はそこで止まりません。全財産を受け取った配偶者がやがて亡くなれば、その財産はもう一度、今度は配偶者の相続人へと引き継がれます。この二回目の相続を、実務では「二次相続」と呼びます。
この記事では、二次相続で「誰が相続人になるのか」「誰と遺産分割協議をすることになるのか」「不動産の名義(登記)はどう移っていくのか」という三点にしぼって、制度のしくみを整理します。
一次相続と二次相続──財産は二回動く
夫婦の一方が亡くなったときの相続を一次相続、その後に残された配偶者が亡くなったときの相続を二次相続と呼びます。法律上の用語ではなく、二つの相続を区別するための呼び方です。
「全財産を妻に」という遺言は、一次相続の場面を決めるものです。二次相続で誰が相続人になるかは、その遺言では決まりません。二次相続は妻自身の相続であり、そこで相続人になる人も、遺言があるかどうかも、妻の側の事情で決まるからです。
一次相続の段階では相続人が配偶者ひとりに集約されて手続きが簡単に見えても、二次相続で誰が登場するかは家族構成によって大きく変わります。そこを一度見ておくのが、いわゆる「二次相続の対策」の出発点になります。
二次相続で相続人になるのは誰か
誰が相続人になるかは民法が定めています。
子がいる場合は、二次相続の相続人はその子です(民法887条1項)。子が先に亡くなっていれば、その子(孫)が代襲相続します(同条2項・3項)。この場合、財産は夫婦から子・孫へと、いわば同じ家系の中を流れていきます。
夫婦に子がいない場合は、様子が変わります。子がいないときは、まず亡くなった方の直系尊属(親など)が相続人になり、直系尊属もいないときは兄弟姉妹が相続人になります(民法889条1項1号・2号)。配偶者は常に相続人になりますが(民法890条)、二次相続の場面では、その配偶者である夫はすでに亡くなっています。
つまり、妻の二次相続で相続人になるのは、妻の親、親がいなければ妻の兄弟姉妹です。妻の兄弟姉妹がすでに亡くなっていれば、その子である甥・姪が代襲して相続人になります(民法889条2項が同法887条2項を準用)。ここでいう準用とは、ある条文の定めを別の場面にも当てはめて使うことです。また、代襲がさらに下の世代へと続くことを再代襲と呼びます。もっとも、889条2項が名指ししているのは887条2項だけで、再代襲を定める同条3項は挙げられていません。準用される範囲は条文が名指しした条・項によって定まりますので、兄弟姉妹の側で代襲して相続人になるのは甥・姪までと説明されます。
この点には、立法の経緯もあります。かつての889条2項は、再代襲を定める887条3項も併せて準用していました。しかし昭和55年の民法改正(昭和55年法律第51号)で「及び第三項」の文言が削られ、兄弟姉妹の側の代襲相続人は兄弟姉妹の子(甥・姪)までに制限されました(施行日は昭和56年1月1日)。なお、古い相続が登記されないまま残っている場合には、相続が開始した時点の規定にさかのぼって相続人の範囲を確認する必要があります。この点は記事末尾の深掘りで触れます。
ここで起きるのが、もともと夫の側にあった不動産が、妻の兄弟姉妹の系統へ移っていくという現象です。夫の親から受け継いだ土地や、夫の名義で長年守ってきた自宅が、一次相続で妻の名義になり、二次相続で妻の甥・姪の名義になる、という流れです。夫の兄弟姉妹や甥・姪は、二次相続では相続人になりません。
なお、それぞれの取り分の考え方は法定相続分の基本、子のいない夫婦の一次相続の場面は子どものいない夫婦の相続で整理しています。
税金の扱いについて 相続税には「配偶者に対する相続税額の軽減」という制度があります。制度の一般的な説明は相続税の配偶者の税額軽減とはにまとめていますので、制度の中身を知りたい方はそちらをご覧ください。具体的な税額や適用の可否は税理士にご確認ください。 税額の試算や具体的な相続税の相談は税理士の業務であり、この記事では扱いません。この記事で扱うのは、相続人の構成・遺産分割協議・登記という民事の面だけです。
遺産分割協議の相手が変わる
相続人の顔ぶれが変わることは、そのまま「誰と話し合うことになるか」の変化を意味します。
妻が遺言を残していなければ、二次相続の財産は妻の相続人の共有状態からスタートし、名義を決めるには相続人全員による遺産分割協議が必要になります。相続人が妻の甥・姪であれば、夫の側の親族から見れば面識のない方であることも珍しくありません。連絡先を調べるところから始まり、戸籍や戸籍の附票をたどる作業が加わります。
相続人が増えて話し合いがまとまらない場面の進め方は相続人が5〜6人いて遺産分割がまとまらない場合、甥・姪が相続人になったときの手続きは甥・姪が相続人になったときの手続きで整理しています。
さらに厄介なのが、名義を動かさないまま次の相続が起きるケースです。一次相続の登記をしないうちに妻が亡くなり、その後さらに相続が重なると、協議に参加すべき人がねずみ算式に増えていきます。この状態が数次相続です。二次相続の話は、放置すればそのまま数次相続の話になります。
登記はどうなるか
不動産については、名義の移り方を二段階で考える必要があります。
一次相続では、「全財産を妻に相続させる」という遺言に基づいて、夫の名義から妻の名義へ所有権移転の登記をします。二次相続では、妻の名義から妻の相続人の名義へ、さらに登記をすることになります。遺言があっても、登記が自動的に変わるわけではありません。 それぞれの相続の場面で申請が必要です。
そして相続登記には申請義務があります。不動産登記法76条の2第1項は、所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、相続により所有権を取得した者が、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に所有権移転の登記を申請しなければならない、と定めています。相続人に対する遺贈により所有権を取得した場合も同様です(同項後段)。正当な理由がないのに申請を怠ったときは過料の対象となる定めが置かれています。この申請義務は令和6年(2024年)4月1日から始まっており、施行日より前に開始した相続で登記がされていないものも対象になります。義務化の経過措置については相続登記の義務化をご覧ください。
この義務は一次相続にも二次相続にも、それぞれ働きます。「どうせ妻が亡くなったらまた名義が変わるのだから」と一次相続の登記を先送りにすると、義務の問題に加えて、後から数次相続として処理しなければならない負担が乗ってきます。
では、どう考えておくとよいか
ここまでを踏まえて、遺言を書く段階で検討できる制度上の選択肢を、いくつか紹介します。いずれも「これを使えば解決する」というものではなく、家庭の事情によって向き不向きが分かれます。
予備的遺言は、財産を渡す相手が自分より先に亡くなった場合に備えて、次に渡す人をあらかじめ決めておく条項です。遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者(遺言によって財産を受け取る人)が死亡したときは効力を生じないと定められています(民法994条1項)。「相続させる」という書き方の遺言について、受け取るはずだった人が先に亡くなった場合をどう扱うかは、条文に明文がなく、解釈にゆだねられている部分です。いずれにしても、備えがないと、その部分について遺言の効果が及ばなくなることがあります。詳しくは予備的遺言とはをご覧ください。なお、予備的遺言は「配偶者が先に亡くなった場合」に備える条項であって、配偶者が財産を受け取った後の二次相続を直接決めるものではない点には注意が必要です。
配偶者以外の人への配分を遺言に含めるという考え方もあります。全財産を配偶者ひとりに集めるのではなく、子や甥姪など他の相続人にも一部を渡す内容にしておく方法です。どの財産を誰に渡すかは、その家庭で誰に何を引き継いでほしいかという価値判断そのものですので、一律の正解はありません。
遺言を書き直すことも、いつでもできます。遺言者は、いつでも遺言の方式に従ってその全部または一部を撤回することができると定められています(民法1022条)。家族構成や財産の状況が変われば、書き直しを検討する余地があります。手順は遺言の書き直し・撤回のルールにまとめています。
配偶者自身にも遺言を書いてもらうという選択肢もあります。二次相続は配偶者自身の相続ですから、そこで誰に何を渡すかを決められるのは配偶者本人です。夫婦それぞれが遺言を残しておくことで、二回目の相続の場面についても意思を残せます。
なぜそう決めたのかを書き添える方法もあります。法的な効力はありませんが、付言事項として理由や気持ちを残しておくことができます(付言事項の使い方)。
民事信託(家族信託)のように、財産の承継先を段階的に定めることが議論される制度もありますが、費用や管理の手間、そもそも自分の家庭に適しているかを含めて慎重な検討が必要です。特定の手法をあらかじめ「これがよい」と決めてかかることはおすすめできません。
なお、遺留分についても触れておきます。遺留分は、一定の相続人に法律上保障された取り分のことで、民法1042条1項は「兄弟姉妹以外の相続人は」と定めており、兄弟姉妹は遺留分を持ちません。遺留分がどのくらいになるか、実際に請求するかどうか、請求された場合にどう対応するかといった具体的な判断は、争いに関わる領域ですので弁護士にご相談ください。
最後に強調しておきたいのは、「全財産を妻に」という遺言そのものが誤りだ、という話ではないことです。配偶者の生活を守ることを最優先に考える、子がいてその後の承継に不安がない、といった事情であれば、その内容が家庭の実情に合っていることも十分にあります。個別の事情によって判断は分かれます。この記事は、その先で何が起きるかを知ったうえで決めるための材料として読んでいただくものです。
まとめ
「全財産を妻に」という遺言は有効ですが、その財産は二次相続でもう一度動きます。夫婦に子がいない場合、二次相続の相続人は妻の親、または妻の兄弟姉妹・甥姪となり、もともと夫の側にあった不動産がその系統へ移っていくことがあります。相続人の顔ぶれが変われば遺産分割協議の相手も変わり、名義を放置すれば数次相続として負担が積み上がります。相続登記には3年以内の申請義務があることも忘れないでください。
予備的遺言、配偶者以外への配分、遺言の書き直し、配偶者自身の遺言といった選択肢がありますが、どれが合うかは家庭ごとに異なります。遺言の内容や相続登記についてはお近くの司法書士にご相談ください。相続税の試算や申告は税理士、相続人の間ですでに争いになっている場合は弁護士が窓口になります。
よくある質問
Q. 遺言や相続登記の費用はどれくらいかかりますか?
費用は、遺言の方式(自筆か公正証書か)、不動産の数や所在地、相続人の人数などによって変わります。登記の際には登録免許税もかかります。費用の総額は依頼先や事案によって異なりますので、お近くの司法書士に見積もりを確認してください。相続税がかかるかどうか、いくらになるかは税理士の担当領域です。
Q. 遺言を書き直す期限や、登記を放置した場合のリスクはありますか?
遺言の書き直しに期限はなく、いつでも撤回・変更ができます(民法1022条)。一方、相続登記には期限があり、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内の申請が義務づけられています(不動産登記法76条の2第1項)。放置すると、正当な理由がない場合には過料の対象となるほか、次の相続が重なって数次相続となり、協議に参加すべき相続人が増えていきます。
Q. 自分で対応できますか? どこに相談すればよいですか?
遺言書の作成も相続登記の申請も、制度上はご自身で行うことができます。ただし、二次相続まで見据えた内容にする場合は、相続人の範囲の確認や不動産の記載の正確さが結果を左右します。遺言の作成・相続登記はお近くの司法書士、相続税の試算・申告は税理士、相続人の間で意見が対立している場合は弁護士に、それぞれご相談ください。
【さらに深掘り】二次相続と不動産登記──申請の構造・戸籍の範囲・申請義務の起算点
ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
一次相続と二次相続は、それぞれ別の登記申請になる
登記は、権利が移った経過を順に記録していく仕組みです。夫の名義から妻の名義へ、妻の名義から妻の相続人の名義へ、という二つの移転は、それぞれ別個の登記申請として扱われるのが原則です。「全財産を妻に」という遺言があっても、その遺言が二次相続の登記まで一度に済ませてくれるわけではありません。
権利に関する登記は、原則として登記権利者と登記義務者が共同で申請します(不動産登記法60条)。もっとも、相続による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができると定められています(同法63条2項)。相続で名義を受ける側が一人で申請できるのは、この規定によります。
「特定の財産を相続人に相続させる」という趣旨の遺言(民法1014条2項は、遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言を「特定財産承継遺言」と呼んでいます)についても、登記の原因は相続であり、承継する相続人が単独で申請できるものとして扱われます。「全財産を相続させる」という書き方の遺言がこの条文の定義にそのまま当てはまるかについては、議論のあるところです。もっとも、そこで問題になっているのは遺言執行者の権限を定める民法1014条2項のあてはめであり、登記の原因を何とするか、誰が申請するかは、不動産登記法60条・63条2項のあてはめとして別に考えることになります。
遺言執行者が指定されている場合はどうか、という質問もよくあります。遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条1項)。また特定財産承継遺言については、遺言執行者は、承継する相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができるとされています(民法1014条2項)。ただし、この規定は遺言執行者が「することができる」と定めるものであり、相続人本人が申請できなくなるとまでは書かれていません。誰の名義で委任するか、遺言執行者の権限の範囲がどこまでかは遺言の文言によって変わりますので、申請前に遺言書そのものを読んで確かめる必要があります。
なお、相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記についても、登記権利者が単独で申請することができる旨の規定が置かれています(不動産登記法63条3項)。この規定は令和3年法律第24号による改正で設けられたもので、施行日は令和5年(2023年)4月1日です。同法附則5条1項は、この規定を「施行日以後にされる登記の申請について適用する」と定めていますので、相続の開始が施行日より前であっても、申請が令和5年4月1日以後であれば単独申請の対象になります。「相続させる」と書かれているのか「遺贈する」と書かれているのかで登記原因が変わりますので、遺言の文言は正確に読む必要があります。
一次相続の登記をしないまま二次相続が起きたとき
一次相続の登記を先送りにしているうちに配偶者も亡くなると、いわゆる数次相続の状態になります。この場合も、原則は「起きた相続の順に登記していく」ことです。夫から妻への移転、妻から妻の相続人への移転を、それぞれ申請することになります。
実務上は、中間の相続人が一人であるといえる場合に限って、中間の登記を省略し、直接、最終の相続人の名義とする申請が認められる取扱いがあるとされています。ただし、これは常に使える便法ではありません。中間が一人といえるかどうかは、遺言の内容、他に相続人がいないか、遺産分割協議や相続放棄の有無といった事情をすべて確認したうえで判断されます。判断を誤ると補正や取下げになりますので、この方法を前提に段取りを組む前に、登記の原因と日付をどう書くかを含めて事前に確認しておくのが安全です。
また、一次相続と二次相続はそれぞれ独立した登記申請ですので、申請ごとに登録免許税が必要になります(税額の計算はこの記事では扱いません)。
相続人が甥・姪まで広がると、集める戸籍の範囲が広がる
相続による所有権移転の登記では、相続があったことと相続人が誰かを示す資料として、戸籍等を登記原因証明情報として提供します(不動産登記令7条1項5号ロ)。ここで集める戸籍の範囲は、相続人が誰になるかによって大きく変わります。
配偶者と子が相続人であれば、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍と、子の現在の戸籍が中心になります。ところが、子がおらず、直系尊属もいないために兄弟姉妹が相続人になる場合(民法889条1項2号)は、これに加えて亡くなった方の父母それぞれの出生から死亡までの戸籍をたどる必要が出てきます。父母の生涯をすべて確認しないと、ほかに兄弟姉妹(腹違いの兄弟姉妹を含む)がいないことを示せないためです。
さらに兄弟姉妹がすでに亡くなっていて甥・姪が代襲する場合(民法889条2項が同法887条2項を準用)には、その亡くなった兄弟姉妹についても出生から死亡までの戸籍をそろえ、子が何人いるかを確認することになります。転籍や婚姻を繰り返していれば、一人分だけで何通にもなります。本文で触れた「連絡先を調べるところから始まる」という負担は、登記の場面ではそのまま集める戸籍の通数の増加として現れます。
ひとつ注意しておきたいのは、相続人の範囲は、それぞれの相続が開始した時点で効力を有していた規定によって決まる、という点です。古い相続が登記されないまま残っている事案では、現在の条文だけを見て相続人を確定させると誤ることがあります。
たとえば、相続に関する民法の規定は、昭和55年法律第51号(民法及び家事審判法の一部を改正する法律)によって改正されており、施行日は昭和56年(1981年)1月1日です。同法附則2項は「この法律の施行前に開始した相続に関しては、なお、第一条の規定による改正前の民法の規定を適用する」と定めています。この改正の一つが、兄弟姉妹の代襲相続の制限です。改正前の889条2項は「第八百八十七条第二項及び第三項の規定は、前項第二号の場合について準用する」と定めており、兄弟姉妹の場合にも再代襲の規定(887条3項)が準用されていましたが、同法が「第八百八十九条第二項中「及び第三項」を削る。」と定めたことにより、兄弟姉妹が相続人となる場合の代襲相続人は、兄弟姉妹の子(被相続人から見て甥・姪)までに制限されました。したがって、昭和55年12月31日以前に開始した相続については、改正前の規定によって相続人の範囲を確認する必要があり、現在の条文をそのまま当てはめて甥・姪までで確定させてよいとは限りません。相続開始の日付を確認し、その時点の規定にさかのぼって範囲を検討する、という手順を省かないことが大切です。
申請義務の起算点は、一次相続・二次相続それぞれに立つ
相続登記の申請義務は、所有権の登記名義人について相続の開始があったときに、相続により所有権を取得した者が、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならない、という形で定められています(不動産登記法76条の2第1項)。
ここで押さえておきたいのは、この期間が「相続が起きた日」から機械的に数えるものではないことです。条文は「知り、かつ、知った日」を起点にしています。したがって、一次相続には一次相続の起算点があり、二次相続には二次相続の起算点があります。同じ不動産についてでも、誰について、いつの時点で二つの要件がそろったのかを、それぞれ分けて考えることになります。
たとえば、夫の相続で妻が全財産を取得したのに登記をしないまま妻も亡くなった、という場面では、夫の相続についての義務と、妻の相続についての義務が、別々の起算点で問題になります。妻の甥・姪が「自分が相続人になったこと」と「この不動産を取得したこと」を知ったのが、妻が亡くなってしばらく経ってからだった、という事案も珍しくありません。放置していた期間の長さだけで判断せず、いつ何を知ったのかという事実関係を整理することが出発点になります。
もうひとつ押さえておきたいのが、施行日より前に開始した相続の扱いです。この申請義務の規定(不動産登記法76条の2)は令和6年(2024年)4月1日から施行されていますが、令和3年法律第24号附則5条6項により、施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合にも適用されます。そのうえで起算点は、「知った日」ではなく「知った日又は施行日のいずれか遅い日」に読み替えられます。したがって、施行日より前にすでに二つの要件がそろっていた相続については、令和9年(2027年)3月31日が申請期限になります(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。夫の相続が古く、その登記をしないまま妻の相続が起きた、という事案では、この読替えを踏まえて期限を確認することになります。
そして、申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのに申請を怠ったときは、過料に処する旨の規定が置かれています(不動産登記法164条1項)。「正当な理由」があるかどうかは個別の事情によって判断されますので、心当たりがある場合は自己判断で放置せず、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第887条・第889条・第890条(相続人の範囲・代襲相続・配偶者の相続権)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 民法 第994条・第1012条・第1014条・第1022条・第1042条(遺贈の失効・遺言執行者・特定財産承継遺言・遺言の撤回・遺留分)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 民法 附則(昭和55年5月17日法律第51号。施行期日・経過措置)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 衆議院 制定法律「法律第五十一号(昭五五・五・一七)民法及び家事審判法の一部を改正する法律」(第91回国会。「第八百八十九条第二項中「及び第三項」を削る。」の出典): https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/09119800517051.htm
- 法務省 法制審議会民法(相続関係)部会 参考資料2「これまでの改正の経緯」(昭和55年改正=兄弟姉妹の代襲相続の制限の解説・3頁): https://www.moj.go.jp/content/001143587.pdf
- 不動産登記法 第60条・第63条・第76条の2・第164条(共同申請・単独申請・相続登記の申請義務・過料)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記法 附則(民法等の一部を改正する法律〔令和3年法律第24号〕附則第5条。適用関係・起算点の読替え)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 第7条(添付情報)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
- 法務局「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)」: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000001_00014.html