この記事の要点

  • 相続税には「配偶者に対する相続税額の軽減」という制度があり、配偶者が取得した遺産の額が「配偶者の法定相続分相当額」と「1億6,000万円」のいずれか多い金額までであれば、配偶者に相続税はかからない(相続税法19条の2第1項)
  • この軽減の適用を受けるには相続税の申告書(または更正の請求書)を提出することが法律上の要件であり(同条3項)、軽減の結果として納税額がゼロになる場合でも申告書の提出は省略できない
  • 贈与税の「おしどり贈与」(贈与税の配偶者控除)とは、かかる税目も要件も別の制度なので混同しないよう注意が必要

相続税には、亡くなった方の配偶者が遺産を受け取るときに税負担を大きく軽くする「配偶者に対する相続税額の軽減」という制度があります(相続税法19条の2)。よく耳にする「1億6,000万円」という金額の意味を、正しく理解している方は意外と多くありません。

結論から言うと、配偶者が取得した遺産の額(条文上は、借入金などの債務を差し引いた後の「課税価格」で判定します)が、次の①②のいずれか多い方の金額までであれば、配偶者に相続税はかかりません。

  1. 配偶者の法定相続分に相当する金額
  2. 1億6,000万円

条文の組み立てとしては、①の金額を計算した結果が1億6,000万円に満たない場合には1億6,000万円とする、という括弧書きで下限が保証されています(相続税法19条の2第1項2号イ)。結果として、配偶者の取得分が法定相続分の範囲内であれば税額はゼロになり、法定相続分を超えて取得した場合でも、その額が1億6,000万円までであればやはり税額はゼロになる、という仕組みです。

ただし、これは無条件の結論ではありません。財産を隠したり事実を仮装したりしていた場合には、その部分は軽減の計算から除かれる旨が定められています(同条5項・6項)。

実際の軽減額や納税額がいくらになるかは、遺産の評価額や他の相続人の取得状況など個別の事情によって変わります。具体的な税額の計算は税理士の専門領域であり、この記事では制度の仕組みを紹介するにとどめます。

税額がゼロでも、申告は必要

この制度でとりわけ誤解されやすいのが、「軽減で納める税金がゼロになるなら、申告そのものも不要ではないか」という点です。

答えは逆です。理由は二つあります。

一つめは、申告が必要かどうかの判定そのものが、この軽減を適用する前の段階の税額で行われることです。相続税法は申告義務の有無を判定する規定を列挙していますが、その列挙から配偶者の税額軽減は外されています(相続税法27条1項)。軽減を使えば結果的にゼロになるという場合でも、課税価格の合計額が基礎控除額を超えていれば申告義務そのものは残る組み立てになっています。

二つめは、配偶者の税額軽減の適用を受けること自体に、相続税の申告書(または更正の請求書)の提出が法律上の要件とされていることです(同法19条の2第3項)。軽減の適用を受ける旨と軽減額の計算に関する明細を記載した申告書等を、必要書類とあわせて提出した場合に限り適用する、という書き方になっています。したがって「税額がゼロだから申告しなくてよい」という判断は誤りで、申告をしなければこの軽減を受けることはできません。

なお、ここでいう申告書には期限後申告書・修正申告書も含まれると条文上明記されています(同項かっこ書き)。申告期限を過ぎてしまった場合でも、それだけで軽減の道が閉ざされるわけではありませんので、早めに税理士にご相談ください。

また、申告書や更正の請求書は提出したものの必要書類の添付が漏れていた場合については、添付がなかったことにやむを得ない事情があると税務署長が認めるときは、あとから書類を提出することで軽減を適用できるとする規定も置かれています(同条4項)。ただしこれは申告書等を提出していることが前提で、しかも税務署長が認めた場合に限られます。「あとから何とかなる」と考えず、期限内に必要書類をそろえて申告することを前提にしてください。

もう一点、相続税の申告期限までに遺産分割がまとまっていない財産は、原則としてこの軽減の対象に含まれません(同条2項本文)。ただし、申告期限から3年以内に分割された場合は、あらためて軽減の適用を受けられる救済の仕組みも用意されています(同項ただし書)。この救済は自動的に受けられるものではなく、当初の申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておき、分割がまとまった後に更正の請求などの手続きをとることが必要とされています。

なお、訴訟が続いているなど政令で定めるやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けたときは、この3年という期間を延ばす取扱いも同じただし書に置かれています。「3年を過ぎたら一律に打ち切り」と決めつけず、遺産分割が長引きそうなときは早めに税理士にご確認ください。

「おしどり贈与」とは別の制度

「配偶者」「贈与」といった言葉から、おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)と混同されることがありますが、この二つは別の制度です。おしどり贈与は生きている間の贈与にかかる贈与税を軽くする制度(相続税法21条の6)で、婚姻20年以上・居住用不動産といった要件があります。一方、配偶者の税額軽減は亡くなった後の相続税を軽くする制度で、婚姻期間の長さは要件になっていません。かかる税目も、制度が働く場面(生前の贈与か、死後の相続か)も異なるため、別のものとして理解しておく必要がありますが、どちらも同じ相続税法に置かれた制度であり、まったく無関係というわけではありません。また、どちらの制度も戸籍上の配偶者であることが前提とされており、内縁関係の方は対象になりません。両方の制度をどう使うか・組み合わせるかによって税負担の総額は変わりますので、判断は税理士にご確認ください。

執筆時点(2026年08月)の制度に基づく一般的な解説です。

まとめ

相続税の配偶者の税額軽減は、配偶者が取得した遺産のうち「法定相続分相当額」と「1億6,000万円」のいずれか多い金額までは相続税がかからない制度です。ただし軽減の適用を受けるには申告書の提出が要件で、税額がゼロになる場合でも申告を省略することはできません。具体的な税額の計算や申告手続きは税理士にご確認いただき、相続にともなう不動産の名義変更(相続登記)についてはお近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年08月)。

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