この記事の要点

  • 親と実家に同居してきた子には、配偶者居住権にあたる法定の居住権制度はありません。配偶者居住権は、その名のとおり配偶者のための制度です
  • ただし裁判例には、被相続人の許諾を得て同居していた相続人について、遺産分割が終わるまでの間は無償で使い続けられる関係が推認されると判断したものがあります
  • 住み続けたい場合の調整は、遺産分割の話し合いの中で行うのが基本です(現物分割・代償分割・換価分割・共有)
  • 代償金をどう用意するか、長年の同居や介護を寄与分(民法904条の2)としてどう位置づけるかが論点になりやすく、相続開始から10年の期間制限にも注意が必要です
  • 相続人どうしで意見が対立している場合は弁護士へ。名義変更(相続登記)の手続きについては、お近くの司法書士にご相談ください

結論から──「同居していた」だけで住み続けられる権利は生じません

まず結論です。実家に何十年同居していても、その事実だけで「その家に住み続ける権利」が法律上あたえられるわけではありません。実家(建物と土地)は相続財産に含まれ、他の相続人と分け合う対象になります。

よく比較されるのが配偶者居住権です。これは、亡くなった方の配偶者が自宅に住み続けられるようにするために、2020年4月から使えるようになった制度です。ただしこの制度の対象は配偶者に限られており、子には使えません。制度の中身は配偶者が「家に住み続ける権利」を守るためにで詳しく整理しています。

執筆時点(2026年9月)でも、同居してきた子のための居住権制度は民法に用意されていません。だからといって「同居してきた子には何の言い分もない」ということではなく、次に説明する裁判例の考え方や、遺産分割の中での調整によって、実際には住み続けられる結論になることもあります。

遺産分割が終わるまでの間はどうなるのか──裁判例の考え方

「遺産分割の話し合いが始まったとたん、他の相続人から家賃を請求された」「すぐ出ていけと言われた」というご心配をされる方がいます。この点について、参考になる裁判例があります。

最高裁判所平成8年12月17日判決(民集50巻10号2778頁)は、共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得てその建物に同居していた事案について、特段の事情のない限り、被相続人とその相続人との間で、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借(=無償で貸し借りする契約)が成立していたものと推認される、という趣旨の判断を示しています。

かみくだくと、「親が生前に同居を認めていたのなら、亡くなった後も遺産分割が終わるまでの間は、無償で住み続けてよいという約束があったと考えるのが通常だろう」という考え方です。使用貸借は無償の貸し借りですから、この関係が認められる限り、遺産分割が終わるまでの期間について家賃(賃料相当額)の支払いを求められても、原則として応じる義務はない、という整理になります。

ただし、次の点にはご注意ください。

  • 「ずっと住める」という意味ではありません。 あくまで遺産分割が終わるまでの間の話であり、分割の結果として他の相続人が取得すれば、その後は別の話になります
  • 「特段の事情のない限り」という留保が付いています。 生前の経緯や当事者の関係によっては、あてはまらない場合もあり得ます
  • 個別の事案の当てはめは事情によって分かれます。この記事は制度と裁判例の紹介であり、特定の主張を後押しするものではありません

なお、親の土地を無償で借りて子が自分名義の家を建てていた場合は、同じ「使用貸借」でも建物ではなく土地をめぐる話になり、整理の仕方が変わります。こちらは親の土地に家を建てるとき──「使用貸借」のままだと相続で何が起きるかをご覧ください。

住み続けるための調整は、遺産分割の中で行う

同居してきた子が実家に住み続けたい場合、最終的な決着は遺産分割の話し合いでつけることになります。民法906条は、遺産分割は遺産に属する物や権利の種類・性質、各相続人の年齢・職業・心身の状態および生活の状況その他いっさいの事情を考慮して行う、と定めています。「その家に現に住んでいる相続人がいる」という事情も、この考慮要素に含まれ得ると説明されています。

分け方には、大きく4つの型があります(詳しくは遺産の「分け方」には4つの型があります)。

現物分割 … 実家は同居していた子が取得し、預貯金など他の財産を他の相続人が取得する方法です。遺産全体の中で実家の占める割合が小さいほど、まとまりやすい形です。

代償分割 … 実家は同居していた子が取得し、その代わりに他の相続人へ金銭(代償金)を支払う方法です。実家が遺産の大半を占める場合によく検討されますが、まとまった現金を用意できるかが現実の壁になります。代償金を分割払いにする、生命保険金を原資にするなどの工夫が話し合われることもあります。

換価分割 … 実家を売却して代金を分ける方法です。金銭で公平に分けやすい反面、住み続けるという目的とは両立しません

共有 … 相続人全員の共有名義のままにする方法です。当面の結論を先送りできますが、その後の売却・建替え・修繕に共有者の関与が必要になり、次の世代でさらに相続が重なると関係者が増えて動かしにくくなります。

話し合い(協議)が調わないとき、または協議をすることができないときは、各相続人は家庭裁判所に遺産分割を請求することができます(民法907条2項)。裁判所での手続は、まず調停から始まり、まとまらなければ審判に進むのが一般的です。調停は「裁判所で行う話し合い」で、調停委員が間に入ります。

「長年の同居・介護」は寄与分になるのか(入口だけ)

「自分は同居して親の面倒をみてきた。その分を考慮してほしい」というお気持ちは、法律上は寄与分(民法904条の2)という枠組みで検討されます。被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした相続人がいる場合に、その分を相続分に加算するしくみです。

ただし、寄与分は「同居していた」「親孝行だった」というだけで当然に認められるものではなく、通常期待される程度を超える「特別の」寄与といえるかが問われるとされています。親子などの直系血族と兄弟姉妹のあいだには、もともと扶養の義務があるとされており(民法877条1項)、その範囲内でおこなわれた世話や援助は「特別の」寄与にはあたらない、と整理するのが一般的な説明です。どこからが「特別の」といえるかは、療養看護の必要性、無償でおこなわれたか、どれだけの期間・程度続いたかといった事情から判断されるとされています。認められるかどうか、金額をどう評価するかは事案ごとの判断になり、争点になりやすい部分です。この記事では入口の紹介にとどめます。

逆に、生前に実家の建築資金を出してもらった、まとまった金額の援助を受けたといった事情がある場合は、特別受益(民法903条)として遺産分割の計算に影響することがあります。こちらは生前にもらった人がいる相続──特別受益と「持戻し」のきほんで整理しています。

相続開始から10年の期間制限に注意

2023年4月1日に施行された民法改正(民法904条の3)により、相続開始から10年を過ぎた後にする遺産分割では、特別受益・寄与分の規定(民法903条・904条・904条の2)は適用されないのが原則となりました。10年を過ぎた後は、法定相続分(または指定相続分)が分け方の基準になります。なお、相続人全員が合意して、これと異なる内容の分割をすること自体が禁じられるわけではありません。ただし、10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたときなど、同条各号にあたる場合は例外とされています。

なお、この改正は施行日より前に相続が開始していた場合にも適用されますが、経過措置が置かれています。施行日前に相続が開始していたケースについては、例外にあたる「家庭裁判所への遺産分割の請求」ができる期限が、相続開始から10年を経過する時と、施行の時(2023年4月1日)から5年を経過する時のいずれか遅い時まで、と読み替えられています(令和3年法律第24号 附則3条)。

「とりあえず住み続けられているから、話し合いは先送りでいい」と考えていると、寄与分を主張する道が閉ざされてしまうおそれがあります。例外や経過措置もあるため、詳しくは遺産分割に「10年ルール」ができましたをご確認ください。

税金と、対立したときの相談先

実家を取得する場面では、相続税の計算にあたって小規模宅地等の特例という制度の名前を耳にすることがあります。一定の要件のもとで宅地の評価額を減額できるものですが、適用できるかどうかや税額の計算は税理士の職務です。この記事では制度名の紹介にとどめます。判断が必要な場面では税理士にご確認ください。

また、相続人のあいだで意見が対立し、交渉や調停・審判の代理が必要になった場合は、弁護士が相談先になります。誰がどれだけ受け取るかをめぐって争いになっている段階では、司法書士は代理人として交渉を行うことはできません。

まとめ

実家に同居してきた子には、配偶者居住権のような法定の居住権制度はありません。ただし、被相続人の許諾を得て同居していた相続人について、遺産分割が終わるまでの間は無償で使い続けられる関係が推認されるとした裁判例があります。

住み続けたいのであれば、遺産分割の中で現物分割・代償分割・換価分割・共有のどれで調整するかを、代償金の準備や寄与分・特別受益の整理とあわせて具体的に詰めていくことになります。相続開始から10年の期間制限もあるため、先送りは得策とはいえません。

分け方が決まったら、実家の名義を変える相続登記が必要です。手続きの進め方や必要書類については、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 実家を1人で相続する場合、費用はどのくらいかかりますか。

相続登記そのものには登録免許税がかかり、相続を原因とする所有権移転登記の税率は不動産の固定資産税評価額の1000分の4です(評価額1,000万円なら4万円)。このほか、戸籍謄本や登記事項証明書などの実費、専門家に依頼する場合の報酬がかかります。報酬額は事務所ごとに異なるため、依頼前に見積りを確認してください。代償分割を選ぶ場合は、他の相続人へ支払う代償金が別に必要になります。

Q. 住み続けているので、名義変更は急がなくても大丈夫ですか。

急いだほうがよい、というのが答えです。2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請することが必要とされ、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象とされています。また、遺産分割そのものを放置すると、相続開始から10年の経過で寄与分・特別受益を原則として主張できなくなるほか、相続人がさらに亡くなって関係者が増え、話し合いが難しくなります。

Q. 自分で話し合いを進められますか。どこに相談すればよいですか。

相続人全員の意見が一致しているなら、遺産分割協議書を作成して自分たちで進めることも可能です。名義変更(相続登記)の手続きや必要書類の確認は、お近くの司法書士にご相談ください。他方、誰が実家を取得するかで意見が対立している、代償金の額でもめている、といった段階であれば弁護士が相談先になります。税額や特例の適用可否については税理士にご確認ください。


【さらに深掘り】同居相続人の居住と遺産分割・相続登記の実務

ご注意 以下は執筆時点(2026年9月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

不動産登記実務の観点

分け方の違いは、登記の「形」に現れます

本文で挙げた4つの型は、登記記録の上では次のように現れます。

  • 現物分割・代償分割 … いずれも登記原因は「年月日相続」で、実家を取得した相続人の単独名義になります。代償金の約束は登記記録に公示されず、未払いのままでも登記は完了し得るため、支払時期・方法は遺産分割協議書の中で詰めておくことになります。
  • 換価分割 … 買主へ直接名義を移すことはできず、まず相続を原因とする所有権移転登記を経てから、売買を原因とする移転登記をします。売却の便宜で相続人の一人の名義にする場合は、換価分割である旨と代金の分配方法を協議書に記載しておく取扱いが一般に説明されています。
  • 共有 … 協議書に各人の持分を分数で記載し、「持分2分の1」等として登記されます。

遺産分割協議書は、そのまま登記の添付書類になります

協議書は相続人間の合意文書であると同時に、登記原因証明情報として法務局に提出する書類でもあります。形式面の不備は補正の対象になります。

  • 不動産の表示は登記事項証明書の記載どおりに書く。土地は所在・地番・地目・地積、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積。住居表示(○○町一丁目2番3号)ではなく地番で特定する
  • 誰がどの不動産を取得するかを一義的に読み取れるようにする。共有とする場合は持分を分数で明示する
  • 相続人全員が署名し実印で押印したうえ、印鑑証明書を添付する

遺産分割前でも、法定相続分での相続登記はできます

話し合いが長引く場合でも、法定相続分による相続登記は相続人の一人から申請できるとされています(保存行為)。ただし暫定的な公示にとどまり、後日の遺産分割で取得者が確定すれば、その内容に合わせる登記が別途必要になります。この場合の手続は、従来の持分移転登記のほか、登記原因を「年月日遺産分割」とする所有権更正登記による方法も認められています(令和5年3月28日付け法務省民二第538号通達)。方法によって登録免許税の計算も変わるため、法定相続分での登記を先行させるかは後の手続まで見通して判断することになります。

使用貸借は登記できません

本文で触れた使用貸借は、登記記録に現れない権利です。賃借権であれば登記することができ(不動産登記法3条8号)、登記をすれば不動産の新しい所有者にも対抗できるとされています(民法605条)。これに対し、使用貸借にはこれに相当する登記の仕組みがありません。「遺産分割が終わるまで無償で住んでよい関係」があるとしても、登記記録から読み取れることはありません。

申請義務と、遺産分割が長引く場合の相続人申告登記

相続登記は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請することが義務とされています(不動産登記法76条の2第1項)。正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象とされています(同法164条1項)。

遺産分割がまとまらないまま3年が近づく場合の受け皿が、相続人申告登記です(同法76条の3)。登記官に対し、相続が開始したことと自らが相続人である旨を申し出ることで、その相続人については申請義務を履行したものとみなされます。単独で申し出ることができ、添付書類も自分が相続人であることが分かる戸籍と自分の住所を証する書面に絞られる点が特徴です(不動産登記規則158条の19第2項)。

ただし、これは義務を果たしたものとみなす仕組みであって、権利関係を確定させるものではありません。持分は公示されず、不動産を取得したことを第三者に対抗する力もありません。申し出た人が、その後の遺産分割によって不動産の所有権を取得したときは、分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請する必要があるとされています(同法76条の3第4項)。「申告しておいたので、そのままでよい」という理解は誤りです。

2026年4月からは、住所・氏名の変更登記も義務になりました

相続登記のあとにも注意点があります。2026年4月1日から、所有権の登記名義人の氏名もしくは名称または住所に変更があったときは、その変更があった日から2年以内に変更の登記を申請することが義務とされています(不動産登記法76条の5)。正当な理由なく怠った場合は5万円以下の過料の対象とされています(同法164条2項)。実家を相続して自分の名義にした後に、引っ越しや改姓があった場合もこの義務の対象になります。

税務上の観点

代償金は贈与ではなく、相続税の枠内で扱われます

代償分割で支払われる代償金は、遺産の取り分を金銭の形で受け取ったものとして、相続税の計算の中で整理されるとされています(相続税法基本通達11の2-9)。「まとまった金銭を受け取ると贈与税がかかるのでは」と心配されることがありますが、遺産分割協議に基づく代償金であれば通常その枠ではありません。ただし、協議書に代償金である旨が明記されていない場合の扱いは別に問題になり得るため、記載の仕方は税務の面からも意味を持ちます。

換価分割では、売却時の譲渡所得が問題になります

実家を売って代金を分ける場合、売却益があれば譲渡所得として所得税・住民税の対象になります。相続で取得した不動産の取得費は被相続人の取得費を引き継ぐのが原則とされ(所得税法60条1項)、古くから所有する土地では税負担が大きくなることがあります。相続税を納めた人については「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」(租税特別措置法39条)があり、適用できる期間に制限があります。ここでは制度名の紹介にとどめます。

小規模宅地等の特例には「同居親族」の要件があります

同居してきた子が実家の敷地を取得する場面では、特定居住用宅地等として一定面積まで評価額を80パーセント減額できる小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)が話題になります。ただし、配偶者以外の親族が適用を受ける場合には、同居していたことや、申告期限まで居住と保有を続けることなどの要件が定められているとされています。「同居していたから当然に使える」というものではありません。

未分割のまま申告期限を迎えると、当初申告で使えない特例があります

相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月とされています(相続税法27条1項)。この時点で遺産分割がまとまっていないと、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は当初の申告では適用できず、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくことで、分割が成立した後に適用を受ける道が用意されているとされています。話し合いの長期化は、登記だけでなく税の面にも影響します。

使用貸借で住み続けること自体が、直ちに贈与税につながるわけではありません

家賃や地代を払わずに住み続けている場合の贈与税については、親子など特殊の関係がある者の間で無償の土地・家屋の貸与があったときは相続税法9条の「利益を受けた」場合にあたるものとして取り扱う一方、その利益が少額である場合や課税上弊害がないと認められる場合には、強いてその取扱いをしなくても妨げないとされています(相続税法基本通達9-10)。原則と例外の両方が示されているため、無償で住み続けていることが直ちに課税に結びつくとも、常に課税されないとも言い切れません。金額や事情によって扱いが分かれ得る部分です。

以上はいずれも制度の枠組みの紹介です。適用可否や税額の判断は税理士へご確認ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月・いずれも一次情報です)。

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