この記事の要点
- 相続人が日本国籍を失って外国籍になっていても、相続人としての地位は失われません。変わるのは、そろえる書類の中身です
- 日本人が外国籍を取得して日本国籍を失うことは「国籍喪失」(国籍法11条1項)または「国籍離脱」(同13条)と呼びます。「帰化」は逆方向、つまり外国人が日本国籍を取得する場合の言葉です(同4条)
- 在外公館(大使館・総領事館)の署名証明(サイン証明)・在留証明は、日本国籍を有する方向けの制度です。外国籍になった方は原則として発給の対象外とされています
- 印鑑証明書の代わりとして、現地の公証人などが認証した**宣誓供述書(せんせいきょうじゅつしょ/affidavit)**の提出を求められることがあります
- 求められる書類・記載事項は提出先によって違います。着手前に管轄の法務局へ事前照会するのが確実です
相続人が日本国籍を失って外国籍になっていても、その方が相続人であることは変わりません。 「相続人の一人が、何年も前に外国の国籍を取得していて、いまは日本国籍ではない」というケースで、まず押さえておきたいのがこの点です。手続きで変わるのは、本人であることや住所をどう証明するか、つまり「そろえる書類」の中身だけです。
この記事では、日本にある不動産の相続手続きを念頭に、外国籍になった相続人がいるときに問題になる「戸籍」と「印鑑証明書」の代わりの書類、そのなかで登場する宣誓供述書について整理します。
前提についてのご注意 渉外の要素がある相続では、どの国の法律によるか(法の適用に関する通則法36条は「相続は、被相続人の本国法による」と定めます)という前提の判断が必要になります。個別の事案でのその当てはめや外国法の内容が問題になる場合は弁護士にご相談ください。この記事は、日本にある不動産について日本法が前提となる場面での必要書類の一般的な説明です。
まず言葉の整理──「帰化」ではありません
この場面でよく取り違えられるのが「帰化」という言葉です。方向が逆なので、最初に確認しておきます。
| 何が起きたか | 呼び方 | 条文 |
|---|---|---|
| 外国人が日本の国籍を取得する | 帰化 | 国籍法4条 |
| 日本国民が自分の希望で外国の国籍を取得し、日本国籍を失う | 国籍喪失 | 国籍法11条1項 |
| 外国の国籍を持つ日本国民が、法務大臣に届け出て日本国籍をやめる | 国籍離脱 | 国籍法13条 |
条文はそれぞれ次のように定めています。
- 国籍法4条1項「日本国民でない者(以下『外国人』という。)は、帰化によつて、日本の国籍を取得することができる。」
- 国籍法11条1項「日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。」
- 国籍法13条1項「外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を離脱することができる。」
つまり、「日本人だった相続人が外国籍になった」ケースは、帰化ではなく国籍喪失または国籍離脱です。どちらに当たるかで日本側に残る記録の形が変わるため、書類を集める前にどちらなのかを確かめておくと手戻りが減ります。
なお、日本国籍を失ったときは、本人・配偶者または四親等内の親族が「国籍喪失の届出」をすることとされています。期限は、国籍喪失の事実を知った日から1か月以内(知った日に国外にいたときは3か月以内)です(戸籍法103条1項)。相続の場面では、この届出が済んでいるかどうかで日本側の記録の状態が変わるため、確認しておきたいポイントになります。
相続人であることは変わりません
民法887条1項は「被相続人の子は、相続人となる」と定めています。この条文が定めているのは「被相続人の子」であること、それだけです。国籍による条件は書かれていません。
実務の場面でも、日本国籍を失った方が日本の相続手続きに関わることは、行政の案内のなかで当然の前提として扱われています。たとえば外務省は、在外公館の署名証明について、日本国籍を失った方であっても「遺産相続手続や本邦にて所有する財産整理に係る手続に際し」証明を発給できるケースがあると案内しています。相続人から外れる、という扱いではないということです。
ですから、遺産分割協議をするなら、外国籍になった相続人も協議に参加する当事者です。連絡が取りにくいからといって、その人を除いて協議書を作ることはできません。この点は、遺産分割協議書の作り方で解説している「相続人全員で行う」という原則と同じです。
変わるのは「戸籍」と「印鑑証明書」の二つ
日本国内に住む相続人であれば、相続手続きでは戸籍と印鑑証明書(+住民票)が基本セットになります。外国籍になった相続人については、この二つがそのままの形では用意できないことがあります。
印鑑証明書が用意できない
不動産登記の手続きで使う「印鑑に関する証明書」は、条文上、住所地の市町村長または登記官が作成するものに限るとされています(不動産登記令16条2項)。市区町村の印鑑登録は住民登録と結びついているため、日本に住民登録がない方は、この印鑑証明書を取得できません。
これは国籍の問題ではなく、住民登録の問題です。日本国籍のまま海外に生活の拠点を移した方も同じ状況になります。その場合の手続きは相続人が海外在住のとき──サイン証明・在留証明と遺産分割協議書への調印で扱っているので、日本国籍のまま海外にお住まいの方はそちらをご覧ください。この記事は、そこから先の「日本国籍ではなくなった方」の場合を扱います。
戸籍でたどれる範囲が変わる
もう一つが戸籍です。日本国籍を失った方は従前の戸籍から除籍されるため(戸籍法23条)、日本の戸籍で現在の身分関係を証明することが難しくなります。外務省も、在外公館で証明を申請する際に元日本人の方に持参を求める書類として「失効した日本国旅券や戸籍謄本(又は戸籍抄本)(除籍謄本若しくは除籍抄本)」を挙げており、除籍の記録を前提とした案内をしています。
相続人を確定する作業そのものは、被相続人の戸籍をたどって行います。戸籍の集め方については戸籍の広域交付とは──本籍地に行かずに最寄りの窓口で戸籍をまとめて集めるで整理しています。問題になるのは、確定したあとに「その相続人が誰であるか」を証明する段階です。
署名証明・在留証明は日本国籍の方向けの制度です
海外在住の相続人の手続きでよく登場する在外公館の署名証明(サイン証明)と在留証明は、外務省の案内上、日本国籍を有する方を対象とした制度です。ここを取り違えると、現地の大使館に出向いてもらったのに証明が出ない、ということになりかねません。
在留証明の発給条件(外務省の案内より)
日本国籍を有する方(二重国籍者を含む。)のみ申請ができます。したがって、既に日本国籍を離脱された方や喪失された方、日系人を含む外国籍者は発給の対象外です。
ただし外務省は、注記として次のようにも案内しています。
既に日本国籍を離脱・喪失された方に対しては、例外的な措置として「居住証明」で対応する場合があります。発給条件、必要書類等は証明を受けようとする在外公館に直接お問い合わせください。
署名証明の発給条件(外務省の案内より)
日本国籍を有する方のみ申請ができます。(注)元日本人の方は、失効した日本国旅券や戸籍謄本(又は戸籍抄本)(除籍謄本若しくは除籍抄本)をお持ちいただければ遺産相続手続や本邦にて所有する財産整理に係る手続に際し、署名証明を発給できるケースもありますので、発給条件、必要書類等は証明を受けようとする在外公館に直接お問い合わせください。
そして、署名証明の「申請時の留意点」には、こう書かれています。
本人の署名を証明するのは、基本的には現地の公証人です。外国籍者は現地の公証人に依頼することになります。
整理すると、次のようになります。
- 日本国籍のまま海外在住 … 在外公館の署名証明・在留証明が使える
- もともと日本国籍を持っていた方が国籍を失った場合(元日本人) … 相続手続きのためなら署名証明を発給できるケースもあるとされている。在留証明に代えて「居住証明」で対応する場合もあるとされている。いずれも在外公館への事前の問い合わせが前提
- 生まれたときから外国籍の方 … 署名の証明は現地の公証人に依頼することになる
なお、外務省の案内では手数料は在留証明が1通につき邦貨1,200円相当、署名証明が1通につき邦貨1,700円相当と示されています(現地通貨での現金払い。いずれも2026年7月時点の同省案内による)。
宣誓供述書(affidavit)とは
現地の公証人に依頼する場合に登場するのが、宣誓供述書です。英語では affidavit(アフィダビット)と呼ばれます。
宣誓供述書は、本人が書面に書かれた内容が真実であることを宣誓し、公証人(notary public)や領事などの面前で署名して、その署名と宣誓がなされたことを認証してもらう書面です。日本の相続手続きでは、印鑑証明書に代わる書面として求められることがあります。実印と印鑑証明書という日本独自の仕組みが使えない相手方について、「この人が確かに本人で、確かにこの内容に同意している」ことを示す手段として使われる、というイメージです。
記載してもらう内容は事案によりますが、一般には次のような事項が問題になります。
- 本人の氏名(日本名・旧姓があればそれも)、生年月日、現在の住所
- 被相続人との続柄
- 日本国籍を失った時期と、その原因(外国籍の取得か、国籍離脱か)
- 印鑑証明書に相当する証明を自国では取得できない事情
- 遺産分割協議の内容に同意していること(協議書に添える場合)
宣誓供述書は現地の言語で作られるため、日本の提出先に出すときは日本語の訳文を添えるのが通常です。訳文に翻訳者の氏名・署名を求められることもあります。
なお、同じ「宣誓供述書」という呼び名の書面が、別の役割で登場することもあります。その相続人がその不動産を取得して名義人になる場合には、印鑑証明書の代わりとなる書面とは別に、住所を証する書面も必要になります(不動産登記令別表30項ハ)。呼び名が同じでも、書いてもらう内容も求められる理由も別の書類です。どの場面にどの書面が必要になるのかは、次に述べる事前照会でまとめて確認しておくと安心です。
「この文例なら通る」とは言えません
ここが一番大事な注意点です。宣誓供述書について、「この書式・この文言なら必ず受け付けられる」と保証できる形は存在しません。理由は次のとおりです。
- どの事項を記載してもらう必要があるかは、申請する登記の内容によって変わる
- 認証の方式(公証人か領事か、どのような認証文が必要か)が国・地域によって異なる
- 訳文の要否・様式、公印確認やアポスティーユといった追加の認証が必要かどうかも、提出先の判断による
- 提出先が法務局か金融機関かによっても、求められるものが変わる
したがって、現地の公証人の予約を取る前に、管轄の法務局に必要書類を事前照会しておくことを強くおすすめします。順序を逆にすると、海外にいる相続人に二度手間をお願いすることになり、そのやり直しに数か月かかることも珍しくありません。金融機関の手続きがある場合は、その金融機関にも並行して確認します。
法定相続情報証明制度は使いにくくなります
戸籍の束を1枚の図にまとめられる法定相続情報証明制度は便利な制度ですが、相続人のなかに日本国籍を持たない方が含まれる場合には使いにくくなります。
理由は添付書類の定めにあります。不動産登記規則247条3項は、申出書に添付する書面として、4号で次のものを挙げています。
第一項第二号の相続人の戸籍の謄本、抄本又は記載事項証明書
つまり、相続人一人ひとりについて戸籍の謄本等を添付することが求められています。加えて同条1項は、申出ができる相続人を「第三項第二号に掲げる書面の記載により確認することができる者に限る」と括弧書きで限定しています。日本国籍を失った相続人については、この4号の書面をそろえられない場面が生じますから、条文が求める添付書類を満たせないことになります。
ご注意 ここでご説明しているのは、上記の条文から導かれる帰結です。法務局が実際にどのような運用をしているか(例外的な取扱いがあるかどうかを含む)については、この記事では確認できていません。実際の申出を検討する場合は、管轄の登記所に直接ご確認ください。
一覧図そのものの書き方は法定相続情報一覧図の作り方にまとめていますが、外国籍の相続人がいる案件では、この制度に頼らず戸籍等の書類を個別にそろえて手続きを進める前提で段取りを組んでおくと安全です。
進め方の順番
書類の手戻りを減らすには、順番が大事です。
- 被相続人の戸籍をたどって相続人を確定する(ここは通常どおり)
- 外国籍になった相続人について、いつ・どの手続きで日本国籍を失ったかを本人に確認する(国籍喪失か国籍離脱か。国籍喪失の届出が済んでいるかも確認する)
- その方の現在の氏名・住所・国籍を確認する(旧姓・日本名との対応も含む)
- 管轄の法務局に必要書類を事前照会する(金融機関の手続きがあれば並行して照会する)
- 照会結果をもとに、宣誓供述書に記載してもらう内容を確定する
- 現地の公証人(または在外公館)の予約を取り、書類を未署名のまま送る
- 返送された書類の訳文を用意し、申請する
なお、相続による所有権移転の登記には、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内という申請の期限があります(不動産登記法76条の2第1項)。この義務は令和6年(2024年)4月1日から始まったもので、それより前に開始した相続にも適用され、その場合の3年は「知った日」か令和6年4月1日のいずれか遅い日から数えます(令和3年法律第24号附則)。何年も前に亡くなった方の不動産が手つかずのままという案件でも対象になる、ということです。詳しくは相続登記の申請義務をご覧ください。
国際郵便のやり取りと現地での認証手続きが入ると、日本国内だけで完結する相続よりも時間がかかります。早めに動き出すことが大切です。
まとめ
相続人が日本国籍を失って外国籍になっていても、その方が相続人であることは変わりません。手続きで変わるのは、印鑑証明書と戸籍という日本独自の証明のかわりに何を用意するか、という点だけです。日本人が外国籍を取得して日本国籍を失うのは「国籍喪失」(国籍法11条1項)または「国籍離脱」(同13条)で、「帰化」は逆方向の言葉ですから、まずこの整理から始めてください。在外公館の署名証明・在留証明は日本国籍の方向けの制度で、外国籍になった方については現地の公証人による宣誓供述書が使われる場面があります。ただし求められる記載事項や認証の方式は提出先によって違うため、現地に依頼する前に管轄の法務局へ事前照会するのが確実です。どの書類をどの順番でそろえればよいか迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 費用はどのくらいかかりますか?
現地の公証人による宣誓供述書の認証費用は国・地域や公証人によって異なり、日本の公証手続きより高額になることもあります。これに加えて、日本語訳の翻訳費用、国際郵便の実費、案件によっては公印確認やアポスティーユの手数料がかかります。在外公館で証明を受けられる場合の手数料は、外務省の案内では在留証明が1通1,200円相当、署名証明が1通1,700円相当です(2026年7月時点)。総額は事案によって幅が大きいため、まず必要書類を確定してから見積もるのが現実的です。
Q. 期限はありますか。放置するとどうなりますか?
相続による所有権移転の登記には、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内という申請の期限があります(不動産登記法76条の2第1項)。書類の往復と現地での認証に時間がかかる案件ほど、この期限が近づきやすくなります。また、放置している間に相続人がさらに亡くなると、そのご家族も相続人として加わり、認証が必要な方の人数が増えて手続きが重くなっていきます。国籍が変わった相続人がいる案件では、早めに書類の見通しを立てておくことが特に大切です。
Q. 自分でできますか。どこに相談すればよいですか?
戸籍を集めて相続人を確定するところまでは、ご自身でも進められます。難しくなるのは、宣誓供述書にどの事項を書いてもらうか、どのような認証と訳文が必要かを、提出先ごとに詰めていく部分です。まず管轄の法務局に必要書類を事前照会し、そのうえで進め方の整理に迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。なお、遺産の分け方そのものについて相続人のあいだで意見が対立している場合、また被相続人が外国籍で、どの国の法律によるかや外国法の内容が問題になる場合は、弁護士にご相談ください。
【さらに深掘り】相続登記の添付情報から見た代替書面の位置づけ
ご注意 以下は執筆時点(2026年7月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
登記の審査は、提出された情報が法令の定める形式を満たしているかを見る形式的審査主義を前提としています。そこで以下では、宣誓供述書が登場する場面を、相続登記の添付情報を定める条文の構造から整理します。
「印鑑に関する証明書」は令に定義があり、代替の可否は条文だけでは決まらない
不動産登記令16条2項は、申請情報を記載した書面に記名押印した者の「印鑑に関する証明書」を添付しなければならないと定め、その括弧書きで「住所地の市町村長(中略)又は登記官が作成するものに限る。以下同じ。」と定義しています。「以下同じ」とされているため、この限定は、同令18条2項が定める委任状(代理人の権限を証する情報を記載した書面)に添付する印鑑証明書や、同令19条2項が定める同意・承諾を証する情報を記載した書面に添付する印鑑証明書にも及びます。あわせて同令16条3項・18条3項は、作成後3か月以内のものでなければならないとしています。
つまり、不動産登記の手続きで「印鑑証明書」と呼ばれているものは、条文上、日本の市区町村長または登記官が作成するものに限定された概念です。日本に住民登録がない方については、この証明書が「取りにくい」のではなく、制度上そもそも存在しない、というのが出発点になります。本文で述べたとおり、これは国籍ではなく住民登録に由来する問題です。
もっとも、印鑑証明書の代替を条文が正面から認めている場面もあります。後で触れる「国内連絡先となる者」の承諾を証する情報については、不動産登記規則156条の6第2項が「令第十九条第二項に規定する印鑑に関する証明書に代えてこれに準ずる印鑑に関する証明書を添付することができる」と明記しています。このように、印鑑証明書の代替については場面ごとに条文の扱いが異なります。宣誓供述書で足りるかどうかは、条文の文言から一律に導けるものではありません。 本文で事前照会を強調しているのは、この構造によるものです。作成後3か月以内という期間制限が宣誓供述書にも同じように及ぶのかどうかも条文からは定まらないため、照会の際に併せて確認しておきたい点です。
公表されている資料の状況も、場面ごとに差があります。法務省は、本人が外国に居住していて印鑑証明書を取得することができない場合について、これに代わる書面として日本の領事が作成した署名証明を添付することが認められており、居住地が在外公館の所在地から離れているなど領事の署名証明を取得することが困難なときは、外国の公証人が作成した署名証明を添付して申請することも認められているとしています。
この説明そのものは「本人が外国に居住している場合」という書き方で、国籍による限定は置かれていません。他方、そこに掲げられている登記先例は、オーストラリア国の公証人又は治安判事が同国法に基づく Statutory Declaration の形式により同国在留の邦人のためにした署名証明を総領事館の署名証明に代えることができるとしたもの(昭和48年4月10日民三第2999号民事局第三課長事務代理回答)と、ブラジル在住の日本人が遺産分割協議書等に添付する本人の署名証明について現地の公証人の署名証明でも差し支えないとしたもの(昭和54年6月29日民三第3548号民事局第三課長回答)で、いずれも在留邦人を対象とした事案です。
つまり、説明の文言は国籍を問わない書き方である一方、その裏づけとして掲げられている先例は在留邦人の事案に限られている、という状態です。ここから、日本国籍を失った方について具体的にどの書面で足りるとされるのかは、公表資料だけでは一義的に定まりません。 これは「日本国籍を失った方には及ばない」という意味ではありません。公表資料からは確定できない、という意味です。どちらに読むかを机上で決めてしまわず、照会で確かめる場面だということです。
他方で、同じ宣誓供述書という書面でも、通達によって取扱いが具体的に示されている場面があります。相続による所有権移転の登記でも、登記名義人となる者の住所を証する情報を提供することになっています(不動産登記令別表30項ハ)。これは、次の項で引用する同別表22項の「相続…を証する…情報」とは別の添付情報です。
この住所を証する情報について、令和5年12月15日付け法務省民二第1596号通達は、令和6年(2024年)4月1日以後にされる登記の申請で、外国に住所を有する外国人が新たに所有権の登記名義人となる場合の取扱いを示しています。同通達は、そこでいう「外国人」を「日本の国籍を有しない自然人」と定義しており、日本国籍を失って外国籍になった方もこの定義に含まれる書き方になっています。示されている方法は、本国又は居住国の政府が作成した住所を証明する書面によるほか、本国又は居住国の公証人が作成した住所を証明する書面と旅券の写しを併せて提供する方法です。
このうち公証人が作成した書面について、法務省は通達の内容を説明したページのなかで、氏名及び住所が真実であることを宣誓した上で署名した文書をその者の本国又は居住国の公証人が認証したもの(宣誓供述書)が該当する、と案内しています。外国籍になった相続人が日本に住所を有しないままその不動産を取得する場合は、この住所を証する情報も必要になります。
ここで区別しておきたいのは、いま述べた宣誓供述書は**「住所を証する情報」として使うものであり、先に述べた印鑑証明書の代替**として使うものとは、別の添付情報だという点です。同じ「宣誓供述書」という呼び名でも、記載してもらう内容も、求められる根拠も別だということになります。つまり宣誓供述書は、住所を証する情報のように通達で取扱いが具体化されている場面と、印鑑証明書の代替のように公表資料からは射程が読み取れない場面とが混在している書面です。事前照会では、印鑑証明書の代替だけでなく、どの場面についてどの書面が求められるのかをまとめて確認しておくことになります。
不備があった場合の建付けも押さえておくとよいでしょう。法令の規定により申請情報と併せて提供しなければならないものとされている情報が提供されないときは、申請の却下事由になります(不動産登記法25条9号)。ただし同条ただし書は、補正することができる不備について、登記官が定めた相当の期間内に申請人が補正したときは却下しないとしています。国内で完結する案件なら補正で収まることも多い一方、海外での認証をやり直す必要が生じた場合、この期間内に整えることは現実的でないことがあります。書類を発注する前に順序を確認しておく実務上の意味は、ここにあります。
添付書面の原本還付についても触れておきます。不動産登記規則55条1項本文は、書面申請をした申請人は添付書面の原本の還付を請求することができるとしつつ、ただし書で、令16条2項・18条2項・19条2項の印鑑に関する証明書(規則156条の6第2項の「これに準ずる印鑑に関する証明書」など省令所定のものを含みます)と「当該申請のためにのみ作成された委任状その他の書面」については還付を請求できないとしています(還付を請求する場合は、原本と相違ない旨を記載した謄本の提出が必要です。同条2項)。宣誓供述書を金融機関の手続きにも使う予定がある案件では、その書面がどちらの扱いになるかを事前照会の項目に入れておくと、海外に原本を作り直してもらう事態を避けやすくなります。
「相続を証する情報」をどう組み立てるか──除籍と、その先を補う書面
相続による所有権移転登記の添付情報は、不動産登記令別表22項が次のように定めています。
相続又は法人の合併を証する市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報)及びその他の登記原因を証する情報
戸籍でたどれる範囲が切れる理由は、戸籍法23条にあります。同条後段は「死亡し、失踪の宣告を受け、又は国籍を失つた者も、同様である」として、国籍を失った者が従前の戸籍から除籍されることを定めています。本文で触れた国籍喪失の届出(戸籍法103条1項)がされると、この処理がされることになります。したがって、日本の戸籍・除籍の記載から確認できるのは、原則として、その方が日本国籍を失った時点までの身分関係です。
民法887条1項が定めているのは「被相続人の子は、相続人となる」ということだけですから、相続人であること自体は、被相続人の戸籍と、その方が子として記載され除籍された記録によって示す形になります。論点になるのはその先の部分です。
- 日本国籍を失った後に氏名が変わっている場合、戸籍に記載された氏名と現在の氏名が同一人のものであることをどう示すか
- 相続開始の時点で生存していたことをどう示すか
いずれも日本の戸籍には現れない事項です。令別表22項の括弧書きは「公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報」という受け皿を条文自身が置いていますが、具体的にどの書面をもって足りるとするかは、条文の文言からは定まりません。事前照会の対象は印鑑証明書の代替だけではなく、この「相続を証する情報」の組み立ても含まれる、という点を押さえておきたいところです。
国内に住所がない相続人が登記名義人になるときは「国内連絡先事項」が加わる
見落としやすいのが、外国籍になった相続人がその不動産を取得する場合の申請情報です。
不動産登記法73条の2第1項2号は、所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、「その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるもの」を所有権の登記の登記事項としています。そして不動産登記令3条11号ト(2)は、所有権の保存・移転の登記を申請するときは、所有権の登記名義人となる者が国内に住所を有しないときはこの「国内連絡先事項」を申請情報の内容とすると定めています。相続による所有権移転登記も「所有権の移転の登記」ですから、この規律の対象になります。この登記事項は令和6年(2024年)4月1日から加わったもので、同日以後に登記の申請がされる所有権の登記について適用されます(令和3年法律第24号附則)。
国内連絡先事項の内容は不動産登記規則156条の5が定めています。
- 国内連絡先となる者があるとき … その者(一人に限る)の氏名又は名称、国内の住所(法人であれば営業所・事務所等の所在地および名称)、会社法人等番号を有する法人であればその番号(同条1号)
- 国内連絡先となる者がないとき … その旨(同条2号)
添付情報は同規則156条の6です。連絡先となる者があるときは、氏名・住所等を証する情報と、その者が作成した承諾を証する情報を提供します(同条1項1号イ・ロ)。ないときは、その旨を証する情報を提供します(同項2号)。承諾を証する情報を記載した書面については、先に触れたとおり、令19条2項の印鑑証明書に代えてこれに準ずる印鑑に関する証明書を添付することができます(同条2項)。
押さえておきたいのは次の3点です。
- この規律は国籍ではなく「国内に住所を有しないとき」で決まります。日本国籍のまま海外にお住まいの相続人が不動産を取得する場合も同じです
- 条文上、「国内連絡先となる者がないときはその旨」という選択肢が用意されています(規則156条の5第2号)。国内に連絡先を立てられなければ登記ができない、という建付けではありません。ただし「その旨を証する情報」として何を提供するかは条文の文言からは定まらないため、この点も事前照会の対象になります
- 登記後に連絡先を変えるときは、所有権の登記名義人が単独で申請することができます(規則156条の7第1項)。連絡先として登記された者の側からも、所有権の登記名義人が作成した承諾を証する情報を提供して単独で申請することができます(同規則156条の8第1項・2項)
書類が整うまでの選択肢──法定相続分による登記と相続人申告登記
宣誓供述書の準備に時間がかかる案件では、本文で触れた3年の期限(不動産登記法76条の2第1項)との関係で、選択肢を持っておくと安全です。
一つは、法定相続分どおりの相続登記です。相続による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができます(不動産登記法63条2項)。この場合に提供する添付情報は令別表22項の「相続…を証する…情報」が中心となり、遺産分割の内容を示す書面と、それに添える印鑑証明書に代わる書面は登場しません。ただし、いったん法定相続分による共有名義で登記したうえで後に遺産分割をした場合は、持分の移転の登記を別に申請することになり、その分の手続きと登録免許税が追加でかかります。先に共有名義にすることの負担と、書類がそろうのを待つことの負担を比べて選ぶという判断になります。
もう一つは、相続人申告登記です。相続登記の申請義務を負う者は、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、自らがその登記名義人の相続人である旨を申し出ることができ(不動産登記法76条の3第1項)、3年の期間内にこの申出をした者は、所有権移転登記の申請義務を履行したものとみなされます(同条2項)。登記官はこの申出があったときに、職権でその旨等を所有権の登記に付記することができるとされており(同条3項)、持分を定めて名義を移す登記とは別のものです。その後の遺産分割によって所有権を取得したときは、分割の日から3年以内に所有権移転登記を申請する義務があります(同条4項)。この仕組みも令和6年(2024年)4月1日から始まったものです。申出の手続に必要な事項は法務省令に委ねられており(同条6項)、不動産登記規則158条の19以下に定めが置かれています。同規則158条の19第2項1号は、申出人が所有権の登記名義人の相続人であることを証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報)の提供を求めています。つまりこの申出でも、先に述べた「相続を証する情報」と同じ組み立てが必要になり、何をもって足りるとするかは条文の文言からは定まりません。 また、義務を履行したものとみなされるのは申出をした人の分ですから、書類の準備が難しい相続人ご自身の分についてまで、この申出で期限の問題が解消するとはかぎりません。実際に用意する書類は管轄の登記所に確認してください。
どちらを選ぶかは、外国にお住まいの相続人との連絡や書類準備の見通し、その不動産を売却する予定があるかどうかなどによって変わります。書類の準備と期限のどちらを優先すべきか迷う場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年7月・いずれも一次情報です)。
- 法の適用に関する通則法 第36条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000078
- 国籍法 第4条・第11条・第13条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000147
- 戸籍法 第23条・第103条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224
- 民法 第887条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法 第25条・第63条・第73条の2・第76条の2・第76条の3(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 第3条・第16条・第18条・第19条・別表22の項・30の項(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 不動産登記規則 第55条・第156条の5〜第156条の8・第158条の19・第247条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 法務省民事局長通達「外国に住所を有する外国人又は法人が所有権の登記名義人となる登記の申請をする場合の住所証明情報の取扱いについて」(令和5年12月15日民二第1596号・原文PDF): https://www.moj.go.jp/content/001408301.pdf
- 法務省「外国居住の外国人や外国法人が所有権の登記名義人となる登記の申請をする場合の住所証明情報について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00574.html
- 法務省「外国に居住しているため印鑑証明書を取得することができない場合の取扱いについて」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00346.html
- 外務省「在外公館における証明」: https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000554.html