この記事の要点
- 遺言書の内容は、法律上の効力が認められる「法定遺言事項」と、効力のない「付言事項」に分かれる
- 遺留分(一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分)などの法律のルールは、付言事項でお願いしても変えられない
- 付言事項に何を書けるか迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください
遺言書には、法律上の効力が認められる内容と、認められない内容があります。結論から言うと、財産の配分方法などを定める部分(法定遺言事項)には法的な効力がありますが、「付言事項(ふげんじこう)」と呼ばれる、家族へのメッセージや理由を書く部分には法的な効力はありません。書いたからといって相続人を法的に拘束するものではなく、あくまで気持ちを伝えるための文章です。
この記事では、遺言書に「書けること」と「書いても効力がないこと」の境界を、一般の方向けに整理します。
遺言書に書いて法的な効力があること(法定遺言事項)
遺言書の中で法律上の効力が認められる内容は、民法などの法律であらかじめ定められた項目に限られるという考え方があります(法定遺言事項と呼ばれます)。代表的なものは次のとおりです。
- 相続分の指定、遺産分割方法の指定(誰にどの財産を渡すか)
- 遺言執行者(遺言の内容を実現する役割の人)の指定
- 認知(婚姻関係にない相手との間の子を、自分の子として法律上認めること)
- 未成年後見人の指定
- 遺贈(相続人以外の人にも財産を渡すことができる方法)
たとえば、財産の渡し方を決める場面では、「相続させる」と「遺贈する」という言い回しの違いによって、その後の名義変更(登記)の手続きが変わることがあります。「相続させる」と「遺贈する」はどう違う?で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
遺言書の作成方式には自筆証書遺言・公正証書遺言などがありますが(自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべきか)、どちらの方式でも、法定遺言事項に加えて付言事項を書き加えることができます。
なお、2026年(令和8年)6月に、パソコン等で作成した遺言を法務局が保管する新しい方式(保管証書遺言)を設けるなどの民法改正が成立・公布されました。ただし、この記事の執筆時点(2026年8月)ではまだ施行されておらず、実際に使えるようになる日は今後の政令で定められます。今から遺言書を作る場合は、これまでどおり自筆証書遺言や公正証書遺言などの現行の方式によることになります。
遺言書に書いても法的な効力がない「付言事項」
付言事項とは、法定遺言事項以外の部分に書く、家族へのメッセージのような文章です。書ける内容に法律上の制限はなく、自由に書くことができますが、法的な強制力はありません。実際によく書かれる内容には、次のようなものがあります。
- 家族への感謝の言葉
- なぜこのような配分にしたかという理由
- 葬儀や供養についての希望
- 残された家族に対して、争わずに仲良くしてほしいという願い
付言事項は、相続人に対して法律上何かを強制するものではありません。しかし、配分の理由を言葉にして残しておくことで、相続人が「なぜこの内容になったのか」を理解しやすくなり、感情的な対立を防ぐ効果が期待できるとされています。
付言事項があっても、遺留分など法律のルールは変えられない
付言事項には法的な効力がないため、法律で決められた強行規定(当事者の意思では変えられない法律上のルール)を付言事項によって変えることはできません。代表的なものが遺留分(いりゅうぶん)です。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の一定の相続人に、法律上保障されている最低限の取り分のことです。たとえば遺言書に「全財産を長男に譲る。他の子どもたちは遺留分を請求しないでほしい」という付言事項を書いたとしても、その記載に法的な拘束力はなく、他の相続人は遺留分侵害額請求(遺留分を侵害された分を金銭で請求する権利)を行使することができます。
付言事項は、あくまで気持ちを伝え、理解を求めるための文章であり、法律上の権利関係を変更する効力はない、という点をおさえておくことが大切です。
まとめ
遺言書には、法律上の効力が認められる「法定遺言事項」と、効力のない「付言事項」があります。付言事項は家族への感謝や配分の理由を自由に書ける部分ですが、法的な強制力はなく、遺留分などの法律のルールを変える効力もありません。遺言書全体の構成や付言事項の書き方に迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 付言事項を書くのに費用はかかりますか? 付言事項は遺言書の一部として書くものなので、付言事項だけに追加費用がかかるわけではありません。自筆証書遺言であれば紙代程度です。公正証書遺言の手数料は主に財産の額に応じて決まる仕組みで、付言事項を書いてもこの部分は変わりませんが、これとは別に証書の枚数に応じた加算(一定の枚数を超えると1枚ごとに300円)があるため、付言事項が長くなった分だけ手数料が少し増えることはあります。具体的な費用はお近くの司法書士にご相談ください。
Q. 付言事項を書かないと、どんなリスクがありますか? 付言事項を書かなくても、遺言の法的な効力には影響しません。ただし、配分の理由を伝えないままだと、相続人の間で「なぜこの内容になったのか」を巡って感情的な対立が生じやすくなるといわれています。特に配分に差をつける遺言の場合、理由を付言事項で説明しておくことが、後々の紛争予防につながることがあります。
Q. 付言事項は自分で書けますか?どこに相談すればいいですか? 付言事項の文章自体は自由に書けますが、法定遺言事項の部分は法律の要件を満たさないと無効になるリスクがあります。遺言書全体の構成や書き方に不安があれば、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】付言事項の法的性質と遺産分割・相続税実務への影響、遺言制度改正の施行状況
ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
付言事項には法的拘束力がなく、遺留分侵害額請求権のように強行規定によって認められた相続人の権利を制限する効力はないと解されています。もっとも、実務上は、付言事項が果たす役割が軽視されているわけではありません。財産の配分に差をつける遺言の場合、その理由を付言事項で丁寧に説明しておくことは、相続人間の感情的な対立を予防し、遺言の内容が円滑に実現される一助になるとされています。
また、遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は遺言の内容を実現する義務を負いますが、付言事項に書かれた「希望」や「お願い」は法的な執行義務の対象にはなりません。たとえば葬儀の方法や遺品の扱いについての希望が付言事項に書かれていても、遺言執行者や相続人がその通りに行動する法的義務を負うわけではない点は、実務上しばしば誤解されるところです。
なお、ある記載が付言事項にあたるのか法定遺言事項にあたるのかは、遺言書のどこに書かれているかや文章の調子で決まるものではなく、遺言書全体の記載から遺言者の意思をどう解釈するかによって決まります。気持ちを述べたつもりの文章でも、内容によっては法的な意味を持つ意思表示と解釈される余地があり、その逆もあります。境界が微妙な記載については、遺言書の作成段階でお近くの司法書士にご相談ください。
税務の観点では、付言事項の記載そのものに相続税法上の意味はありません。相続税の申告における財産評価や税額は、実際にどの財産を誰がどのように取得したかという遺産分割の結果に基づいて決まるものであり、付言事項に書かれた理由や気持ちの部分が直接に税額を左右することはないと整理されています。もっとも、遺言全体の内容(誰が何を取得するかという法定遺言事項の部分)は、各種の税務上の特例の適用可否や、相続税の申告期限までの遺産分割の進め方に影響することがあるとされています。具体的な税額計算や特例の適用可否の判断は、税理士にご相談ください。
最後に、遺言制度の直近の改正状況を、施行日の観点から整理しておきます。2026年(令和8年)6月17日に成立し、同月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)は、成年後見制度の見直しとあわせて遺言制度を見直すものです。遺言関係では、保管証書遺言の創設(パソコン等で作成した遺言のデータ等を法務局に保管申請し、本人が全文を口述するなどして法務局が保管する方式)、自筆証書遺言・秘密証書遺言・特別の方式の遺言における押印の任意化、死亡危急時遺言・船舶遭難者遺言の方式の追加、証人等の欠格事由の拡張が盛り込まれました。施行期日は、押印の任意化などが公布から1年以内、システム改修を要する保管証書遺言が公布から3年以内の範囲で、それぞれ政令で定める日とされています。本記事の執筆時点(2026年8月)ではいずれも施行前であり、現行の民法968条は自筆証書遺言について押印を要する規定のままです。したがって、現時点で遺言書を作成する場合は現行の方式に従う必要があります。
一方で、この改正は遺言の「方式」に関するものであり、本記事で扱った法定遺言事項の範囲(相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺言執行者の指定、認知、未成年後見人の指定、遺贈など)や、遺留分・遺留分侵害額請求の規律に変更はありません。遺留分侵害額請求が金銭の支払を求める権利とされている点は、2019年(令和元年)7月1日施行の相続法改正以降変わっておらず、付言事項によって遺留分を制限することはできないという本記事の整理は、今回の改正が施行された後も同様に当てはまります。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。
- 民法 第781条・第839条・第902条・第908条・第964条・第967条・第968条・第1006条・第1042条・第1046条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 公証人手数料令 第9条・第19条・第25条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/405CO0000000224
- 法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)」概要資料(PDF): https://www.moj.go.jp/content/001465481.pdf
- 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html