この記事の要点

  • エンディングノートには法的な効力がなく、遺言だけが民法で定められた方式に従うことで法的効力を持つ
  • 遺言でなければ実現できないこと(相続分の指定・遺贈など)をエンディングノートに書いても、法律上の効果は生まれない
  • 財産の分け方を法的に確定させたいなら遺言、情報や気持ちを書き残したいならエンディングノートが向いている
  • どちらを使うか迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください

結論から言うと、エンディングノートには法的な効力がありません。法的な効力を持つのは、民法で定められた方式に従って作成された遺言だけです。どちらも「将来に備えて書いておくもの」という点では似ていますが、法律上の扱いはまったく別のものです。

この記事では、エンディングノートと遺言がそれぞれ何のためのものか、なぜ一方には法的効力があり、もう一方にはないのかを、制度の違いという観点から整理します。

エンディングノートとは

エンディングノートとは、もしものときに備えて、自分の情報や希望を書き残しておくノートです。市販のノートやアプリなど形式はさまざまで、決まった書式はなく、法律上の要件もありません。一般的に書かれる内容には、次のようなものがあります。

  • 医療・介護に関する希望(延命治療の考え方など)
  • 葬儀・お墓についての希望
  • 財産や口座、保険、デジタル資産の一覧
  • 家族や友人の連絡先
  • 家族へのメッセージ

自由に書けることが特徴で、法律上の要件を満たす必要がないぶん、思いついたときに気軽に書き足せます。ネット銀行の口座や暗号資産などのいわゆる「デジタル遺品」の情報を書き残す使い方については、デジタル遺品・暗号資産の相続で詳しく取り上げています。

遺言とは

遺言は、民法で定められた方式(自筆証書遺言・公正証書遺言など)に従って作成することで、法律上の効力が認められる文書です。方式が法律で決まっているのは、本人の最終的な意思を明確な形で残し、後から偽造や変造が疑われないようにするためとされています。

遺言に書いて法的な効力が生じる内容は、法律であらかじめ定められた項目に限られるという考え方があります(法定遺言事項と呼ばれます)。相続分の指定や遺産分割方法の指定、遺贈、遺言執行者の指定などがこれにあたります。どの内容が法的な効力を持つのか、逆に遺言に書いても効力がない部分(付言事項)との違いについては、遺言書に書けること・書いても効力がないことで整理しています。

遺言の作成方式にはいくつかの種類があり、自分で全文を手書きする自筆証書遺言と、公証人が関与して作成する公正証書遺言では、必要な手続きや費用が異なります。方式の選び方は自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべきかで比較しています。

なぜエンディングノートには法的効力がないのか

遺言が法的な効力を持つのは、民法が定める方式に従っているからです。逆に言えば、その方式を満たさない文書は、内容がどれだけ具体的でも、遺言としての法的な効力を持ちません。

エンディングノートは、この遺言の方式を満たすものではありません。したがって、たとえば「財産はすべて配偶者に譲る」とエンディングノートに書いたとしても、その記載自体には、相続財産の帰属を法的に決める効力はありません。書いた内容は家族への希望や情報提供としては意味を持ちますが、遺産分割の場面で法的な拘束力を持つのは、あくまで有効な遺言や、相続人全員の合意による遺産分割協議です。

この違いは、「何を書くか」ではなく「どの方式で書くか」によって生じます。同じ「財産を渡したい相手を書く」という行為でも、法律で定められた方式に従って遺言として書けば法的効力が生じ、エンディングノートに書けば法的効力は生じません。

エンディングノートと遺言、それぞれ何に向いているか

法的な効力の有無という違いから、それぞれに向いている使い方が見えてきます。

エンディングノートが向いているもの

  • 財産や口座、加入している保険の一覧など、家族が把握しておくと助かる情報
  • 医療・介護、葬儀についての希望
  • 家族へのメッセージ

遺言が向いているもの

  • 誰にどの財産を渡すかを法的に確定させたい場合
  • 相続人以外の人に財産を渡したい場合(遺贈)
  • 遺言の内容を実現する遺言執行者を指定したい場合

財産の分け方を法的に決めたい部分は遺言で、それ以外の情報や気持ちを伝えたい部分はエンディングノートで、というように、それぞれの法的な性質に応じて役割を分けて使われています。両方を作成する場合の書き方や整合性の取り方など、具体的な進め方に迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

まとめ

エンディングノートには法的な効力がなく、遺言だけが民法の定める方式に従うことで法的効力を持ちます。財産の分け方を法的に確定させたい内容は遺言に、それ以外の情報や希望はエンディングノートに、というように、法的効力の有無という違いをふまえて使い分けることが大切です。どちらをどう使うか迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. エンディングノートを書けば、遺言の代わりになりますか? なりません。エンディングノートには法律上の効力がなく、財産の分け方などを法的に決める効果はありません。財産の分け方を法的に確定させたい場合は、民法の定める方式に従った遺言を作成する必要があります。

Q. エンディングノートと遺言、両方書いても大丈夫ですか?内容が食い違ったらどうなりますか? 両方作成すること自体に問題はありません。ただし法的な効力を持つのは遺言の内容だけです。財産の帰属については、原則として、有効な遺言があればその内容が、なければ相続人全員による遺産分割協議の結果が優先され、エンディングノートの記載が法的な効力を持つことはありません。

Q. 遺言を作るのに費用はかかりますか?どこに相談すればいいですか? 自筆証書遺言は用紙代程度で作成でき、法務局に保管を申請する制度を利用する場合は別途手数料がかかります。公証人が関与する公正証書遺言は、財産の額などに応じた手数料が必要です。どちらの方式が向いているかなど、具体的な進め方はお近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】法定遺言事項の実現方法とエンディングノートの役割分担

ご注意 以下は執筆時点(2026年08月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

なぜ「誰に何を相続させるか」はエンディングノートでは決められないのか

本文で触れたとおり、遺言に書いて法的な効力が生じる事項は、法律があらかじめ定めた項目に限られると考えられています(法定遺言事項)。代表的なものとして、相続分の指定・遺産分割方法の指定(民法902条・908条)、相続人以外への遺贈(民法964条)、遺言の内容を実現する遺言執行者の指定(民法1006条)が挙げられます。これらに加えて、被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行があった推定相続人(遺留分を有する者に限られます)について、その相続権を失わせる「推定相続人の廃除」の意思表示も、遺言ですることができるとされています(この場合、遺言執行者が家庭裁判所に廃除を請求します)。

これらの事項が法定遺言事項として扱われているのは、単に内容が重要だからではありません。相続分の変更や推定相続人の廃除は、相続人の権利義務に直接かつ重大な影響を及ぼす意思表示であるため、それが被相続人本人の最終的な真意であることを、本人の死後に誰の目から見ても確認できる形にしておく必要があります。遺言について自筆証書・公正証書・秘密証書という厳格な方式が定められているのは(民法967条以下)、この確認可能性を制度的に確保するためだと説明されます。

エンディングノートには、こうした方式に関する定めがありません。書式は自由で、日付や署名の要件もなく、誰がいつ書いたかを厳密に確認する仕組みも備わっていません。そのため、内容がどれだけ具体的であっても、相続分の指定や推定相続人の廃除のように相続人の権利義務を直接動かす意思表示の器としては使えない、という整理になります。逆に、法律が方式を求めていない事項(家族への感謝や希望の表明など)については、エンディングノートに書くこと自体に制度上の支障はありません。

自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶか

方式そのものの比較は自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべきかで扱っていますので、ここでは法定遺言事項を確実に実現するという観点から、考慮要素を整理します。

  • 要式の充足を誰が確認するか:自筆証書遺言は全文自書・日付・氏名の自書・押印という要件を遺言者自身が満たす必要があり(民法968条)、一つでも欠けると無効になります。公正証書遺言は公証人が関与して作成するため、方式不備による無効のリスクは低いとされています(民法969条)。
  • 証人の要否と適格性:公正証書遺言には証人2人以上の立会いが必要です(民法969条)。推定相続人・受遺者およびこれらの配偶者・直系血族は証人になれないという制限があるため(民法974条)、身内だけで証人を揃えようとすると要件を満たせないことがあります。
  • 検認の要否:自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が必要ですが(民法1004条)、公正証書遺言は検認が不要です(同条2項)。法務局に保管された自筆証書遺言も検認が不要とされています(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。
  • 費用と保管:自筆証書遺言は作成自体の費用がかからず、法務局保管制度を利用する場合も定額の手数料で済みます。公正証書遺言は財産額に応じた公証人手数料がかかりますが、原本が公証役場で保管されるため、紛失・改ざんのリスクは低くなります。

どちらの方式にも一長一短があり、何を優先するかによって選び方が変わります。制度としての違いを踏まえたうえで、どちらが向いているかは、お近くの司法書士にご相談ください。

近く予定されている遺言制度の改正(施行日は未定)

ここまでは執筆時点で施行されている現行のルールですが、遺言の方式については、成立済みの改正法による見直しが控えています。成年後見制度と遺言制度の見直しを内容とする「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が2026年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。遺言に関しては、主に次の3点が変わります。

押印が任意になります(民法968条ほか)

自筆証書遺言の要件から押印が外れ、改正後の民法968条1項は「全文、日付及び氏名を自書しなければならない」という内容になります。財産目録に署名する場合や、書き間違いを訂正する場合の押印も同じく任意になります。押印の見直しは、秘密証書遺言や特別の方式による遺言についても行われます。

証人になれない人の範囲が広がります(民法974条)

現行では推定相続人・受遺者とこれらの配偶者・直系血族が証人になれませんが、改正後は、受遺者に雇われている人(受遺者が法人である場合はその役員・従業員)も証人になれなくなります。公正証書遺言の証人を誰に頼むかを考えるうえで、確認すべき点が一つ増えることになります。

保管証書遺言という新しい方式ができます(民法967条・968条の2)

遺言の方式に、自筆証書・公正証書・秘密証書に加えて「保管証書」が加わります。これは、遺言の全文が記載または記録された証書について遺言者が署名(電子データの場合は法務省令で定める措置)をしたうえで、法務局の遺言書保管官の前で遺言の全文を口述し、法務局に保管してもらうという方式です。電子データのまま作成することもできる一方、法務局に保管しなければ効力が生じないという点に特徴があります。法務省の説明では、相続開始後の家庭裁判所での検認手続は不要とされています。全文を手書きする必要がないため、手書きが負担になる方にとっては選択肢が増えることになります。

施行日は、押印の任意化と証人の欠格事由の見直しが公布の日から1年を超えない範囲内、保管証書遺言の創設はシステム改修を要するため3年を超えない範囲内で、それぞれ政令で定める日とされています。執筆時点(2026年08月)ではこの政令はまだ出ておらず、具体的な施行日は決まっていません。したがって、いま遺言を作成する場合は、押印を含めた現行の要件に従う必要があります。

なお、公正証書遺言については、これに先立つ2025年10月1日に、公正証書のデジタル化を内容とする改正(令和5年法律第53号)が施行されています。公正証書は原則として電磁的記録で作成するものとされ(公証人法36条)、公正証書遺言の作成手続の細目も、民法から公証人法の定めに移されました。

これらの改正が施行されても、エンディングノートと遺言の線引きそのものは変わりません。保管証書遺言も、法務局で口述し保管してもらうという手続を経てはじめて効力が生じるものであり、パソコンで作った文書やノートに書いただけで法的な効力が生まれるわけではないという点は、これまでと同じです。

エンディングノートが実務上果たしている役割

法的な効力がないからといって、エンディングノートに意味がないわけではありません。実務上は、次のような役割を果たしているとされています。

第一に、財産目録の下書きとしての役割です。自筆証書遺言に添付する財産目録は、2019年1月に施行された民法改正によりパソコン等での作成が認められていますが、各ページへの署名押印は必要です(民法968条2項)。日頃からエンディングノートに口座・保険・不動産などの一覧を書き溜めておけば、実際に遺言を作成する際の目録部分を整理する土台として使いやすくなります。

第二に、遺言に書ききれない情報や想いを伝える手段としての役割です。医療・介護に関する希望、葬儀や供養の方法、デジタル資産のログイン情報といった内容は、法定遺言事項にあたらないため、遺言に付言事項として書いても法的な効力は生じませんが、家族が実際の対応の場面で必要とする情報です。随時書き足したり更新したりしやすいという点で、こうした情報の置き場としてはエンディングノートのほうが実務上扱いやすい場面が多いとされています。

なお、財産の一覧や誰に何を渡すかについて、エンディングノートと遺言の記載が食い違っていると、家族が対応に迷う原因になります。両方を作成する場合は、法的な効力を持つのはあくまで遺言の記載であることを前提に、内容の整合性を確認しておくことが実務上望ましいとされています。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年08月・いずれも一次情報です)。

あわせて読みたい