この記事の要点

  • 古い戸籍には「戸主」「前戸主」という記載が出てくることがあり、これは家制度のもとで一家の代表者とされた人を指す
  • かつては「家督相続」という制度があり、戸主の地位や財産は、原則として一人の相続人に単独で引き継がれる仕組みだった
  • 家督相続は、昭和22年(1947年)5月3日=日本国憲法の施行日以降に開始した相続には適用されなくなっており、相続がいつ開始したかによって適用される制度が変わる(ただし、切り替わりの前後については経過規定による例外も置かれている)

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数次相続が絡む案件で、被相続人の出生まで戸籍を遡っていくと、明治・大正・昭和初期に編製された戸籍にたどり着くことがあります。そこに記載されている「戸主(こしゅ)」「前戸主」という文字を見て、いまの戸籍にはない言葉に戸惑う方は少なくありません。この記事では、戸主とは何か、そして戸主制度と結びついていた「家督相続」という古い相続の仕組みについて整理します。

戸主とは、明治31年(1898年)に施行された旧民法(明治民法)のもとで採用されていた「家(いえ)」制度における、一家の代表者のことです。当時の戸籍は、個人単位ではなく「家」を単位に編製されており、戸籍の筆頭には必ず戸主が記載されました。家族は原則としてその戸主の戸籍に入り、婚姻・養子縁組・分家などによって戸籍を移動する際にも、戸主の同意が必要とされる場面が多くありました。戸籍の記載を追っていくと、ある人が亡くなったり隠居したりして戸主の地位を退いたときに「前戸主」と記載され、新たに戸主となった人の氏名が記載される、という構造になっています。

この戸主の地位や財産の承継方法として設けられていたのが「家督相続」です。旧民法のもとでは、戸主が死亡したり、生前に家督を譲る「隠居」をしたりすると、原則として一人の相続人(多くの場合は長男などの直系卑属の中で優先順位が最も高い者)が、戸主の地位・財産のすべてを単独で承継しました。いまの民法のように、配偶者と子が法定相続分に応じて財産を分け合う「共同相続」とはまったく異なる考え方です。法定相続分とはで解説している現在の取り分の考え方は、この家督相続とは別の制度から始まっている点をまず押さえておく必要があります。

なお、旧民法のもとでの相続がすべて家督相続だったわけではない、という点にも注意が必要です。旧民法は、戸主の地位とその財産の承継である「家督相続」とは別に、戸主でない家族が亡くなったときの財産の承継について「遺産相続」という仕組みも定めていました。遺産相続では、まず直系卑属が相続人となり、複数いる場合は共同で相続する形が原則とされていました。つまり旧法の時代でも、亡くなった人が戸主だったのか、戸主でない家族だったのかによって、適用される相続の型が変わります。古い戸籍を遡るときは、この区別を見落とすと相続人の範囲を取り違えるおそれがあります。

家督相続を中心とする旧民法の家制度は、日本国憲法の施行に合わせて廃止されました。まず、日本国憲法の施行日である昭和22年5月3日に「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」(昭和22年法律第74号)が施行され、この法律によって家督相続に関する規定は適用しないこととされました(同法7条1項)。その後、家督相続の規定そのものを削った現行の民法(昭和22年法律第222号による改正民法)が昭和23年1月1日から施行され、いまの共同相続の仕組みに切り替わっています。

実務上の分かれ目になるのは、応急措置法が施行された昭和22年5月3日です。この日より前に家督相続が開始していれば旧法の考え方で相続人を確認することになり、この日以後に開始した相続には家督相続の規定は適用されません。ここでいう「開始」は死亡の日とは限らない点に注意が必要です。先に触れたとおり、旧法では隠居のように死亡以外の事由でも家督相続が開始するため、戸籍上いつ何が起きたのかを見ることになります。

ただし、開始した日だけで機械的に決まるわけではありません。現行民法の附則には、応急措置法の施行前に開始した相続については旧法によるとしたうえで(昭和22年法律第222号附則25条1項)、旧法によれば家督相続人を選定しなければならない一定の場合には新法によるという例外が置かれています(同条2項)。また、日本国憲法の公布の日以後に戸主の死亡による家督相続が開始した場合について、新法なら共同相続人になったはずの人が家督相続人に相続財産の一部の分配を請求できるとする規定もあります(同附則27条1項)。古い相続を扱うときは、開始時期を確認したうえで、こうした経過規定に当たらないかまで確かめる必要があります。

数次相続の案件では、直近の相続だけでなく、その前の世代の相続がいつ・どのように開始していたかを戸籍から確認する必要があります。数次相続の落とし穴代襲相続で扱っているケースの中には、遡っていく過程で家督相続の時代の戸籍に行き当たり、その世代の相続人の範囲を旧法の考え方で確認しなければならない場面が含まれることがあります。戸籍に「戸主」「前戸主」「家督相続届出」といった記載を見つけたら、いまの共同相続の感覚だけで相続人を確定しようとせず、その相続がいつ開始したものかをまず確認する、という手順を踏むことが大切です。

なお、戸籍の集め方についても、直近で運用が変わっている点があります。令和6年(2024年)3月1日から、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍・除籍の証明書をまとめて請求できる「広域交付」の取扱いが始まりました。ただしこの仕組みが使えるのは、戸籍・除籍がコンピュータ(磁気ディスク)で調製されている場合に限られます(戸籍法120条の2第1項)。明治・大正期の手書きのまま残っている古い戸籍・除籍はこれに当てはまらないことがあり、その場合は従来どおり本籍地の市区町村に請求する必要があります。

また、広域交付には請求できる人と請求方法の制限もあります。窓口で請求できるのは本人・配偶者・直系尊属(父母、祖父母など)・直系卑属(子、孫など)の戸籍証明書等に限られ、郵送や代理人による請求はできないとされています(法務省「戸籍法の一部を改正する法律について」)。兄弟姉妹やおじ・おばの戸籍が必要になる場面、本人が窓口へ出向けない場面では、この仕組みは使えません。戸主の記載まで遡るような案件では、途中から広域交付が使えなくなる場面がある、と見込んで段取りを組んでおくと安心です。

執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。家督相続が適用されるかどうかの具体的な判断や、旧法当時の相続人の範囲の確定は、戸籍の記載内容や相続開始時期を個別に確認しないと結論が出せません。

まとめ

戸籍に出てくる「戸主」「前戸主」は、明治31年から昭和22年まで存在した家制度における一家の代表者を指す言葉で、その承継方法である家督相続は、いまの共同相続とはまったく異なる仕組みでした。数次相続で古い戸籍まで遡る際に「戸主」の記載に出会ったときは、その相続がいつ開始したものかを確認し、適用される制度を見極める必要があります。読み方に迷う古い戸籍が出てきたときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。

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