この記事の要点
- 戸籍謄本は「その戸籍に載っている全員分の写し」、戸籍抄本は「その戸籍のうち一部の人だけの写し」です
- 相続の手続きでは、誰が相続人かを戸籍全体で確認する必要があるため、原則として謄本(全部事項証明書)が必要です
- コンピュータ化後の正式名称は「全部事項証明書」「個人事項証明書」ですが、窓口では今も「謄本」「抄本」で通じます
結論からいうと、相続の手続きで使う戸籍は、原則として謄本(全部事項証明書)をそろえます。抄本を取ってしまい、あとで取り直しになるのはよくあるつまずきです。なお、本記事は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。
謄本と抄本は「写す範囲」が違う
戸籍は、原則として夫婦とその子どもを単位として作られる公的な記録です(戸籍法6条。配偶者のいない方などについては、その方と子どもを単位に作られます)。この戸籍の証明書には、写す範囲の違いで2種類あります。
- 戸籍謄本(とうほん):その戸籍に記載されている全員分の写し
- 戸籍抄本(しょうほん):その戸籍に記載されている人のうち、一部の人(たとえば自分だけ)の写し
戸籍法は、戸籍に記載されている本人やその配偶者・直系尊属(父母・祖父母)・直系卑属(子・孫)が、謄本または抄本の交付を請求できると定めています(戸籍法10条)。
現在はほとんどの市区町村で戸籍がコンピュータ化されており、紙の「謄本・抄本」に代わって、記録されている事項を証明した書面が交付されます。全員分を証明するものが「全部事項証明書」、一部の人の分を証明するものが「個人事項証明書」で、これがコンピュータ化後の正式な名称です(戸籍法120条、戸籍法施行規則73条)。もっとも、窓口で「謄本をください」と言えば全部事項証明書のことだと通じますし、案内表示にも「戸籍謄本(全部事項証明書)」と併記されているのが普通です。
相続で「抄本では足りない」理由
相続の手続き──法務局での相続登記や、銀行の預金の払い戻しなど──では、提出された戸籍から「相続人が誰なのか」を確認します。
ここで大事なのは、確認したいのが「亡くなった方の情報」だけではない、という点です。亡くなった方に配偶者がいるか、子どもが何人いるか、養子縁組をしていないか。こうしたことは、その戸籍に載っている全員の記載を通して読み取るものです。
抄本(個人事項証明書)は一部の人だけを抜き出した写しなので、ほかに誰がその戸籍に入っているのかが写りません。つまり、抄本では「その戸籍にほかに誰がいるのか」を読み取れず、相続人を確定するのに必要な情報が欠けてしまいます。これが、相続の手続きで「抄本では足りません、謄本をお願いします」と言われる理由です。
さらに相続では、亡くなった方について出生から死亡までの連続した戸籍をたどる必要があるのが原則です。婚姻や転籍で戸籍は作り替えられており、古い戸籍(除籍謄本や改製原戸籍)まで遡って集めます。除籍謄本については「除籍謄本とは何か」で、まとめて集める方法は「戸籍の広域交付」で解説しています。
抄本で足りる場面もある
一方、自分ひとりの身分事項(氏名・生年月日・父母との続柄など)を示せば足りる手続きであれば、抄本(個人事項証明書)で受け付けられることがあります。たとえば、提出先から「本人の記載がある戸籍抄本で可」と案内されている場合です。
どちらが必要かは提出先の案内によって決まるため、迷ったら提出先に確認するか、写す範囲の広い謄本を取っておくのが安全です。手数料の額は、お住まいの市区町村の案内をご確認ください。
なお、本籍地以外の市区町村の窓口でまとめて戸籍を請求できる「広域交付」(2024年3月1日開始)では、当分の間、全部を証明した書面(謄本)しか請求できないものとされています(戸籍法施行規則附則〔令和6年法務省令第5号〕3条1項)。抄本が必要なときは、本籍地の市区町村に請求することになります。
まとめ
- 謄本(全部事項証明書)=戸籍の全員分の写し、抄本(個人事項証明書)=一部の人だけの写し
- 相続の手続きでは、相続人を戸籍全体で確認するため、原則として謄本が必要
- 抄本で足りるのは、本人の身分事項だけを示せばよい手続き。迷ったら提出先に確認を
相続で必要な戸籍の範囲はケースによって大きく変わります。集め方に不安があるときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。
- 戸籍法(昭和22年法律第224号)6条・10条・120条(e-Gov法令検索)
- 戸籍法施行規則(昭和22年司法省令第94号)73条・附則(令和6年法務省令第5号)1条・3条(e-Gov法令検索)