この記事の要点
- 相続登記が終わると、登記所から市区町村へ通知が届き、固定資産税の課税台帳の名義は登記をもとに切り替わる仕組みになっている(地方税法382条)
- ただし固定資産税は毎年1月1日時点の状況で決まるため、新しい名義人あての納税通知書になるのは、登記後に迎える1月1日を基準とする年度から
- 火災保険は登記で自動的に切り替わらない。契約者・被保険者などの名義や引き落とし口座を、保険会社・代理店に連絡して確認する
- 人に貸している物件は、貸主の立場も相続で引き継がれる。借主・管理会社への連絡を忘れずに
- 売却を考えるなら、登記後に届いた書類の保管、共有者どうしの意思確認、仲介は不動産会社・税金は税理士への相談を早めに
相続登記が終わると、ひと区切りついた気持ちになります。ただ、不動産の名義が変わったことで、まわりの手続きにも見直しが必要なものが出てきます。結論からいうと、固定資産税の名義は登記をもとに市区町村の側で切り替わる仕組みですが、火災保険や賃貸借契約、売却の準備は、名義を引き継いだ方が自分で動く必要があります。
登記完了後に法務局から届く書類(登記識別情報通知など)の扱いは、相続登記の完了後に届くもので整理しました。この記事では、その書類を受け取った後に、暮らしと財産の管理の面でやっておきたいことを順番に見ていきます。
※2026年10月時点の制度にもとづく一般的な解説です。
固定資産税──名義は「登記」をもとに切り替わる
登記の前と後で、仕組みが変わる
固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)時点で、登記簿に所有者として登記されている人に課税されるのが原則です(地方税法343条1項・2項、359条)。
相続登記の前は、登記簿の名義が亡くなった方のままです。この場合について地方税法343条2項は、登記されている人が1月1日より前に亡くなっているときは、その日に現に土地・家屋を所有している人(つまり相続人)を所有者とする、と定めています。名義が亡くなった方のままでも、納税義務は相続人が負うということです。このとき、納税通知書を誰が受け取るかを決めるのが「相続人代表者指定届」で、くわしくは亡くなった親の固定資産税は誰が払う?で解説しています。
相続登記の後は、登記簿に相続した方の名前が載ります。地方税法382条は、登記所(法務局)が所有権の登記をしたときは10日以内に、その不動産がある市町村長へ通知しなければならないと定め、通知を受けた市町村長は、遅滞なく課税台帳の記載を改めなければならないとしています。つまり、登記の情報が登記所から市区町村へ伝わり、課税台帳の名義もそれにあわせて切り替わる仕組みです。
切り替わる「時期」に注意
固定資産税は1月1日時点の状況で、その年度の納税義務者が決まります(地方税法359条)。そのため、たとえば年の途中で相続登記が終わった場合、その年度の分は登記前と同じ扱いで続き、新しい名義人あての納税通知書になるのは、登記後に迎える1月1日を基準とする年度から、ということがあります。
あわせて、次の点を確認しておくと安心です。
- 納税通知書の送り先:相続人代表者として届け出ていた方と、登記で名義人になった方が違う場合も、上で説明した年度からは名義人あてになるのが原則です。送付先の住所の変更などに別の届出が必要かどうかは、不動産のある市区町村の税務担当窓口に確認してください
- 共有名義にした場合:兄弟姉妹などで共有名義にしたときは、誰が窓口になって納めるか、負担をどう分けるかを共有者どうしで話し合っておくのがおすすめです(共有名義の固定資産税の仕組みは、相続で共有名義にした不動産の固定資産税、誰が払う?で解説しています)
- 不動産取得税:相続による不動産の取得には、不動産取得税はかかりません(地方税法73条の7第1号)
税額の計算や、相続人どうしでの負担の分け方についての判断は、税理士や市区町村の税務担当窓口にご相談ください。
火災保険──登記では自動的に切り替わらない
固定資産税と違い、火災保険は登記をしても自動的には何も変わりません。保険は保険会社との契約なので、契約の名義の変更などは、契約した保険会社・代理店に連絡して手続きを確認する必要があります。
確認しておきたいのは次のような点です。
- 契約者や被保険者(補償を受ける人)が亡くなった方のままになっていないか
- 保険料の引き落とし口座が、亡くなった方名義の口座になっていないか
- 建物を空き家にする、人に貸すなど、使い方が変わる予定はないか(使い方によって契約内容の見直しが必要になることがあります)
名義変更の方法や必要書類、相続人のうち誰が手続きをするかは、保険会社や契約の内容によって異なります。証券(契約の内容を記した書類)を手元に用意して、保険会社・代理店に問い合わせるのが確実です。
人に貸している物件──貸主の立場も引き継がれる
契約は相続で終わらない
亡くなった方がアパートや貸家、駐車場などを人に貸していた場合、貸主(賃貸人)としての立場も相続によって引き継がれます。民法896条は、相続人は亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を引き継ぐと定めており、賃貸借契約もその対象です。相続があったからといって契約が終わるわけではなく、借主はそのまま住み続ける(使い続ける)ことになります。
引き継ぐのは家賃を受け取る権利だけではありません。建物の修繕など貸主としての義務や、借主から預かっている敷金を、契約が終わって物件が返されたときに(未払いの家賃などがあればそれを差し引いて)返す義務(民法622条の2)も、あわせて引き継ぐことになります。
登記が終わったら、借主・管理会社に連絡を
遺産分割で誰がその物件を相続するかが決まり、登記も終わったら、次のような連絡をしておきましょう。
- 借主へ:貸主が変わったこと、今後の家賃の振込先、連絡先
- 管理会社へ:管理を任せている場合は、管理委託契約の名義や家賃の送金先の変更
- 手元の書類:賃貸借契約書、敷金の預かり額がわかる資料、鍵の管理状況などを引き継ぐ
物件を兄弟姉妹などで共有名義にした場合は、物件の管理についての決め方にも注意が必要です。共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決めるのが原則です(民法252条1項)。誰が借主とのやりとりを担当するかといった管理の決め方とは別に、受け取った家賃をどう分けるかも、早めに話し合っておくと後のもめごとを防げます。
借主との交渉やトラブルは弁護士の分野
家賃の滞納、退去(明渡し)の求め、家賃の値上げ交渉など、借主との間で話がこじれた場合の交渉や裁判は、原則として弁護士の分野です。訴訟の目的の価額が140万円以下で簡易裁判所が扱う事件であれば、法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)が代理できる場合もあります(司法書士法3条1項6号・7号・同条2項、裁判所法33条1項1号)。
売却を考えているなら──登記後に整えておきたいこと
相続した不動産を売って買主へ名義を移すには、その前提として、相続した方の名義への登記が必要です。相続登記が終わったことで、その前提は整いました。売却の全体の流れは相続した実家を売りたいときにまとめていますので、ここでは登記の後に準備しておきたいことに絞ります。
- 登記識別情報通知を保管しておく:売却の登記の際に必要になります。なくさないよう、大切に保管してください
- 共有名義なら、全員の意思をそろえる:共有名義の場合、不動産全体を売るには共有者全員の協力が必要です。売るかどうか、いくらなら売るか、売ったお金をどう分けるかを、話し合っておきましょう
- 住所や氏名が変わったら登記も更新:登記簿上の名義人の住所や氏名が変わったときは、変わった日から2年以内に変更の登記を申請することが義務になっています(不動産登記法76条の5)。売却の直前に慌てないよう、引っ越しの際は忘れずに
- 相談先を整理しておく:買主を探す仲介は不動産会社、土地の境界や測量は土地家屋調査士、売ったときにかかる税金(譲渡所得の税金)は税理士が相談先です。売却の時期や方法によって税金が変わることもあるため、売り出す前に税理士へ相談しておくと安心です
まとめ
相続登記の後は、固定資産税の名義のように登記をもとに自動的に切り替わるものと、火災保険や賃貸借契約のように自分から連絡しないと変わらないものがあります。固定資産税は登記所からの通知で課税台帳が切り替わりますが、1月1日時点で決まる仕組みのため、新しい名義での納税通知書になるのは、登記後に迎える1月1日を基準とする年度からです。火災保険は保険会社・代理店へ、貸している物件は借主・管理会社へ連絡し、売却を考えているなら書類の保管と共有者どうしの話し合いを早めに進めておきましょう。登記の手続きや名義のことで迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 相続登記の後の手続きに費用はかかりますか?
固定資産税の課税台帳の名義は、登記所から市区町村への通知にもとづいて切り替わる仕組みです。火災保険の名義変更の扱いは保険会社によって異なるため、契約先にご確認ください。売却する場合は、不動産会社への仲介手数料や、売却益が出たときの税金などがかかることがあります。税金の見込みは税理士にご相談ください。
Q. 期限はありますか?放っておくとどうなりますか?
この記事で取り上げた手続きの多くは、法律で一律の期限が決まっているものではありません。ただ、火災保険の名義が亡くなった方のままだと、いざというときの手続きで支障が出るおそれがあり、貸している物件では家賃の振込先などをめぐって借主が困ることもあります。なお、名義人の住所や氏名が変わったときの変更登記は、変わった日から2年以内に申請する義務があります(不動産登記法76条の5)。
Q. 自分でできますか?どこに相談すればいいですか?
保険会社・管理会社・借主への連絡は、ご自身で進められることが多い手続きです。相談先は内容によって分かれ、固定資産税は市区町村の税務担当窓口、税金の計算は税理士、火災保険は保険会社・代理店、売却の仲介は不動産会社、借主との紛争は弁護士が窓口です。登記の手続きや、登記の名義のことで迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】相続登記後の売却に備える──登記識別情報と登記簿上の住所・氏名
ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
相続した不動産を売る場合、買主への所有権移転登記では、相続で名義人となった方が「登記義務者」(この場面では、登記によって権利を失う側)になります。登記審査の観点からは、この場面で問題になりやすいのが、①登記識別情報を提供できるか、②登記簿上の住所・氏名が現在のものと一致しているか、の2点です。
登記識別情報は「申請人」に通知される
売買による所有権移転登記のように、登記権利者(買主)と登記義務者(売主)が共同して申請する登記では、登記義務者の登記識別情報を提供しなければなりません(不動産登記法22条本文)。
一方、登記識別情報が通知される相手について、不動産登記法21条は「その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合」に、「当該申請人」に対して通知すると定めています。条文上、通知を受けるのは登記名義人となった申請人です。そのため、たとえば相続人のうち一部の人だけが申請人となって、相続人全員の名義にする相続登記がされた場合には、申請人にならなかった相続人には登記識別情報が通知されないことになります。また、申請人があらかじめ通知を希望しない旨の申出をした場合も、通知はされません(同条ただし書)。
共有名義の不動産全体を売却するときは、共有者全員が登記義務者になります。相続登記の申請の仕方によっては、共有者の一部が登記識別情報を持っていないことがあるため、売却の話が出た段階で、各共有者の手元に登記識別情報通知があるかを確認しておくと、手続きの見通しが立てやすくなります。
登記識別情報を提供できないとき
登記識別情報が通知されなかった場合など、提供できないことに正当な理由があるときは、提供しないで申請することができます(不動産登記法22条ただし書)。ただしその場合、登記官は登記義務者に対して、申請があったことと、申請内容が真実であれば一定の期間内にその旨を申し出るべきことを通知し、その期間内は申出がない限り登記をすることができません(同法23条1項。いわゆる事前通知)。期間内に申出がないときは、申請は却下されます(同法25条10号)。
この事前通知は、次のいずれかの場合には行われません(同法23条4項)。
- 司法書士など登記の申請の代理を業とすることができる代理人が申請し、登記義務者本人であることを確認するための情報(本人確認情報)を提供して、登記官がその内容を相当と認めたとき(1号)
- 申請情報(代理人による申請では委任状などの代理権限を証する情報)を記載した書面等について、公証人が登記義務者本人であることを確認するための認証をし、登記官がその内容を相当と認めたとき(2号)
売買では代金の支払いと登記の申請を同じ日に行うことが多く、事前通知への申出を待つと登記が完了するまでに日数がかかります。このため、登記識別情報を提供できない場合の対応は、決済の日程を決める前に整理しておくのが実務上の留意点です。
なお、所有権に関する登記で事前通知をする場合に、登記義務者の住所について変更の登記がされているときは、法務省令で定める場合を除き、登記記録上の前の住所にも申請があった旨が通知されます(同法23条2項)。
登記簿上の住所・氏名が現在と違うとき
申請情報の内容である登記義務者の氏名・住所が登記記録と合致しないことは、申請の却下事由とされています(不動産登記法25条7号)。相続登記の後に引っ越しや結婚などで住所・氏名が変わっていれば、売買による所有権移転登記の前提として、住所・氏名の変更登記が必要になります。
この変更登記は、売却の予定の有無にかかわらず、変更があった日から2年以内に申請しなければならないとされています(同法76条の5)。この義務は2026年4月1日に始まったものですが、それより前から登記名義人で、同日より前に住所・氏名が変わったのに変更登記をしていない場合も対象となり、その場合の期限は2028年3月31日までです(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則5条7項)。あわせて、登記官が法務省令で定めるところにより職権で住所等の変更登記をする仕組みも設けられていますが、登記名義人が個人の場合は、本人からの申出があるときに限られます(不動産登記法76条の6)。
相続登記の直後は、登記簿上の住所・氏名と現在のものが一致しています。売却までに時間が空くほど住所・氏名の変更が生じる可能性が高くなるため、変更があったときにその都度登記を更新しておくことが、売却時の手続きを簡単にすることにつながります。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 地方税法 第73条の7・第343条・第359条・第382条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
- 民法 第252条・第622条の2・第896条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法 第2条・第21条〜第23条・第25条・第76条の5・第76条の6(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条第7項(e-Gov法令検索・不動産登記法の附則として収録): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 裁判所法 第33条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
- 法務省「住所等変更登記の義務化について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00693.html