この記事の要点

  • 預金の残高証明書は、相続人が金融機関に「死亡日現在」の残高で請求するのが基本で、請求は死亡の連絡とセットになる(連絡と同時に口座の取引は原則制限される)
  • 相続放棄・限定承認を選べる期間は、原則として自分のために相続が始まったことを知った時から3か月。残高証明書はその判断材料なので、取引先の洗い出しが済んだら早めにまとめて請求する
  • 誰が請求できるか・必要書類・手数料・発行までの日数は金融機関ごとに異なることがあるため、事前に確認する

結論から言うと、残高証明書は「遺産分割の話し合いの前」よりさらに早く、「相続するか放棄するかを決める前」に揃え始めたい書類です。この記事は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。

なぜ「死亡日現在」で取るのか

相続の対象になるのは、亡くなった時点の財産です。そのため、残高証明書は請求日の残高ではなく、基準日を「死亡日」と指定して発行を依頼するのが一般的です。遺産分割協議で財産の一覧を作るときも、この死亡日現在の残高が出発点になります。

誰が請求できるか

残高証明書を誰からの依頼で発行するか(相続人の一人からの依頼でも受け付けるか)は、金融機関ごとの取扱いによります。依頼できる人の範囲は事前に確認してください。

関連する裁判例としては、預金者の共同相続人の一人は、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使できるとした最高裁判所の判決(最判平成21年1月22日民集63巻1号228頁)があります。ただし、これは取引経過(入出金の履歴)の開示についての判断であり、残高証明書の発行そのものを判断したものではありません。また、この判決は、開示請求の態様や、開示を求める対象・範囲によっては、権利の濫用に当たり許されない場合があると考えられる、とも述べています。

請求の際には、亡くなったことと、請求する人が相続人であることを示す戸籍謄本等や、請求する人の印鑑証明書・本人確認書類などを求められることがあります。法定相続情報一覧図の写しで戸籍の束に代えられる場合もあります。具体的な書類・手数料・発行までの日数は金融機関ごとに異なることがあるため、窓口や公式サイトで事前に確認します。

請求の順番──死亡の連絡とセットで考える

全国銀行協会は、口座名義人が亡くなった場合は取引金融機関に連絡するよう案内しており、相続の連絡と同時に、口座での入出金等の取引は原則として制限されるとしています。相続人として残高証明書を請求すれば、金融機関は名義人の死亡を知ることになるため、「残高証明書の請求」と「口座の取引制限」はほぼ同じタイミングで起きると考えておきます。

そこで、段取りは次の順番が整理しやすくなります。

  1. 通帳・キャッシュカード・郵便物などから、取引のある金融機関を書き出す
  2. 公共料金やクレジットカードなど、その口座からの引き落としを書き出し、支払方法の切り替え先を考えておく
  3. 各金融機関に死亡を連絡し、あわせて死亡日現在の残高証明書を依頼する(複数あれば並行して進める)

口座の凍結そのものや、解約・払い戻しまでの流れは「亡くなった方の銀行口座を解約するには」で詳しく扱っています。

いつまでに揃えるか──3か月から逆算する

民法915条1項は、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかをしなければならないと定めています。同条2項は、その判断の前に相続財産の調査をすることができるとしています。残高証明書は、この「調査」の中心になる資料のひとつです。

証明書の発行には日数がかかることがあり、口座が複数あれば揃うまでにさらに時間がかかります。借金の有無の調査も並行するなら、3か月は長くありません。調査が間に合いそうにない場合は、期間内に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる方法があります。

なお、相続放棄を考えている段階で亡くなった方の預金を引き出して使うと、相続財産の「処分」(民法921条1号)として単純承認をしたものとみなされるおそれがあります。残高を確かめることと、預金を引き出して使うことは分けて考え、相続放棄や限定承認を検討しているあいだは引き出して使わないことが大切です。放棄や限定承認をした後に相続財産をひそかに使ってしまうことも、単純承認をしたものとみなされる場合として定められています(同条3号)。

相続税との関係

死亡日現在の残高証明書は、相続税の申告の資料としても使われます。ただし、相続税の申告が必要かどうか、預金を含む財産をどう評価するかは個別の事情によって決まるため、税理士にご相談ください。

まとめ

預金の残高証明書は、相続人が死亡日現在の残高で請求するのが基本で、請求は死亡の連絡とほぼ同時になります。相続放棄・限定承認の判断期間(原則3か月)から逆算し、取引先の洗い出しと引き落としの確認を済ませたうえで、早めにまとめて請求するのが段取りのポイントです。手続きの順番に迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

あわせて読みたい