この記事の要点

  • 司法書士が運転免許証などを確認し、本人と会って話を聞くのは、「書類の上の名義人」と「目の前の依頼者」が同じ人か、そしてその人が本当にその登記を望んでいるかを、登記の申請より前の段階で確かめるためです
  • 司法書士は、犯罪収益移転防止法で本人確認(取引時確認)を求められる「特定事業者」の一つです。宅地や建物の売買に関する手続の代理を引き受ける契約などが、確認の対象として定められています
  • 不動産登記法にも、権利証(登記識別情報)を出せないときの事前通知や、司法書士などが作る「本人確認情報」、登記官による本人確認の調査といった、なりすましに備える仕組みがあります
  • 本人確認は、他人になりすまして土地を売るいわゆる「地面師」の被害を防ぐための大切な関門ですが、それだけで被害を完全に防げるわけではありません。確認に協力しつつ、心配な点は早めにお近くの司法書士にご相談ください

不動産の売買や贈与の登記を司法書士に頼むと、運転免許証やマイナンバーカードを見せてほしい、本人と直接会って話を聞きたい、と言われるのが一般的です。「家族が代わりに行けばいいのでは」「印鑑証明書もそろえたのに、なぜ」と感じる方もいるかもしれません。

結論から言うと、これは登記の名義が本人の知らないうちに書き換えられる事態(なりすましによる不正な登記)を防ぐためです。登記所の手続は、提出された書類や情報をもとに進むのが基本です。だからこそ、申請の前の段階で「この人は本当に名義人本人か」「本人は本当にこの登記を望んでいるか」を確かめることに意味があります。

なお、売買の決済で誰が司法書士を選ぶのか、という話は不動産の決済で司法書士は誰が選ぶ?で整理しています。この記事では、選ばれた司法書士が決済の前に何を確かめるのか、そしてそれはなぜなのか、に絞って説明します。

書類がそろっていても「本人」とは限らない

不動産の名義を移す登記では、売主など名義を手放す側(法律では「登記義務者」といいます)の権利証(登記識別情報)や、実印を押した書類と印鑑証明書などを使います。権利証は、その不動産の名義人であることを示す大切な情報で、共同で申請する登記では、申請の際に登記義務者の登記識別情報を提供するのが原則とされています(不動産登記法22条)。

ただ、書類はあくまで「物」や「情報」です。盗まれたり、勝手に持ち出されたり、偽造されたりするおそれがあります。書類が全部そろっていることと、書類を持ってきた人が名義人本人であることは、別の問題です。

そこで司法書士は、書類の確認に加えて、本人確認書類で氏名・住所・生年月日を照らし合わせ、本人と面談して話を聞きます。書類と人を結び付けて確かめることで、なりすましを見抜く手がかりを増やすわけです。

「本人である」だけでなく「本人が望んでいる」ことも確かめる

本人確認と並んで大切なのが、意思の確認です。たとえ名義人本人であっても、

  • 誰に、どの不動産を、どんな理由で(売買・贈与など)名義を移すのか
  • 本人がその内容を理解し、納得しているのか

が確かめられなければ、正しい登記とはいえません。

民法には「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」という規定があります(民法3条の2)。たとえば、判断する力(意思能力)がない状態で売買の契約をした場合、その契約は無効とされ、それをもとにした登記も前提を失うことになります。

そのため、家族が手続を進めている場合でも、名義人本人と直接話をして、内容を理解しているか、本当にそうしたいと考えているかを確かめることが大切になります。家族の側からすると手間に感じるかもしれませんが、本人の財産と取引の安全を守るための確認です。

法律が求める本人確認①──犯罪収益移転防止法の「取引時確認」

司法書士の本人確認には、法律上の根拠もあります。その一つが犯罪収益移転防止法(正式名称は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」)です。

この法律は、犯罪で得たお金が不動産などに形を変えて流れていくこと(いわゆるマネー・ローンダリング)を防ぐため、銀行や不動産会社などの事業者に、取引の相手が誰なのかを確認する義務を課しています。司法書士・司法書士法人も、この義務を負う「特定事業者」の一つに挙げられています(同法2条2項46号)。

司法書士の場合、宅地や建物の売買に関する手続の代理などを引き受ける契約などが、確認が必要な取引として定められています(同法4条1項・別表。具体的な対象や例外は政令などで細かく定められています)。確認する内容には、氏名・住居・生年月日といった本人を特定する事項のほか、取引の目的や職業なども含まれます。また、確認した内容は記録に残して保存することになっています(同法6条)。

決済の前に「今回の取引の目的は」「ご職業は」と尋ねられることがあるのは、こうした法律上の確認の一環です。

法律が求める本人確認②──不動産登記法のしくみ

不動産登記法にも、なりすましに備える仕組みがいくつも用意されています。

権利証を出せないときの「事前通知」

権利証(登記識別情報)を提供できないまま登記が申請されたとき、登記官は登記義務者に対して、申請があったことと、内容が本当なら一定の期間内に申し出るよう通知します。そして、その期間内は、申出がない限り登記をすることができません(不動産登記法23条1項)。

さらに、所有権に関する登記で、登記義務者の住所について変更の登記がされているときは、原則として、登記記録上の前の住所にも申請があった旨が通知されます(同条2項)。勝手に住所を移したうえで名義を移そうとするような手口に備える仕組みです。

司法書士などが作る「本人確認情報」

事前通知は、登記の申請の代理を業とすることができる代理人(司法書士など)から、申請人が本当に登記義務者であることを確認するために必要な情報の提供を受け、登記官がその内容を相当と認めるときには行われません(不動産登記法23条4項1号)。この情報を「本人確認情報」といいます(不動産登記規則72条1項)。

本人確認情報には、司法書士が申請人と面談した日時・場所・その状況などを明らかにすることが求められます。面識がない相手の場合は、提示を受けた本人確認書類の内容と、その人が申請の権限を持つ登記名義人であると認めた理由を書くことになっています(同条1項)。確認に使う書類としては、運転免許証・マイナンバーカード・旅券(パスポート)などのいずれか1つ以上の提示を受ける方法などが定められており、提示を受ける日に有効なものに限られます(同条2項)。

司法書士が「免許証を見せてください」「直接お会いしてお話を」と言う背景には、こうした決まりもあるのです。権利証をなくした場合の対処法は、権利証(登記識別情報)をなくしたらで詳しく紹介しています。

登記官による本人確認の調査

登記官は、登記の申請があった場合に、申請人となるべき者以外の者が申請していると疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、申請人や代理人に出頭を求めたり、質問をしたり、文書の提示を求めたりして、申請の権限があるかどうかを調査しなければならないとされています(不動産登記法24条1項)。

もっとも、この調査は、なりすましを疑うに足りる相当な理由があると認めるときに働く仕組みです。冒頭で触れたとおり、登記所の手続は提出された書類や情報をもとに進むのが基本なので、依頼を受けた段階で司法書士が本人と会い、書類と人を確かめておくことが、不正な登記を防ぐ一つ目の関門として重要になります。

「地面師」とは何か──なぜ本人確認が関門になるのか

地面師(じめんし)とは、他人の土地の持ち主になりすまし、偽造した書類などを使って売買を装い、買主から代金をだまし取る者を指す俗称です。

このような詐欺が成功すると、買主は代金を失い、本当の持ち主も、知らないうちに入った登記への対応に追われることになります。被害の大きさから、取引に関わる人それぞれが「相手は本当に本人か」を確かめることが重要だとされています。

司法書士の本人確認は、その確認を担う関門の一つです。ただし、偽造された書類が精巧な場合などもあり、司法書士の本人確認があるからといって、なりすましの被害を完全に防げるわけではありません。不動産会社の確認、金融機関の確認、登記所の仕組みなど、複数の確認が重なることで安全性を高めている、と理解しておくとよいでしょう。

持ち主の側でも、実印や権利証を盗まれたなど、身に覚えのない登記をされそうな心配があるときには、法務局に「不正登記防止申出」をする方法があります。詳しくは実印や権利証を盗まれたら──法務局の「不正登記防止申出」をご覧ください。

依頼する側が知っておきたいこと

本人確認をスムーズに進めるために、次の点を押さえておくと安心です。

  • 有効期限内の本人確認書類を用意する:運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど。どの書類が必要かは、事前に依頼先に確かめておきましょう
  • 名義人本人が面談に臨む:家族が手続を手伝う場合でも、名義人本人の意思を確かめる必要があることに変わりはありません
  • 質問には率直に答える:取引の目的や職業、取引の経緯などを尋ねられるのは、法律や登記の仕組みに沿った確認のためです
  • 登記簿の住所と今の住所が違う場合は早めに伝える:住所の変更の登記が必要になるなど、準備に時間がかかることがあります。なお、2026年4月1日からは、所有権の登記名義人の住所などが変わったときは、変更から2年以内にその変更の登記を申請することが義務とされています(不動産登記法76条の5)

本人確認は「疑われている」ということではなく、依頼者自身の財産と、取引の相手方の安全を守るための手続です。

まとめ

司法書士が運転免許証などを確認し、本人と会って話を聞くのは、書類の名義人と目の前の依頼者が同じ人であること、そして本人が本当にその登記を望んでいることを、登記の申請より前に確かめるためです。

その背景には、犯罪収益移転防止法の取引時確認や、不動産登記法の事前通知・本人確認情報・登記官による本人確認の調査といった仕組みがあります。いずれも、他人になりすまして不動産を売る「地面師」のような不正を防ぐための備えですが、どれか一つで被害を完全に防げるものではありません。

本人確認の進め方や、必要な書類について不安がある場合は、早めにお近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 本人確認をしてもらうのに費用はかかりますか?

本人確認に必要な書類の提示そのものに、法律で決まった料金があるわけではありません。ただし、権利証(登記識別情報)が見つからず、司法書士に本人確認情報を作ってもらう場合などは、通常の手続とは別に費用がかかることがあります。費用の扱いは依頼先によって異なるため、依頼の前に見積もりで確かめておくと安心です。

Q. 本人確認に期限はありますか?済ませないとどうなりますか?

本人確認そのものに法律上の期限があるわけではありませんが、売買の決済では、代金の支払いと同じ日に登記を申請するのが基本です。それまでに本人確認や意思の確認が済んでいないと、決済の日程そのものを組み直すことになるおそれがあります。本人確認書類は、確認を受ける日に有効なものが求められるため、有効期限も事前に見ておきましょう。

Q. 自分で登記を申請すれば本人確認はいらないのですか?どこに相談すればいいですか?

自分で申請する場合は司法書士による本人確認はありませんが、権利証(登記識別情報)の提供や事前通知、登記官による本人確認の調査といった不動産登記法の仕組みは同じように働きます。身に覚えのない登記の心配があるときは法務局(登記所)の不正登記防止申出を、詐欺の被害が疑われるときは警察や弁護士への相談を検討してください。登記の手続や本人確認の進め方については、お近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】登記識別情報を提供できないときの手続──事前通知・本人確認情報・公証人の認証

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文では、事前通知・本人確認情報・登記官による本人確認を一つずつ紹介しました。ここでは、登記識別情報(権利証)を提供できない場面で、「申請人が登記義務者本人であること」をどの手続で確かめるのか、という観点から条文と規則の組み立てを整理します。

出発点──登記識別情報の提供と「正当な理由」

共同で申請する権利に関する登記では、登記義務者の登記識別情報を提供するのが原則です(不動産登記法22条本文)。ただし、登記識別情報が通知されなかった場合その他、提供できないことに正当な理由がある場合は、この限りでないとされています(同条ただし書)。この「提供できない」場合に、本人であることを別の方法で確かめる手続を定めているのが同法23条です。

3つの手続の比較

事前通知 資格者代理人による本人確認情報 公証人の認証
根拠 不動産登記法23条1項、不動産登記規則70条 同法23条4項1号、同規則72条 同法23条4項2号
誰が確かめるか 登記義務者本人が、登記所からの通知に応じて「申請の内容は真実である」と申し出る 登記の申請の代理を業とすることができる代理人(資格者代理人)が、申請人と面談するなどして確認する 公証人が、申請情報(委任による代理人が申請する場合は、委任状など代理権限を証する情報)を記載した書面などについて、登記義務者であることを確認するための認証をする
登記官の扱い 申出の期間内は、申出がない限り登記をすることができない(同法23条1項後段) 提供された情報の内容を登記官が「相当と認める」ことが必要 認証の内容を登記官が「相当と認める」ことが必要
期間 通知を発送した日から2週間(登記義務者が外国に住所を有する場合は4週間)(同規則70条8項) 23条1項が適用されないため、申出期間を待つ必要はない 同左

本人確認情報と公証人の認証は、いずれも「登記官がその内容を相当と認めるとき」に事前通知が不要になる、という組み立てです(同法23条4項柱書・各号)。提供すれば自動的に事前通知が省かれるわけではなく、相当と認められなければ、条文の構造上は原則どおり同条1項の事前通知の手続によることになります。

事前通知の細部

  • 通知の方法:登記義務者が個人の場合などは、名宛人本人に限って交付・配達する本人限定受取郵便またはこれに準ずる方法で書面を送ります(同規則70条1項1号)。法人の場合(代表者の住所あてに送る場合を除く)は書留郵便など(同項2号)、外国に住所がある場合は書留郵便またはこれに準ずる方法など(同項3号)です
  • 申出の方法:書面申請の場合は、届いた書面に申請の内容が真実である旨を書いて記名し、申請書または委任状に押した印と同じ印を押して登記所に提出します(同条5項2号)。電子申請の場合は、通知番号などで書面の内容を特定し、申請の内容が真実である旨の情報に電子署名をして送信します(同項1号)
  • 申出がないとき:期間内に申出がないときは、申請は却下されます(不動産登記法25条10号)

前の住所への通知(23条2項)の要件と例外

前の住所への通知は、登記識別情報を提供できない場合(23条1項の申請)のうち、①所有権に関する登記の申請であって、②登記義務者の住所について変更の登記がされている場合に、登記をする前に行われます(不動産登記法23条2項)。通知は、転送を要しない郵便物として書面を送付する方法などで送られます(不動産登記規則71条1項)。新しい住所へ転送されない形で、前の住所あてに届けられる点がポイントです。

ただし、次の場合には前の住所への通知は行われません(同条2項)。

  1. 住所の変更(更正を含む)の登記の原因が、行政区画・字やその名称の変更、または錯誤・遺漏である場合
  2. 登記の申請の日が、登記義務者の住所についての最後の変更の登記の申請の受付日(職権による登記の場合は登記の日)から3か月を経過している場合
  3. 登記義務者が法人である場合
  4. 本人確認情報の提供があり、その内容により申請人が登記義務者であることが確実であると認められる場合

裏返すと、登記識別情報を提供できない所有権に関する登記の申請で、最後の住所の変更の登記から3か月以内のものは、他の例外に当たらない限り、前の住所への通知の対象になります。また、4号の書きぶりからわかるように、本人確認情報を提供したからといって前の住所への通知が当然に省かれるわけではなく、「確実であると認められる場合」に限って例外とされています。

本人確認情報の記載事項と確認書類の組み合わせ(規則72条)

本人確認情報には、資格者代理人が申請人と面談した日時・場所・その状況を必ず明らかにします(不動産登記規則72条1項1号)。そのうえで、

  • 申請人の氏名を知り、かつ面識がある場合:その旨と、面識が生じた経緯(同項2号)
  • 氏名を知らない、または面識がない場合:提示を受けた書類の内容と、申請の権限を有する登記名義人であると認めた理由(同項3号)

を明らかにします。面識がない場合の確認書類は、次のいずれかの組み合わせによるとされています(同条2項)。

方法 提示を受ける書類
1号 運転免許証、個人番号カード(マイナンバーカード)、旅券等、在留カード、特別永住者証明書、運転経歴証明書のうち1つ以上
2号 健康保険などの資格確認書(書面のもの)、介護保険の被保険者証、基礎年金番号通知書、身体障害者手帳などで、氏名・住所・生年月日の記載があるもののうち2つ以上
3号 2号の書類のうち1つ以上と、官公庁から発行・発給された書類などで氏名・住所・生年月日の記載があるもの1つ以上

1号・2号の書類と、有効期間・有効期限のある3号の書類は、提示を受ける日に有効なものに限られます(同項ただし書)。また、本人確認情報を提供するときは、資格者代理人が登記の申請の代理を業とすることができる者であることを証する情報も併せて提供します(同条3項)。

登記官による本人確認(24条)との関係

23条の各手続は、登記識別情報を提供できない場合の仕組みです。これに対して24条1項は、「登記の申請があった場合」と定めており、登記識別情報が提供されたかどうかを問わず、申請人となるべき者以外の者が申請していると疑うに足りる相当な理由があると認めるときに、登記官が申請の権限の有無を調査しなければならないとしています(25条により却下すべき場合を除く)。申請人や代理人が遠くに住んでいるときなどは、他の登記所の登記官に調査を嘱託することもできます(同条2項)。なお、申請の権限を有しない者による申請は、却下事由の一つとされています(同法25条4号)。

このように、資格者代理人による面談・書類確認や公証人の認証は申請の前に行われ、その内容を登記官が審査します。これに対して、事前通知・前の住所への通知・登記官の調査は、登記所の側で申請の後に行われます。なお、事前通知と、本人確認情報・公証人の認証とは、後者の内容が相当と認められれば前者が行われないという関係にあり、すべてが一つの申請で重ねて行われるわけではありません。前の住所への通知(規則71条2項4号に当たる場合を除く)や登記官の調査は、これらとは別に行われることがあります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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