この記事の要点

  • 書面で登記を申請するときは、申請書や委任状に記名押印(名前を書いて印鑑を押すこと)をするのが原則です(不動産登記令16条1項・18条1項)。実印と印鑑証明書が要るのは、主に売買や贈与で名義を渡す側(登記義務者)になる所有権の登記名義人などです。
  • 相続登記で名義を受け取る相続人は、申請書への押印は要りますが印鑑証明書は要らないため、法務省の案内では「認印で可」とされています。一方、遺産分割協議書には、実務上、相続人全員の実印の押印が求められ、印鑑証明書の添付も必要です。
  • 名義を渡す側など印鑑証明書が要る立場でも、登記によって新しく登記識別情報を受け取る側でもない申請人などは、押印せずに署名だけで足りる場合があります(不動産登記規則47条・49条)。

「登記の書類には実印を押すもの」と思われがちですが、必ずしもそうではありません。結論から言うと、実印が要るのは、その書類に印鑑証明書を付ける必要がある場合で、申請書や委任状では押す人の立場によって分かれます。

なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。書面(紙)で申請する場合を前提とし、オンライン申請(電子署名で本人を確かめる方法)は扱いません。

実印が要るのは、印鑑証明書を付ける人

実印とは、住所地の市区町村に登録した印鑑のことで、印鑑証明書によってその印影が本人のものだと証明できます。登録していない印鑑は、一般に認印と呼ばれます。

不動産登記令は、申請人などが申請書に記名押印し(16条1項)、記名押印した人(委任を受けた司法書士などの代理人を除く)の印鑑証明書を添付することを原則としています(同条2項)。司法書士などに頼むときの委任状についても、同じ組み立てです(18条1項・2項)。印鑑証明書は押された印影が本人のものかを確かめるための書類ですから、この場面で押すのは、その印鑑証明書と同じ印、つまり実印ということになります。

ただし、印鑑証明書が実際に要る人は不動産登記規則で絞られています。中心になるのは、所有権の登記名義人が、売買や贈与、抵当権の設定などで登記義務者となる登記を申請する場合です(同規則47条3号イ)。このほか、所有権の登記名義人が登記識別情報を提供しないで抵当権などの債務者の変更の登記を申請する場合(同号ロ)や、抵当権など所有権以外の権利の登記名義人が登記識別情報を提供しないで登記義務者として申請する場合(同号ハ)なども挙げられています(同号ロ〜ニ)。これらに当たらない申請人は、印鑑証明書の添付を要しないとされています(同規則48条5号、委任状は49条2項4号)。

この印鑑証明書の期限の考え方は、登記に使う印鑑証明書に有効期限はある?で整理していますので、ここでは繰り返しません。

相続登記を申請する相続人は「認印で可」

相続登記で名義を受け取る相続人は、通常、登記によって登記識別情報の通知を受けることとなる申請人です(不動産登記法21条本文、不動産登記規則47条3号ホ)。この立場の申請人は、印鑑証明書の添付が要りません(同規則48条4号。合筆の登記などを申請する場合を除きます)。

一方で、後の章で触れる「署名だけで足りる」扱いは、47条3号ホに当たる人には使えません。そのため、申請書への押印は必要だが、印鑑証明書は付けないという組み合わせになります。照合する印鑑証明書がないので、押す印鑑は実印に限られず、法務省の相続登記の案内でも、申請書の押印は「認印で可」とされています。司法書士などに頼む場合の委任状も、記名押印は必要で(令18条1項)、印鑑証明書は要らないという同じ組み立てです(同規則49条2項4号)。

なお、同じ案内では、窓口で登記完了後の書類を受け取るときは申請書に押印したものと同じ印鑑が必要とされています。どの印鑑を押したかは控えておくと安心です。申請書の書き方そのものは、相続登記申請書の書き方もご覧ください。

遺産分割協議書には実印と印鑑証明書(実務上の扱い)

遺産分割協議書は、相続登記の申請書とは別の書類で、どの相続人がどの不動産を取得するかを示す登記原因証明情報の一部として提出します(不動産登記令別表22項)。協議書への実印の押印と印鑑証明書の添付は、令や規則の条文で直接定められたものではなく、実務上の扱いです。法務省の案内では、相続人全員が印鑑証明書と同じ印(実印)を押し、その印鑑証明書を各1通添付するとされています。

ただし、法務省の資料どうしでも書き方に差があります。法務省民事局の手続案内「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」(令和8年4月版。法務局のサイトでは「相続登記申請手続のご案内(遺産分割協議編)」として掲載)は、添付する印鑑証明書について「登記申請人である相続人を除く」と注記している一方、法務局の申請書記載例「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)」(令和8年9月11日更新)は「遺産分割協議を行った相続人全員の印鑑証明書」が必要と書いており、申請人を除く旨の記載はありません。協議書に実印を押すこと自体は全員共通ですが、申請人自身の印鑑証明書を省けるかどうかは資料によって書き方が分かれていますので、申請先の法務局に確認するのが確実です。

署名だけで足りる場面もある

不動産登記規則は、記名押印をしなくてよい場合も定めています。たとえば、委任を受けた司法書士などが申請書に署名した場合(47条1号)や、申請人が47条3号イ〜ホのいずれにも当たらず、署名した場合(同条3号)です。委任状についても、申請人がイ〜ホに当たらなければ、署名で足りるとされています(49条1項2号)。

つまり、名義を渡す側など印鑑証明書が要る立場(イ〜ニ)でもなく、登記によって新しく登記識別情報を受け取る側(ホ)でもない申請人は、印鑑を押さずに署名だけで申請できることがあります。どの申請がこれに当たるかは登記の種類と申請人の立場で決まりますので、具体的な場面では申請先の法務局に確認してください。

ただし、署名で足りる場面があるからといって、登記の書類全般で押印が要らなくなったわけではありません。申請書や委任状に記名押印するという原則は、今も不動産登記令16条1項・18条1項に定められています。署名で足りるのは、規則が定める場面に限られます。

まとめ

登記の書類に押す印鑑は、「実印が要る人」「認印で足りる人」「署名だけでよい人」に分かれます。分かれ目は、名義を渡す側など印鑑証明書を付ける立場か、登記識別情報を受け取る側かです。相続登記では、申請書は認印で足りても、遺産分割協議書には実印と印鑑証明書が求められるという違いがあります。ご自身のケースでどの印鑑が要るか迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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