この記事の要点

  • 自社株を特定の後継者に渡したいなら、遺言で「どの会社の、どの種類の株式を、何株(または全部)」と特定して書くのが出発点です
  • 後継者が相続人なら「相続させる」と書く遺言が一般的です。この場合、株式に譲渡制限(会社の承認がないと譲渡できない定め)があっても、会社の承認を受けずに株主名簿の名義書換を請求できます(会社法134条4号)
  • 遺言執行者(遺言の内容を実現する役目の人)を遺言で決めておくと、名義の書き換えなどの手続きを進める役を担える場面があります
  • 株主名簿の名義書換は会社の中の手続きで、登記ではありません。亡くなった経営者が取締役・代表取締役だった場合は、役員の変更登記が別に必要です(2週間以内)
  • 株の値段の評価や相続税は税理士、遺留分(最低限の取り分)をめぐるもめごとは弁護士、公正証書遺言の作成は公証人の役割です

経営者が遺言を残さずに亡くなると、自社株は相続人全員で共有する状態(「準共有」)になり、遺産分割がまとまるまで株主としての権利を使うことにも手間がかかります。これを避けるもっとも基本的な備えが、遺言で「誰に」「どの株式を」渡すかを決めておくことです。

この記事は、株を遺す側(経営者)が遺言をどう書くか、そして遺言どおりに会社の株主名簿を書き換えるときに会社側で何をするかに絞って整理します。株を相続した側(とくに少数株主)の名義書換や会社からの売渡請求については非上場株式を相続したら──取引相場のない株の名義書換と少数株主の現実を、株式が分散したときの議決権の問題については自社株の相続と議決権をご覧ください。

なお、本記事は執筆時点(2026年10月)の法令に基づく一般的な解説です。個別の事情によって結論が変わることがあります。

遺言がないと、自社株は相続人の「準共有」になる

株式は、相続が起きると遺産分割が終わるまで相続人全員のものとして扱われます。株式を複数人で共有している状態を「準共有」と呼びます。

準共有の株式について権利を使うには、共有している人たちが「権利を行使する人」を1人決めて会社に通知しなければなりません(会社法106条。会社が同意した場合は例外)。相続人どうしの話し合いがまとまらないと、この1人が決まらず、株主総会で議決権を使えない状態が続くことがあります。

経営者が持っていた株式が過半数を占めていた場合、それが動かなくなると、役員を選ぶことも難しくなります。この入口の問題を避けるために、遺言で行き先を決めておく意味があります。

遺言で自社株を遺すときは「株式の特定」が出発点

遺言で自社株を渡すときに、まず大切なのは「どの株式のことか」が誰が読んでも分かるように書くことです。一般に、次の点を押さえて書きます。

  • 会社の特定:会社の正式な名前(商号)と本店の所在地。同じような名前の会社と取り違えないためです
  • 株式の種類:普通株式のほかに、議決権のない株式など内容の違う株式(種類株式)を発行している会社では、どの種類の株式かを書きます。株主名簿にも、株式の種類と種類ごとの数が記載されます(会社法121条2号)
  • 株数:「〇〇株」と数で書くか、「有する株式の全部」と書くかを決めます。遺言を書いてから亡くなるまでの間に、増資や株式分割などで株数が変わることもあるため、持っている株式をすべて渡す趣旨なら「全部」と書く方法もあります
  • 受け取る人の特定:氏名に加えて、生年月日や続柄を書くのが一般的です

書き方のイメージは、たとえば次のようなものです。

遺言者は、遺言者の有する株式会社〇〇〇〇(本店 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号)の普通株式の全部を、遺言者の長男〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に相続させる。

これはあくまで文言の形の一例です。実際に「誰に、どれだけの株式を渡すか」は、会社の状況、ほかの相続人とのバランス、税金などを踏まえて一件ずつ検討する必要があります。書く前に、会社の株主名簿で、自分名義の株式の種類と数を確かめておくことも大切です。

「相続させる」と「遺贈する」──自社株ではここが違う

遺言の書き方には、大きく「相続させる」と書く方法と、「遺贈する」と書く方法があります。相続人に特定の財産を「相続させる」と書いた遺言は、法律上「特定財産承継遺言」と呼ばれます(民法1014条2項)。一般的な違いは「相続させる」と「遺贈する」はどう違う?で整理していますので、ここでは自社株に関係する点を中心に見ます。

「相続させる」(特定財産承継遺言) 「遺贈する」(特定の株式を遺贈)
渡せる相手 相続人だけ 相続人以外にも渡せる(例:相続人でない役員や孫)
譲渡制限株式の会社の承認 不要(相続による取得のため、承認なしで名義書換を請求できる。会社法134条4号) 条文の文言からは「相続その他の一般承継」に当たらないと考えられ、その場合は取得したことについて会社の承認(会社法137条)が問題になる
株主名簿の名義書換の請求 相続を証明する資料を出せば、受け取った人が単独で請求できる(会社法施行規則22条1項4号) 原則として、株主名簿上の株主の側(その相続人など)と共同で請求する(会社法133条2項)

株式に譲渡制限がついている中小企業は多く、相続人である後継者に渡すなら「相続させる」と書く遺言のほうが、会社側の承認という手続きを経ずに済む点で手続きが簡単になります。

一方、相続人ではない人(たとえば番頭役の役員や、子がいる場合の孫)に自社株を渡したいときは、「遺贈する」と書くことになります。株式を特定して遺贈する場合は、会社の承認や名義書換の共同請求など、手続きに一手間増えると考えて準備しておく必要があります。なお、財産の全部または割合で渡す「包括遺贈」を受けた人は、相続人と同じ権利義務を持つとされており(民法990条)、承認の扱いが特定の株式の遺贈とは異なると考えられます(記事末尾の深掘りで整理しています)。

もう一つ注意したいのは、定款に「相続人等に対する売渡しの請求」の定めがある会社です(会社法174条)。この定めは、相続などで株式を取得した人に対して会社が「株式を会社に売り渡してほしい」と請求できるものです。この定めは、相続で株式を取得した人を後継者かどうかで区別せずに働くため、「相続させる」遺言で後継者に株式を渡した場合でも、後継者がこの請求の対象になりうる点に注意が必要です(「遺贈する」と書いた場合の扱いは、記事末尾の深掘りで整理しています)。遺言を書く前に、自分の会社の定款を確かめておくことが大切です。

遺言執行者を決めておく

遺言では、遺言の内容を実現する役目の人(遺言執行者)を指定できます(民法1006条)。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利と義務を持ちます(民法1012条1項)。

自社株との関係では、次の点で遺言執行者を決めておく意味があります。

  • 特定財産承継遺言(「相続させる」遺言)の場合:遺言執行者は、財産を受け取った相続人が、そのことをほかの人に主張できる状態(対抗要件)を整えるために必要な行為をすることができます(民法1014条2項)。株券を発行していない会社の株式の譲渡では、株主名簿に記載されることが会社や第三者に主張するための要件とされています(会社法130条)。この考え方が相続による取得にも及ぶとすれば、遺言執行者が名義書換の手続きを進める役を担えると考えられます
  • 遺贈(「遺贈する」と書く遺言)の場合:遺言執行者がいるときは、遺贈を実現する手続き(遺贈の履行)は遺言執行者だけが行うことができます(民法1012条2項)。ほかの相続人の協力を一人ずつ得なくても手続きを進めやすくなります

遺言執行者には、後継者本人を指定することも、専門職を指定することもできます。ほかの相続人との関係や、手続きの量を考えて決めます。

遺言どおりに株主名簿を書き換える──会社側の手続き

経営者が亡くなったあと、遺言どおりに株式を引き継ぐには、会社の株主名簿の名義を書き換えてもらう必要があります。会社に株主として扱ってもらうための手続きです。流れは、おおむね次のとおりです。

  1. 会社への請求:株式を受け取った人が、会社に対して株主名簿の書き換えを請求します(会社法133条1項)。遺言執行者がいる場合は、遺言執行者が手続きを進める役を担うこともあります
  2. 資料の提出:「相続させる」遺言で受け取った場合は、相続による取得を証明する資料(遺言書や戸籍謄本など)を出せば、受け取った人だけで請求できます(会社法施行規則22条1項4号)。具体的にどの書類を出すかは、会社の株式取扱規程などで決まっていることがあります。自筆の遺言書は、法務局に預けていないものであれば、家庭裁判所での「検認」という手続きを経てから使うのが一般的です(民法1004条1項。法務局の保管制度に預けた遺言書は検認が不要です。遺言書保管法11条)
  3. 株券を発行している会社の場合:定款で株券を発行すると定めている会社では、株券を会社に示して請求する形になります(会社法施行規則22条2項1号)。株券を発行する会社かどうかは、会社の登記事項証明書で確かめられます(株券発行会社であることは登記事項です。会社法911条3項10号)
  4. 会社の承認:譲渡制限株式であっても、相続によって取得した場合は、会社の承認を受けていなくても名義書換を請求できます(会社法134条4号)
  5. 株主名簿への記載:会社が、受け取った人の氏名・住所や株式の数などを株主名簿に記載します(会社法121条)

亡くなった経営者が代表取締役で、ほかに会社を代表する人がいない場合は、請求を受け付けて株主名簿を書き換える会社側の担い手が欠けることがあります。その場合は、後任の役員を選ぶ手続きと並行して進めることになります。

名義書換は「登記」ではない──登記が別に要る場面

ここは混同しやすい点です。株主の氏名は、会社の登記簿に載る事項ではありません。株主名簿の名義書換は会社の中の帳簿を書き換える手続きであり、法務局に登記を申請するものではありません。したがって、自社株の名義書換そのものには登録免許税もかかりません。

一方で、次のような場合には、名義書換とは別に登記が必要になります。

  • 亡くなった経営者が取締役・代表取締役だった場合:死亡によって役員を退任するため、変更が生じたときから2週間以内に、本店の所在地で変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。後任の役員を株主総会で選ぶときには、後継者が株主として議決権を使うことになるので、名義書換を先に済ませておくと手続きが進めやすくなります
  • 株主総会の決議を経て登記をする場合:役員の選任など株主総会の決議が必要な登記では、主な株主を記載した「株主リスト」を申請書に添付します(商業登記規則61条3項)
  • 定款を変えて株式の内容などを見直す場合:登記事項に当たる内容を変えれば、その変更の登記が別に必要になります

「株式は遺言どおり名義を書き換えた」だけで安心せず、役員の登記が止まっていないかもあわせて確かめることが大切です。

遺留分と税金──遺言を書く前に押さえておきたいこと

自社株を後継者1人に集中させる遺言は、会社の経営を安定させる一方で、ほかの相続人の「遺留分」(法律で保障された最低限の取り分)に配慮が要ることがあります。自社株の割合が財産の多くを占める場合はとくに、遺言を書く段階から意識しておく必要があります。中小企業の事業承継については、経営承継円滑化法という法律に、遺留分に関する特別の制度も設けられています(ただし、この制度は生前に株式を贈与した場合を対象にしたもので、遺言で渡す場合を対象にしたものではありません)。遺留分をめぐって争いになった場合の対応は、弁護士の領域です。

また、取引相場のない自社株の評価額や相続税、事業承継に関する税制の使い方は、税理士に相談すべき分野です。遺言の内容によって税額や使える制度が変わることもあるため、遺言を書く前に確認しておくと安心です。

遺言の方式としては、自分で書く自筆証書遺言のほか、公証人が作成する公正証書遺言があります。形式の不備で遺言が使えなくなる危険を減らしたい場合は、公証役場で公正証書遺言を作成する方法もあります。

まとめ

  • 自社株は、遺言がなければ相続人全員の準共有になり、議決権を使うにも1人を決めて会社に通知する必要があります
  • 遺言では、会社名・本店・株式の種類・株数(または全部)・受け取る人をはっきり特定して書くことが出発点です
  • 相続人に渡すなら「相続させる」遺言が一般的で、譲渡制限株式でも会社の承認なしで名義書換を請求できます。相続人以外に渡すなら「遺贈」になり、株式を特定して遺贈する場合は手続きに一手間増えると考えられます
  • 遺言執行者を指定しておくと、名義書換などの手続きを進める役を担える場面があります
  • 株主名簿の名義書換は登記ではありませんが、亡くなった経営者が役員なら、役員の変更登記が2週間以内に必要です

自社株の遺言は、会社の手続きと相続の手続きがまたがるテーマです。遺言の書き方や、相続後の名義書換・役員の変更登記で迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 自社株を遺言で遺すのに、どのくらい費用がかかりますか?

自筆証書遺言なら作成自体の費用はほとんどかかりませんが、法務局の保管制度を使う場合は手数料がかかります。公正証書遺言は、財産の価額などに応じて公証人の手数料が決まります。株主名簿の名義書換は会社の中の手続きなので登録免許税はかかりませんが、役員の変更登記には登録免許税(資本金1億円以下の会社は1万円、それを超える会社は3万円)がかかります。専門家に依頼する場合の報酬は事務所ごとに異なります。

Q. 遺言を作らないまま、あるいは名義書換をしないまま放っておくとどうなりますか?

遺言がないまま亡くなると、自社株は相続人の準共有になり、遺産分割がまとまるまで議決権を使いにくい状態が続くことがあります。遺言があっても名義書換をしないままだと、会社に株主として扱ってもらいにくくなることがあります。また、亡くなった経営者が役員だった場合の変更登記は2週間以内が期限で、放置すると過料(行政上の制裁金)の対象になることがあります(会社法976条1号)。

Q. 自分で手続きできますか?どこに相談すればよいですか?

自筆証書遺言は自分で書くことができ、株主名簿の名義書換も会社に請求する手続きなので、自分で進めることは可能です。ただ、誰にどれだけ渡すかの検討は、税金(税理士)や遺留分(弁護士)とも関わります。公正証書遺言の作成は公証役場で行います。遺言の文言の整え方や、相続後の名義書換・役員の変更登記については、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】「一般承継」かどうかで分かれる自社株の承認と名義書換

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文では「相続させる」遺言と「遺贈する」遺言の違いを表で示しました。ここでは、その違いがどの条文のどの言葉から生じるのかを、会社側の手続きの順に整理します。以下で「考えられます」と書いた部分は、条文の文言から導いた整理であり、条文がそのまま定めているものではありません。

分かれ目は「相続その他の一般承継」という言葉

会社法は、譲渡制限株式の取得者による名義書換の請求について、会社の承認がなくても請求できる場合の一つとして、取得者が「相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者であること」を挙げています(会社法134条4号)。名義書換を取得者だけで請求できる場合を定めた会社法施行規則22条1項4号も、「一般承継」により株式を取得した者が、その一般承継を証する書面などを出して請求する場合としています。さらに、相続人等に対する売渡しの請求の定款規定(会社法174条)も、「相続その他の一般承継により」譲渡制限株式を取得した者を対象にしています。

つまり、承認の要否・単独での名義書換請求・売渡請求の対象という三つの場面が、いずれも同じ「一般承継」という言葉で区切られています。遺言の書き方ごとに当てはめると、次のように整理できます。

  • 特定財産承継遺言(「相続させる」遺言):民法1014条2項は、これを「遺産の分割の方法の指定として」特定の財産を共同相続人に承継させる遺言と定めています。相続による承継として、一般承継の側に入ると整理されます
  • 包括遺贈:包括受遺者は「相続人と同一の権利義務を有する」とされています(民法990条)。このことから、一般承継の側に入ると考えられます。売渡請求制度を扱った研究論文にも、包括遺贈も一般承継に含まれるとする整理があります(中村信男「譲渡制限株式の売渡請求制度と判例に見る問題点等の検討」早稲田商学438号〔2013年〕69頁注(1)・71頁注(3))
  • 特定遺贈:民法964条は、遺贈を「包括」と「特定」の名義に分けています。特定遺贈は特定の財産だけを受け取るもので、条文の文言からは「相続その他の一般承継」には当たらないと考えられます。その場合、会社法134条4号の例外には入らず、取得について会社の承認を受ける場面になると考えられます
特定財産承継遺言・包括遺贈 特定遺贈
譲渡制限株式の承認 不要(会社法134条4号) 必要と考えられる(会社法134条2号・137条1項)
名義書換の請求 一般承継を証する書面などを出して単独で請求できる(会社法施行規則22条1項4号) 株主名簿上の株主の相続人などと共同で請求する(会社法133条2項)
売渡請求の定款規定(会社法174条)の対象 対象になりうる 同じ文言の読み方からすると、対象にならないと考えられる

この表の右の列は、どちらも「一般承継に当たらない」という一つの前提から導かれるものです。その前提が個別の事情で揺らぐと、列全体の結論が変わる点に注意が必要です。

特定遺贈で譲渡制限株式を受け取ったときの流れ

特定遺贈は一般承継に当たらないという上の前提に立つと、特定遺贈で譲渡制限株式を受け取った人は、条文に沿って次の順で手続きを進めることになります。

  1. 承認の請求:会社に対し、取得したことを承認するかどうかの決定を請求します(会社法137条1項)。この請求は、株主名簿上の株主またはその相続人その他の一般承継人と共同でするのが原則です(同条2項)。共同でなくてよい場合を定めた会社法施行規則24条1項には、確定判決を得た場合や競売で取得した場合などが挙がっていますが、遺贈で取得した場合は挙がっていません
  2. 請求の内容:請求では、取得した株式の数(種類株式発行会社では種類と種類ごとの数)と取得者の氏名などを明らかにします。会社が承認しない場合に、会社または会社が指定する買取人に株式を買い取ってほしいときは、その旨もあわせて明らかにします(会社法138条2号)
  3. 会社の決定:承認するかどうかは、定款に別段の定めがなければ株主総会(取締役会を置く会社では取締役会)の決議で決め、その内容を請求者に通知します(会社法139条)
  4. 通知がない場合:請求の日から2週間(定款でこれより短い期間を定めた場合はその期間)以内に通知がなければ、承認したものとみなされます(会社法145条1号。会社と請求者の合意で別段の定めをした場合を除く)
  5. 名義書換:承認を受けたあとで、名義書換を請求します(会社法133条1項・134条2号)。ここでも株主名簿上の株主の相続人などとの共同請求が原則です(会社法133条2項)

株券発行会社では、取得者が株券を提示して請求すれば、承認の請求も名義書換の請求も単独でできます(会社法施行規則24条2項1号・22条2項1号)。ただし、提示する株券を相続人や遺言執行者から引き渡してもらう必要がある点は変わりません。

なお、亡くなった経営者が代表取締役で、かつ株式の大半を持っていた会社では、承認を決める株主総会や取締役会をどう開くか自体が課題になりえます。特定遺贈の形をとる場合は、遺言を書く段階で、亡くなったあとに会社の機関が動くかどうかもあわせて確かめておく必要があります。

遺言執行者がいるとき、誰が請求の当事者になるか

会社法133条2項・137条2項が共同請求の相手として挙げているのは、「株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人」です。遺言執行者は、この文言には出てきません。

一方、民法は、遺言執行者がある場合には「遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる」と定めています(民法1012条2項)。また、遺言執行者がその権限内で遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接に効力を生ずるとされています(民法1015条)。この二つから、特定遺贈で遺言執行者がいる場合は、相続人の側に立つ共同請求の当事者を遺言執行者が担うと考えられます。ただし、これは民法の規定から導いた整理であり、会社法が直接定めているわけではありません。実際の手続きでは、会社の株式取扱規程や、会社がどの書類で確認するかを事前に確かめておくことが大切です。

特定財産承継遺言の場合、遺言執行者は、相続人が民法899条の2第1項の対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます(民法1014条2項)。同項は対抗要件を「登記、登録その他の対抗要件」としか書いておらず、株式についてどの手続きがこれに当たるかは書いていません。会社法130条は「株式の譲渡」についての規定です。そのため、遺言執行者が名義書換を請求できるという結論は、株主名簿への記載が相続による取得の対抗要件としても働くと考える場合に成り立つ整理です。この前提そのものについても、学説では、名義書換がなくても相続による株式の移転を会社に対抗できるとする見解(不要説)と、名義書換がなければ対抗できないとする見解(必要説)が対立していると整理されています(島田志帆「相続と名義書換」立命館法学2020年1号〔389号〕323頁)。

遺言では、特定財産承継遺言についての遺言執行者の権限を、遺言者の意思で調整することができます(民法1014条4項)。遺言執行者に株主名簿の名義書換の手続きを任せる趣旨を遺言の中で書いておくと、会社側が遺言執行者の権限を確認しやすくなると考えられます。

売渡請求の定款規定(会社法174条)との関係の入口

上の整理を裏返すと、特定財産承継遺言や包括遺贈で株式を受け取った人は、会社の承認を経ずに済む代わりに、定款に会社法174条の定めがあれば売渡請求の対象になりえます。特定遺贈で受け取った人は、同じ文言の読み方からすると売渡請求の対象にはならない代わりに、会社の承認という関門を通ることになります。どちらの道でも、会社の側に何らかの判断の機会が残る点は共通です。

売渡請求の手続きや少数株主の側から見た対応は、非上場株式を相続したら──取引相場のない株の名義書換と少数株主の現実で扱っています。遺言を書く前に定款を確かめるときは、譲渡制限の定めと承認機関、174条の定めの有無を一緒に見ておくと、どちらの書き方を選んだ場合に何が起こるかを見通しやすくなります。

名義書換と登記・株主リストの関係

株式会社の登記事項を並べた会社法911条3項には、株主名簿管理人を置いた場合のその氏名などは挙がっていますが、株主の氏名は挙がっていません。株主名簿の名義書換が登記ではないのは、このためです。一方、株券発行会社である旨は登記事項です(会社法911条3項10号)。

亡くなった経営者が役員だった場合の変更の登記は、変更が生じたときから2週間以内に本店の所在地でしなければならず(会社法915条1項)、登記を怠ったときは取締役などが100万円以下の過料の対象になります(会社法976条柱書・1号)。

後任の役員を株主総会で選んで登記するときは、その決議で議決権を行使できる株主のうち、議決権の割合が高い順に、10名と、割合を足して3分の2に達するまでの人数のいずれか少ない人数について、氏名・住所・株式の数・議決権の数・割合を記載した書面(株主リスト)を添付します(商業登記規則61条3項)。株主リストは「その決議で議決権を行使できる株主」を基準にするため、名義書換が済んでいないと、誰が株主として議決権を使ったのかの整理が難しくなります。本文で、名義書換を役員選任より先に済ませておくと手続きが進めやすいと書いたのは、この順序の問題があるためです。

遺言を書く側から見た書き方の選択

以上を遺言を書く側から見ると、次のような整理になります。

  • 後継者が相続人であれば、「相続させる」と書くことで承認の手続きを経ずに済みます。相続人に対しても、株式を特定して「遺贈する」と書くと、特定遺贈として承認が必要な側に入ると考えられるため、文言の選び方には注意が要ります
  • 相続人以外に渡す場合、特定遺贈なら承認の手続きが前提になると考えられます。包括遺贈なら承認は不要と考えられますが、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持つため(民法990条)、財産だけでなく債務も割合に応じて引き継ぐことになると考えられます。また、「財産の3分の1」のように割合で定める包括遺贈では、株式を誰が取るかを相続人と包括受遺者の話し合いで決める必要が生じると考えられ、本文で見た準共有の問題が残るおそれがあります
  • どの形をとる場合も、遺言執行者を指定し、名義書換の手続きを誰が進めるかを遺言の中で明らかにしておくことが、会社側の手続きを止めないための備えになります

誰に何株を渡すかという個別の設計は、会社の状況や相続人の事情によって一件ずつ異なります。株価の評価や相続税は税理士、遺留分をめぐる争いは弁護士、公正証書遺言の作成は公証人の領域です。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、研究論文(二次資料)ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

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