「善良な管理者の注意」と「自己の財産におけるのと同一の注意」の違い──相続の条文で読む注意義務の重さ

この記事の要点 民法で、人に注意を求める基準としてよく出てくる言い回しが2つある。「善良な管理者の注意」が重い基準、「自己の財産におけるのと同一の注意」が軽い基準 相続の条文では、相続人が遺産を管理するとき(918条)や相続放棄のあとに財産を保存するとき(940条)に軽い基準が、遺言執行者(1012条3項→644条)には重い基準が使われている 軽い基準には「自己の財産に対するのと同一」「固有財産におけるのと同一」など言い回しの揺れがあるが、どれも「自分(自分の財産)と同一の注意」という同じ形の言葉になっている 民法を読んでいると、「善良な管理者の注意をもって」「自己の財産におけるのと同一の注意をもって」という決まり文句に出会います。どちらも「きちんと気をつけて扱いなさい」という意味に見えますが、法律の世界では求められる注意の重さが違う2つの基準です。結論から言うと、前者が重い基準、後者が軽い基準です。 ...

2026年10月26日 · ひぐらしさとし

自社株を誰に遺すか──経営者の遺言の書き方と「相続させる」株式の名義書換

この記事の要点 自社株を特定の後継者に渡したいなら、遺言で「どの会社の、どの種類の株式を、何株(または全部)」と特定して書くのが出発点です 後継者が相続人なら「相続させる」と書く遺言が一般的です。この場合、株式に譲渡制限(会社の承認がないと譲渡できない定め)があっても、会社の承認を受けずに株主名簿の名義書換を請求できます(会社法134条4号) 遺言執行者(遺言の内容を実現する役目の人)を遺言で決めておくと、名義の書き換えなどの手続きを進める役を担える場面があります 株主名簿の名義書換は会社の中の手続きで、登記ではありません。亡くなった経営者が取締役・代表取締役だった場合は、役員の変更登記が別に必要です(2週間以内) 株の値段の評価や相続税は税理士、遺留分(最低限の取り分)をめぐるもめごとは弁護士、公正証書遺言の作成は公証人の役割です 経営者が遺言を残さずに亡くなると、自社株は相続人全員で共有する状態(「準共有」)になり、遺産分割がまとまるまで株主としての権利を使うことにも手間がかかります。これを避けるもっとも基本的な備えが、遺言で「誰に」「どの株式を」渡すかを決めておくことです。 ...

2026年10月22日 · ひぐらしさとし

遺贈は放棄できる?──もらう側が断るときの手続きと、相続放棄との違い

この記事の要点 遺言で財産を譲られる「遺贈」は、受け取る側(受遺者)が放棄できます(民法986条1項)。ただし、遺贈の種類によって手続きがまったく違います 特定の財産を譲る「特定遺贈」は、家庭裁判所の手続きは不要で、遺贈を実行する立場の人(遺言執行者がいれば遺言執行者、いなければ相続人)に「放棄します」と伝えることで放棄できると解されています。後のトラブルを防ぐため、内容証明郵便などの書面で残しておくのが安全です 財産を割合で譲る「包括遺贈」は、相続人と同じ扱いになるため(民法990条)、相続放棄と同じく家庭裁判所への申述が必要と解されています 遺贈の放棄は、一度したら撤回できません(民法989条1項。包括遺贈も、相続放棄と同様に撤回できないと解されています)。放棄された財産は、遺言に別の定めがなければ相続人のものになります(民法995条) 迷ったら、遺言の内容が「特定遺贈」「包括遺贈」のどちらに当たるかを確かめるところから始めましょう 遺言書に「○○に土地を遺贈する」と書かれていても、受け取る側には、それを受け取らない(放棄する)自由があります。民法986条1項は、受遺者(遺贈を受ける人)は、遺言者が亡くなった後、いつでも遺贈を放棄できると定めています。 ...

2026年10月19日 · ひぐらしさとし

「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」の違い──法令の時間表現を条文例で読み分ける

この記事の要点 一般には「直ちに」がもっとも急ぎ、「速やかに」「遅滞なく」の順にゆるやかになると説明される ただしこれは一般的な用語法であり、実際の意味はその条文の解釈で決まる 「三年以内」のように数字で区切る期限の定めとは、性質の異なる書き方である 法律の条文は、いつまでにやるべきかを「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」という言葉で示すことがあります。日常では似た意味ですが、法令では書き分けられており、急ぎの度合いが異なるとされています。 ...

2026年7月26日 · ひぐらしさとし