連絡の取れない株主がいる──「所在不明株主」の株式を売却・整理する制度

この記事の要点 会社からの通知・催告が5年以上続けて届かず、かつ5年間剰余金の配当も受け取っていない株主の株式は、会社が競売するか、裁判所の許可を得て売却(会社自身による買取りを含む)することができる(会社法197条) 売却の前には、異議を述べる機会を与えるための公告と、株主への個別の催告が必要で、異議を述べる期間は3か月以上(会社法198条1項) 一定の要件を満たす非上場の中小企業は、都道府県知事の認定を受けると「5年」を「1年」に短縮できる特例がある(経営承継円滑化法15条) 制度を使うには何年分もの通知と返送されてきた郵便物が必要になるため、まずは株主名簿の確認と記録の保管から始める 「昔からの株主のひとりと、もう何年も連絡がつかない」──創業から年月を経た中小企業では、こうした悩みを抱えることがあります。株主総会の招集通知を送っても「あて所に尋ねあたりません」で戻ってくる、配当の送金通知も返ってくる。そうした株主(いわゆる所在不明株主)の株式は、放っておくと会社の意思決定や事業承継の足かせになりかねません。 ...

2026年10月26日 · ひぐらしさとし

経営者の生前対策チェックリスト──遺言・株・保証・後継者・登記、年に一度見直す項目

この記事の要点 経営者の生前対策は「一度つくって終わり」ではありません。遺言を書いた後に株を贈与した、後継者の候補が変わった、借入が増えた──こうした変化で、つくった対策の前提が崩れることがあります。年に一度、決まった項目を点検するのが基本です 点検する分野は大きく6つ:①遺言 ②自社株と株主名簿 ③経営者保証 ④後継者と判断能力への備え ⑤会社と個人の財産の線引き ⑥会社の登記 会社の登記には期限があります。登記した事項に変更が生じたら2週間以内に変更の登記が必要で(会社法915条1項)、怠ると100万円以下の過料の対象になりえます(会社法976条1号) 項目ごとに確認先が違います。遺言の手続き・株主名簿の点検・登記は司法書士、株の評価や税金は税理士、保証は取引金融機関(必要に応じて弁護士)、労務・社会保険は社会保険労務士、もめごとは弁護士です 次の一歩は、登記事項証明書・定款・株主名簿・遺言の控え・借入と保証の一覧を、1か所にそろえることです 経営者の方に知っておいてほしいのは、生前対策で本当に怖いのは「何もしていないこと」だけではなく、「一度やったきり、見直していないこと」でもある、という点です。結論から言うと、毎年の決算や定時株主総会の時期に合わせて、この記事のチェックリストを1回通して見る習慣をつけるのがおすすめです。 ...

2026年10月25日 · ひぐらしさとし

後継者に株を生前贈与する──贈与契約・株主名簿の書換え・事業承継税制の入口(税理士へ)

この記事の要点 自社株の生前贈与は、①贈与契約(書面で残すのが基本)→②譲渡制限株式なら会社の譲渡承認→③株主名簿の名義書換、の順で進みます。株券発行会社では、株券が発行済みなら、それを渡さなければ株式を移す効力が生じません(会社法128条1項) 譲渡制限株式は、相続で取得した場合と違い、贈与で取得した場合は会社の承認がないと原則として名義書換を請求できません(会社法134条) 株主が誰かは登記簿に載りません。株式を贈与しても登記は不要ですが、名義書換をしないと、後継者は会社に「自分が株主だ」と主張できません(会社法130条) 名義書換は、原則として贈与した経営者と後継者が共同で請求します。経営者が元気なうちに、贈与とセットで済ませておくのが基本です 贈与税・株式の評価・事業承継税制は税理士、遺留分(法律で保障された最低限の取り分)をめぐるもめごとは弁護士の領域です。贈与を実行する前に確認しておきましょう 経営者の方に知っておいてほしいのは、自社株の生前贈与は「贈与契約を結んで終わり」ではない、ということです。株式に譲渡制限(会社の承認がないと譲渡できない定め)がある会社では会社の承認を受け、最後に会社の株主名簿を書き換えて、はじめて後継者が会社に対して株主として扱われます。そして、この一連の動きは法務局の登記簿には現れません。 ...

2026年10月24日 · ひぐらしさとし

遺留分と事業承継の特例とは──自社株を後継者に集める「除外合意・固定合意」の入口

この記事の要点 自社株を生前贈与で後継者に集めると、相続のときにほかの相続人から遺留分(法律で保障された最低限の取り分)を金銭で請求されるおそれがあります 中小企業の事業承継には、経営承継円滑化法の「遺留分に関する民法の特例」があり、推定相続人全員と後継者の書面の合意で、贈与した自社株を遺留分の計算から外す(除外合意)か、その価額を合意の時点で固定する(固定合意)ことができます 合意の効力が生じるには、合意から1か月以内に後継者が経済産業大臣の確認を申請し、確認から1か月以内に家庭裁判所へ許可を申し立て、許可を受けることが必要です 対象は「生前贈与」で渡した株式等です。遺言で渡す株式は、この特例の対象ではありません 合意の内容づくりと家族間の調整は弁護士、税金は税理士、株主名簿・定款・登記は司法書士と、役割を分けて進めます 自社株を後継者1人に集中させたい経営者にとって、遺留分は「後から効いてくる」問題です。生前に株式を後継者へ贈与しておいても、経営者が亡くなったとき、ほかの相続人が遺留分を主張すれば、後継者はまとまったお金の支払いを求められることがあります。これに備える制度として、経営承継円滑化法(正式名称「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」)には「遺留分に関する民法の特例」が設けられています。 ...

2026年10月23日 · ひぐらしさとし

自社株を誰に遺すか──経営者の遺言の書き方と「相続させる」株式の名義書換

この記事の要点 自社株を特定の後継者に渡したいなら、遺言で「どの会社の、どの種類の株式を、何株(または全部)」と特定して書くのが出発点です 後継者が相続人なら「相続させる」と書く遺言が一般的です。この場合、株式に譲渡制限(会社の承認がないと譲渡できない定め)があっても、会社の承認を受けずに株主名簿の名義書換を請求できます(会社法134条4号) 遺言執行者(遺言の内容を実現する役目の人)を遺言で決めておくと、名義の書き換えなどの手続きを進める役を担える場面があります 株主名簿の名義書換は会社の中の手続きで、登記ではありません。亡くなった経営者が取締役・代表取締役だった場合は、役員の変更登記が別に必要です(2週間以内) 株の値段の評価や相続税は税理士、遺留分(最低限の取り分)をめぐるもめごとは弁護士、公正証書遺言の作成は公証人の役割です 経営者が遺言を残さずに亡くなると、自社株は相続人全員で共有する状態(「準共有」)になり、遺産分割がまとまるまで株主としての権利を使うことにも手間がかかります。これを避けるもっとも基本的な備えが、遺言で「誰に」「どの株式を」渡すかを決めておくことです。 ...

2026年10月22日 · ひぐらしさとし

後継者を決めないまま亡くなると何が起きるか──株式分散の実例と生前にできること

この記事の要点 会社に後継者がいないまま経営者が死亡すると、株式が複数の相続人に分散し、取締役の選任すら決議できなくなることがある 一人会社では取締役がゼロになり、経営者保証・役員貸付金・死亡退職金といった「お金」の整理も同時に降りかかる 生前にできる備えとして、遺言での株式承継先の指定・計画的な生前贈与・種類株式の活用があり、事業承継税制という税の優遇制度も存在する(適用可否は税理士へ) 株式分散の実例は一般化した典型パターンの紹介にとどめる。個別の紛争解決は専門家への相談が必要 「後継者を決めないまま社長に万一のことがあったら、会社はどうなるのか」──多くの中小企業経営者が漠然と抱えながら、後回しにしがちな問いです。 ...

2026年8月30日 · ひぐらしさとし

自社株の相続と議決権──株式が分散すると会社が動かなくなる理由

この記事の要点 経営者が亡くなって自社株が複数の相続人に分散すると、普通決議(過半数)・特別決議(3分の2以上)の数字が揃わず、役員選任や定款変更が進められなくなることがある 遺産分割がまとまるまでの株式は相続人全員の準共有(共同で持ち合う状態)となり、権利行使者を1人定めて会社に通知しなければ、原則として議決権を行使できない(会社法106条) 会社側の対応策として「相続人等に対する売渡請求」(会社法174条)があるが、定款の定め・特別決議・1年の期限・価格の協議という条件と限界がある 最も確実なのは、経営者が元気なうちに株式を後継者へ集約しておくこと 中小企業の経営者が亡くなったとき、会社にとって最も深刻な影響のひとつが、自社株(経営者が持っていた自社の株式)の分散です。株式が複数の相続人に分かれて承継されると、株主総会で必要な賛成の数が揃わなくなり、役員の選任すら決められない──つまり「会社が動かなくなる」事態が現実に起こりえます。 ...

2026年8月25日 · ひぐらしさとし