この記事の要点

  • 自社株の生前贈与は、①贈与契約(書面で残すのが基本)→②譲渡制限株式なら会社の譲渡承認→③株主名簿の名義書換、の順で進みます。株券発行会社では、株券が発行済みなら、それを渡さなければ株式を移す効力が生じません(会社法128条1項)
  • 譲渡制限株式は、相続で取得した場合と違い、贈与で取得した場合は会社の承認がないと原則として名義書換を請求できません(会社法134条)
  • 株主が誰かは登記簿に載りません。株式を贈与しても登記は不要ですが、名義書換をしないと、後継者は会社に「自分が株主だ」と主張できません(会社法130条)
  • 名義書換は、原則として贈与した経営者と後継者が共同で請求します。経営者が元気なうちに、贈与とセットで済ませておくのが基本です
  • 贈与税・株式の評価・事業承継税制は税理士、遺留分(法律で保障された最低限の取り分)をめぐるもめごとは弁護士の領域です。贈与を実行する前に確認しておきましょう

経営者の方に知っておいてほしいのは、自社株の生前贈与は「贈与契約を結んで終わり」ではない、ということです。株式に譲渡制限(会社の承認がないと譲渡できない定め)がある会社では会社の承認を受け、最後に会社の株主名簿を書き換えて、はじめて後継者が会社に対して株主として扱われます。そして、この一連の動きは法務局の登記簿には現れません。

遺言・種類株式・生前贈与などを含めた生前対策の全体像は、後継者を決めないまま亡くなると何が起きるか──株式分散の実例と生前にできることで整理しました。この記事は、その中から「生前贈与」を選んだ場合の会社法上の手続きに絞って、順番に見ていきます。

なお、本記事は執筆時点(2026年10月)の法令に基づく一般的な解説です。個別の事情によって結論が変わることがあります。

まず確かめる3つのこと──登記事項証明書・定款・株主名簿

手続きの道筋は会社ごとに違うため、最初に次の3点を確認します。

  • 株式に譲渡制限があるか:譲渡によって株式を取得することに会社の承認が要る、という定めがある株式を「譲渡制限株式」といいます(会社法2条17号)。この定めは「発行する株式の内容」として登記事項になっているので(会社法911条3項7号)、登記事項証明書で確かめられます。定款にも書かれています
  • 株券発行会社か:定款で株券を発行すると定めた会社(会社法214条・117条7項)を「株券発行会社」といい、その旨も登記事項です(会社法911条3項10号)。これも登記事項証明書で確かめられます
  • 株主名簿の記載:贈与する株式が、いま経営者本人の名義で株主名簿に載っているか、株式の数(種類株式を発行している会社なら、種類と種類ごとの数)はいくつかを確認します。株主名簿には、株主の氏名・住所、株式の数、株式を取得した日などが記載されます(会社法121条)

このうち「譲渡制限があるか」と「株券発行会社か」によって、次のステップ2・ステップ3が必要かどうかが決まります。

ステップ1 贈与契約──書面で残すのが基本

贈与は、あげる側が財産を無償で与える意思を示し、もらう側がそれを受け入れることで効力を生じます(民法549条)。口約束でも成立しますが、書面によらない贈与は、まだ実行していない部分について、各当事者が解除できます(民法550条)。自社株のように、後から家族の間で問題になりやすい財産は、書面に残しておくのが基本です。

贈与契約書に一般的に記載される事項は、次のようなものです。

  • 贈与する人(経営者)と、もらう人(後継者)
  • 贈与する株式の特定(会社の商号と本店、株式の種類、株数)
  • 贈与する日(株式を移す時期)
  • 契約を結んだ日付と、双方の署名・押印

株主名簿には株式を取得した日も記載されるため(会社法121条3号)、いつ贈与したのかをはっきりさせておくことには意味があります。贈与契約書の一般的な考え方は贈与契約書の作り方──口約束の贈与が後で揉める理由で整理しています。実際にどのような条件を付けるか、何年に分けて贈与するかといった中身は、税金や家族の事情によって変わるため、税理士などの専門家と相談しながら決めることになります。

ステップ2 譲渡制限株式なら「譲渡承認」を受ける

贈与は株式を他人に譲り渡すことにあたるため、譲渡制限株式を贈与するときは、会社の承認が必要になります。承認を求める方法は2つあります。

  • 贈与する前に、経営者(株主)の側から請求する:譲渡制限株式の株主は、株式を他人に譲り渡そうとするとき、その人が株式を取得することを承認するかどうかの決定を、会社に請求できます(会社法136条)
  • 贈与を受けた後に、後継者の側から請求する:譲渡制限株式を取得した人は、取得したことを承認するかどうかの決定を、会社に請求できます(会社法137条1項)。この場合は原則として、株主名簿上の株主(贈与した経営者)またはその相続人と共同で請求しなければなりません(同条2項)

請求するときは、譲渡する(または取得した)株式の数(種類株式を発行している会社なら、種類と種類ごとの数)と、株式を受け取る人の氏名などを明らかにします(会社法138条)。

承認するかどうかは、定款に別の定めがなければ、株主総会(取締役会を置く会社では取締役会)の決議で決めます(会社法139条1項)。定款で承認する機関を別に定めている会社もあるため、ここでも定款の確認が欠かせません。会社は、決定の内容を請求した人に通知します(同条2項)。

家族経営の会社では、贈与する経営者自身が株主総会や取締役会の一員であることが多く、承認の手続きは形だけのものに見えるかもしれません。しかし、承認を受けていない限り、贈与で取得した後継者は原則として株主名簿の名義書換を請求できません(会社法134条1号・2号)。承認の決議と通知の記録をきちんと残しておくことが、後の食い違いを防ぎます。

ここは、遺言で株式を渡す場合との大きな違いです。相続などの「一般承継」(亡くなった人の権利義務をまとめて引き継ぐこと)で譲渡制限株式を取得した人は、会社の承認がなくても名義書換を請求できます(会社法134条4号)。生前贈与は特定の財産を契約で移すもので、一般承継には当たらないため、この例外は使えません。

ステップ3 株券発行会社なら株券を渡す

株券がすでに発行されている株券発行会社では、株式の譲渡は、その株券を交付しなければ効力を生じません(会社法128条1項)。贈与契約を結んでも、株券を後継者に渡すまでは、株式は移りません。

注意したいのは、株券発行会社でも、実際には株券が発行されていないことがある点です。公開会社でない株券発行会社(全部の株式に譲渡制限がある会社。会社法2条5号)は、株主から請求があるまで株券を発行しないことができます(会社法215条4項)。そして、株券の発行前にした譲渡は、会社に対して効力を生じません(会社法128条2項)。なお、最高裁は、会社法128条1項は株券の発行後にした譲渡に適用される規定であり、株券の発行前にした譲渡は、株券の交付がないことを理由に、譲り渡した人と譲り受けた人の間での効力が否定されることはない、と判断しています(最高裁判所令和6年4月19日第二小法廷判決)。それでも、株券の交付を受けない限り、後継者は会社に対して株主として権利を使うことができません(同判決。会社法128条2項)。手元に株券がない場合は、まず会社に株券を発行してもらい、それを後継者に交付するという順番になります。

逆に、株券発行会社でない会社(登記事項証明書に株券発行会社である旨の記載がない会社)では、株券の交付は必要ありません。

ステップ4 株主名簿の名義書換を請求する

贈与で株式を取得した後継者は、会社に対し、自分を株主として株主名簿に記載するよう請求できます(会社法133条1項)。請求のしかたは、株券発行会社かどうかで変わります。

  • 株券発行会社でない会社:原則として、株主名簿上の株主(贈与した経営者)またはその相続人と共同で請求します(会社法133条2項)。相続による取得など、単独で請求できる例外は法務省令で定められていますが(会社法施行規則22条1項)、生前贈与はその例外に当たりません
  • 株券発行会社:株券を会社に示して請求すれば、後継者が単独で請求できます(会社法施行規則22条2項1号)

譲渡制限株式の場合は、ステップ2の承認を受けていることが前提です(会社法134条)。請求を受けた会社は、後継者の氏名・住所、株式の数、取得した日などを株主名簿に記載します(会社法121条)。

名義書換が大切なのは、株主名簿に記載されなければ、株式を取得したことを会社その他の第三者に対抗できない(主張できない)からです(会社法130条1項。株券発行会社では、対抗できない相手は会社とされています。同条2項)。名義書換をしないままだと、後継者が株主総会で議決権を使う場面などで支障が出ることが考えられます。

また、株券発行会社でない会社では、名義書換をしないうちに経営者が亡くなると、経営者の相続人と共同で請求することになります(会社法133条2項)。贈与と名義書換は、経営者が元気なうちにセットで済ませておくのが基本です。

株主が変わっても登記に出ない理由

株式を贈与したのに、法務局で何も手続きをしなくてよいのか──ここは疑問に思われやすい点です。

株式会社の登記事項は、会社法911条3項に並んでいます。資本金の額、発行可能株式総数、発行する株式の内容、発行済株式の総数、株券発行会社であること、取締役の氏名、代表取締役の氏名・住所などです。ここに「株主の氏名」は含まれていません。株主が誰かは、登記ではなく、会社が作成する株主名簿(会社法121条)で管理するしくみになっているためです。

このことから、次のように整理できます。

  • 贈与で株主が変わっても、それだけでは変更の登記は生じません。贈与しても発行済株式の総数などは変わらないためです。名義書換は会社の中の帳簿の書き換えなので、登録免許税もかかりません
  • 登記事項証明書を見ても、株式が後継者に移ったことは分かりません。株主構成は、株主名簿など会社の内部の記録で確かめることになります

一方で、承継にあわせて次のようなことをすれば、名義書換とは別に登記が必要になります。

  • 後継者が取締役・代表取締役に就く、経営者が退任する:取締役の氏名や代表取締役の氏名・住所は登記事項なので、変更が生じたときから2週間以内に、本店の所在地で変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)
  • 定款を変えて登記事項にあたる内容を見直す:たとえば株券を発行する旨の定めを廃止すれば、「株券発行会社である旨」(会社法911条3項10号)が変わるため、変更の登記が必要になります

役員変更などで株主総会の決議を経て登記をするときは、「株主リスト」の添付が求められます。そのとき、贈与後の株主構成が株主名簿に反映されているかどうかが問題になるので、名義書換を先に済ませておくと手続きが進めやすくなります。

税金と遺留分は「贈与の前」に専門家へ

自社株の生前贈与では、会社法の手続きとは別に、次の2つを必ず検討しておく必要があります。

贈与税・株式の評価・事業承継税制は税理士へ

自社株を贈与すれば、贈与税の問題が生じます。取引相場のない株式の評価額がいくらになるか、贈与税がいくらかかるかは、税理士の専門領域です。また、非上場株式の贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制」という制度もありますが、自社が使えるかどうか、どのように進めるかは、贈与を実行する前に税理士にご相談ください。

遺留分の計算に入り得る──もめごとは弁護士へ

生前に贈与した自社株も、一定の範囲で、遺留分を算定するための財産に加えられることがあります(民法1044条)。後継者に株式を集中させると、経営者が亡くなったときに、ほかの相続人から遺留分を主張される可能性があります。中小企業の事業承継には、贈与した自社株を遺留分の計算から外したり、価額を固定したりする特例もあります。しくみは遺留分と事業承継の特例とは──自社株を後継者に集める「除外合意・固定合意」の入口で整理しています。遺留分をめぐる争いになった場合の対応は、弁護士の領域です。

まとめ

  • 自社株の生前贈与は、贈与契約→(譲渡制限株式なら)譲渡承認→(株券発行会社なら)株券の交付→株主名簿の名義書換、の順で進みます
  • 譲渡制限株式は、相続と違い、贈与で取得した場合は会社の承認がないと原則として名義書換を請求できません
  • 株券発行会社では、発行済みの株券を渡さなければ株式を移す効力が生じません。株券がまだ発行されていない場合も、後継者が会社に株主として扱われるには、先に発行してもらい、交付を受ける必要があります
  • 株主の氏名は登記事項ではないため、株式を贈与しただけでは登記は不要です。ただし、名義書換をしないと後継者は会社に株主だと主張できず、役員を交代すれば2週間以内に変更登記が必要です
  • 贈与税・株式の評価・事業承継税制は税理士へ、遺留分をめぐる争いは弁護士へ

自社株の生前贈与は、会社の中の手続きと、税金・相続の問題がまたがるテーマです。承認や名義書換の進め方、役員の変更登記で迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。税金のことは税理士にご相談ください。

よくある質問

Q. 自社株を生前贈与する手続きに、どのくらい費用がかかりますか?

譲渡承認や株主名簿の名義書換は会社の中の手続きで、法務局への登記ではないため、登録免許税はかかりません。後継者の役員就任などで変更登記をする場合は、その登記の登録免許税がかかります。贈与税がいくらになるかは税理士に、専門家に依頼する場合の報酬は依頼先に確認してください。

Q. 名義書換をしないまま放っておくと、どうなりますか?

株主名簿に記載されていないと、後継者は株式を取得したことを会社に対抗できません(会社法130条)。また、株券発行会社でない会社では、名義書換の前に経営者が亡くなると、経営者の相続人と共同で請求することになり、手続きの負担が増えます。役員の変更登記は変更から2週間以内が期限なので(会社法915条1項)、あわせて確認しておきましょう。

Q. 自分で手続きできますか?どこに相談すればよいですか?

譲渡承認も名義書換も、会社と当事者で進める手続きなので、自分たちで進めることは可能です。ただ、定款の定めによって承認する機関が違ったり、株券発行会社かどうかで手順が変わったりします。会社法上の手続きや役員の変更登記はお近くの司法書士に、贈与税・事業承継税制は税理士に、遺留分をめぐる争いは弁護士にご相談ください。


【さらに深掘り】自社株贈与での譲渡承認の決議・名義書換と株主名簿の整え方

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文では、生前贈与の手続きを順番に見てきました。ここでは、会社の側で実際に手続きを進めるときに確かめる点を、条文に沿って整理します。以下で「考えられます」と書いた部分は、条文の文言から導いた整理であり、条文がそのまま定めているものではありません。

承認する機関と決議の要件──取締役会の有無と定款の定め

承認するかどうかを決める機関は、定款に別段の定めがなければ、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会です(会社法139条1項)。取締役会設置会社であるかどうかは登記事項なので(会社法911条3項15号)、登記事項証明書で確かめられます。ただし、同項ただし書により定款で別の定めを置くことができるため、最終的には定款の譲渡制限の条項を読み、承認する機関がどう定められているかを確認します。

決議の要件は、承認する機関によって次のように分かれます。

  • 株主総会で決める場合:特別決議を要する株主総会を列挙した会社法309条2項に挙がっているのは、承認しない場合に会社が株式を買い取る決定や、買い取る人(指定買取人)の指定(同項1号。会社法140条2項・5項)で、139条1項の承認の決定そのものは挙がっていません。そのため、定款に別段の定めがなければ、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で決める決議(会社法309条1項)によると考えられます
  • 取締役会で決める場合:議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数で決めます(会社法369条1項。定款でこれを上回る割合を定めることもできます)

あわせて確かめたいのが、定款の「承認したものとみなす」定めです。会社法は、譲渡制限の定めとあわせて、「一定の場合」には会社が承認をしたものとみなす旨とその場合を定款で定めることができるとしています(会社法107条2項1号ロ)。たとえば、株主どうしの譲渡は承認したものとみなす、という形の定めを置いている会社もあります。後継者がすでに株主で、贈与がその定めに当てはまる場合は、承認の決議を経ずに進むことになると考えられます。当てはまるかどうかは定めの文言によって変わるため、ここでも定款の文言が出発点です。

なお、会社が承認の請求の日から2週間(定款でこれより短い期間を定めた場合はその期間)以内に決定の内容を通知しなかったときも、承認をしたものとみなされます(会社法145条1号。会社と請求者の合意で別段の定めをした場合を除きます)。ただ、このみなし承認は、決議によってではなく、通知がないまま期間が過ぎたことによって生じるものなので、承認があったことを議事録で示すことはできません。家族間の贈与でも、決議をして議事録を作り、請求者への通知(会社法139条2項)の控えを残しておくのが基本です。

承認の議事録に一般的に記載される事項

株主総会で承認する場合は、法務省令に従って議事録を作成します(会社法318条1項)。株主総会の議事録には、主に次の事項を記載します(会社法施行規則72条3項)。

  • 株主総会が開催された日時と場所
  • 議事の経過の要領とその結果
  • 株主総会に出席した取締役・監査役などの氏名
  • 議長がいるときは、議長の氏名
  • 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

「議事の経過の要領とその結果」の部分では、承認の請求で明らかにされた事項(株式の数〔種類株式発行会社では種類と種類ごとの数〕と、株式を受け取る人の氏名。経営者の側からの請求では会社法138条1号イ・ロ、後継者の側からの請求では同条2号イ・ロ)と対応させて、誰から誰への何株の取得を承認したのかが読み取れるように書いておくと、後で名義書換を請求するときに、承認を受けていること(会社法134条1号・2号)を示しやすくなると考えられます。株主総会の議事録は、株主総会の日から10年間、本店に備え置かなければなりません(会社法318条2項)。

株主が家族だけの会社では、株主総会を開かずに書面で決議する方法もあります。議決権を行使できる株主の全員が、提案に書面または電磁的記録で同意したときは、その提案を可決する決議があったものとみなされます(会社法319条1項)。この場合の議事録には、決議があったものとみなされた事項の内容、提案をした人の氏名、みなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を記載します(会社法施行規則72条4項1号)。同意の書面は、みなされた日から10年間、本店に備え置きます(会社法319条2項)。

取締役会で承認する場合は、開催の日時・場所、議事の経過の要領とその結果、議長がいるときは議長の氏名などを議事録に記載し(会社法施行規則101条3項)、書面で作るときは出席した取締役と監査役が署名または記名押印します(会社法369条3項)。取締役会を開かずに書面で決議する方法は、定款にその旨の定めがある場合に限って使えます(会社法370条)。

なお、株主の氏名や譲渡の承認は株式会社の登記事項(会社法911条3項)に挙がっていないため、この承認の議事録は登記の申請に添付する書類ではなく、会社が保管する記録になると考えられます。

承認と名義書換の請求──共同請求の相手と、協力が得られないとき

本文のステップ2・ステップ4で見たとおり、後継者の側からする承認の請求(会社法137条2項)と名義書換の請求(会社法133条2項)は、どちらも原則として、株主名簿上の株主(贈与した経営者)またはその相続人その他の一般承継人と共同でしなければなりません。共同でなくてよい場合は法務省令に並んでいますが(会社法施行規則24条1項・22条1項)、挙がっているのは確定判決を得た場合や競売で取得した場合などで、贈与で取得した場合は挙がっていません。

これらの条文では、承認が要らない場合(会社法134条4号)や、単独で名義書換を請求できる場合(会社法施行規則22条1項4号)が、「一般承継」という言葉で区切られています。贈与は、特定の財産を契約によって移すもので、相続や合併のように権利義務をまとめて引き継ぐものではないため、条文の文言からは一般承継には当たらないと考えられます。同じ言葉は、相続人等に対する売渡しの請求の定款の定め(会社法174条)にも使われており、その対象は「相続その他の一般承継により」譲渡制限株式を取得した人に限られています。この「一般承継」という言葉による区切りは、自社株を誰に遺すか──経営者の遺言の書き方と「相続させる」株式の名義書換の深掘りで、遺言の書き方ごとに整理しています。

株券発行会社でない会社で、名義書換の前に経営者が亡くなり、相続人の協力が得られない場合は、共同で請求すべきことを相続人などに命ずる確定判決を得て、その内容を証する書面を出して請求する道が残っています(会社法施行規則22条1項1号・24条1項1号)。ただ、これは裁判の手続きになり、弁護士の領域です。株券発行会社では、後継者が株券を提示すれば、承認の請求も名義書換の請求も単独でできます(会社法施行規則24条2項1号・22条2項1号)。

名義書換が済んだあと、株券発行会社でない会社の株主は、自分についての株主名簿記載事項を記載した書面の交付を会社に請求できます(会社法122条1項)。この書面には代表取締役が署名または記名押印します(同条2項)。株券発行会社には、この規定は適用されません(同条4項)。後継者が、名義書換が済んだことを手元の書面で確かめておく方法の一つです。

議決権の行使と基準日──名義書換の「時期」の問題

本文で、名義書換をしないままだと議決権を使う場面などで支障が出ることが考えられる、と書いたのは、次の二つの規定があるためです。

  • 株式の譲渡は、取得した人の氏名・住所を株主名簿に記載しなければ、会社に対抗できません(会社法130条1項・2項)
  • 会社は、一定の日(基準日)を定めて、その日に株主名簿に記載されている株主を、権利を行使できる人と定めることができます(会社法124条1項)。基準日は、その日から3か月以内に行使する権利についてのものに限られます(同条2項)

定款で定時株主総会の議決権についての基準日を定めている会社では、名義書換が基準日より後になると、その株主総会で議決権を行使できるのは、原則として基準日の時点で株主名簿に載っていた経営者になると考えられます。会社法は、議決権について、基準日の後に株式を取得した人の全部または一部を、議決権を行使できる人と定めることを会社に認めていますが、基準日株主の権利を害することはできないとされています(会社法124条4項)。

後継者が次の定時株主総会から株主として議決権を使う前提で承継を組み立てるなら、定款で基準日を確かめ、贈与・承認・名義書換をその日より前に済ませておくことが考えられます。

株主リストとの関係──承認の決議と、役員選任の決議を分けて考える

商業登記規則は、登記すべき事項について株主総会の決議を要する場合に、議決権の割合が高い順に、10名と、割合を足して3分の2に達するまでの人数のいずれか少ない人数の株主について、氏名・住所、株式の数、議決権の数と割合を証する書面(株主リスト)を添付するよう求めています(商業登記規則61条3項)。ここでいう議決権は、その決議(書面決議によって決議があったものとみなされる場合を含みます)で行使できるものに限られます(同項)。また、登記すべき事項について株主全員の同意を要する場合は、株主全員の氏名・住所、株式の数、議決権の数を証する書面を添付します(同条2項)。

譲渡承認の決議そのものは、登記すべき事項に関する決議ではないため、株主リストが問題になる場面ではないと考えられます。問題になるのは、承継にあわせて後継者を取締役に選任するなど、登記を伴う株主総会の決議をするときです。その決議で議決権を行使できる株主が誰かは、名義書換や基準日によって決まるため、贈与・承認・名義書換を済ませてから役員選任の決議をする順にしておくと、株主名簿・議事録・株主リストの記載をそろえやすくなります。株主リストのしくみは、「株主リスト」とは──登記のたびに求められる書類と株主名簿との違いで整理しています。

贈与の前に株主名簿を整えておきたい場面

名義書換の共同請求は、贈与した経営者が株主名簿上の株主であることを前提にしています(会社法133条2項)。そのため、次のような会社では、贈与の手続きに入る前に、株主名簿そのものを整えておく必要があります。

  • 株主名簿がない、または記載が古いままの会社:会社は株主名簿を作成し、株主の氏名・住所、株式の数、取得した日などを記載しなければならず(会社法121条)、本店に備え置かなければなりません(会社法125条1項)。まず現在の株主構成を名簿に反映させることが、承認や名義書換の出発点になります
  • 名義株がある会社:株主名簿上の名義人と、実際に株式の払込みをした人が違うとされる株式がある場合、贈与しようとする株式が本当に経営者のものかどうかという前提が揺らぎます。家族や元役員との間で認識が食い違い、誰が株主かが争いになった場合は、弁護士の領域です
  • 株券発行会社なのに株券を発行していない会社:本文のとおり、先に株券を発行してもらう方法のほか、株券を発行する旨の定款の定めを廃止する方法もあります。廃止には、株主総会の特別決議による定款の変更が必要です(会社法466条・309条2項11号)。そのうえで、全部の株式について株券を発行していない会社では、定款変更の効力が生ずる日の2週間前までに、株主と登録株式質権者に、廃止する旨と効力が生ずる日を通知すれば足り、この通知は公告に代えることもできます(会社法218条3項・4項)。廃止すれば株券の交付は要らなくなりますが、株券発行会社である旨の変更の登記が必要になり(会社法911条3項10号・915条1項)、株券を提示して単独で名義書換を請求する方法(会社法施行規則22条2項1号)も使えなくなります。どちらを選ぶかは、会社の状況によって変わります

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、判例解説(二次資料)ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

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