この記事の要点
- 経営者の生前対策は「一度つくって終わり」ではありません。遺言を書いた後に株を贈与した、後継者の候補が変わった、借入が増えた──こうした変化で、つくった対策の前提が崩れることがあります。年に一度、決まった項目を点検するのが基本です
- 点検する分野は大きく6つ:①遺言 ②自社株と株主名簿 ③経営者保証 ④後継者と判断能力への備え ⑤会社と個人の財産の線引き ⑥会社の登記
- 会社の登記には期限があります。登記した事項に変更が生じたら2週間以内に変更の登記が必要で(会社法915条1項)、怠ると100万円以下の過料の対象になりえます(会社法976条1号)
- 項目ごとに確認先が違います。遺言の手続き・株主名簿の点検・登記は司法書士、株の評価や税金は税理士、保証は取引金融機関(必要に応じて弁護士)、労務・社会保険は社会保険労務士、もめごとは弁護士です
- 次の一歩は、登記事項証明書・定款・株主名簿・遺言の控え・借入と保証の一覧を、1か所にそろえることです
経営者の方に知っておいてほしいのは、生前対策で本当に怖いのは「何もしていないこと」だけではなく、「一度やったきり、見直していないこと」でもある、という点です。結論から言うと、毎年の決算や定時株主総会の時期に合わせて、この記事のチェックリストを1回通して見る習慣をつけるのがおすすめです。
この記事は、経営者ご本人が年に一度見直す項目を一覧にしたものです。会社の一生の節目ごとに必要な登記を時間の流れで並べた経営者の登記カレンダーや、個人の生前対策を目的別に整理した生前対策は何から始める?──遺言・贈与・家族信託・後見の全体マップとは役割が異なります。各項目の中身は、リンク先の個別記事でご確認ください。
なお、本記事は執筆時点(2026年10月)の法令に基づく一般的な解説です。個別の事情によって、見直すべき点や対応は変わります。
なぜ「年に一度」の見直しが必要なのか
生前対策は、つくった時点の会社と家族の状況を前提にしています。その前提は、時間とともに変わります。
- 遺言を書いた後に、株を後継者以外の人に贈与した:遺言の内容と、遺言の後にした生前の処分(贈与など)が食い違うときは、食い違う部分について遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条2項・1項)。遺言を書き直したつもりがなくても、遺言どおりにならない部分が出てきます
- 後継者の候補が変わった・家族に変化があった:結婚・離婚・死亡・孫の誕生などで、遺言や株の渡し方の前提が変わることがあります。遺言は、いつでも遺言の方式に従って全部または一部を撤回できます(民法1022条)
- 会社の状況が変わった:業績によって自社株の評価額は変わり、借入が増えれば経営者保証の重みも変わります
- 役員の任期が来た:役員の任期は「定時株主総会の終結の時まで」と数えるため、毎年の定時株主総会が任期の切れ目になりえます(会社法332条1項)
どれも、年に一度でも確認していれば気づける変化です。見直しの時期は、役員の任期とも重なる定時株主総会の前後に決めておくと、忘れにくくなります。
年に一度のチェックリスト(一覧)
まず全体を一覧にします。点検する内容と、主に誰に確認するかをまとめました。
| 分野 | 毎年点検すること | 主な確認先 |
|---|---|---|
| ① 遺言 | 遺言があるか・どこにあるか・書いた後に前提が変わっていないか | 遺言の作成手続き=司法書士・公証人/内容をめぐる争い・遺留分の調整=弁護士 |
| ② 自社株と株主名簿 | 誰が何株持っているか・株主名簿が実態と合っているか・株の評価額 | 株主名簿・定款の点検=司法書士/株の評価・贈与税・相続税=税理士/名義株など株主をめぐる争い=弁護士 |
| ③ 経営者保証 | どの借入に誰が保証しているか・保証の見直しを相談したか | 取引金融機関(交渉や保証債務の整理は弁護士) |
| ④ 後継者と判断能力への備え | 後継者は決まっているか・社長1人に権限が集中していないか | 登記・定款=司法書士/任意後見・家族信託=司法書士・弁護士など |
| ⑤ 会社と個人の財産の線引き | 社長個人の土地を会社が使っていないか・会社とのお金の貸し借り | 登記=司法書士/税金=税理士/争いの見通し=弁護士 |
| ⑥ 会社の登記 | 役員の任期・本店・目的・代表者の住所が実態と合っているか | 司法書士 |
このほか、従業員や役員の社会保険・労務の手続きは社会保険労務士、建設業などの許認可の変更届は行政書士の領域です。
以下、分野ごとにチェック項目を見ていきます。
① 遺言──「書いたまま」になっていないか
- 遺言を書いているか。書いているなら、どこに保管しているか(公正証書・法務局での保管・自宅など)を家族や後継者が分かるようにしているか
- 遺言を書いた後に、株の贈与・不動産の売却・後継者の変更・家族の変化がなかったか
- 自社株について書く場合、どの会社の、どの種類の株式を、何株(または全部)渡すのかが特定できる書き方になっているか
- 遺言の内容を実現する役目の人(遺言執行者)を決めているか
- 遺留分(法律で保障された最低限の取り分)について、専門家に確認したことがあるか
誰に何を遺すかという遺言の中身は、ご本人とご家族の事情で決まるものです。この記事では中身には立ち入らず、「前提が変わっていないか」を点検の対象にしています。
- 自社株を遺す遺言の書き方 → 自社株を誰に遺すか──経営者の遺言の書き方と「相続させる」株式の名義書換
- 遺留分と事業承継の特例 → 遺留分と事業承継の特例とは──自社株を後継者に集める「除外合意・固定合意」の入口
② 自社株と株主名簿──名簿は実態と合っているか
- 株主名簿があり、誰が何株持っているかを書面で確認できるか
- 生前贈与や売買で株を移した場合、株主名簿の名義書換まで済んでいるか
- 設立のときに名前だけ借りた株主(いわゆる名義株)や、連絡のとれない少数株主が残っていないか
- 定款で、株式の譲渡に会社の承認が必要か(譲渡制限)、相続人に株を売り渡すよう請求できる定めがあるかを確認したか
- 今年の決算を踏まえて、自社株の評価額を税理士に確認したか
株主が誰かは、法務局の登記簿には載りません。株を移したことを会社に主張するには、株主名簿への記載が必要です(会社法130条1項)。株を贈与したのに名簿が書き換わっていないと、贈与したつもりの株が、会社との関係では元の株主のまま扱われることになります。
株の評価額、贈与税・相続税、そして非上場株式について設けられている「事業承継税制」を使えるかどうかは、税理士の領域です。毎年の決算の後に、税理士に確認する項目に入れておきましょう。
- 株の生前贈与の手続き → 後継者に株を生前贈与する──贈与契約・株主名簿の書換え・事業承継税制の入口(税理士へ)
③ 経営者保証──保証の一覧をつくっているか
- 会社のどの借入について、社長個人が保証人になっているかを一覧にしているか
- 取引金融機関に、保証の見直しを相談したことがあるか
- 事業承継の後、後継者が保証を「当然に引き継ぐ」前提で話が進んでいないか
経営者保証については、「経営者保証に関するガイドライン」という、金融機関の団体と中小企業の団体が中心となってまとめた自主的なルール(法律ではなく、法的な拘束力はありません)があり、一定の経営状態がそろえば保証を求めない融資や、既存の保証の見直しを検討する枠組みが示されています。ただし「必ず外せる」ものではなく、実際の扱いは取引金融機関との協議で決まります。保証の解除をめぐる交渉や保証債務の整理が必要な場面では、弁護士に相談することも考えます。
- 保証を外す・引き継がない準備 → 経営者保証を外す・引き継がない準備──経営者保証ガイドラインの活用の入口
④ 後継者と判断能力への備え──社長1人に集まっていないか
- 後継者(候補)が決まっているか。決まっているなら、本人と話ができているか
- 取締役・代表取締役・株式のすべてが、社長1人に集中していないか
- 社長の判断が難しくなったとき、株主総会や取締役会を誰が動かせるかを考えたことがあるか
- 任意後見や家族信託などの仕組みを検討したか(会社の経営そのものを任せる仕組みではない点も含めて)
社長が認知症などで判断能力が落ちても、それだけで取締役を退任するわけではありません。肩書きは社長のまま判断が難しくなる期間に、契約や決議が止まりやすくなります。とくに「取締役も株主も社長1人」の会社では、社長に代わって判断できる人が会社の中にいなくなるおそれがあります。
- 社長の判断能力が落ちたとき → 社長が認知症になったら会社はどうなる──後見の審判の前に「会社が止まる」場面と、元気なうちの備え
⑤ 会社と個人の財産の線引き──相続で分かれるもの
- 社長個人の名義の土地に、会社の建物が建っていないか。その場合、地代を払う契約か、無償で使っているかを書面で確認できるか
- 社長が会社にお金を貸している(会社から見ると借入金がある)、または会社から借りていないか
- 会社の事業に使っている財産のうち、社長個人の名義のものがないか
会社と社長個人は、法律上は別の「人」です。会社名義の財産は社長が亡くなっても相続の対象になりませんが、社長個人の名義の土地や、社長が会社に貸しているお金(会社に対する貸付金の債権)は、社長の相続財産になります。相続をきっかけに、会社の足元にある財産の持ち主が「会社」と「社長の相続人」に分かれることがある、という点を毎年確認しておきます。地代や貸し借りにかかわる税金の扱いは税理士の領域です。
- 社長個人の土地と会社の建物 → 会社名義と個人名義の不動産を整理する──社長個人の土地に会社の建物がある場合
⑥ 会社の登記──登記簿は今の会社の姿か
最後に、司法書士の本業である会社の登記です。手元に登記事項証明書(会社の登記簿の写し)と定款を用意して、次の点を確認します。
- 役員の任期:定款で定めた任期は何年か。最後に役員を選んだのはいつか。今年の定時株主総会で任期が切れる役員はいないか
- 任期が切れた後も同じ人が続ける場合:株主総会で選び直したうえで、その「重任(じゅうにん)」の登記を忘れていないか
- 本店:登記されている本店の所在場所と、実際の本店が一致しているか
- 目的:新しく始めた事業や、これから始める事業が、登記されている会社の目的に含まれているか
- 代表取締役の住所:引っ越した後、住所の変更の登記をしているか
- 最後の登記の日:最後に登記をしてから長い年月がたっていないか
確認のポイントは次のとおりです。
役員の任期:取締役の任期は原則2年です(会社法332条1項)。株式の全部に譲渡制限がある会社(公開会社でない会社)は、定款で最長10年まで伸ばせます(同条2項。監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除きます)。監査役は原則4年で、公開会社でない会社は定款で最長10年まで伸ばせます(会社法336条1項・2項)。任期を長くしている会社ほど、任期が切れた年に気づかず、登記を忘れやすくなります。
変更の登記の期限:本店・目的・役員の氏名・代表取締役の氏名と住所などは登記される事項で(会社法911条3項)、これらに変更が生じたときは、2週間以内に変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。登記を怠ると、代表者などが100万円以下の過料の対象になりえます(会社法976条1号)。
12年の放置:最後の登記から12年たった株式会社は「休眠会社」とされ、法務大臣の官報公告の後、2か月以内に「事業を廃止していない」旨の届出をしないと、解散したものとみなされます(会社法472条1項)。役員の任期を10年にしている会社で、重任の登記を1回忘れるだけでも、12年に届くことがあります。
なお、代表取締役の住所については、登記事項証明書などに表示する範囲を市区町村までにとどめる制度もあります(代表取締役の住所、登記簿で非公開にできます)。
点検の前にそろえておくもの
毎年の見直しを短時間で済ませるには、次の書類を1か所にまとめておくと便利です。
| そろえるもの | 主に使う分野 |
|---|---|
| 会社の登記事項証明書(法務局で取得) | ⑥ 会社の登記 |
| 定款(最新のもの) | ② 自社株/④ 後継者/⑥ 会社の登記 |
| 株主名簿 | ② 自社株 |
| 遺言の控え・保管場所のメモ | ① 遺言 |
| 借入と保証の一覧(金融機関ごと) | ③ 経営者保証 |
| 社長個人名義の不動産の登記事項証明書・会社との契約書 | ⑤ 会社と個人の財産 |
| 直近の決算書 | ② 自社株(評価額の確認は税理士へ) |
まとめ
経営者の生前対策は、つくった時点の会社と家族の状況を前提にしています。遺言を書いた後の株の贈与、後継者の変更、借入の増減、役員の任期──どれも、年に一度の点検で気づける変化です。①遺言、②自社株と株主名簿、③経営者保証、④後継者と判断能力への備え、⑤会社と個人の財産の線引き、⑥会社の登記の6分野を、定時株主総会の時期などに決めて見直すと、対策が「書いたまま」になるのを防げます。
点検の結果、登記事項証明書や定款、株主名簿が今の会社の姿と合っていない点が見つかったときや、遺言・株主名簿の手続きをどう進めればよいか分からないときは、書類をそろえてお近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 年に一度の見直しには、どれくらい費用がかかりますか?
点検そのものは、書類を見比べる作業なので、登記事項証明書の取得手数料などを除けば大きな費用はかかりません。見直しの結果、役員変更などの登記が必要になれば登録免許税(国に納める税金)が、遺言を公正証書で作り直すなら公証人の手数料がかかり、専門家に頼む場合は別に報酬がかかります。金額は手続きの内容によって変わるため、依頼先の見積もりでご確認ください。
Q. 見直しをしないまま放っておくと、どうなりますか?
登記については、変更から2週間以内に登記をしないと、代表者などが100万円以下の過料の対象になりえます(会社法976条1号)。最後の登記から12年たった株式会社は、みなし解散の対象になりえます(会社法472条1項)。遺言については、書いた後に食い違う贈与などをすると、その部分は撤回したものとみなされ(民法1023条2項)、思っていた結果にならないことがあります。
Q. 自分で点検できますか? どこに相談すればいいですか?
この記事のチェックリストに沿って、書類を見比べること自体はご自身でできます。気になる項目が見つかったら、項目ごとに相談先を分けるのが確実です。会社の登記・株主名簿・定款や遺言の手続きはお近くの司法書士、株の評価や税金は税理士、経営者保証は取引金融機関(交渉や保証債務の整理は弁護士)、社会保険・労務は社会保険労務士、家族間のもめごとは弁護士が相談先です。
【さらに深掘り】定時株主総会を書面決議で済ませる会社の任期満了日と登記の期限
ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文の⑥では、役員の任期を「定時株主総会の終結の時まで」と数えることを確認しました(会社法332条1項・336条1項)。株主が家族だけの会社では、定時株主総会を実際には開かず、株主全員の書面による同意で決議があったものとする方法(書面決議)をとることがあります。この場合に、任期が切れるのはいつか、登記の2週間はいつから数えるかを、毎年の点検の中で押さえておく必要があります。
書面決議でも定時株主総会は「終結」したものとみなされる
取締役または株主が株主総会の目的である事項について提案をし、その事項について議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録で同意したときは、その提案を可決する決議があったものとみなされます(会社法319条1項)。
そのうえで、定時株主総会の目的である事項のすべてについて、この方法で可決の決議があったものとみなされた場合には、「その時に」その定時株主総会が終結したものとみなされます(会社法319条5項)。
つまり、書面決議で定時株主総会を済ませた年は、すべての事項について決議があったものとみなされた時が「定時株主総会の終結の時」になり、その時点で任期が満了する役員が退任します。退任という変更はこの時点で生じますから、変更の登記の2週間(会社法915条1項)もこの時点から数えることになります。同じ人を選び直す場合(重任)でも、この点は変わりません。
「すべて」の事項を書面で処理したかで、終結の時点が変わる
319条5項が定時株主総会の終結をみなすのは、目的である事項の「すべて」について決議があったものとみなされた場合です。決議事項の一部だけを書面決議にし、残りの決議事項を実際に開いた総会で決議した場合は、この規定の要件を満たしません。その場合は、条文の文言どおり、実際に開いた定時株主総会が終わった時が任期の切れ目になると考えられます。
定時株主総会には、決議する事項と報告する事項があります。取締役が提出した計算書類は定時株主総会の承認を受けなければならず(会社法438条2項)、事業報告はその内容を定時株主総会に報告しなければなりません(同条3項)。報告事項については、取締役が株主全員に報告すべき事項を通知し、株主全員が報告を要しないことに書面または電磁的記録で同意したときは、報告があったものとみなす仕組みが別に置かれています(会社法320条)。
319条5項は「提案を可決する旨の株主総会の決議」があったものとみなされた場合について定めており、報告事項がどう関わるかは条文上明示されていません。決議事項は319条、報告事項は320条の方法で、それぞれ株主全員の同意をそろえておけば、その年の定時株主総会で扱うべき事項を残さず処理したことを書面で示せます。
議事録の「みなされた日」が、任期と登記期限の起点になる
書面決議の場合も、株主総会の議事録は作成します。議事録には、決議があったものとみなされた事項の内容、その提案をした人の氏名、決議があったものとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を記載します(会社法施行規則72条4項1号)。報告の省略をした場合も、報告があったものとみなされた事項の内容と、報告があったものとみなされた日などを記載します(同項2号)。
決議事項のすべてを書面決議で処理した場合は、この「決議があったものとみなされた日」(事項によって日が異なるときは、すべての事項がそろった日)が、その年の任期満了日と、変更の登記の期限の起点を決めることになります。毎年の点検では、登記事項証明書の役員欄にある重任(または退任)の年月日と、議事録に書いた「みなされた日」が合っているかを見比べます。なお、任期満了の後に日をおいて就任を承諾した場合は、「重任」ではなく退任と就任が別の日付で登記されるため、就任の日付は「みなされた日」と一致しないことがあります。
登記の申請では、株主総会の議事録に代えて、319条1項により決議があったものとみなされる場合に該当することを証する書面を添付します(商業登記法46条3項)。株主総会の決議を要する登記に添付する株主の一覧(いわゆる株主リスト)は、319条1項により決議があったものとみなされる場合も対象に含まれています(商業登記規則61条3項)。役員の就任による変更の登記には、就任を承諾したことを証する書面も添付します(商業登記法54条1項)。
なお、319条1項は株主全員の同意の意思表示があったときに決議があったものと「みなす」規定です。実際に同意をそろえていないのに、書面決議の形をとった議事録だけを作ることはできません。同意の書面または電磁的記録は、決議があったものとみなされた日から10年間、本店に備え置きます(会社法319条2項)。
株主名簿の点検とつながる理由
書面決議に必要なのは、その事項について議決権を行使できる株主の全員の同意です(会社法319条1項)。1人でも同意が欠ければ、決議があったものとはみなされません。
そのため、本文の②で見た株主名簿の点検が、ここに直接つながります。株を贈与したのに名簿の書換えが済んでいない、設立時に名前を借りた株主が残っている、といった状態では、誰の同意をそろえれば「全員」になるのかがはっきりせず、後から決議の効力が争われる原因になりえます。
株主が亡くなり、株式が相続人の共有になっている場合も同じです。株式が2人以上の共有に属するときは、共有者は権利を行使する人を1人定めて会社に通知しなければ、その株式についての権利を行使できません(会社法106条本文。会社が権利の行使に同意した場合は除かれます=同条ただし書)。書面決議の同意を誰が出すのかは、この点を確認してからでないと決まりません。共有株式と議決権の関係は、自社株の相続と議決権──株式が分散すると会社が動かなくなる理由で詳しく扱っています。誰が株を引き継ぐかという遺産分割の中身は、相続人の間で決めることです。
毎年の点検に加えたい項目
- 今年の定時株主総会は、実際に開いたか、書面決議で済ませたか
- 書面決議なら、決議事項のすべてについて全員の同意がそろったか。報告事項の扱い(会社法320条)も議事録に残っているか
- 議事録の「決議があったものとみなされた日」はいつか。その日に任期が満了した役員はいないか
- 重任・退任などの変更の登記を、その日から2週間以内に申請したか
- 同意をそろえた「株主全員」が、株主名簿の記載と一致しているか
- 同意の書面を、本店に備え置いているか
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 会社法 第106条・第130条・第174条・第319条・第320条・第332条・第336条・第438条・第472条・第911条・第915条・第976条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 会社法施行規則 第72条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012
- 商業登記法 第46条・第54条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000125
- 商業登記規則 第61条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/339M50000010023
- 民法 第1022条・第1023条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 経営者保証に関するガイドライン研究会「経営者保証に関するガイドライン」(平成25年12月・全国銀行協会掲載): https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline.pdf
- 中小企業庁「経営者保証」: https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/