この記事の要点

  • 生前対策は「制度」から選ぶのではなく、「何が心配か・何をしたいか」から入ると迷いにくい
  • 財産の行き先を決めたいなら遺言、元気なうちに渡したいなら生前贈与、判断能力が下がったときの備えなら任意後見・家族信託、体が弱ったときや亡くなった後の事務なら見守り契約・財産管理委任契約・死後事務委任契約が入口になる
  • 遺言・任意後見・家族信託などは、本人に判断能力があるうちでなければ準備できない。生前対策そのものに法律上の期限はないが、「元気なうち」が実質的な期限になる
  • 制度は組み合わせて使うこともできるが、どう組み合わせるかは家族構成や財産の内容によって変わるため、一律の正解はない
  • 下の一覧表で自分の心配ごとに近い行を探し、詳しくはそれぞれの記事へ進んでください

「生前対策をしたほうがいいとは聞くけれど、何から始めればいいのか分からない」──そう感じたときは、まず「何が心配か」を一つ決めて、その心配に対応する制度の記事から読むのが近道です。遺言・生前贈与・家族信託・任意後見といった制度は、それぞれ得意な場面が違うため、心配ごとが決まれば読むべき記事もおのずと絞られます。

この記事では、各制度のしくみの説明は個別の記事にゆずり、「どんな不安・目的なら、どの記事を読めばよいか」を案内する目次の役割に徹します。本記事は、執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。

なお、成年後見制度と遺言制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が2026年6月に成立し、同月24日に公布されています。法定後見を「補助」の制度に一元化して後見・保佐の制度を廃止することや、任意後見制度の見直し(いずれも公布から2年6か月以内に施行)、遺言の押印の任意化(公布から1年以内に施行)、パソコン等で作成した遺言を法務局が保管する「保管証書遺言」の創設(公布から3年以内に施行)などが盛り込まれています。施行日はいずれも政令で定められることになっており、執筆時点ではまだ施行されていません。この記事と各記事の説明は、現行の制度に基づいています。

心配ごと別の入口マップ

心配ごと・したいこと 入口になる主な制度 まず読む記事
亡くなった後、財産を誰に渡すか決めておきたい 遺言 自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべきか
元気なうちに子や孫へ財産を渡したい 生前贈与 生前贈与と遺言、どちらで渡す?
認知症になったら預金や不動産が動かせなくなるのが心配 任意後見・家族信託 認知症になると預金は凍結される?
判断能力が下がったときの財産管理や生活の手続きを任せたい 任意後見・家族信託 家族信託と任意後見はどう違う?
判断能力はあるが、体が不自由になったときの手続きが不安 見守り契約・財産管理委任契約 見守り契約・財産管理委任・死後事務委任
亡くなった直後の葬儀・支払い・遺品整理を誰に頼むか決めたい 死後事務委任契約 死後事務委任契約とは
配偶者も子もいない(おひとりさま) 遺言・死後事務委任契約・任意後見 など おひとりさまの相続準備
相続人ではない人(内縁のパートナー・孫など)に渡したい 遺言(遺贈)・生前贈与 など 内縁の妻・事実婚パートナーに相続権はない
まず家族と話し合うきっかけがほしい ― 帰省したら親と話したい「実家の話」

心配ごとが複数あてはまる方も多いはずです。その場合も、いちばん気がかりな行から読み始めれば十分です。

目的別の読み方ガイド

財産の行き先を決めておきたい → 遺言

亡くなった後に「どの財産を、誰に」渡すかを法的に決めておけるのは遺言です。自分で書く自筆証書遺言と、公証役場で作る公正証書遺言のどちらにするかは、自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべきかで比較しています。自筆の遺言書を法務局に預ける方法は遺言書保管制度とはをご覧ください。

「エンディングノートに書いておけば足りるのでは」と考えている方は、先にエンディングノートと遺言はどう違う?を読んでおくと、法的な効力がある部分とない部分の線引きがはっきりします。また、配偶者・子・直系尊属(親など)には遺留分(最低限の取り分)があるため、遺言の内容によっては後で金銭を請求される可能性があります。しくみは遺留分侵害額請求とは?で整理しています。

元気なうちに渡したい → 生前贈与

「亡くなってから」ではなく「今」渡したい場合の入口が生前贈与です。遺言とどちらで渡すかの考え方は生前贈与と遺言、どちらで渡す?、贈与を書面に残す意味は贈与契約書の作り方で解説しています。

贈与税には「暦年贈与」と「相続時精算課税」という2つの制度があり、2023年度(令和5年度)の税制改正により、2024年1月1日以後の贈与から仕組みが大きく変わっています。制度の概要は暦年贈与と相続時精算課税で整理していますが、具体的な税額や、どちらの制度が有利かは税理士にご相談ください。自宅や土地を贈る場合は名義変更の登記も必要になるため、贈与による所有権移転登記の基本もあわせてご覧ください。

認知症で財産が動かせなくなるのが心配 → 任意後見・家族信託

判断能力が低下すると、本人名義の預金の引き出しや不動産の売却などが難しくなることがあります。何が「できなくなるのか」は、認知症になると預金は凍結される?で確認できます。

その備えとしてよく比べられるのが、任意後見と家族信託です。

  • 任意後見契約:将来判断能力が下がったときに支援してくれる人と、任せる内容を自分で決めておく契約です。公証役場で公正証書として作成します。詳しくは任意後見契約とはへ
  • 家族信託:元気なうちに、財産の管理を家族の誰かに託しておく契約のしくみです。詳しくは家族信託(民事信託)とはへ

両者の違い(財産の活用・承継に強いのか、生活や療養の手続きまで幅広く任せられるのか)は、家族信託と任意後見はどう違う?で比較しています。なお、判断能力が下がった後に家庭裁判所が支援する人を選ぶ「法定後見」については、法定後見の3類型『後見・保佐・補助』はどう違う?をご覧ください。

体が弱ったとき・亡くなった後が心配 → 見守り・財産管理・死後事務

判断能力はしっかりしているものの、足腰が弱って銀行や役所に行くのが難しくなった時期を支えるのが、見守り契約と財産管理委任契約です。亡くなった直後の葬儀・支払い・遺品整理などを頼んでおくのが死後事務委任契約です。3つの契約の役割分担は見守り契約・財産管理委任・死後事務委任、死後事務委任契約そのものは死後事務委任契約とはで解説しています。

配偶者も子もいない → おひとりさまの備え

配偶者も子もいなくても、親や兄弟姉妹などが相続人になることがあります。そうした相続人も誰もいない場合に財産がどうなるのか、生前に何ができるのかはおひとりさまの相続準備で整理しています。火葬や納骨を誰に託すかという不安については、おひとりさまのお墓と死後事務をご覧ください。

相続人ではない人に渡したい → 遺言・生前贈与

内縁や事実婚のパートナーには法律上の相続権がないため、何もしなければ原則として財産は渡りません。取れる備えは内縁の妻・事実婚パートナーに相続権はないで紹介しています。子が健在であれば孫も通常は相続人ではないため、孫に渡したい場合は孫に財産を渡す方法が入口になります。

時期で見ると、どの制度がどこを受け持つか

制度ごとに「いつの自分を支える仕組みか」が異なります。自分の備えに空白の時期がないかを確かめる目安として、次の表を使ってください。

時期 主に関わる制度
元気なうち 生前贈与/遺言・任意後見契約・家族信託の準備
判断能力はあるが体が不自由 見守り契約・財産管理委任契約
判断能力が低下した後 任意後見(現行法では、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から効力)/家族信託の受託者による管理/準備がなければ法定後見
亡くなった後 遺言・死後事務委任契約・家族信託で定めた承継先の指定

たとえば任意後見は本人が生きている間の支援の仕組みで、本人が亡くなると終わります。亡くなった後のことは、遺言や死後事務委任契約など別の備えでカバーすることになります。このように、制度は組み合わせて使うこともできます。ただし、どの制度をどう組み合わせるかは、家族構成・財産の内容・頼める人がいるかどうかで変わるため、一律の正解はありません。

始める前に押さえておきたい共通の注意点

  • 判断能力があるうちに:遺言・任意後見契約・家族信託は、いずれも本人が内容を理解して判断できる状態で準備する必要があります。判断能力が大きく下がった後では、これらを新たに準備することは難しくなります
  • 税金の話は税理士へ:贈与税・相続税の具体的な税額や、どの方法が有利かは、税理士に確認してから進めるのが安全です
  • 家族と共有しておく:遺言書の保管場所や、誰に何を頼んだのかを家族が知らないと、いざというときに備えが活かされないことがあります

まとめ

生前対策は、遺言・生前贈与・任意後見・家族信託・見守りや死後事務の契約など、多くの制度の集まりです。何から始めるか迷ったときは、「財産の行き先を決めたい」「元気なうちに渡したい」「認知症に備えたい」「亡くなった後の事務が心配」など、まず自分の心配ごとを一つ決め、上の入口マップから対応する記事を読んでみてください。多くの制度は判断能力があるうちでなければ準備できないため、気になった段階で動き始めることが大切です。自分の場合にどの制度が関係するのか整理したいときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 生前対策にはどのくらいの費用がかかりますか?

使う制度によって大きく異なります。自筆証書遺言は自分で書けば費用を抑えられ、法務局の遺言書保管制度を使う場合は保管申請時に1通3,900円の手数料がかかります(遺言書保管制度とは参照)。公正証書で作る遺言や任意後見契約には公証役場の手数料、専門家に依頼すればその報酬、不動産を贈与するなら登記の費用や税金がかかります。具体的な金額は、依頼先に見積もりを確認してください。

Q. いつまでに始めればいいですか?放っておくとどうなりますか?

生前対策そのものに法律上の期限はありません。ただし、遺言・任意後見契約・家族信託は判断能力があるうちでなければ準備できないため、「元気なうち」が実質的な期限です。何も準備しないまま判断能力が下がると、預金や不動産の手続きが難しくなり、家庭裁判所が関与する法定後見を利用することになる場合があります。なお、親や祖父母の名義のまま相続登記をしていない不動産がある場合は、相続登記の申請義務との関係にも注意が必要です(相続登記義務化の経過措置、期限まであと半年参照)。

Q. 自分でできますか?どこに相談すればいいですか?

自筆証書遺言や贈与契約書は、自分で作ることもできます。一方、任意後見契約は公証役場で公正証書として作る必要があり、家族信託は契約の設計を誤ると後々のトラブルにつながりやすいため、専門家の関与を得て進めるのが安全です。遺言・贈与の登記・後見・家族信託など手続き面の相談はお近くの司法書士に、贈与税・相続税の具体的な税額は税理士にご相談ください。

【さらに深掘り】制度どうしが重なったときの関係──任意後見と法定後見、遺言と生前の処分

ご注意 以下は執筆時点(2026年09月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

生前対策の制度は組み合わせて使えますが、同じ場面に二つの制度がかかわると、法律上どちらが優先するのかという問題が生じます。ここでは、条文で関係が定められている二つの組み合わせを取り上げます。

任意後見契約と法定後見の関係

任意後見契約に関する法律10条1項は、「任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる」と定めています。本人が自分で選んだ任意後見の仕組みが原則として優先され、法定後見(後見・保佐・補助)の開始は「本人の利益のため特に必要がある」と家庭裁判所が認める場合に限られる、という関係です。どのような事情がこれに当たるかは、家庭裁判所が個別に判断します。

このほか、同じ法律には両制度の関係について次の定めがあります。

  • すでに法定後見を受けている場合:任意後見監督人を選任するときは、家庭裁判所は従前の後見開始・保佐開始・補助開始の審判を取り消さなければなりません(同法4条2項)。ただし、法定後見を続けることが本人の利益のため特に必要であると認めるときは、任意後見監督人は選任されません(同法4条1項ただし書・2号)
  • 任意後見が始まった後に法定後見が開始された場合:任意後見監督人が選任された後に本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了します(同法10条3項)

任意後見契約を結んでおくことは、将来の法定後見との関係でも意味を持つことになります。

ただし、ここまでの説明は執筆時点で施行されている法律に基づくものです。2026年6月に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)では、法定後見が補助の制度に一元化され、補助の制度の利用を開始しても任意後見契約の存続が認められることになり、上で触れた任意後見契約に関する法律4条1項2号・同条2項・10条3項は削除されます。改正後の同法では、任意後見契約が登記されている場合に補助開始の審判ができるのは「本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り」とされています(改正後の同法14条1項)。この部分の施行日は、公布の日(2026年6月24日)から2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日とされています。

遺言と、遺言後の生前贈与・家族信託の関係

遺言を書いた後に、その遺言で渡すとした財産を生前に贈与するなど、遺言の内容と抵触する行為をした場合について、民法1023条2項は、前の遺言と後の遺言が抵触するときの規定(同条1項)を準用しています。つまり、抵触する部分については、遺言を撤回したものとみなされます。遺言を書いた後でも財産を生前に処分すること自体は妨げられませんが、その分、遺言の内容が実現しなくなることがあります。

家族信託を使った場合は、別の角度からの整理も必要です。信託法2条3項は、「信託財産」を「受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産」と定義しています。信託契約によって受託者に託した財産は、委託者本人の財産ではなく受託者に属する財産として管理されることになります。一方、遺言で財産を渡す定めをしても、亡くなった時点でその財産が遺言者のものでなければ、その定めは原則として実現しません。遺贈については、民法996条本文が「遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない」と定めています(同条ただし書の例外があります)。

そのため、信託した財産が亡くなった後に誰に渡るかは、主として信託契約の定め(受益者や、信託が終わったときに財産を誰に帰属させるかなど)によって決まることになります。ただし、信託契約に次の受益者や財産の帰属先の定めがない場合などには、本人の相続人に受益権や財産が渡ることもあり、扱いは信託契約の定め方によって変わります。遺言と信託契約の両方を用意する場合は、どの財産をどちらで扱うのかを互いの内容と突き合わせて確認しておくことが大切です。

この項目のポイント

  • 任意後見契約が登記されていると、法定後見の開始は「本人の利益のため特に必要がある」場合に限られる(任意後見契約に関する法律10条1項。令和8年法律第45号の施行後は、補助の制度との関係として同法14条1項に定められる)
  • 遺言の後にした生前贈与などが遺言と抵触すると、その部分は遺言を撤回したものとみなされる(民法1023条2項)
  • 信託した財産は受託者に属する財産として扱われ(信託法2条3項)、亡くなった後の行き先は主として信託契約の定めによって決まる

複数の制度を併用するときは、制度ごとの効果だけでなく、制度どうしの関係も確認しておく必要があります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月・いずれも一次情報です)。

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