この記事の要点
- 見守り契約・財産管理等委任契約・任意後見契約・家族信託・銀行の代理人の届出は、どれも親本人が内容を理解して自分で決めることが前提の「契約による備え」です。判断能力が落ちるほど、新しく始めるのは難しくなります
- 判断能力が落ちてきた時期に新しく使い始められる仕組みとして、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業や、法定後見のうちの「補助」があります
- 契約の内容を理解するのが難しくなった後は、元気なうちに用意してあった備えを動かすか、家庭裁判所の法定後見を使うか、が基本の選択肢になります
- 親がいまどの段階にあるかを医学的に判断するのは医師です。家族の見立てだけで決めつけないことが大切です
- 迷ったら、介護や暮らしのことは地域包括支援センター、制度や手続きのことはお近くの司法書士にご相談ください
親の物忘れが増えた、通帳の置き場所が分からなくなることがある──そう感じたとき、子の立場で知っておきたいのは、「どの制度が、親のどの段階まで使えるのか」です。結論から言うと、契約で結ぶ備えの多くは、親本人が内容を理解して決められるうちでなければ新しく始められません。逆に、その時期を過ぎても使える仕組み(法定後見など)もあり、早めに用意しておいた備えには、判断能力が落ちてきたときに初めて動き出すものもあります。
この記事では、親の判断能力が落ちてきた度合いごとに、「まだ間に合うもの」「もう新しくは始めにくいもの」「用意してあれば動き出すもの」を並べます。本人が元気なうちに、遺言・贈与も含めてどの備えを選ぶかという全体像は、生前対策は何から始める?──遺言・贈与・家族信託・後見の全体マップで整理しています。なお、本記事は執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。実際の取扱いは、銀行・保険会社・社会福祉協議会などによって異なります。
まず押さえたい分かれ目──「親本人が内容を理解して決められるか」
民法は、意思表示をした時に意思能力(自分のしていることの意味を理解して判断する力)がなかった場合、その法律行為は無効になると定めています(民法3条の2)。見守り契約・財産管理等委任契約・任意後見契約・家族信託の契約・銀行の代理人の届出は、どれも親本人がする行為です。子が親の代わりに結んでおくことはできません。
そのため、時間軸で並べたときの最大の分かれ目は、病名や年齢ではなく、親本人が、その契約の内容を理解して自分で決められるかどうかです。もっとも、親がいまどの程度の状態にあるかを判断するのは家族ではありません。医学的な判断は医師が行い、それぞれの手続きでは、契約の相手方や窓口が本人の意思を確かめたうえで進めることになります。親の様子の変化に気づいたときの家族での共有のしかたは、相続の相談で、親の判断能力が気になるときで取り上げています。
段階ごとの一覧表
親の判断能力の度合いを、大まかに3つの段階に分けると、次のように整理できます。段階の境目ははっきり線を引けるものではなく、あくまで目安です。
| 段階(目安) | 新しく始められるもの | 用意してあれば、ここで役立つもの |
|---|---|---|
| ① 元気なうち(内容を理解して自分で決められる) | 見守り契約、財産管理等委任契約、任意後見契約、家族信託、銀行の代理人の届出、保険の指定代理請求人の指定 | 見守り契約・財産管理等委任契約(体が不自由になったときの支え) |
| ② 衰えが気になり始めた(判断能力は十分ではないが、内容を理解して決められる) | ①の契約は、本人が内容を理解して決められる限り検討の余地がある/日常生活自立支援事業/法定後見のうち「補助」(本人の同意が必要) | 見守り契約(変化に早く気づく)、任意後見(判断能力が「不十分な状況」になれば、任意後見監督人の選任を申し立てられる) |
| ③ 契約の内容を理解するのが難しくなった | 法定後見(判断能力の程度に応じて補助・保佐・後見) | 任意後見(家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てる)、家族信託(受託者が管理を続ける)、指定代理請求人による保険金の請求、銀行の代理人(続けて使えるかは銀行に確認) |
以下、段階ごとに中身を見ていきます。
段階① 元気なうち──「契約による備え」のどれもが選択肢になる時期
親が内容を理解して自分で決められるうちは、契約による備えのどれもが選択肢になります。それぞれの役割は、おおむね次のとおりです。
- 見守り契約:定期的な連絡や訪問で、本人の生活や健康の様子を確かめる契約です。財産を管理する契約ではありません
- 財産管理等委任契約:判断能力はあるものの、体が不自由になって銀行や役所に行くのが難しいときに、財産の管理や手続きを任せておく契約です。結んだ時から効力が生じます
- 任意後見契約:将来、判断能力が不十分になったときに備えて、支えてくれる人と任せる内容を本人が決めておく契約です。公正証書で結ぶ必要があり(任意後見契約法3条)、効力が生じるのは、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時からです(同法2条1号)
- 家族信託:本人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産を託し、決めた目的に沿って管理や処分をしてもらう仕組みです。契約で始める方法があります(信託法3条1号)
- 銀行の代理人の届出:本人が取引銀行に家族を代理人として届け出ておく手続きです。仕組みの名前や中身、そもそも手続きができるかどうかは銀行ごとに異なります
- 保険の指定代理請求人の指定:被保険者が病気などで保険金を請求できないときに、代わりに請求できる家族をあらかじめ決めておく仕組みです。指定するのは契約者で、被保険者の同意が必要とされています(公益財団法人生命保険文化センターの解説)
この時期は、選べる制度が最も多い時期です。どれを組み合わせるかは、家族構成・財産の内容・頼める人がいるかどうかで変わり、一律の正解はありません。
段階② 衰えが気になり始めた──「まだ間に合う」が、急ぐ理由もある時期
物忘れなどが気になり始めても、本人が内容を理解して自分で決められる状態であれば、段階①の契約を結ぶことは、なお検討の余地があります。ただし、判断能力が落ちてきた時期に結んだ契約は、後になって「そのとき本当に内容を理解していたのか」が問題にされるおそれがあります。準備をするなら、本人の意思がはっきりしているうちに、という点はこの段階でいっそう大切になります。
この段階で、新たに選択肢に入ってくる仕組みが2つあります。
日常生活自立支援事業
社会福祉協議会が、本人との契約にもとづいて、福祉サービスの利用の手続きや、日々の支払いのための預金の出し入れなどを手伝う公的な事業です。厚生労働省は、対象者を、判断能力が不十分な方で、かつ、この事業の契約の内容について判断できる能力があると認められる方としています。つまり、判断能力に不安が出てきたが、まだ契約の内容は分かるという、ちょうどこの段階の人のための仕組みです。使えるかどうかは社会福祉協議会が判断します。
なお、この事業の法律上の根拠である社会福祉法の「福祉サービス利用援助事業」(同法2条3項12号)は、2026年(令和8年)6月25日に公布された「社会福祉法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第51号)で、名前を「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」に改め、対象を、精神上の理由のほか、近くに住む家族がいないことなどの理由で日常生活や社会生活に支障がある生計困難者とする見直しが決まっています。この部分の施行日は、公布の日から2年を超えない範囲内で政令で定める日とされていて、執筆時点(2026年10月)ではまだ決まっていません。施行後の具体的な運用は、国や社会福祉協議会の案内をご確認ください。
法定後見のうち「補助」
法定後見は、家庭裁判所の審判で始まる制度です。民法は、判断能力(事理を弁識する能力)の程度に応じて3つの類型を定めていて、そのうち最も軽い「補助」は、判断能力が「不十分である者」が対象です(民法15条1項)。本人以外の人が補助を申し立てる場合は、本人の同意が必要です(同条2項)。また、補助は、特定の行為に補助人の同意を必要とする審判(民法17条1項)か、補助人に代理権を与える審判(民法876条の9第1項)とあわせて行うものとされています(民法15条3項)。本人の意思を大切にしながら、必要な部分だけを支える仕組みといえます。
段階③ 契約の内容を理解するのが難しくなった──「用意してあった備え」と「法定後見」
この段階になると、段階①の契約を新しく結ぶことは難しくなります。ここで分かれるのは、元気なうちに備えを用意してあったかどうかです。
用意してあれば、ここで動き出すもの
- 任意後見契約:登記されている任意後見契約があり、本人の判断能力が不十分な状況にあるときは、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者の請求により、家庭裁判所は、法律が定める例外にあたる場合を除き、任意後見監督人を選びます(任意後見契約法4条1項)。この請求は、判断能力が「不十分な状況」にあればできるため、段階②のうちにされることもあります。本人以外の人が請求するときは、あらかじめ本人の同意が必要ですが、本人が意思を表示できないときはこの限りではありません(同条3項)。監督人が選ばれた時から、任意後見人による支えが始まります
- 家族信託:信託の契約で決めた内容に沿って、受託者が財産の管理を続けます。親の判断能力が落ちた後も、契約で決めた範囲で管理や処分ができるように備えておけることが、家族信託が認知症への備えとして使われる理由です
- 保険の指定代理請求:本人が病気などで請求の意思を表せないときに、指定された家族が本人に代わって保険金などを請求できます。受け取ったお金は本人の財産です
- 銀行の代理人:判断能力が低下した後もその代理人の仕組みを使い続けられるかは、銀行ごとに異なります。取引銀行に確認が必要です
財産管理等委任契約は、判断能力はあるが体が不自由な時期を支えることを主な目的とする契約です。本人の判断能力が低下しても、それだけで契約が当然に終わるわけではありませんが(深掘りで触れます)、任意後見のように家庭裁判所が選ぶ監督人が付く仕組みはなく、判断能力が低下した本人が代理人の活動を確かめることも難しくなります。そのため、任意後見契約とあわせて結んでおき、判断能力が低下したら任意後見に切り替える、という使い方があります。また、日常生活自立支援事業は契約の内容を理解できることが利用の前提のため、判断能力がさらに低下したときの扱いは、利用している社会福祉協議会に確認してください。
用意がなければ──法定後見
何も用意がないまま判断能力が低下した場合、親の財産の管理や契約の手続きを支える仕組みとしては、家庭裁判所の法定後見が基本になります。民法の3つの類型は、次のとおりです。
- 補助:判断能力が不十分である者(民法15条1項)
- 保佐:判断能力が著しく不十分である者(民法11条)
- 後見:判断能力を欠く常況にある者(民法7条)
申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などです(民法7条・11条・15条1項)。子は四親等内の親族にあたるため、申立てをすることができます。どの類型にあたるかは、最終的には家庭裁判所が判断します。
法定後見が始まった後も、本人の意思は大切にされます。民法は、成年後見人が本人の生活や財産の管理に関する事務を行うときは、本人の意思を尊重し、心身の状態や生活の状況に配慮しなければならないと定めています(民法858条)。
銀行の口座については、全国銀行協会(銀行の業界団体)の考え方でも、本人の判断能力が低下している場合は成年後見制度などの利用を勧めるのが一般的とされ、代理権のない家族からの払い出しの依頼に応じるのは、本人の利益になることが明らかな場合などに限った、ごく限られた対応とされています。もっとも、この考え方は銀行の窓口で対応する際の参考として示されたもので、銀行によってはより厳格に対応したり、取引を断ったりする場合もあり得るとされています。実際の取扱いは取引銀行にご確認ください。
成年後見制度の見直しについて
成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が、2026年6月24日に公布されています。ただし、成年後見制度の見直しに関する部分の施行日は政令で定めることとされていて、執筆時点(2026年10月)ではまだ決まっていません。施行されるまでは、この記事で説明した現行の制度が使われます。施行後は、法定後見の類型や、任意後見が始まる仕組み(家庭裁判所の「任意後見開始の審判」で始まる形に改められます)など、この記事の段階②・③の内容が変わる部分があります。
家族の間でもめそうなとき・税金が関わるとき
親のお金の管理をめぐって、きょうだいの間で争いになっている、またはなりそうな場合は、弁護士にご相談ください。
また、家族信託では、信託の効力が生じたときに、適正な対価を払わずに受益者などになる人がいると、その人が信託に関する権利を贈与などで取得したものとみなされる、という税金の決まりがあります(相続税法9条の2第1項)。信託の内容によっては贈与税などが関わることがあるため、具体的な扱いは税理士にご確認ください。
まとめ
親の判断能力が落ちてきたと感じたときに使える制度は、時間軸で見ると大きく3つの段階に分かれます。元気なうちは契約による備えのどれもが選択肢になり、衰えが気になり始めた段階でも、本人が内容を理解して決められる限りはまだ間に合うものがあり、日常生活自立支援事業や補助も選択肢に入ります。契約の内容を理解するのが難しくなった後は、元気なうちに用意してあった任意後見・家族信託・指定代理請求などを動かすか、家庭裁判所の法定後見を使うかが基本になります。
どの段階にあるかを家族だけで決めつけず、医学的な判断は医師に、介護や暮らしのことは地域包括支援センターに相談しながら、制度や手続きについて整理したいときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. それぞれの制度に費用はかかりますか?
制度ごとに異なります。任意後見契約は公正証書で結ぶため、作成のための費用がかかります。日常生活自立支援事業の利用料は実施する社会福祉協議会が決めていて、厚生労働省によると、契約前の相談と生活保護を受けている世帯の利用料は無料とされています。銀行の代理人の手続きの手数料は銀行ごとに異なります。法定後見の申立ての費用は、成年後見の申立てにかかる費用と期間で整理しています。
Q. いつまでに準備すればよいですか?放っておくとどうなりますか?
法律で決まった期限はありませんが、契約による備えは、親本人が内容を理解して自分で決められるうちでなければ新しく始められません。意思能力がない状態でした契約は無効とされます(民法3条の2)。何も用意しないまま判断能力が低下すると、財産の管理などは家庭裁判所の法定後見を中心に考えることになります。親の様子が気になり始めた段階で、早めに家族で話し合っておくのが安心です。
Q. 子が自分で手続きできますか?どこに相談すればよいですか?
見守り契約・任意後見契約・家族信託・銀行の代理人の届出などは、親本人が結ぶもので、子が親の代わりに結ぶことはできません。法定後見の申立ては、四親等内の親族である子もすることができます(民法7条など)。相談先は、日常生活自立支援事業ならお住まいの市区町村の社会福祉協議会、法定後見なら家庭裁判所の案内や公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート、介護や暮らし全般なら地域包括支援センターです。制度の仕組みや手続きを整理したいときは、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】判断能力の低下と制度選択の実務上の観点
ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
家族で話し合うときの観点
制度を選ぶ話し合いで最初に確かめたいのは、本人がその場に加わっているかどうかです。成年後見制度の利用の促進に関する法律は、成年被後見人等の意思決定の支援が適切に行われ、その自発的意思が尊重されるべきことを基本理念に掲げています(同法3条1項)。
厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」(令和7年3月)は、家族も本人の意思決定支援者であるとしたうえで、基本原則として「本人の意思の表出」「本人の意思の尊重」「本人の意思決定能力への配慮」「チームによる早期からの継続的支援」を挙げています。同ガイドラインは、意思決定能力は「あるかないか」の二者択一ではなく段階的に低下していくもので、行為の内容によって相対的に判断されるとし、本人が自ら決められる早い段階で、今後の生活などについて本人・家族・関係者で話し合い、先を見通した支援を繰り返すことを重要としています。本文の段階①②のうちに備えを話し合う意味は、ここにあります。後見人等が選ばれた後の意思決定支援の考え方は、成年後見の「意思決定支援」とは?で扱っています。
「本人のできることを前提に、必要な範囲で使う」という考え方は、法律にも表れています。成年後見制度の利用の促進に関する法律11条1号は、本人の能力に応じたきめ細かな対応を可能とする観点から、利用の少ない保佐と補助の利用を促進する方策を検討するよう求めています。最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月~12月)」では、後見開始の申立て29,233件に対し、補助開始の申立ては3,302件でした。
相談先は、役割で分かれます。
- 地域包括支援センター:介護保険法上、総合的な相談支援や、虐待の防止など権利擁護のための援助を行う事業を担います(同法115条の46第1項、115条の45第2項1号・2号)
- 社会福祉協議会:本文で触れた日常生活自立支援事業の窓口です
- 家庭裁判所の家事手続案内:使える手続や申立ての方法を案内する窓口で、法律相談には応じないとされています(裁判所ウェブサイトの「家事手続案内」の説明や京都家庭裁判所の案内など)
- 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート:司法書士を正会員とする団体で、相談窓口の案内を設けています
家庭裁判所の運用の観点
申立てに添える診断書(成年後見制度用)と本人情報シートは最高裁判所が用意した書式で、誰が作成するかは本人情報シートは誰が書く?で整理しています。
申立ての後も、本人抜きで手続きが進むわけではありません。家事事件手続法は、後見開始の審判をするときは本人の陳述を聴かなければならないとし(120条1項1号。心身の障害により陳述を聴くことができないときを除く)、保佐開始・補助開始の審判でも本人の陳述を聴かなければならないと定めています(130条1項1号、139条1項1号)。また、後見開始・保佐開始・補助開始の申立ては、審判の前でも家庭裁判所の許可がなければ取り下げられません(後見開始は121条、保佐開始・補助開始は同条を準用する133条・142条。成年後見の申立ては取り下げられる?)。
段階③で「用意してあった備え」との関係も押さえておきたい点です。任意後見契約が登記されている場合、家庭裁判所が後見開始の審判等をできるのは、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限られます(任意後見契約法10条1項)。本人が元気なうちに自分で用意した備えが重んじられる仕組みです。
本文で触れた、財産管理等委任契約と任意後見契約をあわせて結んでおく使い方については、注意したい点も指摘されています。現行の民法は、本人(委任者)の意思能力の喪失を、委任の終了事由(民法653条)や代理権の消滅事由(民法111条)としておらず、民法の解釈上も、本人の意思能力が失われた後も任意代理人の代理権は存続すると解されています。しかし、判断能力の低下した本人が自ら代理人の活動を監督することは難しく、このことが、判断能力が低下した後の代理人に公的な監督を付ける仕組みとして任意後見制度が設けられた理由とされています(公益社団法人商事法務研究会「成年後見制度の在り方に関する研究会報告書」〔令和6年2月〕4頁)。また、本人の判断能力が十分でなくなっても任意後見監督人の選任の申立てがされない場合があり、委任契約があることがその要因の一つになっていると考えられることが、成年後見制度の見直しの検討の過程で問題として挙げられていました(同報告書13〜15頁)。
期間について、前述の概況では、成年後見関係事件の終局事件のうち2か月以内に終局したものが約71.1%でした。費用と期間の詳細は成年後見の申立てにかかる費用と期間をご覧ください。
令和8年法律第45号による見直しは、次のように分けて整理できます。
- 決まっていること:後見と保佐を廃止して補助に一元化し、本人にとって必要な範囲で利用できるようにすることなどが内容です(法務省の案内)。改正後の民法7条2項は、本人以外の請求による補助開始には本人の同意が必要としつつ、本人が意思を表示できない場合を例外としています。経過措置として、施行日前にされた後見開始の請求で施行日前に審判が確定していないものは、施行日以後は補助開始の請求とみなされます(附則2条8項)。同じ法律で任意後見契約に関する法律も改正され、任意後見契約は、任意後見監督人が選ばれた時からではなく、家庭裁判所の「任意後見開始の審判」がされた時から効力が生じる仕組みに改められます(改正後の同法2条1号・5条1項)
- まだ決まっていないこと:成年後見制度の見直し部分の施行日は、公布の日(2026年6月24日)から2年6月を超えない範囲内で政令で定める日とされ、執筆時点では決まっていません。申立ての審理中に施行日を迎えると扱いが変わりうるため、申立ての時期によっては施行日の動きにも注意が必要です
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。
- 民法 第3条の2・第7条・第11条・第15条・第17条・第111条・第653条・第858条・第876条の9(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)による改正後の民法 第7条・第111条・第653条、同法附則第1条・第2条(e-Gov法令検索・未施行の改正後条文。URLに含まれる日付はe-Gov法令検索の整理上の日付で、施行日ではありません): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089_20281223_508AC0000000045
- 任意後見契約に関する法律 第2条・第3条・第4条・第10条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000150
- 令和8年法律第45号による改正後の任意後見契約に関する法律 第2条・第5条・第7条(e-Gov法令検索・未施行の改正後条文): https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000150_20281223_508AC0000000045
- 信託法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
- 相続税法 第9条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 家事事件手続法 第120条・第121条・第130条・第133条・第139条・第142条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052
- 成年後見制度の利用の促進に関する法律 第3条・第11条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/428AC1000000029
- 介護保険法 第115条の45・第115条の46(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123
- 社会福祉法 第2条第3項第12号(現行、および社会福祉法等の一部を改正する法律〔令和8年法律第51号〕による改正後・未施行の条文と同法附則第1条)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000045
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月~12月)」: https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf
- 裁判所「家事手続案内」: https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_02-01/index.html
- 京都家庭裁判所「家事手続案内」: https://www.courts.go.jp/kyoto/saiban/tetuzukiannai/index.html
- 裁判所「成年後見制度」(診断書・本人情報シートの書式): https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_09_02/index.html
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/chiiki-fukusi-yougo/index.html
- 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」(令和7年3月): https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf
- 一般社団法人全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方」(2021年2月18日): https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news330218.pdf
- 公益財団法人生命保険文化センター「指定代理請求制度って、どんな制度なの?」: https://www.jili.or.jp/knows_learns/q_a/life_insurance/169.html
- 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート: https://legal-support.or.jp/
※ 次の資料は一次情報ではなく、研究会の報告書という二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 公益社団法人商事法務研究会「成年後見制度の在り方に関する研究会報告書」(令和6年2月・法務省ウェブサイト掲載〔法制審議会民法(成年後見等関係)部会参考資料1〕): https://www.moj.go.jp/content/001417182.pdf