この記事の要点
- 指定代理請求とは、被保険者(保険の対象になっている人)が病気やけがで保険金などを請求できないときに、あらかじめ指定された家族が本人に代わって請求できる仕組みです
- 対象になるのは、主に本人が受取人になっている入院給付金・高度障害保険金・介護保険金などです。死亡保険金を受け取るための仕組みではありません
- 指定できる家族の範囲や対象になる給付は、保険会社・契約ごとに異なります
- 代わりに請求して受け取ったお金は、本人(被保険者)の財産です
- まずは保険証券や契約内容のお知らせを見て、指定代理請求人が決められているかを確認し、分からない点は保険会社(担当の募集人)に問い合わせましょう
結論から言うと、指定代理請求は「本人が受け取るはずの保険金を、本人が請求できない状態になったときに、決められた家族が代わりに請求する」ための仕組みです。親が入院給付金や介護保険金の出る保険に入っていても、親自身が請求の手続きをできなくなると、せっかくの保険金を受け取れない場面が出てきます。そうした場面に備えて、誰が代わりに請求できるのかを契約の中で決めておく、というのがこの制度の考え方です。
この記事では、公益財団法人生命保険文化センターが公表している解説に沿って、制度の一般的な内容を整理します。なお、本記事は執筆時点(2026年10月)の情報に基づく一般的な解説です。実際の取扱いは保険会社や契約ごとに異なるため、必ずご自身の契約内容を保険会社に確認してください。
指定代理請求とはどんな仕組みか
生命保険では、入院給付金や手術給付金のように、被保険者本人が受取人になっている給付がたくさんあります。受取人が本人である以上、請求の手続きも本人がするのが原則です。
ところが、病気やけがで意思を伝えられない状態になったり、治療上の理由で本人に病名が伝えられていなかったりすると、本人が自分で請求することが難しくなります。そこで、契約者(保険料を払って契約を結んでいる人)が、あらかじめ代わりに請求できる人(指定代理請求人)を決めておくと、その人が本人に代わって請求できる、というのが指定代理請求の仕組みです。
生命保険文化センターの解説によると、一般的なポイントは次のとおりです。
- 指定代理請求人を決めるのは契約者で、決めるときには被保険者の同意が必要です
- 一般的には「指定代理請求特約」という特約を契約に付ける形で指定し、この特約の保険料は不要とされています。保険会社によっては、特約ではなく、契約の際に保険金の受取人とあわせて指定する方法をとっているところもあります
- 契約の途中からでも、被保険者の同意を得て、指定したり変更したりできるとされています
親の口座のお金を家族が動かすための銀行の「代理人」手続きについては、親の口座から介護費用を出すにはで整理しています。銀行の代理人は口座の手続き、指定代理請求は保険金の請求の手続き、というように、それぞれ別の仕組みです。
代わりに請求できるのは、どんなとき?
指定代理請求人が請求できるのは、本人に「特別な事情」がある場合に限られます。生命保険文化センターの解説では、ある保険会社の例として、次のような場合が挙げられています。
- 病気やけがのため、保険金などを請求する意思を表すことができないとき
- 治療上の都合で、病名や余命を知らされていないとき
- これらに準じる状態のとき
具体的にどのような状態が「特別な事情」にあたるかは、契約の約款(契約のルールを定めた書面)で決められています。本人が自分で請求できる状態であれば、本人が請求するのが原則です。
対象になる保険金・給付金
生命保険文化センターの解説によると、対象になるのは、保険会社によって異なるものの、主に被保険者本人が受取人になっている給付です。例として次のようなものが挙げられています。
- 入院給付金・手術給付金
- 高度障害保険金
- 特定疾病保険金
- リビング・ニーズ特約の保険金(医師から余命6か月以内と判断されたときに、死亡保険金の一部または全部を生きているうちに受け取れる特約)
- 介護保険金・介護年金
保険会社によっては、本人が受取人になっている満期保険金や年金も代わりに請求できるとされています。また、契約者と被保険者が同じ人の場合には、保険料の払い込みを免除してもらう手続きも代わりに請求できるとされています。
一方で、被保険者が亡くなったときの死亡保険金は、契約で決められた死亡保険金の受取人が請求するものです。指定代理請求は、本人が生きている間に、本人が受け取る給付を請求するための仕組みだと考えると分かりやすいでしょう。
指定できる家族の範囲は、契約によって異なる
誰を指定代理請求人にできるかは、保険会社・契約ごとに決められています。生命保険文化センターの解説では、ある保険会社の例として、次の範囲が挙げられています。
- 被保険者の戸籍上の配偶者
- 被保険者の直系血族(親・子・孫など)
- 被保険者と同居している、または生計を同じくしている3親等内の親族
同じ解説では、請求する時点でもこの範囲に入っている必要があるとされています。たとえば、指定した後に家族の状況が変わり、範囲から外れてしまった場合には、その人は請求できなくなるおそれがあります。範囲の決め方は保険会社によって違うため、ご自身の契約では誰が指定できるのかを、保険会社に確認してください。
受け取ったお金は「本人のお金」
指定代理請求人は、あくまで本人の代わりに請求の手続きをする人です。対象になる給付はもともと本人が受取人になっているものなので、支払われたお金は本人(被保険者)の財産です。請求の手続きをした家族のお金になるわけではありません。
本人の入院費や介護費用などに使う場合でも、本人のお金と家族自身のお金を混ぜずに、何にいくら使ったかを記録しておくと、後でほかの家族に説明しやすくなります。家族の間でお金の使い方をめぐって争いになっている、またはなりそうな場合は、弁護士にご相談ください。
税金の扱いは給付の種類で変わる
保険金や給付金に税金がかかるかどうかは、給付の種類や契約の形(契約者・被保険者・受取人の関係)によって扱いが変わります。生命保険文化センターの解説では、本人が受け取る入院給付金・手術給付金・高度障害保険金・特定疾病保険金・介護保険金・リビング・ニーズ特約保険金などは非課税とされる一方、本人が受け取った入院給付金などを使い切らないまま本人が亡くなった場合、残った分は本人の相続財産として相続税の対象になるとされています。具体的な扱いは、税理士または税務署にご確認ください。
知っておきたい注意点
生命保険文化センターの解説では、指定代理請求について次のような注意点が挙げられています。
- 保険会社は、代わりに請求されて支払ったことを、被保険者本人には連絡しないとされています。そのため、本人が知らないうちに保障の内容が変わったり、契約がなくなったりすることがあるとされています
- 支払いの後に、契約者や被保険者本人から保険会社に問い合わせがあった場合には、保険会社が回答せざるをえないこともあるとされています
- 指定代理請求人に選ばれた人には、どんなときに保険金が出るのか、自分が代わりに請求できることを、あらかじめ伝えておくことが勧められています
もう一つ大切なのは、指定代理請求は保険金などを請求するための仕組みだという点です。住所の変更や解約といった契約そのものの手続きは、指定代理請求とは別の話です。生命保険文化センターの解説によると、契約者が手続きの意思を表せない場合に、あらかじめ指定された代理人が住所変更や解約などの手続きをできる「保険契約者代理特約(制度)」を取り扱っている保険会社もありますが、取り扱いのない会社もあります。
指定代理請求人がいない・使えないときは
指定代理請求人が決められていない場合や、決められた人が請求できる範囲から外れてしまった場合には、指定代理請求は使えません。生命保険文化センターの解説では、そのようなときの請求の方法として、成年後見制度が挙げられています。成年後見制度は、判断能力が不十分になった人のために、家庭裁判所が選んだ成年後見人などが本人の財産を管理したり、本人に代わって手続きをしたりする制度です。
なお、成年後見制度については、後見と保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化することなどを内容とする「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が、2026年6月24日に公布されています。ただし、成年後見制度の見直しに関する部分の施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、執筆時点(2026年10月)ではまだ決まっていません。施行までは、現在の成年後見制度が使われます。
また、指定代理請求は保険金の請求のための仕組みで、本人の財産全体の管理を任せるものではありません。預貯金や不動産など、保険以外の財産も含めた将来の備えとしては、本人が元気なうちに自分で後見人になってもらう人を決めておく任意後見契約などの仕組みもあります。
親がどの保険会社と契約しているか分からない場合には、一般社団法人生命保険協会の「生命保険契約照会制度」で、認知判断能力が低下した方(医師の診断が必要です)を契約者または被保険者とする生命保険契約があるかどうかを、協会に加入している保険会社に一括して確認してもらう方法もあります。照会には所定の利用料がかかり、見つかった契約の内容の確認や保険金の請求は、各保険会社に直接行う必要があるとされています。
まとめ
指定代理請求は、本人が病気やけがで保険金などを請求できなくなったときに、あらかじめ指定された家族が代わりに請求できる仕組みです。対象は主に本人が受取人になっている入院給付金・高度障害保険金・介護保険金などで、代わりに請求して受け取ったお金は本人の財産です。指定できる家族の範囲や対象になる給付、使える条件は保険会社・契約ごとに異なります。
まずは保険証券や契約内容のお知らせで、指定代理請求人が決められているか、誰が指定されているかを確認し、分からない点は保険会社(担当の募集人)に問い合わせてください。指定代理請求が使えない場合の成年後見制度の利用や、保険以外の財産も含めた備え(任意後見契約など)を考えたいときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 指定代理請求人を決めるのに費用はかかりますか?
生命保険文化センターの解説では、指定代理請求特約の保険料は不要とされています。ただし、指定の方法や手続きの書類は保険会社ごとに異なるため、詳しくは保険会社にご確認ください。なお、親の保険契約の有無を生命保険協会の照会制度で調べる場合は、所定の利用料がかかります。
Q. いつまでに決めればよいですか?決めないまま本人が請求できなくなるとどうなりますか?
生命保険文化センターの解説では、契約の途中からでも、被保険者の同意を得て指定や変更ができるとされています。ただし、指定には本人(被保険者)の同意が必要なので、本人が意思を伝えられなくなってからでは手続きが難しくなるおそれがあります。指定代理請求人がいないまま本人が請求できなくなると、成年後見制度を利用して請求することを考える必要が出てくる場合があります。指定代理請求人がいないときにどのような手続きができるかは、まず保険会社に確認してください。また、保険金を請求する権利には期限(消滅時効)がある点にも注意が必要です。
Q. 家族だけで手続きできますか?どこに相談すればよいですか?
指定代理請求人の指定や変更、代わりに請求する手続きは、保険会社との間で行うものです。必要な書類や条件は保険会社ごとに異なるため、まずは保険会社のコールセンターや担当の募集人に確認してください。保険金の税金については税理士または税務署に、成年後見制度の利用や任意後見契約など保険以外の財産も含めた備えについてはお近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】病名や余命を本人に伝えていない場合の代理請求と、後から生じやすい「説明」の問題
ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文で紹介した「特別な事情」のうち、「治療上の都合で、病名や余命を知らされていないとき」は、ほかの場面と少し性質が違います。本人が意思を表せない場面とは違い、本人が会話や判断はできる状態のまま、家族が本人に代わって請求することがあるからです。そのため、お金や契約が本人の知らないところで動き、後になって「誰が、いつ、どう本人に説明するのか」という問題が残りやすい場面だといえます。
保険会社の側にも「慎重な対応」が求められている
一般社団法人生命保険協会の「保険金等の支払いを適切に行うための対応に関するガイドライン」(令和8年6月1日改正)は、請求された保険金以外にも支払える可能性が容易に判断できる給付が見つかった場合に請求を促す仕組みを整えることとする一方で、被保険者が病名を承知していない場合や、請求する人と被保険者が異なる場合などがあるため、請求の案内は事情に十分配慮して慎重に行う必要があるとしています。また、悪性新生物(がん)にかかった被保険者についての請求で、本人に告知がされていることが確認できない場合には、慎重な対応が必要としています。
もっとも、このガイドラインは各社が対応する際の参考として示されたもので、拘束力はないと明記されています。実際に、どの書類をどこへ送るのか、誰に電話をするのかといった扱いは、保険会社ごとに異なると考えられます。本人に病名や余命を伝えていない場合は、請求の前に、その事情と、書類の送り先や連絡の方法を保険会社に伝えて確認しておくと安心です。
請求した給付によっては、契約そのものが変わる
生命保険文化センターの解説では、代わりに請求されて支払ったことを保険会社は本人に連絡しない一方で、保障の内容が変わったり契約がなくなったりすることがあるとされています。この影響が特に大きくなりやすいのが、リビング・ニーズ特約です。
同センターの解説によると、リビング・ニーズ特約は、原因にかかわらず医師から余命6か月以内と判断された場合に、所定の範囲内で死亡保険金の一部または全部を生前に受け取れるもので、受取額からは、請求した保険金に対応する利息と半年分の保険料が差し引かれます。そして、死亡保険金の全額を生前に受け取ると、付けている医療関係の特約なども含めて契約が消滅するとされています。
つまり、本人に余命を伝えないまま代わりに請求すると、本人が知らないうちに、入院や手術に備えていたはずの保障まで含めて契約がなくなる場合があるということです。また、死亡保険金を前払いで受け取る仕組みである以上、死亡保険金の受取人として決められている家族が後で受け取る額にも関わります。指定代理請求人と死亡保険金の受取人が別の家族である場合には、請求の前に家族の間で事情を共有しておかないと、後で行き違いが生じやすくなります。どの給付を請求すると契約がどう変わるかは、請求の前に保険会社に確認してください。
本人が後から知るきっかけもある
本文で触れたとおり、支払いの後に本人から保険会社に問い合わせがあれば、保険会社が回答せざるをえないこともあるとされています。また、生命保険協会の「高齢者向けの生命保険サービスに関するガイドライン」(令和5年6月2日改正)は、定期的に送るお知らせなどで、契約内容や支払手続の内容を確認する機会を設けることを各社に望ましい取組みとして挙げています。本人が契約者であれば、こうしたお知らせを通じて保障の変化に気づくことも考えられます。
そのため、代わりに請求する前に、家族の間で次の点を整理しておくと、後で本人やほかの家族に説明しやすくなります。
- 誰が請求の手続きをするのか(指定代理請求人)と、死亡保険金の受取人は誰か
- 請求する給付によって、保障や契約がどう変わるのか(保険会社に確認した内容)
- 受け取ったお金を何にいくら使ったか(本文のとおり、受け取ったお金は本人の財産です)
- 本人が後で事情を知ったとき、または病名や余命を伝える方針に変わったときに、誰がどう説明するか
加入の段階から「請求する人」が関わることが想定されている
同じ「高齢者向けの生命保険サービスに関するガイドライン」は、高齢者が保険に加入するときに家族などが同席する取組みについて、請求時の手続きをスムーズにする観点から、同席者は指定代理請求人や死亡保険金の受取人、子などが望ましいとしています(高齢者の生活環境などを踏まえた柔軟な対応を妨げるものではない、との留保つきです)。また、受取人が請求できない場合に備えて、法定後見制度の活用に加え、指定代理請求人や推定相続人による手続きなど、本人に代わる人が請求・受取をできる方法を整えることを各社に望ましい取組みとして挙げています。
指定代理請求人に選ばれた家族が、どんなときに何を請求できるのかを知らないままでは、いざというときに請求自体に気づけないおそれがあります。本人が元気なうちに、契約の内容と指定代理請求人が誰かを家族で共有しておくこと、そして指定代理請求人がいない場合にどのような手続きが用意されているかを含めて、契約内容を保険会社(募集人)に確認しておくことが基本です。成年後見制度を使う場合の手続きや、保険以外の財産を含めた備えについては、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。
- 公益財団法人生命保険文化センター「指定代理請求制度って、どんな制度なの?」(生命保険に関するQ&A): https://www.jili.or.jp/knows_learns/q_a/life_insurance/169.html
- 公益財団法人生命保険文化センター「リビング・ニーズ特約」(特約の種類): https://www.jili.or.jp/knows_learns/kind/special/9259.html
- 公益財団法人生命保険文化センター「保険金・給付金を受け取るとき、税金はどうなる?」(生命保険と税金): https://www.jili.or.jp/knows_learns/basic/tax/62.html
- 一般社団法人生命保険協会「保険金等の支払いを適切に行うための対応に関するガイドライン」(令和8年6月1日改正): https://www.seiho.or.jp/activity/guideline/pdf/payment.pdf
- 一般社団法人生命保険協会「高齢者向けの生命保険サービスに関するガイドライン」(令和5年6月2日改正): https://www.seiho.or.jp/activity/guideline/pdf/elderly.pdf
- 一般社団法人生命保険協会「生命保険契約照会制度」: https://www.seiho.or.jp/contact/inquiry/
- 法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 保険法 第95条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/420AC0000000056
※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 北澤哲郎「損害保険契約の約款に規定されている代理請求制度に基づく保険金請求の有効性」(保険法・判例研究72)共済と保険2018年7月号22〜29頁(一般社団法人日本共済協会): https://www.jcia.or.jp/publication/pdf/hanrei_72.pdf