この記事の要点
- 登記が終わった後に誤りや無効が分かったときの直し方は、主に抹消(消す)・更正(直す)・真正な登記名義の回復(本当の持ち主へ名義を戻す)の3つです。
- 見分けの軸は、①誤りが登記した時点からあったか、②直した後も同じ登記といえるかの2つです。名前の字や持分の割合のように一部だけ直せば足りるなら更正、登記そのものが成り立たないなら抹消が基本です。
- 抹消には、抵当権を持つ銀行など登記上の利害関係を有する第三者の承諾が必要です(不動産登記法68条)。承諾が得られない場合などに、名義を移す形で直す「真正な登記名義の回復」が使われることがあります。
- 登録免許税は、抹消が不動産1個につき1,000円、名前・住所の更正も1個につき1,000円です。真正な登記名義の回復は、不動産の価額の1000分の20で扱われると考えられます。
- 相手が協力しない、権利が誰のものかで争いがある、という場合は訴訟が必要になることがあり、弁護士への相談が必要です。
登記簿を見たら名義や内容が事実と違っていた──そんなとき、「登記を直す」方法は一つではありません。結論から言うと、登記が終わった後の直し方は、次の3つに分かれます。
| 手段 | ひとことで言うと | 主に使う場面 |
|---|---|---|
| 更正(こうせい)の登記 | 登記の一部を直す | 名前の字・住所・持分の割合など、登記の一部に最初から誤りがあった |
| 抹消(まっしょう)の登記 | 登記を消す | 書類の偽造や無効な契約など、登記そのものが最初から成り立たない |
| 真正な登記名義の回復 | 本当の持ち主へ名義を戻す(移転の形) | 登記名義が本当の持ち主と違うが、抹消によらずに名義を移す形で直す |
どれを使うかは、「何が・いつから・どこまで違っているのか」によって決まります。以下、順に見ていきます。なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の法令に基づく一般的な解説です。
まず確認:「申請中」の話か、「登記が終わった後」の話か
この記事で扱うのは、登記が完了した後に誤りや無効が分かった場合です。
申請した後、登記が終わる前に書類の不備が見つかった場合は、補正(その場での訂正)・取下げ・却下の問題になり、ここで説明する3つの手段とは場面が違います(申請中の取下げと却下の違いは、末尾の「あわせて読みたい」の記事で整理しています)。
また、登記が終わった後の話でも、次の2つは別の問題です。
- 登記の後に事実が変わった場合(引っ越しや結婚で住所・名前が変わった場合など)は、更正ではなく「変更の登記」を使います。不動産登記法は、変更の登記を「登記事項に変更があった場合」に、更正の登記を「登記事項に錯誤又は遺漏があった場合」にする登記と定めています(不動産登記法2条15号・16号)。錯誤(さくご)は誤り、遺漏(いろう)は書き漏らしのことです。見分け方は、登記の『更正』と『変更』はどう違う?で整理しています。
- 住宅ローンを完済して抵当権が消えた場合のように、権利が後から消えたことを登記に反映するための抹消もあります。こちらは「誤りを直す」話ではないので、この記事では扱いません。
手段1:更正の登記──登記の一部を「直す」
更正の登記は、登記した時点からあった誤りや書き漏らしを、正しい内容に訂正する登記です(不動産登記法2条16号)。たとえば次のような場合です。
- 住民票では「斎藤」なのに、登記簿に「斉藤」と記録されていた
- 夫婦で2分の1ずつ買ったのに、持分が3分の2と3分の1で登記されていた
ポイントは、すでにある登記を前提に、その中身の一部を直すという性格です。そのため、直した後も「同じ登記」といえる範囲でしか使えないとされています(最高裁判所第一小法廷 平成12年1月27日判決、集民196号239頁は、更正登記は「更正の前後を通じて登記としての同一性がある場合に限り認められる」としています)。たとえば、A名義の登記を、まったく別のB名義に丸ごと入れ替えるような直し方は、原則として更正の登記ではできないとされ、抹消など別の手段によることになります(同判決の判例研究である渡邊拓「いわゆる中間省略相続登記の更正方法に関する事例」法政研究〔静岡大学〕6巻3・4号738〜739頁〔2002年〕も、更正の前後で同一性を失う場合は抹消登記によるべきとされていること、登記名義人を取り違えた場合は原則として更正が認められないことを紹介しています)。
申請する人は、直す内容によって違います。
- 名前・住所の誤り:登記名義人(登記簿に所有者などとして載っている人)が単独で申請できます(不動産登記法64条1項)。
- 持分など権利の内容の誤り:持分が増える人と減る人が共同で申請するのが原則です(同法60条)。持分が減る人の持分に抵当権がついているなど、登記上の利害関係を有する第三者がいる場合は、その承諾が問題になります(同法66条)。
更正登記の手順・添付書類・どこまで直せるかの詳しい整理は、登記の「更正登記」とは──名前の字・住所・持分を間違えて登記してしまったときの直し方で解説しています。
手段2:抹消の登記──登記を「消す」
抹消の登記は、事実と合わない登記を消して、その登記がされる前の状態に戻す方法です。たとえば次のような場合が考えられます。
- 書類を偽造されて、知らないうちに他人の名義に移されていた
- 実際には売買も贈与もしていないのに、売買を原因とする登記がされていた
いずれも、登記そのものが最初から成り立っていない場面です。一部を直すだけでは済まないので、更正ではなく抹消を考えることになります。抹消した後に、必要に応じて正しい内容の登記を改めて申請する、という流れが基本です。
これに対し、相続人の一部が参加していない(無効な)遺産分割協議にもとづいて、相続人の一人の名義で相続登記がされていた場合のように、登記名義人自身も相続人として持分を持っているときは、その登記は名義人の持分の範囲では事実と合っています。最高裁判所は、共同相続した不動産について相続人の一人が勝手に単独名義の登記をした場合に、他の相続人が求めることができるのは、自分の持分についての一部抹消(更正)登記手続であって、登記の全部抹消を求めることは許されない、としています(最高裁判所第二小法廷 昭和38年2月22日判決、民集17巻1号235頁)。この判決の考え方に照らすと、無効な遺産分割協議にもとづく登記の場面でも、抹消ではなく更正が検討の対象になると考えられます(ただし、場合によっては全部抹消を認めるべきとした下級審判決もあると紹介されています。前記の渡邊・法政研究6巻3・4号743頁)。遺産分割協議が無効だった場合の抹消と更正の分かれ目は、末尾の「あわせて読みたい」に挙げた、遺産分割をやり直した場合の登記の記事で詳しく取り上げています。
抹消の壁──登記上の利害関係を有する第三者の承諾
抹消には、大きな壁が一つあります。権利に関する登記の抹消は、登記上の利害関係を有する第三者がいる場合には、その第三者の承諾があるときに限り申請することができます(不動産登記法68条)。
たとえば、偽造で名義を得た人が、その不動産に銀行の抵当権を設定していたとします。この名義を抹消しようとすると、抵当権を持つ銀行の承諾が必要になります。銀行が承諾しない場合は、承諾に代えて、その銀行に対抗できる裁判があったことを示す情報を提供する必要があり(不動産登記令 別表26の項 添付情報欄ト)、裁判手続が前提になります。
手段3:真正な登記名義の回復──本当の持ち主へ名義を「戻す」
真正な登記名義の回復(しんせいなとうきめいぎのかいふく)は、登記名義が本当の持ち主と違っているときに、間違った名義を消すのではなく、間違った名義人から本当の持ち主へ所有権を移転する登記の形で名義を戻す方法です。登記簿には、登記の原因として「真正な登記名義の回復」と記録されます。
最高裁判所も、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があったのに、別の相続人が自分への所有権移転登記をしていた場合について、遺言執行者は、その登記の抹消登記手続のほか、本来受け継ぐべき相続人への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができる、としています(最高裁判所第一小法廷 平成11年12月16日判決、民集53巻9号1989頁)。
なお、この方法については、学説では、登記簿の記載が権利の動き(物権変動)の過程を反映していないと、取引をしようとする人が権利関係を調べにくくなることなどを理由に、無効な登記は抹消によって直すべきで移転の形はとれないとする見解が通説とされてきました。一方で、判例・実務はこれを認めてきており、判決による場合に限って認める見解や、原則として認める見解も有力になりつつある、と2002年の判例研究で紹介されています(前記の渡邊・法政研究6巻3・4号741〜742頁)。
抹消ではなく移転の形をとるので、抹消のときのような第三者の承諾(不動産登記法68条)を求められる場面には当たりません。抹消に必要な承諾が得られない場合などに使われるのはこのためです。ただし、注意点が2つあります。
- 第三者の登記は消えない:間違った名義人の時代に設定された抵当権などの登記は、登記簿の上ではそのまま残ります。その抵当権をどう扱うかは別の問題で、争いになることもあります。
- 実際にあった取引を飛ばすためには使えない:所有権が「元の持ち主→中間の人→いまの持ち主」と順番に移っているのに、登記名義が元の持ち主のまま残っている場合に、中間の人を飛ばして、元の持ち主からいまの持ち主へ真正な登記名義の回復で一気に名義を移すことは許されない、とされています(最高裁判所第一小法廷 平成22年12月16日判決、民集64巻8号2050頁)。この場合は、実際に起きた順番どおりに登記をします。
贈与・売買との違いや、使えない場面のくわしい整理は、真正な登記名義の回復とは──本当の持ち主に名義を戻す登記と、贈与・売買との違いで解説しています。
3つの手段の使い分け──確認する順番
ここまでの内容を、確認する順番に並べると次のようになります。
- その食い違いは、登記した時点からあったか 登記の後に事実が変わったのなら「変更の登記」、権利が後から消えたのなら、その消滅を反映する抹消の話です。登記した時点から食い違っていた場合に、次へ進みます。
- 一部を直せば、同じ登記として正しくなるか 名前の字・住所・持分の割合など、一部の訂正で足りるなら更正の登記を検討します。
- 登記そのものが成り立たないなら、抹消が基本 名義人がまるごと違う、原因となった契約がなかった、といった場合は抹消の登記を考えます。登記上の利害関係を有する第三者がいれば、その承諾が必要です。
- 抹消によらない直し方として、真正な登記名義の回復がある 抹消に必要な承諾が得られない場合などに、本当の持ち主へ名義を移す形で直す方法です。ただし、第三者の登記は残り、実際にあった取引を飛ばすことはできません。
どの手段になるかは、登記記録の内容と、実際に何があったか(事実関係)の両方で決まります。同じように見える場面でも結論が分かれることがあるため、申請の前に司法書士や法務局に確認してください。
なお、土地の面積(地積)や建物の床面積など、登記簿の表題部に記録された「表示の登記」の誤りを直すのは、土地家屋調査士の業務です。この記事の3つの手段は、所有者の名前や持分などの「権利の登記」の話です。
誰が申請するのか──相手が協力しないときは
権利に関する登記は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記によって利益を受ける人(登記権利者)と、不利益を受ける登記名義人(登記義務者)が共同で申請するのが原則です(不動産登記法60条)。持分の更正、抹消、真正な登記名義の回復は、いずれも原則としてこの共同申請によります。名前・住所の更正のように、一人で申請できる例外もあります(同法64条1項)。
相手方(いまの登記名義人など)が申請に協力しない場合は、その相手方に登記手続をするよう命じる確定判決を得れば、もう一方が単独で申請することができます(不動産登記法63条1項)。つまり、相手方の協力が得られない場合や、そもそも権利が誰のものかについて争いがある場合は、訴訟が必要になります。訴訟を起こすかどうか、その見通しについては、弁護士にご相談ください。
登録免許税の目安
登記を申請するときは、法務局に登録免許税を納めます。3つの手段の主な区分は次のとおりです(登録免許税法 別表第一・1号)。
| 手段 | 登録免許税 |
|---|---|
| 抹消の登記 | 不動産1個につき1,000円((十五)。同じ申請書で20個を超える不動産を抹消する場合は1件につき2万円) |
| 更正の登記(名前・住所) | 不動産1個につき1,000円((十四)) |
| 更正の登記(持分など権利の内容) | 区分の確認が必要(申請前に確認) |
| 真正な登記名義の回復 | 不動産の価額の1000分の20((二)ハ「その他の原因による移転の登記」として扱われると考えられる) |
(十四)の区分は、(一)から(十三)に掲げる登記などを除いているため、「更正の登記なら必ず1,000円」という作りにはなっていません。持分を直す更正の税額は、申請の前に司法書士や法務局に確認してください。また、真正な登記名義の回復は、相続でも共有物の分割でもないため、相続の税率(1000分の4)は使えないと考えられます。
登記の直し方とは別に、税金の問題が生じることがある
名義を直す過程で財産の行き先が実質的に変わる場合や、実際には贈与や売買にあたるのではないかと見られる場合には、贈与税や所得税(譲渡所得)が問題になる可能性があります。登記原因の名前を何にするかで税金が決まるわけではありません。税金の扱いは、税理士にご相談ください。
まとめ
登記が終わった後に誤りや無効が分かったときの直し方は、登記の一部を直す更正、登記を消して元に戻す抹消、本当の持ち主へ名義を移す形で戻す真正な登記名義の回復の3つです。まず、食い違いが登記した時点からあったかを確かめ、一部の訂正で足りるなら更正、登記そのものが成り立たないなら抹消が基本になります。抹消には登記上の利害関係を有する第三者の承諾が必要で、承諾が得られない場合などに真正な登記名義の回復が使われますが、第三者の登記は残り、実際にあった取引を飛ばすことはできません。
どの手段になるかは、登記記録と事実関係によって変わり、登録免許税も大きく違います。登記簿の名義や内容が事実と違っていると気づいたら、登記事項証明書と経緯が分かる資料をそろえて、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 抹消や更正には、どのくらい費用がかかりますか?
法務局に納める登録免許税は、抹消の登記が不動産1個につき1,000円、名前・住所の更正の登記も不動産1個につき1,000円です(登録免許税法 別表第一・1号(十五)・(十四))。持分など権利の内容を直す更正は、課税の区分を申請前に確認する必要があります。真正な登記名義の回復は、不動産の価額の1000分の20で扱われると考えられます。このほか、証明書の取得費用や司法書士の報酬がかかり、裁判が必要になる場合は裁判の費用や弁護士費用が別にかかります。
Q. いつまでに直さなければならないなど、期限はありますか?放っておくとどうなりますか?
不動産登記法には、抹消・更正・真正な登記名義の回復について「何年以内に申請しなければならない」という申請期限の定めは見当たりません。なお、これとは別に、所有者として登記されている人の名前や住所が後から変わったときの「変更の登記」は、2026年4月1日から、変更があった日から2年以内に申請することが義務になっています(不動産登記法76条の5。それより前に変わっていた場合は2028年3月31日まで=民法等の一部を改正する法律〔令和3年法律第24号〕附則5条7項)。抹消・更正などに期限の定めがなくても、名義が事実と違ったままだと、登記上の名義人がその不動産を売ったり担保に入れたりするおそれがあり、そうなると承諾を得なければならない相手が増えたり、名義を取り戻すための話し合いや争いが複雑になったりします。気づいた時点で早めに動くことが大切です。
Q. 自分で申請できますか?どこに相談すればよいですか?
名前・住所の更正の登記は登記名義人が単独で申請できるので(不動産登記法64条1項)、ご本人が申請することも制度上は可能です。一方、抹消・更正・真正な登記名義の回復のどれを使うか、第三者の承諾が必要かなどは判断を誤りやすいため、登記の手続きについてはお近くの司法書士にご相談ください。相手が協力しない場合や権利の帰属に争いがある場合は弁護士に、贈与税や譲渡所得など税金の扱いは税理士に、土地の面積や建物の床面積など表示の登記の誤りは土地家屋調査士にご相談ください。
【さらに深掘り】消された登記を元に戻す「抹消された登記の回復」と、登記官の過誤による職権の更正
ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文では、登記を「消す」「直す」「戻す」の3つの手段を説明しました。ここでは、本文で触れなかった2つの場面、(1) いったん抹消された登記を元に戻す「抹消された登記の回復」(不動産登記法72条)と、(2) 誤りが登記官の過誤によるときの職権による更正(同法67条)を、条文と判例にそって整理します。更正の登記で直せる範囲(登記の同一性)や、真正な登記名義の回復の申請書・判決による申請については、末尾の「あわせて読みたい」に挙げた各記事の【さらに深掘り】で扱っているので、ここでは繰り返しません。
1. 抹消された登記の回復──消された登記を「元に戻す」手続
本文の3つの手段は、いずれも「いまある登記」が事実と違う場面の話でした。これとは逆に、本来消されるべきでなかった登記が抹消されてしまった場面もあります。たとえば、抵当権の登記が、抵当権者の知らないうちに偽造された書類で抹消されていた、という場合です。
このような場合のために、不動産登記法は「抹消された登記の回復」という専用の手続を置いています。抹消された登記(権利に関する登記に限ります)の回復は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、その第三者の承諾があるときに限り申請することができます(不動産登記法72条)。回復の登記をするときは、登記官は、回復の登記をした後、抹消に係る登記と同一の登記をします(不動産登記規則155条)。新しく設定の登記をし直すのではなく、抹消される前と同じ内容の登記を登記記録の上でよみがえらせる仕組みです。
申請の骨格は、不動産登記令の別表27の項に定められています。
- 申請情報:回復する登記の登記事項
- 添付情報:登記原因を証する情報(イ)。登記上の利害関係を有する第三者があるときは、その第三者が作成した承諾を証する情報、またはその第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報(ロ)。その第三者が抵当証券の所持人・裏書人であるときは、その抵当証券(ハ)
回復の登記の申請人について、法令に特別の定めは見当たりません。権利に関する登記は、法令に別段の定めがある場合を除き共同申請が原則とされているため(不動産登記法60条)、回復の登記も、回復によって利益を受ける人と不利益を受ける登記名義人との共同申請が基本になると考えられます(条文の構造からの推論です)。
2. 回復の登記と第三者の承諾──抹消のされ方で結論が分かれうる
回復の登記で「登記上の利害関係を有する第三者」になりうるのは、たとえば、抹消された後に同じ不動産について登記を受けた人です。その人が承諾しないとき、承諾を求めることができるかについて、最高裁判所は次のように判断しています。
- 不法に抹消された場合:最高裁判所第二小法廷 昭和39年7月10日判決(民集18巻6号1110頁)は、登記は物権の対抗力発生の要件であって、この対抗力は法律上消滅事由の発生しない限り消滅しないとする判例(最高裁判所第二小法廷 昭和36年6月16日判決、民集15巻6号1592頁)を引いたうえで、強制競売の申立ての記入登記が申立人の知らない間に不法に抹消された事案について、申立人は、登記上利害の関係のある第三者に対しても、回復登記の手続について承諾をするよう請求することができる、としました。その理由として、回復登記によって「もともとあるべき姿にもどるのみ」であって、第三者が実体上損失を受けることにはならないから、第三者は実体関係に合わせるための回復登記手続に対する承諾を拒むことはできない、と述べています。なお、ここで引用された昭和36年判決自体も、抵当権設定登記が抵当権者の知らない間に不法に抹消された場合に、登記上利害の関係を有する第三者は、抵当権者のする回復登記手続に必要な承諾を拒むことはできない、としたものです。
- 権利者側の過誤による申請で抹消された場合:これに対し、最高裁判所第二小法廷 昭和42年9月1日判決(民集21巻7号1755頁)は、抵当権者から委任を受けた者の過誤による申請によって抵当権設定登記が抹消された場合には、その抵当権の対抗力は消滅する、としています。
この2つの判決を並べると、抹消された登記の効力(対抗力)が残っているといえるか、ひいては第三者に回復の登記への承諾を求められるかは、その抹消がどのようにして起きたのか(権利者の知らないところで不法にされたのか、権利者側の申請によってされたのか)によって結論が分かれうることが分かります(両判決の判示からの整理です。昭和42年判決の判示事項は対抗力が消えるかどうかで、回復の登記への承諾そのものを判示事項としたものではありません。個別の事案がどちらに当たるかは、事実関係によります)。
第三者が承諾しない場合は、前記の別表27の項ロのとおり、承諾に代えて「その第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報」を提供することになり、裁判手続が前提になります。承諾を求める訴訟を起こすかどうか、その見通しについては、弁護士にご相談ください。
3. 誤りが登記官の過誤によるとき──職権による更正(67条)
本文で説明した更正の登記は、当事者が申請するものです。これとは別に、登記の誤りが登記官の過誤によって生じた場合には、登記官が自ら直す仕組みがあります。
- 登記官は、権利に関する登記に錯誤または遺漏があることを発見したときは、遅滞なく、その旨を登記権利者と登記義務者(いない場合は登記名義人)に通知しなければなりません(不動産登記法67条1項)。
- その錯誤または遺漏が登記官の過誤によるものであるときは、登記官は、遅滞なく、監督する法務局または地方法務局の長の許可を得て、登記の更正をしなければなりません(同条2項本文)。
- ただし、登記上の利害関係を有する第三者がある場合は、その第三者の承諾があるときに限られます(同条2項ただし書)。更正をしたときは、その旨が登記権利者と登記義務者に通知されます(同条3項)。
つまり、申請した内容は正しかったのに、登記記録に記録する段階で誤りが生じたのであれば、当事者が更正の登記を申請するのではなく、職権による更正の対象になります。一方、申請書に書いた内容そのものが誤っていた場合は、条文上の「登記官の過誤」には当たらず、当事者が更正の登記を申請することになると読めます(条文の文言からの読みです)。登記記録の誤りに気づいたときは、手元に残っている申請書の控えと登記記録を照らし合わせ、誤りが申請の段階のものか記録の段階のものかを確かめたうえで、管轄の法務局に確認するのが出発点になります。
4. 第三者の承諾を定める条文の一覧と、回復の登記の登録免許税
本文の3つの手段とこの節の2つの手続について、登記上の利害関係を有する第三者の承諾を定める条文と、承諾が得られないときに承諾に代えて提供できる情報を並べると、次のとおりです。
| 手続 | 第三者の承諾を定める条文 | 承諾に代えて提供できる情報 |
|---|---|---|
| 更正の登記(申請) | 不動産登記法66条(承諾があるときなどに、付記登記によってすることができる) | 第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報(不動産登記令 別表25の項 添付情報欄ロ) |
| 抹消の登記 | 同法68条(承諾があるときに限り申請できる) | 同上(同別表26の項 添付情報欄ト) |
| 抹消された登記の回復 | 同法72条(承諾があるときに限り申請できる) | 同上(同別表27の項 添付情報欄ロ) |
| 登記官の過誤による職権の更正 | 同法67条2項ただし書(承諾があるときに限る) | ―(申請ではなく職権による手続) |
回復の登記の登録免許税について、登録免許税法 別表第一・1号(十四)は、「抹消された登記の回復の登記」を、付記登記や更正・変更の登記と並べて、不動産1個につき1,000円としています。ただし、本文の更正の登記と同じく、(十四)は(一)から(十三)までに掲げる登記などを括弧書きで除いているため、個別の申請で税額がいくらになるかは、申請の前に管轄の法務局で確認しておくのが確実です。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。
- 不動産登記法 第2条・第60条・第63条・第64条・第66条・第67条・第68条・第72条・第76条の5(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条第7項(e-Gov法令検索・不動産登記法に収録の改正附則): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 別表25の項・26の項・27の項(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 不動産登記規則 第155条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 登録免許税法 別表第一 第1号(二)・(十四)・(十五)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 土地家屋調査士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000228
- 最高裁判所第一小法廷 平成12年1月27日判決(集民196号239頁・更正登記の同一性)(裁判所ウェブサイト): https://www.courts.go.jp/hanrei/62425/detail2/index.html
- 最高裁判所第二小法廷 昭和38年2月22日判決(民集17巻1号235頁・共同相続人の一人による単独名義の登記と一部抹消〔更正〕)(裁判所ウェブサイト): https://www.courts.go.jp/hanrei/53697/detail2/index.html
- 最高裁判所第一小法廷 平成11年12月16日判決(民集53巻9号1989頁・遺言執行者と真正な登記名義の回復を原因とする移転登記)(裁判所ウェブサイト): https://www.courts.go.jp/hanrei/57035/detail2/index.html
- 最高裁判所第一小法廷 平成22年12月16日判決(民集64巻8号2050頁・中間者を飛ばす真正な登記名義の回復の可否)(裁判所ウェブサイト): https://www.courts.go.jp/hanrei/80936/detail2/index.html
- 最高裁判所第二小法廷 昭和36年6月16日判決(民集15巻6号1592頁・不法に抹消された抵当権設定登記の回復と第三者の承諾義務)(裁判所ウェブサイト): https://www.courts.go.jp/hanrei/53630/detail2/index.html
- 最高裁判所第二小法廷 昭和39年7月10日判決(民集18巻6号1110頁・不法に抹消された強制競売申立の記入登記の回復と第三者の承諾義務)(裁判所ウェブサイト): https://www.courts.go.jp/hanrei/53853/detail2/index.html
- 最高裁判所第二小法廷 昭和42年9月1日判決(民集21巻7号1755頁・過誤による申請で抹消された抵当権設定登記と対抗力)(裁判所ウェブサイト): https://www.courts.go.jp/hanrei/55056/detail2/index.html
※ 次の資料は一次情報ではなく、判例研究(二次資料)ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 渡邊拓「いわゆる中間省略相続登記の更正方法に関する事例」法政研究(静岡大学)6巻3・4号733〜747頁(2002年)(静岡大学学術リポジトリ): https://doi.org/10.14945/00008842