この記事の要点

  • 後見開始の申立ては、審判(家庭裁判所の決定)が出る前であっても、家庭裁判所の許可がなければ取り下げられない(家事事件手続法第121条)
  • 同じ制限は、保佐・補助の開始の申立てや、任意後見監督人の選任の申立て(任意後見契約の効力を発生させるためのものなど)にも置かれている
  • 後見人を誰にするかは家庭裁判所が決める。家庭裁判所の案内では、「希望した候補者が選ばれそうにないから取り下げる」といった選任への不満を理由とする取下げは、本人の利益に配慮して許可されない可能性が高いと説明されている

「親に後見人をつけようと申し立てたけれど、やはりやめたい」と思っても、成年後見の申立ては自由に取り下げることができません。結論から言うと、審判が出る前でも家庭裁判所の許可が必要で、審判が出た後は取り下げ自体ができなくなります。本記事は、執筆時点(2026年09月)の制度に基づく一般的な解説です。

原則は「審判があるまで取り下げ自由」

家庭裁判所の手続き(家事審判)では、申し立てた人は、原則として審判があるまで申立ての全部または一部を取り下げることができます(家事事件手続法第82条第1項)。ただし、この条文には「特別の定めがある場合を除き」という断りが付いています。成年後見の申立ては、その「特別の定め」がある代表例です。

成年後見の申立ては「許可」が必要

家事事件手続法第121条は、次の申立てについて、審判がされる前であっても、家庭裁判所の許可を得なければ取り下げることができないと定めています。

  1. 後見開始の申立て
  2. 成年後見人が欠けたとき(成年後見人がいなくなったとき)の、後任の成年後見人の選任の申立て(民法第843条第2項)
  3. 辞任した成年後見人が、新たな成年後見人の選任を求める申立て(民法第845条・第843条第3項)

この規定は、保佐開始・保佐人の選任の申立て(家事事件手続法第133条)、補助開始・補助人の選任の申立て(同法第142条)にも準用(同じルールをあてはめること)されています。法定後見の3つの類型のちがいは法定後見の3類型『後見・保佐・補助』はどう違う?で解説しています。

また、任意後見(元気なうちに自分で後見人を決めておく契約)の場合も、契約の効力を発生させるための任意後見監督人の選任の申立てと、任意後見監督人が欠けた場合の選任の申立ては、審判がされる前であっても家庭裁判所の許可がなければ取り下げられません(同法第221条)。

なお、審判がされた後は、取り下げること自体ができません。前出の家事事件手続法第82条第1項も、取下げができるのを「審判があるまで」としており、後述する千葉家庭裁判所の「よくある質問」でも、審判後は申立ての取下げはできないと説明されています。

なぜ取り下げが制限されているのか

裁判所の案内では、申立書に候補者として書いた人が必ず後見人等に選ばれるわけではなく、事案に応じて弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれたり、複数の後見人等が選ばれたりする場合があると説明されています。

そのうえで、千葉家庭裁判所が公表している「よくある質問」では、推薦した候補者以外の人が選ばれることや、監督人が選ばれることへの不満を理由とする取下げは、本人の利益に配慮して許可されない可能性が高いと説明されています。成年後見の手続きは、判断能力が低下した本人を守るためのものです。申し立てた人の希望どおりにならないことを理由に手続きを自由に終わらせられるとすると、保護が必要な本人がそのまま取り残されかねません。条文そのものは趣旨を述べていませんが、取下げを申立人の判断だけに委ねず、家庭裁判所が本人の利益の観点から許可するかどうかを判断する仕組みになっているのは、こうした点に配慮したものと考えられます。

後見人を選ぶのは家庭裁判所

民法第843条第1項は、家庭裁判所が後見開始の審判をするときは「職権で」(申立人の希望に縛られず、裁判所自身の判断で)成年後見人を選任すると定めています。選任にあたっては、本人の心身の状態や生活・財産の状況、後見人となる人の職業・経歴、本人との利害関係の有無、本人の意見その他一切の事情を考慮しなければならないとされています(同条第4項)。後見人にどのような人が選ばれうるかは成年後見人には誰がなれる?もご覧ください。

申立て前に知っておきたいこと

申し立てる前には、次の点を家族で確認しておくことが大切です。

  • 候補者として書いた人が選ばれない場合があることを前提に、申立てをするかどうかを考える
  • 申立ての後に「やめたい」と思っても、自由には取り下げられない
  • 家庭裁判所から親族に対して、後見人等の候補者を伝えたうえで意向を確認する照会が行われる場合がある

なお、成年後見制度については、令和8年(2026年)6月24日公布の「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)により、後見と保佐の制度を廃止して「補助」の制度に一元化するなどの見直しが行われることになっており、成年後見制度の見直し部分の施行日は、公布の日から2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日とされています。施行後は、本記事で取り上げた家事事件手続法第121条・第221条や民法第843条などの規定も、改正後の内容に置き換わります。改正後の条文でも、補助開始の申立てや任意後見の開始の申立てなどについて、審判の前であっても家庭裁判所の許可がなければ取り下げられないとする定めは置かれていますが、対象となる申立ての名称や条文の内容は変わります。実際に申し立てる際は、その時点の制度をご確認ください。

まとめ

成年後見(後見・保佐・補助)の開始の申立てや、任意後見契約の効力を発生させるための任意後見監督人の選任の申立てなどは、審判の前であっても家庭裁判所の許可がなければ取り下げられず、審判の後は取り下げ自体ができません。後見人を誰にするかは家庭裁判所が本人の事情を踏まえて決めるものであり、家庭裁判所の案内では、希望した候補者が選ばれそうにないことなど選任への不満を理由とする取下げは、本人の利益に配慮して許可されない可能性が高いと説明されています。申立てを考えている場合は、制度の仕組みを理解したうえで、お近くの司法書士会や、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート等にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。

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