この記事の要点
- 任意後見監督人が選ばれる前なら、本人・任意後見受任者のどちらからでも、公証人の認証を受けた書面によって、いつでも解除できる(任意後見契約に関する法律9条1項)
- 任意後見監督人が選ばれた後は、本人・任意後見人のどちらからの解除も、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て行う(同条2項)
- 家庭裁判所が任意後見人をやめさせる「解任」(同法8条)は、当事者の意思で契約をやめる「解除」とは別の仕組み
任意後見契約は、結んだあとでもやめる(解除する)ことができます。ただし、その方法は、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任する前か後かで大きく変わります。選任の前は比較的簡単な手続きで解除できますが、選任の後は家庭裁判所の許可が必要になります。本記事は、執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。
分かれ目は「任意後見監督人が選ばれたかどうか」
任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力を生じる契約です(任意後見契約に関する法律2条1号)。法律は、選任の前の受任者を「任意後見受任者」、選任の後の受任者を「任意後見人」と呼び分けています(同条3号・4号)。契約から効力が生じるまでの流れは任意後見契約とはで解説しています。
解除のルールも、この「選任の前か後か」で分かれます。
選任の前──公証人の認証を受けた書面で、いつでも
任意後見監督人が選任される前は、本人または任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができます(同法9条1項)。条文上、解除の理由は要件とされていません。
ここで求められているのは「公証人の認証を受けた書面」です。口頭や、認証のない手紙・メールでの意思表示は、この条文が定める方式にあたりません。認証の受け方や必要なもの、費用などの具体的な手続きは、お近くの公証役場にご確認ください。
選任の後──正当な事由と家庭裁判所の許可が必要
任意後見監督人が選任された後は、本人または任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができます(同法9条2項)。
任意後見監督人は、本人の判断能力が精神上の障害により不十分な状況にあるときに選任されるもので(同法4条1項)、この段階では、すでに任意後見人が本人の代わりに事務を行っています。条文は、本人からの解除と任意後見人からの解除のどちらについても、正当な事由があることと家庭裁判所の許可を求めており、選任前のように当事者の意思だけで解除することはできません。「正当な事由」にどのような場合があたるかについて、条文は具体例を挙げていません。家庭裁判所が個別の事情をふまえて判断することになります。
「解除」と「解任」は別の仕組み
似た言葉に「解任」があります。任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、その親族または検察官の請求により、任意後見人を解任することができます(同法8条)。当事者の意思で契約をやめる解除と違い、解任は、請求を受けて家庭裁判所が判断する仕組みです。任意後見監督人の役割については後見監督人とは?もあわせてご覧ください。
解除のほかに契約が終わる場合
任意後見監督人が選任された後に、本人が後見開始・保佐開始・補助開始の審判を受けたときは、任意後見契約は終了します(同法10条3項)。また、任意後見契約は委任契約の一種と定義されているため(同法2条1号)、委任の終了事由を定めた民法653条(委任者または受任者の死亡、破産手続開始の決定、受任者が後見開始の審判を受けたこと)も関わってきます。
改正後は条文の番号と表現が変わります
2026年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)により、施行後は、解除の規定が任意後見契約に関する法律13条に移ります。区切りが「任意後見監督人が選任される前・後」から「任意後見開始の審判がされる前・後」に改められ、公証人の認証を受けた書面に加えて、公証人の認証を受けた電磁的記録による解除や、契約の一部だけの解除も定められています。このほか、この記事で触れた任意後見人の解任(現行8条)は改正後の12条に移って要件や請求できる人などが改められ、後見開始等の審判との関係を定める現行10条や、委任の終了事由を定める民法653条3号の規定も改められます。施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、執筆時点(2026年9月)では未施行です。
まとめ
任意後見契約の解除は、任意後見監督人の選任前なら本人・任意後見受任者のどちらからでも公証人の認証を受けた書面でいつでも、選任後は正当な事由がある場合に限り家庭裁判所の許可を得て行うことになります。本人の判断能力をめぐって意見が対立している場合や、家族間で争いになっている場合は、弁護士への相談が適しています。制度の利用や見直しを一般的に検討される場合は、お近くの司法書士会や、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートにご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月・いずれも一次情報です)。
- 任意後見契約に関する法律 第2条・第4条・第8条〜第10条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000150
- 民法 第653条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 任意後見契約に関する法律 改正後第12条〜第14条(令和8年法律第45号による改正後・未施行。e-Gov法令検索 法令データAPI): https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/411AC0000000150_20281223_508AC0000000045
- 民法 改正後第653条(令和8年法律第45号による改正後・未施行。e-Gov法令検索 法令データAPI): https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/129AC0000000089_20281223_508AC0000000045
- 任意後見契約に関する法律の改正履歴(令和8年法律第45号の公布日・施行期日。e-Gov法令検索 法令データAPI): https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_revisions/411AC0000000150
- 法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html