この記事の要点

  • 後見開始・保佐開始の審判では、家庭裁判所が本人の精神の状況について鑑定をするのが原則。ただし「明らかにその必要がないと認めるとき」は鑑定をしないで審判できる(家事事件手続法第119条第1項・第133条)
  • 補助開始の審判では、条文上は医師その他適当な者の意見を聴くこととされ、裁判所の手引では原則として鑑定によらない扱いと説明されている。ただし必要に応じて鑑定が行われることがある
  • 鑑定の費用は、当事者があらかじめ裁判所に納め、裁判所が金額を決めて鑑定人に支払う仕組み。最高裁判所の統計(令和7年)では、鑑定が行われた事件のうち、鑑定費用が10万円以下のものが約85.8%だった

成年後見の申立てでいう「鑑定」とは、家庭裁判所が専門家(鑑定人)を指定して、本人の精神の状況について判断してもらう手続です。後見と保佐では、法律上は鑑定をするのが原則とされていますが、明らかに必要がないと家庭裁判所が認めるときは省略されます。この記事は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。

申立てができる人や審判までの全体の流れは成年後見開始の申立てはどう進む?で、申立てに添える診断書・本人情報シートの役割は本人情報シートは誰が書く?で扱いました。この記事では「鑑定」そのものに絞って整理します。

後見・保佐では原則として鑑定が必要

家事事件手続法第119条第1項は、「家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。」と定めています。保佐開始の審判についても、同法第133条がこの規定を準用しています。

ここでのポイントは2つです。1つは、鑑定が原則であること。もう1つは、省略できるかどうか(「明らかにその必要がない」かどうか)を判断するのが家庭裁判所であることです。申立人や医師が「鑑定はいらない」と決めることはできません。

補助では「医師その他適当な者の意見」を聴く

補助開始の審判について、同法第138条は「家庭裁判所は、被補助人となるべき者の精神の状況につき医師その他適当な者の意見を聴かなければ、補助開始の審判をすることができない」と定めています。後見・保佐の「鑑定」とは条文の書き方が異なります。

裁判所ウェブサイトに掲載されている「成年後見制度における鑑定書作成の手引」(最高裁判所事務総局家庭局。平成12年1月に作られ、その後も改訂が重ねられている資料で、現在掲載されている版の改訂履歴には令和7年10月の修正まで記載されています)は、補助については原則として鑑定によらないこととされていると説明しつつ、必要に応じて鑑定が行われることがあり、その場合は裁判所が鑑定を行う必要があると判断したときに鑑定の手続がとられる、としています。補助なら鑑定は絶対にない、というわけではありません。

鑑定はどのように行われるか

同じ手引によると、後見開始・保佐開始の審判での鑑定は、裁判所が鑑定人を指定し、鑑定事項を定めて依頼する形で行われます。鑑定人に資格の限定はありませんが、本人の精神の状況について医学上の専門的知識を用いて判断するものなので、それにふさわしい者が選ばれるとされています。鑑定人は宣誓をしたうえで鑑定を行い、結果は鑑定書にして裁判所に提出するのが一般的です。

医学的にどのような点を見るかは鑑定人の専門領域であり、この記事では立ち入りません。

鑑定の費用と期間の目安

費用の仕組みについて、手引は、鑑定の費用(鑑定料のほか鑑定に要する費用を含む)は、当事者が裁判所にあらかじめ相当額を納付し、裁判所が鑑定の実施後に金額を決定して、裁判所から鑑定人に支払われると説明しています。

金額の目安としては、最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月~12月)」が参考になります。この資料の鑑定費用別割合では、5万円以下が約43.7%、5万円超え10万円以下が約42.1%、10万円超え15万円以下が約13.0%で、合わせて約85.8%の事件で鑑定費用が10万円以下でした(いずれも、鑑定が行われた事件の中での割合です)。鑑定の期間は、1か月以内が約52.6%と最も多くなっています。

同じ資料では、成年後見関係事件(後見開始・保佐開始・補助開始・任意後見監督人選任)の終局事件のうち、鑑定を実施したものは全体の約3.4%でした。この数字には、もともと原則として鑑定によらない補助開始などの事件も含まれていますが、同じ資料の終局区分別件数を見ると、終局事件の約9割は後見開始と保佐開始の事件ですので、後見・保佐でも、実際には「明らかにその必要がない」として鑑定をしないで審判される事件が多いことがうかがえます。ただし、これは全国の事件をまとめた統計です。個々の申立てで鑑定が行われるかどうかは家庭裁判所が事案ごとに判断し、費用の額も裁判所が決めるため、統計の数字がそのまま当てはまるとは限りません。

制度の見直しにご注意ください

令和8年(2026年)6月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)による成年後見制度の見直しでは、法務省の概要資料によると、後見・保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化し、判断能力を欠くのが通常の状態にある人(事理弁識能力を欠く常況にある人)については「特定補助」の仕組みを選べるようにすることとされています。鑑定について定める家事事件手続法第119条も見直しの対象で、同じ概要資料では、特定補助の仕組みを利用する際には、医師二人以上の意見を聴いたうえで、明らかに必要がないときは鑑定が不要とされています。

この見直しに係る部分が施行されると、ここで説明した後見・保佐・補助の区分や鑑定の扱いは変わることになります。成年後見制度の見直しに係る部分の施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、執筆時点では、法務省のページでも具体的な施行日はまだ示されていません。

まとめ

成年後見の鑑定は、家庭裁判所が鑑定人を指定して本人の精神の状況を判断してもらう手続です。後見・保佐では原則として鑑定が必要で、明らかに必要がないと家庭裁判所が認めるときに省略されます。補助は条文上「医師その他適当な者の意見」を聴く仕組みで、手引では原則として鑑定によらない扱いとされつつ、必要に応じて鑑定が行われることもあります。費用は当事者が事前に納め、統計上は鑑定が行われた事件の大半で10万円以下ですが、鑑定をするかどうかや費用の額は、個々の事件ごとに家庭裁判所が判断します。

申立てを考えるときは、申立て先の家庭裁判所の最新の案内を確認してください。制度の使い方で迷ったときは、お近くの司法書士や、お住まいの地域の司法書士会、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートなどの相談窓口にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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