この記事の要点
- 後見・保佐・補助は、開始の原因(判断能力の低下)がなくなったときは、請求を受けた家庭裁判所が開始の審判を取り消します(民法10条・14条1項・18条1項)
- 判断能力が回復したかどうかを判断するのは家庭裁判所です。後見と保佐の取消しでは、原則として医師の意見を聴くことが法律で定められています(家事事件手続法119条2項・133条)
- 取消しの審判は、成年後見人の辞任・解任や任意後見契約の解除とは別の手続です。取消しの後は、裁判所書記官の嘱託によって後見の登記に終了が記録されます
「いったん成年後見が始まったら、一生続くのでしょうか」と疑問に思う方もいるでしょう。結論からお伝えすると、本人の判断能力が回復して開始の原因がなくなれば、家庭裁判所の「後見開始の審判の取消し」によって成年後見を終わらせる仕組みが法律に用意されています。ただし、回復したかどうかを決めるのは家庭裁判所であり、家族や成年後見人の判断だけで終わらせることはできません。
※本記事は執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。
原因がなくなれば「取り消さなければならない」
民法10条は、「第七条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、……後見開始の審判を取り消さなければならない」と定めています。民法7条の原因とは、精神上の障害により事理を弁識する能力(物事の損得や結果を見分ける力)を「欠く常況」にあることです。条文は「取り消すことができる」ではなく「取り消さなければならない」という書き方なので、請求を受けた家庭裁判所が、原因がなくなったと認めれば、審判を取り消すことになります。保佐(民法14条1項)・補助(民法18条1項)も同じ組み立てです。3つの類型の違いは法定後見の3類型『後見・保佐・補助』はどう違う?で整理しています。
判断能力が完全には戻らず、後見までは要らないが保佐や補助が相当、という状態になることもあります。この場合、家庭裁判所が保佐開始や補助開始の審判をするときは、それまでの後見開始の審判を取り消さなければなりません(民法19条2項で準用する1項)。状態に合わせて類型を移る道もあるわけです。
取消しを請求できる人
後見開始の審判の取消しを請求できるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、検察官です(民法10条)。本人自身が含まれている点が大切で、家事事件手続法118条2号は、この取消しの審判事件では、成年被後見人も法定代理人によらずに自ら手続をすることができると定めています。保佐・補助の取消しも、ほぼ同じ顔ぶれ(保佐人・保佐監督人、補助人・補助監督人を含む)が請求できます(民法14条1項・18条1項)。
申立先は、原則として後見開始の審判をした家庭裁判所です(家事事件手続法117条2項。保佐は128条2項、補助は136条2項)。申立書の書式や添付書類は、申立先の家庭裁判所の案内でご確認ください。
回復したかどうかは家庭裁判所が判断する
家事事件手続法119条2項は、家庭裁判所は、成年被後見人の精神の状況について医師の意見を聴かなければ、民法10条による後見開始の審判の取消しの審判をすることができないと定めています(明らかにその必要がないと認めるときを除く)。保佐の取消しにも準用されています(同法133条)。さらに、家庭裁判所は、成年被後見人と成年後見人(申立人となった人を除く)の陳述を聴かなければなりません(同法120条1項2号。本人が心身の障害により陳述できないときを除く)。保佐・補助の取消しでも、同じように本人と保佐人・補助人(申立人となった人を除く)の陳述を聴くこととされています(保佐は130条1項4号、補助は139条1項3号)。
つまり、申立ての際に医師の診断書を添えたとしても、それだけで取消しが決まるわけではありません。医師の意見や本人・後見人の陳述などをふまえて、家庭裁判所が判断します。取消しの申立てを却下する審判に対しては、民法10条に定める請求権者が即時抗告(不服申立て)をすることができます(家事事件手続法123条1項3号)。
取消しの後は、登記に終了が記録される
後見開始の審判の取消しの審判は、成年後見人と成年後見監督人にも告知されます(家事事件手続法122条3項2号)。取消しの審判が効力を生じると、裁判所書記官が登記所に後見登記の嘱託をします(同法116条1号、家事事件手続規則77条1項1号)。後見登記等ファイルには、後見等が終了した事由と年月日が記録されます(後見登記等に関する法律4条1項8号)。親族などの利害関係人が終了の登記を申請できるのは、嘱託による登記がされる場合を除くとされているので(同法8条3項)、取消しの審判による終了について親族などが自分で終了の登記を申請するものではありません。後見の登記に関する証明書については成年後見の『登記されていないことの証明書』とは?をご覧ください。
辞任・解任や任意後見契約の解除とは別の話
似た言葉に、成年後見人の辞任・解任があります。こちらは「後見人という人」が交代する手続で、成年後見そのものは続き、成年後見人が欠けたときは家庭裁判所が後任を選任します(民法843条2項)。詳しくは成年後見人は途中で辞められる?代えられる?で解説しています。
また、任意後見契約の解除(任意後見契約に関する法律9条)は、本人が自分で結んだ契約をやめる手続で、家庭裁判所の審判で始まった法定後見の取消しとは仕組みが異なります。
改正の動き
成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が令和8年6月24日に公布されていますが、成年後見制度の見直しに係る部分の施行日は「公布の日から起算して二年六月を超えない範囲内において政令で定める日」とされ、執筆時点では定まっていません。改正後(未施行)の民法では、補助人の同意権・代理権などを付ける審判を「必要がなくなったと認めるとき」に取り消すことができ、それらをすべて取り消す場合は補助開始の審判も取り消すこととされています(改正後の民法12条2項・4項〜6項)。また、改正法の附則では、施行日より前に後見開始の審判を受けた人とその成年後見人・成年後見監督人については、附則に特別の定めがある場合を除き、従前の例による(改正前の規定による)とされています(令和8年法律第45号附則2条1項)。そのうえで、施行日以後は、改正後の制度による補助開始の審判をする場合には施行日前の後見開始の審判を取り消さなければならず(同条6項)、また、本人・配偶者・四親等内の親族・成年後見人・成年後見監督人の請求により、家庭裁判所が施行日前の後見開始の審判を取り消すことができるとされています(同条7項)。保佐についても同様の定めが置かれています(同附則3条)。施行されるまでは、本記事で説明した現行の制度が適用されます。
まとめ
後見・保佐・補助は、開始の原因である判断能力の低下がなくなれば、家庭裁判所の取消しの審判によって終わります。取消しは本人を含む請求権者の申立てで始まり、回復したかどうかは、後見・保佐であれば原則として医師の意見を聴いたうえで家庭裁判所が判断します。取消しの後の登記は裁判所書記官の嘱託で行われます。成年後見人の辞任・解任や任意後見契約の解除とは別の手続である点にもご注意ください。
取消しの申立てを考えるときは、まず申立先の家庭裁判所の手続案内で必要な書類を確認しましょう。制度について一般的な相談をしたいときは、お近くの司法書士会や公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートの相談窓口にお問い合わせください。取消しをめぐって親族の間で意見が対立している場合は、弁護士へのご相談が適しています。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第7条・第10条・第14条・第18条・第19条・第843条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)による改正後の民法 第7条・第12条および同法附則 第1条〜第4条(e-Gov法令検索・未施行法令): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089_20281223_508AC0000000045
- 家事事件手続法 第116条〜第120条・第122条・第123条・第128条・第130条・第133条・第136条・第139条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052
- 家事事件手続規則 第77条(裁判所「裁判所の規則集」): https://www.courts.go.jp/assets/20260521kajikisoku.pdf
- 後見登記等に関する法律 第4条・第8条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000152
- 任意後見契約に関する法律 第9条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000150
- 法務省「「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート(公式サイト): https://www.legal-support.or.jp/