この記事の要点
- 後見開始の申立てがあった後、審判が効力を生じるまでの間、家庭裁判所は本人の生活や財産を守るために「財産の管理者」を選任するなどの保全処分をすることができる。申立てによるほか、家庭裁判所の職権でもできる(家事事件手続法第126条第1項)
- 本人の財産の保全のため特に必要があるときは、後見開始の申立てをした人の申立てにより、「後見命令」を出すことができる。後見命令が出ると、本人がした財産上の行為(日用品の購入など日常生活に関する行為を除く)を取り消せるようになる(同条第2項・第7項)
- いずれも家庭裁判所の後見開始の手続きに付随する家事事件手続法上の制度で、民事保全法に基づく民事保全(仮差押え・仮処分)とは別の仕組み
成年後見の申立てをしても、審判が出るのは家庭裁判所での審理を経た後です。その間に本人の財産が失われるおそれがあるときは、どうすればよいのでしょうか。結論から言うと、家庭裁判所は、審判が効力を生じるまでの間に限って「審判前の保全処分」をすることができ、本人の財産を管理する人(財産の管理者)を選んだり、本人がした財産上の行為を取り消せるようにしたり(後見命令)することができます。本記事は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。
審判前の保全処分とは
家事事件手続法は、本案(保全処分のもとになる本来の事件。ここでは後見開始の申立て)の家事審判事件が係属している家庭裁判所が、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命じることができると定めています(第105条第1項)。後見開始の申立てについては、第126条がその具体的な内容を定めています。いずれも「後見開始の申立てがあった場合」が前提です。申立てから審判までの流れは成年後見開始の申立てはどう進む?で解説しています。
第1項:財産の管理者の選任・関係人への指示
家庭裁判所は、後見開始の申立てがあった場合に、本人(成年被後見人となるべき者)の生活、療養看護(医療や介護の面での世話)または財産の管理のため必要があるときは、審判が効力を生じるまでの間、次のことができます(第126条第1項)。
- 財産の管理者を選任すること
- 事件の関係人に対し、本人の生活、療養看護または財産の管理に関する事項を指示すること
この処分は、申立てによるほか、家庭裁判所の職権(申立てがなくても裁判所自身の判断で)でもすることができ、担保(保証金のようなもの)を立てさせないで行うとされています。申立てをする場合は、申立ての趣旨と保全処分を求める事由を明らかにし、その事由を疎明(裁判所に一応確からしいと認めてもらえる程度に示すこと)しなければなりません(第106条第1項・第2項)。
選任された財産の管理者には、家事事件手続法第125条第1項から第6項まで(成年被後見人の財産の管理者に関する規定)と、不在者の財産管理人に関する民法の規定(第27条から第29条まで。第27条第2項を除く)が準用されます(第126条第8項)。そのため、財産の管理者は管理する財産の目録を作成しなければならず(民法第27条第1項)、保存行為や、財産の性質を変えない範囲での利用・改良を超える行為をするには、家庭裁判所の許可が必要です(民法第28条・第103条)。また、善良な管理者の注意をもって管理する義務を負い(家事事件手続法第126条第8項・第125条第6項が準用する民法第644条)、家庭裁判所から財産の状況の報告や管理の計算を命じられることもあります(同法第126条第8項・第125条第2項の準用)。
第2項:後見命令
後見命令は、本人がした行為を取り消せるようにする点で、第1項よりも一歩踏み込んだ手段です。家庭裁判所は、本人の財産の保全のため特に必要があるときは、後見開始の申立てをした人の申立てにより、審判が効力を生じるまでの間、本人の財産上の行為(日用品の購入その他日常生活に関する行為〔民法第9条ただし書〕を除く)について、第1項の財産の管理者の後見を受けることを命じることができます(第126条第2項)。
第1項との違いは次の2点です。
- 職権ではできず、後見開始の申立てをした人の申立てが必要(第1項のように「職権で」とは定められておらず、「当該申立てをした者の申立てにより」とされています)
- 要件が「必要があるとき」ではなく「特に必要があるとき」
後見命令が出ると、本人と財産の管理者は、本人がした財産上の行為(第2項と同じく、日常生活に関する行為を除きます)を取り消すことができるようになります(同条第7項)。審判を待つ間に、本人が一人の判断で財産を手放してしまうことに備える仕組みといえます。
後見命令は、財産の管理者に告知することによって効力を生じ(同条第4項)、本人には通知されます(同条第5項)。本人の心身の障害によりその陳述を聴くことができないときは、陳述を聴く手続きを経ずに後見命令をすることもできます(同条第3項)。また、後見命令は登記の対象とされており、後見登記等ファイルに財産の管理者の氏名(法人の場合は名称)・住所なども記録されます(後見登記等に関する法律第4条第2項)。
保佐命令・補助命令は対象となる行為の範囲が違う
保佐開始・補助開始の申立てがあった場合も、財産の管理者の選任など、第126条第1項と同じ保全処分をすることができます(家事事件手続法第134条第1項・第143条第1項による準用)。そのうえで、後見命令に当たるものとして保佐命令・補助命令がありますが、対象となる行為の範囲が後見命令とは異なります。
- 保佐命令(第134条第2項):民法第13条第1項に定める行為(元本の領収・利用、借金や保証、不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為など)に限って、財産の管理者の保佐を受けることを命じるもの
- 補助命令(第143条第2項):補助開始とあわせて「補助人の同意を得なければならない行為の定め」の申立てがあった場合に、民法第13条第1項の行為のうち、その定めの申立ての対象となっている行為に限って、財産の管理者の補助を受けることを命じるもの
どちらも、取り消すことができるのは、本人が財産の管理者の同意を得ないでした行為です(第134条第5項・第143条第5項)。後見命令が日常生活に関する行為を除く財産上の行為全般を対象とするのに対し、保佐命令・補助命令は対象が限られている点で異なります。3つの類型のちがいは法定後見の3類型『後見・保佐・補助』はどう違う?をご覧ください。
民事保全(仮差押え・仮処分)とは別の制度
名前に「保全」とつきますが、ここで紹介した審判前の保全処分は、家事事件手続法に基づき、家庭裁判所に係属している後見開始などの申立てを本案とする制度です。民事訴訟の本案の権利の実現などを保全するための民事保全法上の仮差押え・仮処分(民事保全。民事保全法第1条)とは、根拠となる法律も前提となる手続きも異なります。家事事件手続法第105条第1項が挙げている「仮差押え、仮処分」も、家庭裁判所が家事審判事件を本案として命じる審判前の保全処分であり、民事保全法上の仮差押え・仮処分そのものではありません。もっとも、両者がまったく無関係というわけではなく、審判前の保全処分の手続きの一部には民事保全法の規定が準用され(家事事件手続法第115条)、審判前の保全処分の執行や効力は民事保全法などの規定に従うとされています(同法第109条第3項)。
なお、成年後見制度については見直しの法改正(民法等の一部を改正する法律・令和8年法律第45号。2026年6月24日公布)があり、この記事で取り上げた家事事件手続法の規定(第126条・第134条・第143条など)や民法第9条・第13条は改正の対象となっています。施行後は、これらの条文の番号や内容が現在とは異なります。この見直し部分の施行日は政令で定めることとされており、執筆時点ではまだ定まっていません。実際に手続きをする際は、その時点の制度をご確認ください。
まとめ
後見開始の申立てから審判が効力を生じるまでの間も、家庭裁判所は審判前の保全処分によって本人の生活や財産を守ることができます。財産の管理者の選任や関係人への指示(家事事件手続法第126条第1項)は職権でもでき、後見命令(同条第2項)は後見開始の申立てをした人の申立てがあり、財産の保全のため特に必要があるときに限られます。保佐命令・補助命令は、対象となる行為の範囲が後見命令とは異なります。審判前の保全処分や申立ての手続きについて知りたい場合は、申立て先の家庭裁判所のほか、お近くの司法書士会や、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート等にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 家事事件手続法 第105条・第106条・第109条・第115条・第125条・第126条・第134条・第143条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052
- 民法 第9条・第13条・第27条〜第29条・第103条・第644条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 後見登記等に関する法律 第4条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000152
- 民事保全法 第1条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000091
- 法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート(公式サイト): https://legal-support.or.jp/