この記事の要点
- 訴えは、判決が確定するまでなら、全部でも一部でも取り下げることができる(民事訴訟法261条1項)。ただし、相手が請求の中身について準備書面を出したり口頭弁論をしたりした後は、相手の同意がなければ取下げの効力が生じない(同条2項)
- 取り下げた部分は「初めから裁判所にかかっていなかった」ものとみなされる。一方、本案について終局判決が出た後に取り下げた人は、同一の訴えを起こすことができなくなる(同法262条)
- 当事者が双方とも期日に出てこない状態が続くと、取下げをしていなくても取り下げたものとみなされることがある(同法263条)
訴え(裁判)を起こした側は、判決が出るまで手続きを続けなければならないわけではありません。民事訴訟法は、訴えは「判決が確定するまで」その全部または一部を取り下げることができると定めています(261条1項)。判決が言い渡された後でも、確定する前であれば取り下げることができる建てつけです。ただし、取下げにはいくつかのルールがあり、タイミングによっては相手の同意が必要になったり、あとで同じ訴えを起こせなくなったりします。
これは執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。個別の事案で取り下げるべきかどうか、ほかの終わらせ方とどちらがよいかといった判断はここでは扱いません。
相手の同意が必要になるタイミング
訴えの取下げは、相手(被告)が本案(訴えられた請求そのものに理由があるかどうか)について準備書面を提出したり、弁論準備手続で申述をしたり、口頭弁論をしたりした後は、相手の同意を得なければ効力を生じません(261条2項本文)。言い換えると、相手がこれらのことをする前であれば、相手の同意がなくても取下げの効力が生じます。
なお、訴えられた側が同じ手続きの中で逆に訴え返す「反訴」がある場合、元の訴え(本訴)が取り下げられた後に反訴を取り下げるときは、この同意は不要です(同項ただし書)。
取下げの方法と「2週間」のルール
取下げは書面でするのが原則です(261条3項)。口頭弁論・弁論準備手続・和解の期日では、口頭で取り下げることもできます(同条4項)。
相手の同意が必要な場面では、取下げの書面(期日で口頭で取り下げ、相手がその期日に出頭(出席)していなかったときは、取下げがあったことを記録した電子調書)が相手に送達されます(同条5項)。相手が書面の送達を受けた日から2週間以内に異議を述べなければ、取下げに同意したものとみなされます(同条6項)。期日に口頭で取り下げた場合は、相手がその期日に出頭していたときは取下げの日から、出頭していなかったときは電子調書の送達があった日から、それぞれ2週間以内に異議がなければ、同じく同意したものとみなされます(同項)。
取り下げるとどうなるか
取下げがあった部分は、初めから裁判所にかかっていなかった(係属していなかった)ものとみなされます(262条1項)。
注意したいのは、本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた場合です。この場合、取り下げた人は同一の訴えを提起することができません(262条2項)。本案の終局判決が出た後に取り下げて、もう一度最初からやり直す、ということはできない仕組みです。どこまでが「同一の訴え」に当たるかは個別の事情によって判断されるもので、ここでは立ち入りません。
また、訴えを起こすと、手続きが続いている間は時効が完成しない扱いになります(民法147条1項1号)。同項は、判決などで権利が確定しないまま手続きが終了した場合について、終了の時から6か月を経過するまでは時効は完成しないと定めています。訴えを取り下げた場合はこれに当たり、法務省の改正説明資料でも、訴え提起から訴えの取下げ後6か月までの間は時効の完成が猶予され(同条1項)、時効の期間が数え直しになる(更新される)効果は裁判が確定した場合に生じる(同条2項)、という整理で図示されています。時効の基本は貸したお金や未払い代金の時効|こちらの記事で取り上げています。
欠席が続くと「取り下げた」とみなされることも
当事者が双方とも、口頭弁論や弁論準備手続の期日に出頭しなかった(または出頭しても何も述べずに退廷・退席した)場合、その後1か月以内にどちらからも期日指定の申立てがなければ、訴えの取下げがあったものとみなされます(263条前段)。双方が連続して2回、期日に出頭しなかったとき(または出頭しても何も述べずに退廷・退席したとき)も同様です(同条後段)。取下げの書面を出していなくても、手続きが終わってしまうことがある点に注意が必要です。
まとめ
訴えは判決が確定するまで取り下げることができますが、相手が本案について準備書面を出すなどした後は相手の同意が必要になり、はっきり同意しなくても2週間以内に異議を述べなければ同意したものとみなされます。取り下げた部分は初めから係属していなかったものとみなされる一方、本案の終局判決後に取り下げると同一の訴えは起こせなくなります。また、双方が欠席を続けると取り下げたものとみなされることがあります。具体的な事案でどう進めるべきかはご事情によって異なりますので、お近くの司法書士(140万円を超えるものは弁護士)へご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 民事訴訟法 第261条〜第263条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
- 民法 第147条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 裁判所法 第33条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 法務省民事局「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」(法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」のページに掲載): https://www.moj.go.jp/content/001259612.pdf