この記事の要点
- 司法委員は、簡易裁判所の民事訴訟で、裁判所が必要と認めるときに、和解を試みる場面での補助や、審理に立ち会って意見を述べる役割を担う(民事訴訟法279条1項)
- 司法委員は裁判官ではなく、述べる意見はあくまで参考意見。判断をするのは裁判官で、和解に応じるかどうかを決めるのは当事者
- 毎年あらかじめ地方裁判所が選任しておいた人の中から、事件ごとに裁判所が指定する仕組みで、法律の専門資格は求められていない
簡易裁判所の民事訴訟では、裁判官と当事者のほかに「司法委員」と呼ばれる人が手続きに加わることがあります。結論からいうと、司法委員は法律の専門家に限らず広く市民の中から選ばれ、和解の話し合いの補助や審理への立会いを通じて裁判官を助ける立場の人で、裁判官そのものではありません。この記事では、その仕組みを条文に沿って整理します。
これは執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。個別の事件で司法委員がどのように関与するか、その事件がどのような結果になるかといった見通しはここでは扱いません。
どんな場面で関わるのか
司法委員は、民事訴訟法の「簡易裁判所の訴訟手続に関する特則」の章に置かれている制度です。民事訴訟法279条1項は、「裁判所は、必要があると認めるときは、和解を試みるについて司法委員に補助をさせ、又は司法委員を審理に立ち会わせて事件につきその意見を聴くことができる」と定めています。役割は大きく次の2つです。
- 和解を試みる場面での補助:裁判所が当事者に話し合いによる解決(和解)を勧める際に、その補助をします
- 審理への立会いと意見の陳述:審理に立ち会い、事件について裁判官に意見を述べます
裁判所ウェブサイトの説明では、和解の補助では社会経験を生かして裁判官に助言したり、裁判官とともに当事者への説明にあたったりし、審理に立ち会う場合には、証人の証言が信用できるかどうかや事件の見方などについて裁判官に意見を述べる、とされています。また、民事訴訟規則172条により、裁判官が必要と認めるときは、司法委員が証人などに直接質問することを許すことができます。
司法委員を関与させるかどうかは、条文上「裁判所は、必要があると認めるときは」とされているとおり、裁判所が判断する建てつけです。司法委員の員数は、各事件について1人以上とされています(民事訴訟法279条2項)。
司法委員は裁判官ではない
司法委員が述べる意見は、裁判所ウェブサイトでも「あくまで参考意見」と説明されており、最終的に判断するのは裁判官です。同じく裁判所ウェブサイトでは、司法委員は個別の事件ごとに指定されるものであり、非常勤の裁判所職員である、と説明されています。
和解の補助に司法委員が加わっても、和解が成立するには当事者双方の合意が必要であることに変わりはありません。訴訟上の和解で整理したとおり、和解に応じるかどうかは当事者が判断することで、合意に至らなければ和解は成立せず、訴訟の手続きが続きます。
なお、名前の似た「民事調停委員」とは別の制度です。民事調停では、裁判官(調停主任)と2人以上の民事調停委員が「調停委員会」を組織して話し合いを進めます(民事調停法6条)。これに対して司法委員は、簡易裁判所の訴訟の手続きの中で、和解の補助や意見の陳述によって裁判所を助ける立場です。
どうやって選ばれるのか
民事訴訟法279条3項は、司法委員は「毎年あらかじめ地方裁判所の選任した者の中から、事件ごとに裁判所が指定する」と定めています。つまり、地方裁判所が毎年「司法委員となるべき者」を選任しておき、その中から個々の事件ごとに司法委員が指定される、という二段階の仕組みです。選任される人の資格や員数などは最高裁判所規則に委ねられており(同条4項)、司法委員規則が次のように定めています。
- 良識のある者その他適当と認められる者の中から選任する(1条)
- 拘禁刑以上の刑に処せられた者などは選任できない(2条)
- 選任される人数は、一の簡易裁判所につき10人の割合を下らないものとする(3条)
- 地方裁判所は、選任にあたって、管轄区域内の簡易裁判所の司法行政事務を掌理する裁判官の意見を聴かなければならない(4条)
裁判所ウェブサイトによれば、選任に特別な資格は必要なく、弁護士や大学の法学部教授が選任されることもある一方、法律知識の有無とは関係なく、地域の事情に詳しい人や、医学的知識や不動産の鑑定に関する知識を持つ人なども選任されているとされています。司法委員には、最高裁判所規則で定める額の旅費・日当・宿泊料が支給されます(民事訴訟法279条5項)。
140万円との関係
司法委員は簡易裁判所の訴訟手続の制度です。簡易裁判所の手続きについて、認定を受けた司法書士が代理人として関与できるのは、訴訟であれば訴訟の目的の価額が140万円を超えない場合に限られます(司法書士法3条1項6号イ・裁判所法33条1項1号)。この「140万円」が何の金額を指すのかは、訴額の数え方の記事で整理しています。
まとめ
司法委員は、法律の専門家に限らず広く市民の中から選ばれ、簡易裁判所の民事訴訟で、裁判所が必要と認めるときに和解を試みる場面の補助や審理への立会いを担う人です。述べる意見は参考意見で、判断するのは裁判官であり、和解に応じるかどうかを決めるのも当事者です。選ばれ方は、地方裁判所が毎年選任した人の中から事件ごとに裁判所が指定する仕組みになっています。ご自身の事件の手続きについては事情によって異なりますので、お近くの司法書士(140万円を超える場合は弁護士)へご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月・いずれも一次情報です)。
- 民事訴訟法 第279条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
- 民事訴訟規則 第172条(裁判所ウェブサイト・規則集PDF): https://www.courts.go.jp/assets/080521minnsokisoku.pdf
- 司法委員規則 第1条〜第4条(裁判所ウェブサイト・規則集PDF): https://www.courts.go.jp/assets/20260701sihouiinkisoku.pdf
- 民事調停法 第6条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000222
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 裁判所法 第33条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
- 裁判所「司法委員」: https://www.courts.go.jp/saiban/zinbutu/sihoiin/index.html