この記事の要点
- 社長個人名義の土地に会社名義の建物がある場合、社長が亡くなると土地は相続人に引き継がれ、建物は会社の財産のまま残る。土地と建物の持ち主が「社長の相続人」と「会社」に分かれる
- 会社がその土地を使い続けられるかは、地代を払う「賃貸借」か、無償の「使用貸借」かで大きく変わる。建物を持つための土地の賃貸借は「借地権」として借地借家法の保護を受けるが、使用貸借にはその保護がない
- 土地を相続した人には、自分のために相続が開始したことと、その土地を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務がある(不動産登記法76条の2)
- 生前の整理方法には、①賃貸借契約を書面にする、②土地を会社に売る、③土地を会社に現物出資する、などがある。税金の扱いは税理士、相続人どうしの争いの見通しは弁護士の領域
- 最初の一歩は、土地と建物それぞれの登記事項証明書で名義を確かめ、会社が地代を払っているかどうかを確認すること
経営者の方に知っておいてほしいのは、「社長の土地の上に会社の建物が建っている」という状態は、社長がお元気なうちは何も問題が起きないように見えても、相続をきっかけに会社の足元が揺らぐことがある、という点です。結論から言うと、まず確認すべきは「会社がその土地をどういう権利で使っているのか」であり、あいまいなままなら、社長がお元気なうちに契約を書面にするか、土地の名義そのものを整理しておくことが考えられます。
土地は社長個人の相続財産、建物は会社の財産
会社と社長個人は、法律上は別の「人」です。会社の名義で登記されている建物は会社の財産であり、社長が亡くなっても相続の対象にはなりません。
一方、社長個人の名義の土地は、社長の相続財産です。相続人は、亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を引き継ぎます(民法896条)。社長が会社の株式を持っていれば、その株式も相続財産になります。
つまり、社長が亡くなると次のように持ち主が分かれます。
| 財産 | 社長の生前 | 社長が亡くなった後 |
|---|---|---|
| 土地(社長個人名義) | 社長 | 土地を相続した人 |
| 建物(会社名義) | 会社 | 会社(変わらない) |
| 会社の株式(社長が持っている分) | 社長 | 株式を相続した人 |
土地を相続した人と、株式を相続して会社を引き継ぐ人が同じであれば、問題は表に出にくいでしょう。しかし、たとえば「会社を継ぐ長男が株式を、会社に関わっていない長女が土地を相続する」といった形になると、土地の持ち主と会社の利害がぶつかる可能性があります。社長と会社の間のお金の貸し借りが相続でどう扱われるかについては、社長個人と会社の貸し借り──役員貸付金・借入金は相続でどうなる?で整理しています。
会社に「借地権」があるか──地代の有無で分かれる
土地の持ち主が変わったとき、会社が建物を使い続けられるかどうかは、会社がどういう権利で土地を使っているかによって大きく変わります。
地代を払っている場合(賃貸借)
地代を払って土地を借りる契約は「賃貸借(ちんたいしゃく)」です(民法601条)。建物を持つことを目的とした土地の賃借権は、借地借家法の「借地権」にあたります(借地借家法2条1号)。借地権には、次のような保護があります。
- 存続期間は30年。契約でこれより長い期間を定めたときはその期間になる(借地借家法3条)
- 期間が満了しても、建物があれば会社(借地権者)は契約の更新を請求でき、土地の持ち主が異議を述べるには「正当の事由」が必要(借地借家法5条・6条)
- 会社名義で登記された建物がその土地の上にあれば、土地の賃借権そのものを登記していなくても、土地を買った人などの第三者に借地権を主張できる(借地借家法10条1項)
なお、借地借家法が施行される前(旧「借地法」の時代)に設定された借地権については、契約の更新などについて、旧借地法の規定による扱いが続く部分があります(借地借家法附則4条ただし書・附則6条など)。社長と会社の間の土地の貸し借りが古くから続いている場合は、この点も確認が必要です。
土地を相続した人は、貸す側(地主)の立場も引き継ぎます。地代を払う賃貸借であれば、相続が起きても会社の土地を使う権利は守られやすいといえます。
地代を払っていない場合(使用貸借)
地代を払わずに土地を使わせてもらう関係は「使用貸借(しようたいしゃく)」です(民法593条)。使用貸借は借地借家法の対象外で、上で挙げた保護はありません。
使用貸借が借主の死亡で終わるという規定(民法597条3項)がありますが、ここでの借主は会社なので、社長(貸主)が亡くなったことで当然に終わるわけではありません。ただし、土地を相続した人が貸主の立場を引き継ぎ、次のような場面では契約を解除できます。
- 期間も使う目的も決めていなかった場合、貸主はいつでも解除できる(民法598条2項)
- 期間は決めず目的だけ決めていた場合、その目的に従って使うのに足りる期間が過ぎれば解除できる(民法598条1項)。どのくらいの期間で「足りる」といえるかは、これまでの使い方や経緯など個別の事情によって判断されます
また、賃貸借には登記や建物の登記によって新しい土地の持ち主にも権利を主張できる規定(民法605条、借地借家法10条)がありますが、使用貸借にはこれにあたる規定がありません。土地が第三者に売られた場合に、会社が土地を使う権利を主張することは難しくなります。
「何か払ってはいるが、地代と言えるのか分からない」という場合もあるでしょう。支払っている金額やこれまでの経緯によって、賃貸借と使用貸借のどちらにあたるか判断が分かれることもあります。両者の違いは使用貸借と賃貸借はどう違う?──タダで借りている実家・土地の法律関係で詳しく解説しています。
相続のときに起きやすいこと
社長が亡くなったとき、土地と建物の名義が分かれていることで、次のような手続きや話し合いが同時に必要になります。
- 土地の相続登記:土地を相続した人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その土地の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2第1項)。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(同法164条1項)
- 土地を誰が相続するかの話し合い:遺言がなければ、相続人全員の遺産分割協議で土地の行き先を決めます。会社を継ぐ人が土地も相続するのか、別の人が相続するのかで、その後の会社の立場が変わります
- 会社と土地の持ち主との条件の調整:土地を相続した人が会社の経営に関わらない場合、地代の金額や、会社が土地を使い続けるかどうかを、会社と土地の持ち主の間で取り決め直す必要が出てくることがあります
- 会社の代表者の手当て:社長が会社でただ一人の取締役だった場合は、会社の代表者がいなくなる問題も同時に起きます(一人会社の社長が亡くなったら──後継者がいない会社はどうなる?)
相続人どうし、あるいは会社と土地の持ち主の間で意見が対立し、争いになる見通しがある場合の対応は、弁護士にご相談ください。
生前に整理する主な選択肢
社長がお元気なうちであれば、土地と建物の関係を整理しておくことができます。代表的な方法は次の3つです。
| 方法 | 土地の名義 | 社長が亡くなったときに相続されるもの | 主な手続き |
|---|---|---|---|
| ①賃貸借契約を書面にする | 社長のまま | 土地(貸している状態の土地) | 契約書の作成(必要に応じて賃借権設定登記) |
| ②土地を会社に売る | 会社 | 売買代金(お金) | 売買契約、所有権移転登記 |
| ③土地を会社に現物出資する | 会社 | 会社の株式 | 株式の発行手続き、会社の変更登記、所有権移転登記 |
① 賃貸借契約を書面にする
土地の名義は社長のままにして、会社との間の賃貸借契約を書面で明確にする方法です。地代の金額、期間、建物を持つための賃貸借であることなどを契約書に定めておけば、相続した人との間でも関係がはっきりします。
借地権は、会社名義で登記された建物があれば、土地の賃借権を登記していなくても第三者に主張できます(借地借家法10条1項)。そのため、まずは建物が会社名義で正しく登記されているかを確認することが大切です。土地の賃借権そのものを登記することも制度上は可能です(不動産登記法3条8号)。
注意したいのは、社長(取締役)が会社と契約を結ぶことは、会社法の「利益相反取引」にあたる点です。取締役が自分のために会社と取引をしようとするときは、株主総会でその取引の重要な事実を開示して承認を受ける必要があります(会社法356条1項2号)。取締役会を置いている会社では、承認するのは取締役会で、取引をした取締役は取引後に遅滞なく取締役会へ報告しなければなりません(会社法365条1項・2項)。株主が社長ひとりだけの会社など、会社の状況によって承認の扱いが変わることもありますが、承認を省けるかどうかを自己判断せず、議事録の準備も含めて事前に確認しておくことをおすすめします。
また、地代の金額や権利金(土地を借りるときに払う一時金)の有無によっては、会社や社長の税金の扱い(いわゆる権利金の認定課税など)や、相続のときの土地の評価に影響が出ることがあります。「相当の地代」の考え方や「土地の無償返還に関する届出書」の要否も含め、税金の面は税理士にご相談ください。
② 土地を会社に売る
土地を会社に売り、土地と建物の名義をどちらも会社にそろえる方法です。社長が亡くなったときに相続されるのは、土地ではなく受け取った売買代金になります。会社には土地を買うための資金が必要です。
この売買も、社長と会社の間の取引なので、①と同じく株主総会(取締役会を置いている会社では取締役会)の承認が必要です(会社法356条1項2号・365条1項。会社の状況による違いは①と同様です)。所有権移転登記を申請する際は、登記の原因について第三者の承諾などが必要な場合にそれを証する情報を添付するしくみがあり(不動産登記令7条1項5号ハ)、承認があったことを示す議事録の添付を求められることがあります。ただし、添付の要否や、議事録の作り方(誰がどの印鑑で押印するか、印鑑証明書を付けるか)を含めた具体的な添付書面は、申請先の法務局に確認してください(深掘りの「不動産登記の添付情報」の項を参照)。
売買価格の決め方や、売った社長個人・買った会社それぞれにかかる税金は、税理士にご相談ください。
③ 土地を会社に現物出資する
お金の代わりに土地を会社に出資し、その見返りに会社の株式を受け取る方法です(現物出資)。会社が新しく株式を発行する手続き(募集株式の発行)の中で、お金以外の財産を出資の目的とすることや、その財産の内容・価額を定めます(会社法199条1項3号)。この決定は株主総会の特別決議が原則です(会社法199条2項・309条2項5号)。
現物出資では、出資する財産の価額が適正かどうかを確かめるため、原則として裁判所が選任する検査役の調査が必要です(会社法207条1項)。ただし、出資する財産の価額の総額が500万円を超えない場合や、価額が相当であることについて弁護士・公認会計士・税理士などの証明(不動産の場合はこれに加えて不動産鑑定士の鑑定評価)を受けた場合などは、検査役の調査が不要になります(会社法207条9項)。
手続きの後は、会社の変更登記(株式を発行したことによる変更。原則として変更から2週間以内。会社法915条1項)と、土地の会社名義への所有権移転登記の両方が必要です。社長が亡くなったときに相続されるのは、土地ではなく増えた株式になります。
現物出資は、出資する土地の価額の決め方や税金の扱い、ほかの株主との関係など、検討すべき点が多い方法です。実際に選ぶかどうかは、司法書士・税理士などの専門家と相談しながら判断することをおすすめします。
まとめ
社長個人名義の土地に会社の建物がある場合、社長が亡くなると土地は相続人に、建物は会社に残り、持ち主が分かれます。そのとき会社が土地を使い続けられるかは、地代を払う賃貸借(借地権)か、無償の使用貸借かで大きく変わります。社長がお元気なうちに、登記事項証明書で名義を確認し、契約を書面にする・土地を会社に売る・現物出資する、といった整理の方法を検討しておくと、相続のときの混乱を減らせます。登記の手続きについて迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 整理にはどのくらいの費用がかかりますか?
方法によって大きく変わります。①の契約書の作成だけであれば比較的小さな負担で済みますが、②の売買や③の現物出資では、所有権移転登記の登録免許税(土地の固定資産税評価額をもとに計算)や専門家への報酬がかかります。③では、検査役の調査や、弁護士・税理士などの証明と不動産鑑定士の鑑定評価の費用もかかる場合があります。登録免許税以外の税金(所得税・法人税など)の負担は税理士にご確認ください。
Q. 整理に期限はありますか?放っておくとどうなりますか?
生前の整理そのものに期限はありません。ただし、社長が亡くなった後は、土地を相続した人に3年以内の相続登記の義務があり(不動産登記法76条の2)、土地の持ち主と会社の関係を取り決め直す必要が出てくることがあります。使用貸借のままだと、取り決めの内容によっては、土地を相続した人から返還を求められる可能性もあります(民法598条)。
Q. 自分でできますか?どこに相談すればよいですか?
契約書の作成や株主総会の議事録の作成は、会社自身で行うこともできます。ただし、利益相反取引の承認や、売買・現物出資にともなう登記には、押さえるべき手続きが多くあります。登記の手続きはお近くの司法書士に、税金の扱いは税理士に、相続人どうしの争いが見込まれる場合は弁護士にご相談ください。
【さらに深掘り】社長と会社の土地取引──会社の決議・変更登記・不動産登記の添付書類
ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文で挙げた方法は、どれも「社長個人と会社の間で土地の権利を動かす」点で共通しますが、会社の側で必要になる決議と登記は場面ごとに異なります。最初に確認するのは、その会社が取締役会を置いているか(取締役会設置会社か。会社法2条7号)と、発行するすべての株式について譲渡に会社の承認を要する旨の定款の定めがあるか(会社法上の「公開会社」にあたらないか。同条5号)の2点です。
場面ごとの手続の対応関係
| 場面 | 会社法上の手続 | 決議する機関 | 会社の変更登記 | 不動産登記 |
|---|---|---|---|---|
| 土地に賃借権・地上権を設定する(社長が設定者、会社が権利者) | 取締役と会社の取引の承認(会社法356条1項2号) | 取締役会を置かない会社は株主総会、取締役会設置会社は取締役会(同法365条1項) | 生じない | 賃借権・地上権の設定登記をする場合に申請 |
| 土地を会社に売る | 同上 | 同上 | 生じない | 所有権移転登記 |
| 土地を会社に現物出資する | 募集株式の発行(現物出資の旨と財産の内容・価額を募集事項として定める。同法199条1項3号) | 公開会社でない会社は株主総会の特別決議(同法199条2項・309条2項5号)、公開会社は原則として取締役会(同法201条1項) | 必要(同法915条1項) | 所有権移転登記 |
承認決議で押さえる点(賃借権・地上権の設定と売買)
承認を受けるには、その取引についての重要な事実を開示する必要があります(会社法356条1項柱書)。議事録には、どの土地について、どのような条件(代金・地代・期間など)で取引するのかを特定して記載しておくと、承認の対象が後から見ても明確になります。
会社を代表して契約を結ぶのが社長以外の代表取締役であっても、社長自身が取引の相手方である以上、「取締役が自己のために株式会社と取引をしようとするとき」(同号)にあたることに変わりはありません。また、承認を受けた取引には民法108条(自己契約・双方代理などの制限)は適用されません(会社法356条2項)。社長が会社を代表して自分自身と契約すると自己契約にあたりますが、承認を受けていればこの制限は働かないということです。
取締役会設置会社の場合は、次の点に注意が必要です。
- 取引の相手方となる社長は、承認決議について「特別の利害関係を有する取締役」にあたると解されており、議決に加わることができません(会社法369条2項)
- 定足数は「議決に加わることができる取締役」を基準に数え、決議はその出席者の過半数で行います(同条1項)。たとえば取締役が社長を含めて3名なら、議決に加われるのは残る2名で、その過半数である2名の出席と、出席者の過半数である2名の賛成が必要になります(定款で要件を加重していない場合)
- 議事録を書面で作るときは、出席した取締役と監査役が署名または記名押印します(同条3項)
- 取引をした後、社長は遅滞なく重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(同法365条2項)。承認とは別の手続です
取締役会を置かない会社では、株主総会で承認します。この承認は会社法309条2項(特別決議)・3項・4項(特殊決議)のいずれの列挙にも含まれていないため、定款に別段の定めがなければ、同条1項の決議(いわゆる普通決議)によることになります。
不動産登記の添付情報──承認の議事録の位置づけ
権利に関する登記の申請では、登記原因を証する情報(不動産登記令7条1項5号ロ)に加えて、「登記原因について第三者の許可、同意又は承諾を要するとき」は、その第三者が許可・同意・承諾したことを証する情報を提供するしくみがあります(同号ハ)。この承諾などを証する情報を書面で出すときは、原則として作成者の記名押印と、その印鑑に関する証明書の添付が必要です(同令19条1項・2項。官庁・公署が作成した場合など、例外があります)。
もっとも、同令7条1項5号ハの条文は、会社法356条・365条の承認を名指ししているわけではありません。次の点は、本稿の執筆時点で、根拠となる先例・通達の原文を確認できていません。
- 取締役と会社の取引を承認した株主総会・取締役会の議事録を、この「第三者の承諾を証する情報」として提供する扱いになるのか
- 提供する場合、同令19条の記名押印と印鑑証明書を、議事録のどの署名者について求めるのか
- 現物出資による所有権移転登記でも、同様の提供が必要になるのか
いずれも議事録の作り方(どの印鑑で押印するかを含む)にかかわるため、議事録を作成する前の段階で、申請先の法務局に確認しておくことをおすすめします。
現物出資の手続と変更登記の添付書面
現物出資は、募集株式の発行の手続の中で行います。主な流れと、会社法・商業登記法上の要点は次のとおりです。
- 募集事項の決定:募集株式の数、払込金額、現物出資の旨と財産の内容・価額、給付の期日または期間、増加する資本金・資本準備金に関する事項を定めます(会社法199条1項1号〜5号)。公開会社でない会社では株主総会の特別決議(同条2項・309条2項5号)、公開会社では原則として取締役会の決議(同法201条1項)によります
- 総数引受契約:社長が募集株式の全部を引き受ける場合は、総数の引受けを行う契約によることができます(同法205条1項)。募集株式が譲渡制限株式であるときは、定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によってその契約の承認を受けます(同条2項)
- 財産の給付:社長は、定めた期日または期間内に、払込金額の全額に相当する現物出資財産(ここでは土地)を給付しなければなりません(同法208条2項)
- 検査役の調査とその例外:原則として、裁判所に検査役の選任を申し立てます(同法207条1項)。例外として、①割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えない場合、②現物出資財産の価額の総額が500万円を超えない場合、③価額が相当であることについて弁護士・公認会計士・税理士などの証明(不動産の場合は、これに加えて不動産鑑定士の鑑定評価)を受けた場合などには、検査役の調査が不要になります(同条9項1号・2号・4号)。なお、取締役・監査役などの役員や使用人、募集株式の引受人自身は、③の証明をすることができません(同条10項1号・2号)。社長本人や、その会社の役員を兼ねている専門家は証明者になれないということです
- 価額が不足していた場合の責任:給付した土地の価額が、定めた価額に著しく不足していた場合、引受人である社長は会社に不足額を支払う義務を負います(同法212条1項2号)。募集に関する職務を行った業務執行取締役なども同じ額の支払義務を負いますが、検査役の調査を経た場合や、職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は除かれます(同法213条1項・2項)。③の証明をした専門家も、注意を怠らなかったことを証明しない限り同じ額の支払義務を負います(同条3項)
- 変更登記:株式の発行による変更の登記は、本店の所在地で2週間以内に申請します(同法915条1項)。給付の「期間」を定めた場合は、その期間の末日現在で、末日から2週間以内に申請すれば足ります(同条2項)。申請書には、募集事項などを決議した株主総会・取締役会の議事録(商業登記法46条2項)、引受けの申込みまたは総数引受契約を証する書面(同法56条1号)、検査役の調査報告を記載した書面とその附属書類、または上記4.③の証明を受けた場合はその証明を記載した書面とその附属書類(同条3号イ・ハ。上記4.の①②にあたる場合は、この号の書面の添付は求められていません)などを添付します
会社の変更登記と、土地の所有権移転登記は別々の申請です。どちらの登記に何を添付するかを、手続の最初の段階で整理しておくと、議事録や契約書の作り直しを避けやすくなります。
税金の論点は税理士へ
いずれの方法でも、税金の扱いが手続の組み立てに影響します。次のような論点がありますが、税額の計算や適否の判断を伴うため、税理士にご相談ください。
- 賃借権・地上権の設定:権利金を授受しない場合の権利金の認定課税、地代の額が「相当の地代」にあたるか、「土地の無償返還に関する届出書」の提出の要否(法人税・所得税、相続税の土地評価)
- 売買:売買価額の決め方と、社長の所得税(譲渡所得)・会社の法人税
- 現物出資:出資する土地の価額の決め方と、社長の所得税(譲渡所得)・会社の法人税
議事録や契約書に記載する価額・地代は、税理士との検討を終えてから確定させると、登記の後で書類を直す事態を避けやすくなります。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。
- 民法 第108条・第593条・第597条・第598条・第601条・第605条・第896条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 借地借家法 第2条・第3条・第5条・第6条・第10条・附則第4条・附則第6条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090
- 会社法 第2条・第199条・第201条・第205条・第207条・第208条・第212条・第213条・第309条・第356条・第365条・第369条・第915条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 不動産登記法 第3条・第76条の2・第164条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 第7条・第19条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 商業登記法 第46条・第56条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000125
- 国税庁「C1-63 土地の無償返還に関する届出」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_48.htm
- 国税庁 タックスアンサー「No.5730 権利金の認定課税について」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5730.htm
※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 中村康江「取締役解任議案の決定と取締役会の決議に「特別の利害関係を有する取締役」の意義」立命館法学2019年2号(384号)277頁(立命館大学法学会): https://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/19-2/007nakamura.pdf
- 得津晶「利益相反取引の条文の読み方・教え方」東北ローレビュー6号(2019年)1頁(東北大学機関リポジトリ): https://tohoku.repo.nii.ac.jp/record/129653/files/2188-4587-2019-6-1.pdf