この記事の要点

  • 登記事項証明書に「株券を発行する旨の定め」が載っていれば、その会社は「株券発行会社」です。会社法の施行前からある会社は、実際に株券を使っていなくても、この定めが残っていることがあります
  • 株券の定めの廃止は、株主総会の特別決議による定款変更で行います。株券を1枚でも発行していれば、効力が生じる日の2週間前までに公告と株主などへの個別の通知が必要で、全く発行していなければ通知(または公告)だけで足ります(会社法218条)
  • 定款変更の効力が生じたら、2週間以内に本店の所在地で変更の登記をします(会社法915条1項)。登録免許税は1件3万円です
  • 株券発行会社のままだと、株式の譲渡に株券の交付が必要になり、株券をなくしていると手続きに1年かかることもあります。相続の名義書換でも、株券のありかが問題になりやすくなります
  • まずは登記事項証明書と、株券を実際に発行しているかどうかを確認するところから始めます

株券を発行する旨の定款の定めが残っていて、実際には株券を使っていない会社であれば、定めを廃止して登記まで済ませておくのが基本です。株券発行会社のままにしておくと、株式を譲るときや相続が起きたときに「株券」という紙が手続きの前提になり、事業承継の場面で思わぬ足止めになることがあるためです。

この記事では、株券を発行する旨の定めを廃止する手続きの全体と、廃止しないままだと困る場面を、中小企業の経営者の方向けに整理します。後継者への株式の生前贈与の手順そのものは、後継者に株を生前贈与する手続きの記事で扱っています。

なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。

自社が「株券発行会社」かどうかを確かめる

株券発行会社とは

「株券発行会社」とは、株式に係る株券を発行する旨を定款で定めている株式会社のことです(会社法117条7項・214条)。株券発行会社であることは登記事項とされているので(会社法911条3項10号)、法務局で取れる登記事項証明書を見れば確かめられます。「株券を発行する旨の定め」といった記載があれば株券発行会社、なければ株券発行会社ではないと、通常は判断できます(定款を変更したのに登記がまだの場合などは、登記と実際がずれていることがあります)。

古い会社ほど定めが残っていやすい理由

いまの会社法では、株券を発行しないのが原則で、発行するのは定款で定めた場合だけです(会社法214条)。ところが、会社法が施行される前の旧商法の時代は、株式会社は株券を発行するのが原則でした。

そのため、会社法の施行(平成18年5月1日)の際に存在していた株式会社については、定款に株券を発行する旨の定めがあるものとみなす経過措置が置かれました(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律76条4項)。旧商法のもとで定款に株券を発行しない旨の定めを置いていた会社はこのみなしの対象外ですが(同項)、古い会社では、経営者が意識しないまま「株券発行会社」の扱いが続いていることがあります。

「株券発行会社なのに株券がない」はよくある状態

株券発行会社でも、実際には株券を1枚も発行していないことがあります。公開会社でない株券発行会社(全部の株式に譲渡制限がある会社)は、株主から請求があるまでは株券を発行しないことができるからです(会社法215条4項)。株式の譲渡制限については、株式の譲渡制限と登記の記事で詳しく整理しています。

つまり、自社の状態は次の2つの確認で決まります。

  • 定款(登記)上:株券を発行する旨の定めがあるか(登記事項証明書で確認)
  • 実際:株券を現に発行しているか、それとも1枚も発行していないか(株主名簿や会社の保管書類で確認)

この2つ目の違いによって、後で説明する廃止の手続きが変わります。

株券発行会社のままだと困る場面

株式を譲渡するとき──株券を渡さないと効力が生じない

株券発行会社の株式の譲渡は、その株式に係る株券を交付しなければ効力を生じません(会社法128条1項)。また、株券の発行前にした譲渡は、会社に対して効力を生じません(同条2項)。

このため、株券を発行していない株券発行会社で株式を譲るときは、まず会社に株券を発行してもらい、それを相手に渡す、という手順を踏むことになります。親族間や役員間で「言葉と書類だけで株を移したつもり」になっていると、会社に対しては株主として扱えないおそれがあります。株券の発行前にした譲渡の当事者間での効力については最高裁の判断があり、生前贈与の記事で触れています。

なお、株券発行会社では、株主名簿への記載がなければ対抗できない相手は「会社」とされています(会社法130条2項)。株券発行会社でない会社では「会社その他の第三者」です(同条1項)。

株券をなくしたとき──株券喪失登録で1年かかる

古くに発行した株券が見つからない、ということもあります。株券を喪失した人は、会社に「株券喪失登録」を請求できます(会社法223条)。登録された株券は、登録日の翌日から起算して1年を経過した日に無効となり、会社は株券を再発行します(会社法228条)。

この登録が抹消されるか1年が経つまでは、その株券に係る株式を取得した人を株主名簿に記載することができず(会社法230条1項)、株券の再発行もできません(同条2項)。また、株券喪失登録をした人が株式の名義人でないときは、その株式の株主は、その間、株主総会で議決権を行使できません(同条3項)。事業承継やM&Aの日程が、株券1枚のために1年単位で動きにくくなることがあるわけです。

相続で名義書換をするとき──株券のありかが問題になりやすい

相続で株式を取得した相続人は、会社に株主名簿の名義書換を請求します(会社法133条1項)。名義書換は、原則として名簿上の株主またはその相続人などと共同で請求しますが、単独で請求できる場合が法務省令で定められています(会社法133条2項)。

その定め方は、株券発行会社かどうかで分かれています。

  • 株券発行会社でない会社:相続などの一般承継で株式を取得した人が、一般承継を証する書面その他の資料を出して請求する場合が挙げられています(会社法施行規則22条1項4号)
  • 株券発行会社:株式取得者が株券を提示して請求する場合などが挙げられており(会社法施行規則22条2項1号)、一般承継を証する書面を出して請求する場合は、同項の列挙には含まれていません

株券発行会社で株券が発行されている株式を相続したときは、株券を会社に示して名義書換を請求するのが基本の形になります。もっとも、相続で取得したことが会社に分かっている場合には、株券に加えて相続を証する書面なども必要とする見解が有力とされており(後半の深掘りで触れます)、株券を示すだけで足りるとは限りません。株券が見つからないときは、株券喪失登録の手続きを検討することになり、上で見た1年の期間が関係してきます。株券の発行状況などによって進め方が変わるため、具体的なケースでは個別の確認が必要です。

相続で株式を引き継いだ側から見た名義書換の流れは非上場株式を相続したときの名義書換の記事で、相続で株式が分散したときの議決権の問題は自社株の相続と議決権の記事で整理しています。

株券を発行する旨の定めを廃止する手続き

廃止の手続きは、大きく「株主総会の決議」「公告・通知」「変更の登記」の3つです。

ステップ1 株券の発行状況を確かめる

最初に、株券を現に発行しているか、1枚も発行していないかを確かめます。株券を1枚でも発行していれば会社法218条1項の手続き、株式の全部について株券を発行していなければ同条3項の手続きになり、必要な公告・通知と登記の添付書面が変わります。

ステップ2 株主総会の特別決議で定款を変更する

株券を発行する旨の定めは定款の定めなので、その廃止は株主総会の決議による定款変更です(会社法466条)。定款変更の決議は特別決議で行う必要があります(会社法309条2項11号)。特別決議は、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立します(同条2項。定款で要件を変えている場合があります)。

決議では、定款変更の効力が生じる日(効力発生日)を定めておきます。次の公告・通知は、この効力発生日を基準に期限が決まるためです。

ステップ3 効力発生日の2週間前までに公告・通知をする

株券を発行しているかどうかで、必要な手続きが次のように分かれます(会社法218条)。

項目 株券を(1枚でも)発行している 株式の全部について株券を発行していない
根拠 会社法218条1項・2項 会社法218条3項・4項
株主総会 特別決議で定款変更 特別決議で定款変更
公告 必要(効力発生日の2週間前まで) 不要(ただし通知の代わりに公告することもできる)
株主・登録株式質権者への通知 各別に必要(効力発生日の2週間前まで) 必要(効力発生日の2週間前まで)
公告・通知の内容 ①定めを廃止する旨 ②効力発生日 ③効力発生日に株券が無効となる旨 ①定めを廃止する旨 ②効力発生日
既存の株券 効力発生日に無効となる (株券がないので問題にならない)
登記に添付する書面(議事録・株主リストのほか) 会社法218条1項の公告をしたことを証する書面 株式の全部について株券を発行していないことを証する書面

「登録株式質権者」とは、株式に質権(担保)を設定し、そのことが株主名簿に記載されている人のことです。中小企業では該当者がいないことも多いですが、いる場合は通知の相手になります。

公告は、定款で定めた会社の公告方法(官報など)で行います。官報で公告する場合は掲載の費用がかかり、掲載までの日数も見込んでおく必要があります。

ステップ4 効力発生後2週間以内に変更の登記を申請する

効力発生日に定めの廃止の効力が生じ、登記事項である「株券発行会社である旨」がなくなるので、2週間以内に、本店の所在地で変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。登記を怠ると、過料の対象となることがあります(会社法976条1号)。

登記の申請書には、主に次の書面を添付します。

  • 株主総会議事録(商業登記法46条2項)
  • 株主リスト:議決権の割合が上位の株主の氏名・住所・株式数などを証する書面(商業登記規則61条3項)
  • 会社法218条1項の公告をしたことを証する書面、または株式の全部について株券を発行していないことを証する書面(商業登記法63条)
  • 司法書士などの代理人に依頼する場合は委任状

登録免許税は、申請1件につき3万円です(登録免許税法別表第一第24号(一)ツ)。

廃止したあとに変わること

株券を発行する旨の定めを廃止すると、会社は株券発行会社ではなくなります。その後の株式の譲渡は株券の交付が不要になり、会社や第三者に対しては株主名簿の記載で主張する形になります(会社法130条1項)。名義書換の請求は、原則として名簿上の株主またはその相続人などと共同で行います(会社法133条2項)。

株券という紙がなくなるぶん、株主名簿を正確に整えておくことの重要性が増します。廃止の手続きとあわせて、誰が何株を持っているかを株主名簿で確かめておくと、その後の承継や相続の手続きが進めやすくなります。譲渡制限株式であれば、株式を譲るときに会社の承認が必要な点は、廃止の前後で変わりません。

相談先の分担

株券の廃止の周辺では、論点によって相談先が分かれます。

  • 定款変更・株主総会議事録・変更の登記:司法書士
  • 株式の評価額や、譲渡・贈与・相続にともなう税金:税理士・公認会計士
  • 株券のありかや株主の地位をめぐって争いになっている場合:弁護士

まとめ

登記事項証明書に「株券を発行する旨の定め」が載っている会社は株券発行会社です。会社法の施行前からある会社では、実際には株券を使っていないのに、この定めが残っていることがあります。株券発行会社のままだと、株式の譲渡には株券の交付が必要になり、株券をなくしていれば株券喪失登録で1年かかることがあり、相続の名義書換でも株券のありかが問題になりやすくなります。

廃止は、株主総会の特別決議による定款変更、効力発生日の2週間前までの公告・通知(株券を発行していなければ通知または公告だけ)、効力発生から2週間以内の変更登記という流れで行い、登録免許税は3万円です。事業承継や相続が具体的になる前に、まず自社の登記と株券の状況を確かめ、手続きの進め方はお近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 株券の定めを廃止するのに、費用はどれくらいかかりますか?

登記の登録免許税は、申請1件につき3万円です(登録免許税法別表第一第24号(一)ツ)。株券を1枚でも発行している会社は公告が必要なので、官報などの掲載費用が別にかかります。専門家に依頼する場合は、その報酬が加わります。株券を全く発行していない会社は、通知で足りるぶん負担が軽くなります。

Q. 廃止しないで放っておくと、どんなリスクがありますか?

廃止そのものに期限はありません。ただ、株券発行会社のままだと、株式を譲るときは株券の交付が必要で(会社法128条1項)、株券をなくしていれば株券喪失登録から1年待つことがあります(会社法228条)。相続の名義書換でも、株券が発行されていればそれを示すことが基本の形になり、発行されていなければ進め方を個別に確認する必要があります。承継の直前に慌てないよう、余裕のあるうちに整えておくのが安心です。なお、廃止を決めた後は、効力発生から2週間以内に登記をしなければなりません(会社法915条1項)。

Q. 自分でできますか?どこに相談すればいいですか?

登記は会社自身で申請することもできます。ただ、株券の発行状況によって公告・通知の要否や添付書面が変わり、効力発生日との日程の組み方も大切です。定款変更や議事録、登記の手続きはお近くの司法書士にご相談ください。株式の評価や税金は税理士・公認会計士、株券や株主をめぐる争いがある場合は弁護士が相談先です。


【さらに深掘り】株券廃止の登記申請の実務

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

申請書の組み立てと効力発生日

申請書には、登記の事由と登記すべき事項を記載します(商業登記法17条2項3号・4号)。記載の一例は次のとおりです。

  • 登記の事由:株券を発行する旨の定めの廃止
  • 登記すべき事項:令和〇年〇月〇日株券を発行する旨の定め廃止
  • 登録免許税:金3万円(登録免許税法別表第一第24号(一)ツ)

この年月日は、株主総会の決議の日ではなく、決議で定めた定款変更の効力が生ずる日です(会社法218条1項2号・3項)。公告や通知から2週間が経つと自動的に効力が生じるのではなく、会社が定めた効力発生日の2週間前までに公告・通知を済ませる、という順序で組み立てます。登記期間の2週間(会社法915条1項)も、この効力発生日から数えます。

添付書面と公告方法

株主総会議事録(商業登記法46条2項)と株主リスト(商業登記規則61条3項)に加え、商業登記法63条の書面を添付します。株式の全部について株券を発行していない場合のこの書面について、会社法施行時の法務省民事局長通達(平成18年3月31日民商第782号)は「株主名簿その他の当該場合に該当することを証する書面」としています。代理人が申請するときは委任状も必要です(商業登記法18条)。

公告は定款で定めた公告方法で行い、定めがなければ官報です(会社法939条1項・4項)。電子公告の会社は、効力発生日まで継続して掲載し(会社法940条1項1号)、調査機関の電子公告調査も受けなければなりません(会社法941条)。

見落としやすい論点

  • 株券不所持の申出(会社法217条):申出があると株主名簿にその旨が記載され、提出された株券はその時に無効となり、株主から改めて発行の請求がない限り、その株式の株券は発行できません(同条3項〜6項)。不所持の株式とは別に有効な株券が1枚でも残っていれば、218条1項の手続になります。全部の株式が不所持の状態にある場合の扱いは条文に明示がないため、株主名簿の記載をもとに管轄の登記所へ事前に確認しておくのが安全です
  • 株券喪失登録:名義人自身が登録者である喪失登録は、廃止の効力発生日に抹消されます(会社法227条)。名義人以外の人による喪失登録は残り、廃止の日の翌日から1年を経過するまでは株券喪失登録簿の規定が適用され(会社法221条)、議決権の制限(会社法230条3項)も続きます
  • 種類株式発行会社:定めは全部の種類の株式について置かれるため(会社法214条)、廃止も全部の種類について一括で行います(会社法218条1項)。種類株主総会を要する行為を列挙した会社法322条1項に、この廃止は掲げられていません。定款に種類株主総会についての定めがあれば、その内容も確認します
  • 公開会社・譲渡制限との組合せ:請求があるまで株券を発行しないでよいのは公開会社でない株券発行会社だけで(会社法215条4項)、公開会社は株式の発行後遅滞なく株券を発行する義務を負います(同条1項)。また、株券発行会社のまま全部の株式に譲渡制限を設けるときは、株券を発行していれば1か月前までの株券提出公告が必要で(会社法219条1項1号。株式の全部について株券を発行していなければ不要です。同項ただし書)、登記には商業登記法62条の書面を添付します

登記事項証明書での表示

変更の登記をすると、変更に係る登記事項に抹消する記号が記録され(商業登記規則41条)、証明書では下線を付して表示されます(同規則30条4項)。現在事項証明書は現に効力を有する登記事項を載せるものなので廃止後の定めは出てきませんが(同規則30条1項1号)、履歴事項証明書には、請求日の3年前の日の属する年の1月1日以降に抹消された事項が下線付きで載ります(同項2号)。

株券を一度も発行していない株券発行会社と相続

株券発行会社について名義書換の単独請求ができる場合を定める会社法施行規則22条2項は、株券を提示して請求する場合(1号)や、株式売渡請求・株式交換・株式移転による取得、所在不明株主の株式(会社法197条)や端数の処理(会社法234条・235条)にともなう競売・売却による取得を挙げていますが(2号〜6号)、一般承継を証する書面を提供して請求する場合は挙げていません(株券発行会社でない会社については同条1項4号に規定があります。なお、一般の競売による取得〔同項5号〕も2項には挙がっていません)。株券が1枚も発行されていない株券発行会社で相続が生じたときの進め方は、この列挙だけからは決まりません。株券の発行を請求するのか、先に定めを廃止するのかも含め、会社の状況に応じて個別に確認する必要があります。

なお、この列挙に一般承継が挙がっていない理由については、株券発行会社では一般承継の場合も結局は株券を提示して名義書換を請求することになるため、と説明する解説があると紹介されています。もっとも、株券を示して請求した人が相続で株式を取得した人であると会社に分かっている場合に、会社が株券の提示に加えて相続人であることを証する書面などを求める必要があるかについては議論があり、株券の提示に加えて相続を証する書面なども必要とする見解が有力とされています(以上の整理は、島田志帆「相続と名義書換」立命館法学2020年1号〔389号〕341〜342頁および注70〜72による)。


参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。


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