経営者保証を外す・引き継がない準備──経営者保証ガイドラインの活用の入口

この記事の要点 経営者保証(社長個人が会社の借入の連帯保証人になること)は、「経営者保証に関するガイドライン」によって、一定の経営状態がそろえば保証なしの融資や既存の保証の見直しを金融機関が検討する枠組みが示されている。ただし法的拘束力はなく、「必ず外せる」ものではない ガイドラインが会社と経営者に求めるのは、①会社と経営者個人のお金・財産の区分・分離、②財務基盤の強化、③財務状況の正確な把握と適時適切な情報開示、の3つ 事業承継のときは、別に公表された「特則」で、前経営者と後継者の双方から二重には保証を求めないことが原則とされている 準備は「平時(今から)」「事業承継の準備段階」「代表者交代のとき」の3段階で考えると整理しやすい 金融機関との保証解除の交渉や保証債務の整理は弁護士、財務の整え方は税理士・中小企業診断士、代表者交代の登記は司法書士が相談先 経営者の方に知っておいてほしいのは、経営者保証は「外せるかどうか」を運に任せるものではなく、金融機関が保証を求めるかどうかを検討するときの目安が公表された文書に書かれている、という点です。結論から言うと、まず目指すのは「経営者保証に関するガイドライン」が示す3つの経営状態に近づけることであり、事業承継を控えているなら、後継者が保証を当然に引き継ぐ前提で進めず、早めに金融機関に保証の扱いを相談しておくことが出発点になります。 ...

2026年10月21日 · ひぐらしさとし

会社名義と個人名義の不動産を整理する──社長個人の土地に会社の建物がある場合

この記事の要点 社長個人名義の土地に会社名義の建物がある場合、社長が亡くなると土地は相続人に引き継がれ、建物は会社の財産のまま残る。土地と建物の持ち主が「社長の相続人」と「会社」に分かれる 会社がその土地を使い続けられるかは、地代を払う「賃貸借」か、無償の「使用貸借」かで大きく変わる。建物を持つための土地の賃貸借は「借地権」として借地借家法の保護を受けるが、使用貸借にはその保護がない 土地を相続した人には、自分のために相続が開始したことと、その土地を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務がある(不動産登記法76条の2) 生前の整理方法には、①賃貸借契約を書面にする、②土地を会社に売る、③土地を会社に現物出資する、などがある。税金の扱いは税理士、相続人どうしの争いの見通しは弁護士の領域 最初の一歩は、土地と建物それぞれの登記事項証明書で名義を確かめ、会社が地代を払っているかどうかを確認すること 経営者の方に知っておいてほしいのは、「社長の土地の上に会社の建物が建っている」という状態は、社長がお元気なうちは何も問題が起きないように見えても、相続をきっかけに会社の足元が揺らぐことがある、という点です。結論から言うと、まず確認すべきは「会社がその土地をどういう権利で使っているのか」であり、あいまいなままなら、社長がお元気なうちに契約を書面にするか、土地の名義そのものを整理しておくことが考えられます。 ...

2026年10月20日 · ひぐらしさとし

社長が認知症になったら会社はどうなる──後見の審判の前に「会社が止まる」場面と、元気なうちの備え

この記事の要点 社長が認知症と診断されたり、判断能力が落ちたりしても、それだけで自動的に取締役・代表取締役を退任するわけではありません。判断能力の低下を理由に退任となるのは、家庭裁判所の「後見開始の審判」を受けたときです(会社法330条・民法653条3号) 本当に困りやすいのは審判の前です。肩書きは社長のままなのに、社長本人が契約や決議を確かな形で行えるかがはっきりせず、会社の手続きが止まりやすくなります とくに「取締役は社長1人・株主も社長1人(または社長が大株主)」の会社では、社長に代わって判断できる人が会社の中にいないため、取締役を選び直す株主総会も開けなくなるおそれがあります 備えの基本は、元気なうちに代表者・取締役・株式を社長1人に集中させないことです。任意後見や家族信託も選択肢ですが、会社の経営そのものを任せる仕組みではない点に注意が必要です 次の一歩として、会社の登記事項証明書・定款・株主名簿を手元に出し、「社長1人に集まっているもの」を書き出してみてください 経営者の方に知っておいてほしいのは、「社長が認知症になったら会社はどうなるか」という問いには、家庭裁判所の審判が出る前と後で、まったく別の答えがあるということです。 ...

2026年10月19日 · ひぐらしさとし

会社を作ったあと1年以内にやること──登記以外の届出と、最初の役員任期の数え方

この記事の要点 設立登記が終わったら、税務署・都道府県や市区町村・年金事務所などへの届出が続きます。法人設立届出書は設立の日以後2か月以内(法人税法148条1項)など、届出ごとに期限が違います 最初の事業年度が終わると、定時株主総会での計算書類の承認と、決算公告が待っています(会社法438条2項・440条1項) 取締役の任期は「選任後」2年(非公開会社は定款で最長10年)以内に終わる最後の事業年度に関する定時株主総会の終結の時まで(会社法332条1項・2項)。設立したばかりの会社では、2年たたないうちに満了が来ることがあります 役員・本店・目的など登記した事項が変わったら、2週間以内に変更登記が必要です(会社法915条1項) 税務の届出は税理士、社会保険・労働保険は社会保険労務士、登記は司法書士と、相談先が分かれます。まずは届出の一覧と、自社の定款(事業年度・任期)を手元で確かめましょう 結論からお伝えします。会社は設立の登記をした日に成立します(会社法49条)が、手続きはそこで終わりではありません。設立後の最初の1年には、大きく分けて次の3つがやってきます。 ...

2026年10月14日 · ひぐらしさとし

取締役になれない人とは?──会社法の欠格事由と、在任中に成年後見が始まった取締役の扱い

この記事の要点 取締役になれない人(欠格事由)は会社法331条1項に定められています。現在の条文に挙がっているのは「法人」と「一定の罪を犯して刑に処せられた人」で、成年被後見人・被保佐人は含まれていません 成年被後見人が取締役に就任するには、成年後見人が本人の同意を得たうえで、本人に代わって就任を承諾する必要があります(会社法331条の2第1項) 一方、在任中の取締役が後見開始の審判を受けると、会社との委任の関係が終わり、取締役を退任します(会社法330条・民法653条3号)。保佐・補助の開始では退任しません 退任したら2週間以内に退任の登記が必要です(会社法915条1項)。この退任は「後任が決まるまで務め続ける」仕組みの対象外なので、人数が足りなくなるなら後任選びを急ぐ必要があります 成年後見制度を見直す改正法が公布されていますが、成年後見の見直しの部分は2026年10月時点では未施行です。この記事は現在の条文で説明しています 経営者の方に知っておいてほしいのは、「取締役になれない人」と「取締役を続けられなくなる場面」は、条文上は別の話だということです。 ...

2026年10月13日 · ひぐらしさとし

途中で入れ替えた取締役の任期はいつまで?──任期10年の会社で起きる「任期のずれ」と、そろえる定款の定め

この記事の要点 任期の途中で選ばれた取締役(増員・辞めた人の後任)の任期は、原則としてその人自身が選ばれた時から数えます(会社法332条1項)。前の人の任期の残りを引き継ぐわけではありません 定款で任期を10年にしている会社では、このずれが大きくなりやすく、取締役ごとに改選と登記の時期がばらばらになりがちです 定款や、選任する株主総会の決議で任期を短くすれば、ほかの取締役と満了の時期をそろえられます(会社法332条1項ただし書) 役員変更の登記は変更から2週間以内(会社法915条1項)。登録免許税は資本金1億円以下の会社で1件1万円です まずは自社の定款に「任期をそろえる定め」があるかと、各取締役が選ばれた時期を確かめましょう 結論からお伝えします。会社の取締役を任期の途中で増やしたり、辞めた人の代わりを選んだりした場合、新しく加わった取締役の任期は、ほかの取締役の任期の残りではなく、その人が選ばれた時から改めて数え始めます。 ...

2026年10月11日 · ひぐらしさとし

平取締役が亡くなった──死亡による退任登記と、員数が足りなくなるとき

この記事の要点 代表取締役ではない取締役(いわゆる平取締役)が亡くなったときも、会社は死亡による退任の登記を、変更が生じてから2週間以内に申請する必要がある(会社法915条1項) 添付するのは死亡の事実を証する書面。法務局の記載例では、ご遺族などから会社にあてた「死亡届」か、法定相続情報一覧図の写しが挙げられている 登録免許税は資本金1億円以下の会社で1万円、1億円を超える会社で3万円。後任の就任の登記とあわせて申請すれば1件分で済む 辞任や任期満了と違い、死亡の場合は「後任が就任するまで前の取締役が権利義務を持ち続ける」仕組み(会社法346条1項)が働かない。取締役の人数が足りなくなれば、その時点で欠員になる 欠員になったら、株主総会で後任を選ぶのが基本。すぐに選べないときの裁判所への申立ては別記事で整理している 代表取締役ではない取締役が亡くなったときも、会社は2週間以内に「死亡による退任」の登記を申請しなければなりません。あわせて確認したいのが、亡くなったことで取締役の人数が、法律や定款で決めた最低人数(員数=いんずう)を下回っていないかという点です。下回った場合、辞任のときのように「後任が決まるまで前の取締役が役目を続ける」仕組みは働かないため、会社が自分で欠員を埋める必要があります。 ...

2026年10月10日 · ひぐらしさとし

発行可能株式総数とは──増資で足りなくなったときの定款変更と登記

この記事の要点 発行可能株式総数とは、その会社が発行できる株式の数の上限のことです。定款で定め、登記簿にも載ります(会社法37条1項・911条3項6号) 増資で新しい株式を出したいのに上限の空きが足りないときは、増資の手続の前に、上限を広げる定款変更(株主総会の特別決議)が必要です 上限を変えたら、変更が生じたときから2週間以内に、本店所在地の法務局で変更登記をします。登録免許税は1件3万円で、増資の登記と同じ申請書で出すときは増資分と合算されます 「発行済株式の総数の4倍まで」という制限は、公開会社(株式に譲渡制限がない会社)に関する規制です。株式の全部に譲渡制限がある会社が上限を増やす場合には、この制限は課されません(ただし、譲渡制限をやめるなどして公開会社になる定款変更をするときは、4倍以内に収める必要があります。会社法113条3項) 個別の会社の手続は、お近くの司法書士にご相談ください(増資に伴う税務は税理士へ) 結論から言うと、発行可能株式総数とは「その会社が発行できる株式の数の上限」のことです。増資で新しく株式を発行すれば、発行済みの株式の数は増えていきます。その数が上限に届きそうなとき、あるいはもう届いているときは、増資の手続を進める前に、上限そのものを広げる定款変更と、その変更登記が必要になります。 ...

2026年10月4日 · ひぐらしさとし

株主総会議事録の作り方──登記で使える議事録の要件と記載例

この記事の要点 株主総会の議事録は、会社が自分で作る社内の文書です。作成に資格は要りません。 何を書くかは法律で決まっています。会社法318条1項が作成義務を定め、具体的な記載事項は会社法施行規則72条3項が6つ挙げています。 登記の場面では、登記すべき事項について株主総会の決議が必要なとき、申請書に議事録を添付します(商業登記法46条2項)。 議事録だけでは足りず、株主リストなど別の書面も必要になる場合があります。 議事録は株主総会の日から10年間、本店に備え置く義務があります(会社法318条2項)。 次の一歩:①決議の内容と定款を確認 → ②6つの記載事項を漏れなく書く → ③その登記に必要な添付書面をあわせて確認する。 この記事が扱う範囲 株主総会の議事録には、いろいろな役割があります。社内の記録として残す、株主や取引先に説明する、後から決議の内容を確認する——どれも大切ですが、この記事は「登記の添付書面として使えるか」という一点に絞って、書き方を整理します。 ...

2026年8月8日 · ひぐらしさとし

資本金はいくらにする?──1円起業の現実と登記・信用への影響

この記事の要点 会社法上、株式会社の資本金は1円でも設立できる(最低資本金制度は廃止済み) ただし実際には運転資金・信用力の観点から、多くの会社が数十万円〜数百万円で設立している 資本金額は登記事項証明書(登記簿謄本)に記載され、取引先や金融機関から見える数字になる 税負担への具体的な影響は税理士へ相談を 「資本金1円で会社が作れる」は本当か 会社設立を検討する方から、よくこんな質問をいただきます。 ...

2026年7月25日 · ひぐらしさとし