この記事の要点

  • 会社法上、株式会社の資本金は1円でも設立できる(最低資本金制度は廃止済み)
  • ただし実際には運転資金・信用力の観点から、多くの会社が数十万円〜数百万円で設立している
  • 資本金額は登記事項証明書(登記簿謄本)に記載され、取引先や金融機関から見える数字になる
  • 税負担への具体的な影響は税理士へ相談を

「資本金1円で会社が作れる」は本当か

会社設立を検討する方から、よくこんな質問をいただきます。

「資本金って、1円でも会社を作れるって聞いたんですが本当ですか?」 「資本金はいくらにすればいいんでしょうか。多い方がいいのか、少ない方がいいのか……」

結論から言うと、株式会社の資本金は1円でも設立できます。平成18年(2006年)の会社法施行により、それまであった「株式会社は1,000万円以上、有限会社は300万円以上」という最低資本金制度が撤廃されたためです。現在は資本金1円からでも、必要な手続きさえ踏めば株式会社を設立できます(会社法27条4号は定款の記載事項として「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」を定めるのみで、金額そのものに下限は設けていません)。

とはいえ、「制度上できる」ことと「実際に選ぶべきか」は別の話です。この記事では、資本金1円起業の現実と、資本金額が登記・信用面にどう影響するかを、これから会社を作ろうとしている方向けに整理します。

なお、設立登記そのものの流れ・必要書類・費用については別の記事で扱っていますので、ここでは「資本金の額をどう決めるか」に絞って解説します。

なぜ資本金1円が"制度上"可能になったのか

平成18年の会社法施行前は、株式会社を作るには最低1,000万円、有限会社でも最低300万円の資本金が必要でした。これは「会社の財産的基礎を確保し、取引先や債権者を保護する」という趣旨によるものでしたが、結果として「起業したくても最低資本金が壁になる」という指摘が強くなり、会社法制定にあたって撤廃されました。

現在は、定款に出資額を定め、その全額の払込みを済ませれば、金額を問わず設立登記ができます(引き受けた株式の出資は全額の払込みが必要です。会社法34条1項)。「1円起業」という言葉が広まったのはこのためです。

もっとも、資本金を極端に低く設定する会社は、実務上はそれほど多くありません。次にその理由を見ていきます。

なぜ実際には1円起業が少ないのか

1. 運転資金としての性格

資本金は、会社設立後すぐの運転資金(事務所賃料、仕入れ、当面の人件費など)の原資になります。資本金1円では、設立初日から資金繰りに窮することになりかねません。多くの会社は、設立後数か月分の運転資金を目安に資本金額を設定しています。

2. 対外的な信用力への影響

資本金額は、後述するとおり登記事項証明書に記載される公開情報です。取引先の与信審査や金融機関の融資審査で、資本金額が「会社の体力を示す一つの目安」として見られる場面があります。極端に少ない資本金は、「本当に事業を継続できる会社なのか」という不安を取引先に与えかねません。断定的な保証はできませんが、資本金額が取引開始の判断材料の一つになりうる、という点は認識しておく価値があります。

3. 許認可・法人口座開設のハードル

一部の許認可業種(建設業、人材派遣業など)では、業法上の要件として一定の財産的基礎(自己資本額や純資産額の基準)が求められることがあります。また、法人名義の銀行口座開設時に、金融機関が資本金額を含めた事業実態を確認する運用も一般的です。これらは各業法・各金融機関の個別基準によるため、該当する事業を予定している場合は、所管の許認可窓口や金融機関に個別に確認することをおすすめします。

資本金額と税負担の関係──制度の存在だけ押さえておく

資本金額は、いくつかの税制上の区分に関わることが知られています。たとえば、消費税の免税事業者となるかどうかの判定や、法人住民税の均等割の税率区分などで、資本金額が基準の一つとして使われる制度があります。

ただし、「資本金をいくらにすれば税負担が軽くなるか」という具体的な試算や助言は、税理士の業務範囲です(税理士法52条)。司法書士は登記の専門家であり、税額計算や節税提案を行うことはできません。この記事でも、制度の存在をご紹介するにとどめ、具体的な数字には立ち入りません。

資本金額を決める際に税負担も考慮したい場合は、設立前の段階で税理士に相談し、事業計画に応じたシミュレーションを受けることをおすすめします。

資本金は後から変更できる

「設立時に資本金を少なめにして、事業が軌道に乗ってから増やす」という選択も可能です。資本金を増やす手続きを増資、減らす手続きを減資と呼び、いずれも株主総会の決議や変更登記が必要になります(増資についてはこちらの記事、減資についてはこちらの記事で解説しています)。

つまり、資本金額は設立時に一度決めたら変更できないものではなく、事業の成長段階に応じて見直せる数字だということです。設立時に「絶対に正解の金額」を出そうと気負いすぎる必要はありません。

まとめ

資本金は会社法上1円からでも設立できますが、実際には当面の運転資金と対外的な信用力を踏まえて金額を決める会社が大半です。資本金額は登記事項証明書に記載される公開情報であり、取引先や金融機関の目に触れる数字になります。税負担への影響は制度として存在しますが、具体的な試算や「いくらが得か」という判断は税理士の領域です。資本金額の決め方や設立登記の手続きで迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 資本金1円でも会社は作れますか?

制度上は可能です。平成18年の会社法施行で最低資本金制度が撤廃され、株式会社は資本金1円でも設立できるようになりました。会社法で新たに設けられた合同会社には、そもそも最低資本金の定めがなく、こちらも資本金1円から設立できます。ただし、設立直後の運転資金や信用力への影響を考えると、多くの場合は当面の事業運営に必要な金額を資本金として設定するのが実務上一般的です。

Q. 資本金と税金の関係はどうなっていますか?

資本金額は、消費税の免税事業者判定や法人住民税の均等割など、いくつかの税制上の区分に関わる制度が存在します。ただし、具体的にいくらに設定すればどの程度税負担が変わるかという試算・助言は税理士の業務範囲(税理士法52条)です。設立前に事業計画を踏まえたシミュレーションを受けたい場合は、税理士にご相談ください。

Q. 資本金の額はどこで確認でき、変更はできますか?

資本金の額は、法務局で取得できる登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されており、誰でも確認できます。設立後に資本金を増やす(増資)または減らす(減資)ことも可能ですが、いずれも株主総会の決議や官報公告等の手続きを経たうえで、変更登記が必要になります。


【さらに深掘り】資本金額と登記実務・信用調査の関係

ご注意 以下は執筆時点(2026年07月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

資本金額は登記事項証明書のどこに載るか

資本金の額は、会社法911条3項5号により登記事項とされており、登記事項証明書(履歴事項全部証明書など)の「資本金の額」欄に記載されます。取引先が信用調査のために登記事項証明書を取得すれば、誰でも確認できる公開情報です。銀行の融資審査や、新規取引開始時の与信判断で、資本金額が確認項目の一つに含まれる運用は珍しくありません。

出資される財産の価額(またはその最低額)は定款の絶対的記載事項です(会社法27条4号)。設立時に定款へ記載した額のうち、実際に払い込まれた額が資本金として登記されます。なお、会社法445条2項・3項により、払込金額の2分の1を超えない額は資本準備金として計上することが認められており、この場合は払込総額と登記される資本金額に差が生じる点にも注意が必要です(資本準備金は登記事項ではありません)。

設立時の資本金額決定の実務上の流れ

発起設立の場合、発起人が定款で出資額(またはその最低額)を定め、設立時発行株式の引受け・払込みを経て、払込みがあったことを証する書面(払込証明書)を添付して設立登記を申請します。資本金として計上する額は、会社計算規則43条に基づき、払込み・給付をした財産の額を基準に決定されます。現物出資を行う場合は、原則として検査役の調査(会社法33条)が必要になりますが、少額の現物出資や有価証券など一定の要件を満たす場合は調査が省略される例外があります(同条10項)。

増資による資本金額の見直し

設立後に資本金を増やす場合は、募集株式の発行等の手続き(会社法199条以下)を経ることになります。非公開会社では原則として株主総会の特別決議(199条2項・309条2項5号)が必要です。払込みが完了すると、2週間以内に変更登記を行う義務があります(会社法915条1項)。増資は「対外的な信用力の底上げ」を目的に行われることもあれば、事業拡大に伴う資金調達を目的に行われることもあり、目的によって発行条件(株主割当てか第三者割当てか等)の設計が変わってきます。

許認可要件との関係で確認しておきたいこと

建設業許可における財産的基礎の要件(自己資本額500万円以上、またはこれに準ずる要件)のように、一部の業法では資本金額そのものではなく、決算時点の自己資本額や純資産額を基準とする制度があります。資本金額と自己資本額は必ずしも一致しない(利益剰余金の状況によって変動する)ため、許認可要件を確認する際は「資本金がいくらか」だけでなく「決算時点の自己資本・純資産がいくらか」を合わせて確認する必要があります。この点は各業法所管窓口・行政書士への確認が前提となる領域です。

資本金額の設計は登記実務と経営判断の交差点

資本金額の決定は、法律上は定款記載事項の一つに過ぎませんが、実務上は「対外的な信用」「運転資金」「税負担」という複数の視点が交差する経営判断です。司法書士としては登記事項としての正確性と後日の変更手続きの見通しを、税理士は税負担の試算を、それぞれの専門領域から助言する形が望ましく、いずれか一方の視点だけで決めるべき事項ではありません。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年7月)。

あわせて読みたい