この記事の要点
- 登記は、当事者の「申請」のほか、裁判所や役所などの官庁・公署の「嘱託(しょくたく)」によってもされます(不動産登記法16条1項)。
- 差押えの登記は、差押えをした側(裁判所書記官や税務署長など)が嘱託します。差押えが取り下げられたり解除されたりしたときの抹消も、同じ側が嘱託するしくみです。
- 国や地方公共団体に土地を売るときの登記も、役所の側が売主の承諾を得て嘱託します(同法116条1項)。
登記簿を取ってみたら、自分が頼んだ覚えのない登記が載っていた──そうした登記には、「嘱託登記」によるものがあります。結論からいうと、登記は本人が法務局に申請するものばかりではなく、裁判所や役所が法務局に頼んでするものがあります。
なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。
「申請」と並ぶ、もう一つの入口が「嘱託」
不動産登記法16条1項は、登記は、法令に別段の定めがある場合を除き、「当事者の申請又は官庁若しくは公署の嘱託」がなければすることができない、と定めています。私人が登記を求めるのが「申請」、裁判所や役所などの公的機関が登記所に登記を求めるのが「嘱託」です。言葉の使い分けは「申請」「申立て」「届出」「請求」の違いでも触れています。
典型例1:差押えの登記は、入るときも消えるときも嘱託
所有者が自分で申請しないのに入る登記の代表が、差押えの登記です。
- 裁判所の強制競売:開始決定がされると、裁判所書記官が直ちに差押えの登記を嘱託します(民事執行法48条1項。担保不動産競売にも同法188条で準用されます)。
- 国税の滞納処分:税務署長が不動産を差し押さえたときは、差押えの登記を関係機関に嘱託します(国税徴収法68条3項)。
- 固定資産税の滞納処分:市町村の徴税吏員が差し押さえ(地方税法373条1項)、その手続は国税徴収法に規定する滞納処分の例によるとされています(同条7項)。
消すときも、差押えをした側が動くしくみです。強制競売の申立てが取り下げられたときなどは、裁判所書記官が差押えの登記の抹消を嘱託し、その費用は差押債権者の負担とされています(民事執行法54条1項・2項)。国税では、納付などで差押えに係る国税の全額が消滅したときは差押えを解除しなければならず(国税徴収法79条1項1号)、解除したときは税務署長が登記の抹消を嘱託します(同法80条3項)。
滞納していた税金を全額納めたり、競売の申立てが取り下げられたりしたのに差押えの登記が残っているように見えるときは、差押えをした側が抹消を嘱託するしくみですから、まずは差押えをした裁判所や、税務署・市区町村などの役所に、抹消の嘱託がされたかを確かめてみるとよいでしょう。競売の流れそのものは住宅ローンを滞納するとどうなるで整理しています。
典型例2:国や自治体に土地を売るとき
道路用地などとして国や地方公共団体に土地を売る場合のように、国・地方公共団体が登記権利者となる権利の登記は、役所が登記義務者(売主)の承諾を得て、遅滞なく登記所に嘱託しなければならないとされています(不動産登記法116条1項)。このとき嘱託に添えるのは、登記原因を証する情報と、登記義務者の承諾を証する、登記義務者が作成した情報です(不動産登記令別表73の項)。売主の側は、自分で法務局に申請するのではなく、役所から求められた承諾の書類を整えることになります。
登記官が職権でする登記もある
16条1項の「法令に別段の定めがある場合」として、登記官が職権でする登記もあります。たとえば、所有権の登記名義人の住所などの変更について、登記官が職権で変更の登記をすることができるしくみがあり、個人の場合は本人の申出があるときに限られます(同法76条の6)。詳しくは引っ越し・結婚したら登記も更新ををご覧ください。
まとめ
登記には、本人の申請によるもののほか、裁判所や役所の嘱託によるもの、登記官の職権によるものがあります。差押えの登記は、差押えが取り下げられたり解除されたりしたときの抹消も、差押えをした側の嘱託によるのが条文上の流れです。身に覚えのない登記を見つけたときや、抹消されているはずの登記が残っているときの対応は事案によって異なりますので、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 不動産登記法 第16条・第76条の6・第116条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 別表73の項(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 民事執行法 第48条・第54条・第188条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004
- 国税徴収法 第68条・第79条・第80条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000147
- 地方税法 第373条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226