この記事の要点

  • 民法の条文は、相続が始まったあとに実際に相続する人を「相続人」、相続が始まる前の段階で「相続が開始した場合に相続人となるべき者」を「推定相続人」(民法892条のかっこ書きで定義)、相続人が複数いるときのそれぞれを「共同相続人」と使い分けています
  • よく聞く「法定相続人」という言葉は、民法にも相続税法にも出てきません(2026年10月時点のe-Gov法令検索の現行条文の全文で確認)。民法900条の見出し「法定相続分」、不動産登記規則247条の「法定相続情報」、国税庁の案内の「法定相続人の数」のように、周辺で使われている言葉です
  • 相続税法15条の基礎控除で数える「相続人の数」は、相続放棄をした人がいても放棄がなかったものとして数えます。相続放棄をした人を「初めから相続人とならなかったものとみなす」民法939条とは数え方が違うので、同じ「相続人」でも、どの法律の条文で数えているかを確かめることが大切です

相続の説明では「法定相続人」という言葉がよく使われます。ところが、民法の相続のきまり(第五編)の中で相続人を定めている章(第二章)の見出しは「相続人」で、その条文を読んでも「法定相続人」という言葉は出てきません。この記事では、民法が使い分けている言葉のうち「相続人」「推定相続人」「共同相続人」の三つを取り上げます。それぞれが何を指すのかを、条文の文言で確かめます(執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です)。

「相続人」──相続が始まってから決まる

民法882条は「相続は、死亡によって開始する。」と定めています。そして、誰が相続人になるかは、887条(子)、889条(直系尊属・兄弟姉妹)、890条(配偶者)が「相続人となる」という言い方で定めています。たとえば887条1項は「被相続人の子は、相続人となる。」、890条は「被相続人の配偶者は、常に相続人となる。」です。889条1項は「第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には」と、子がいない場合に順位が回ってくる仕組みを書いています。誰がどの順位で相続人になるかは、法定相続分とは?──配偶者・子・親・兄弟姉妹、それぞれの取り分をやさしく整理で扱っています。

ここで押さえておきたいのは、条文の「相続人」が相続が開始したあとの言葉だということです。相続が始まる前は、まだ誰も相続人ではありません。また、相続が始まったあとでも、相続放棄をした人は「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」(939条)とされ、相続人から外れます。この「みなす」の意味は、「みなす」と「推定する」の違いをご覧ください。

「推定相続人」──「相続が開始した場合に相続人となるべき者」

では、相続が始まる前の段階で、「この人が亡くなったら相続人になるはずの人」を条文はどう呼んでいるのでしょうか。これが「推定相続人」です。民法892条は、次のように定めています。

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

かっこ書きの「相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう」が定義です。「推定相続人」という名前が付いていますが、「みなす」と「推定する」の違いで扱った「推定する」(反証があれば覆る効果を定めた言葉)とは別で、このかっこ書きによって意味が決められた用語です。今の家族関係のまま相続が始まったとしたら相続人になる人、と読めばよいでしょう。相続が始まるまでに子が先に亡くなればその子(被相続人の孫)が代わって相続人になる(887条2項)、相続が始まってから放棄をすれば相続人でなくなる(939条)というように、誰が相続人になるかは、少なくとも相続が開始するまでは確定しません。「推定相続人」は、その確定前の見込みの段階の呼び名だと理解すればよいでしょう。

もう一つ、かっこ書きの最後にある「以下同じ」は、この条文より後ろに同じ言葉が出てきたら同じ意味で使う、という合図です。「推定相続人」は、892条から895条まで(推定相続人の廃除とその取消し、審判が確定する前の遺産の管理)と、遺言の証人について定める974条に出てきます。いずれも、相続が始まる前の人を名指しする必要がある場面です。なお、892条が廃除を請求できる相手を「遺留分を有する推定相続人」に限っている点は、この記事では条文の形の紹介にとどめます。

「法定相続人」──条文には出てこない言葉

日常的によく使われる「法定相続人」は、民法の条文にはありません。この記事の執筆にあたり、e-Gov法令検索の民法と相続税法の現行条文(2026年10月時点)の全文(附則を含む)を検索しましたが、どちらにも「法定相続人」という言葉は一度も出てきませんでした。民法にあるのは、900条の見出し「法定相続分」だけで、900条の本文も「その相続分は、次の各号の定めるところによる。」と「相続分」としか書いていません。

条文にはなくても、周辺の資料には似た言葉があります。たとえば、相続税の基礎控除を定める相続税法15条1項は「六百万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて算出した金額」と、「相続人の数」という言い方をしています。同条2項が、この「相続人の数」を「民法第五編第二章(相続人)の規定による相続人の数」とし、養子の数に上限を設けたうえで、「相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする」と定めています。国税庁の案内(タックスアンサーNo.4152)は、この数を「法定相続人の数」と呼んでいます。また、登記の分野では、不動産登記規則247条が「法定相続情報」という言葉を定義し、その内容を「被相続人の氏名、生年月日、最後の住所及び死亡の年月日」と「相続開始の時における同順位の相続人の氏名、生年月日及び被相続人との続柄」としています。法務局に預ける「法定相続情報一覧図」の名前はここから来ています。ほかに、「法定相続人情報」という言葉を使う省令(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法に規定する不動産登記法の特例に関する省令1条)もあります。

ここで注意したいのが、相続税法15条2項の数え方です。民法939条では、相続放棄をした人は初めから相続人ではなかったことになりますが、相続税法15条2項は、その放棄が「なかつたものとした場合」の人数で数えます。つまり、相続税の基礎控除の「法定相続人の数」には、相続放棄をした人も含まれます。同じ「相続人」という言葉でも、民法で相続する人を決める場面と、相続税法で人数を数える場面とでは中身が違うのです。基礎控除の数え方は、相続税の基礎控除とは──「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の意味と数え方で扱っています。

「法定相続人」と書かれた文章を読むときは、民法の定めで相続人になる人(放棄した人を除く)の意味なのか、相続税法15条の「相続人の数」のように放棄した人も数に入れる意味なのかを、その文章がどの条文を前提にしているかから確かめる必要があります。

「共同相続人」──相続人が複数いるとき

民法898条1項は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」と定め、この条文の見出しは「共同相続の効力」です。相続人が複数いる相続を「共同相続」と呼び、そのそれぞれの相続人を「共同相続人」と呼んでいると読めます。たとえば、遺産分割の協議について定める907条1項は「共同相続人は、……いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。」と書いています。

相続放棄をした人は、939条により初めから相続人とならなかったものとみなされるので、民法の「共同相続人」には含まれません。逆に、相続人が一人だけなら「共同」ではないので、相続人どうしで遺産分割の協議をする場面はありません。ただし、遺言で「遺産の3分の1」のように割合を示して財産を受け取る人(包括受遺者)がいるときは、民法990条が「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と定めているため、相続人が一人でも、遺産の分け方を話し合う必要が出てくる場合があります。

まとめ

  • 民法の「相続人」は、相続が始まったあとに実際に相続する人(882条・887条・889条・890条)。相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされる(939条)
  • 「推定相続人」は、892条のかっこ書きで「相続が開始した場合に相続人となるべき者」と定義された、相続が始まる前の段階の呼び名。「以下同じ」により、893条から895条までと974条でも同じ意味で使われる
  • 「法定相続人」は民法にも相続税法にも出てこない言葉。900条の見出し「法定相続分」、不動産登記規則247条の「法定相続情報」、国税庁の案内の「法定相続人の数」など、周辺の言葉として使われている。相続税法15条の「相続人の数」は相続放棄をした人も数に入れるので、民法の「相続人」とは数え方が違う
  • 「共同相続人」は、相続人が複数いるときのそれぞれの相続人(898条・907条)

言葉の使い分けが分かると、「この文章の『相続人』『法定相続人』は、誰を指しているのか」を条文に戻って確かめられるようになります。実際に誰が相続人になるのか、遺産分割の協議に誰が加わる必要があるのかは、戸籍の記載や放棄の有無、遺言の内容など個別の事情で変わります。相続の手続きで迷われたときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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