この記事の要点

  • 胎児は、相続については「すでに生まれたもの」とみなされます(民法886条1項)。被相続人が亡くなった時にまだ生まれていない子も、相続の場面では子として扱われます
  • ただし、胎児が死体で生まれたときは、このみなしは適用されません(同条2項)。生きて生まれるか、死体で生まれるかで、相続人の顔ぶれが変わります
  • 胎児のうちは出生の届出がなく、戸籍にもまだ子の記載がないのが通常です。相続人を確認するときは、戸籍だけでは見えない子がいないかにも注意が必要です

執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。個別の事案の相続人や相続分の判断は、ここでは行いません。

結論:生まれる前でも、相続では「生まれたもの」として扱われる

民法は、人が権利を持つ出発点を「私権の享有は、出生に始まる」と定めています(3条1項)。つまり、生まれる前の胎児は、原則として権利の主体にはなりません。

そのうえで、相続については例外が置かれています。民法886条1項は「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と定めています。相続は人が亡くなった時に始まります(882条)。その時点で母親のお腹にいた子は、相続の場面では、すでに生まれている子と同じ扱いになります。

ここでいう「みなす」は、反対の事情があっても法律の上ではそう扱う、という意味の言葉です(くわしくは「みなす」と「推定する」の違いを参照)。被相続人の子は相続人になります(887条1項)ので、被相続人の子である胎児は、生まれた子と同じく相続人としての資格をもちます。具体的な取り分の割合は、法定相続分の基本で整理しています。

なお、生まれる前の子に権利を認める定めは、相続だけではありません。遺贈については、886条が準用されています(965条)。不法行為などによる損害賠償の請求権についても、胎児は「既に生まれたものとみなす」と定められています(721条)。

死産だった場合はどうなる?

886条2項は「前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない」と定めています。死体で生まれた場合、1項の「既に生まれたものとみなす」という扱いは働きません。これは、反対の事情を示して「みなす」を覆すのではなく、法律自身が、死体で生まれた場合を1項の適用から外しているものです。その胎児が相続人に加わることはなく、相続人の範囲は、その子がいない前提で考えることになります。結果として、ほかの相続人の取り分にも影響します。

手続の面では、死産のときは出生届ではなく、死産の届出に関する規程に基づく届出を行います。同規程は、死産を「妊娠第四月以後における死児の出産」と定め(2条)、医師または助産師の死産証書または死胎検案書を添えて、死産後7日以内に市町村長へ届け出るものとしています(4条)。

ただし、この規程の「死産」と、民法886条2項の「死体で生まれたとき」は、別々の法令の用語です。規程の定義(妊娠第四月以後であることなど)が、そのまま886条2項の「死体で生まれたとき」の範囲を決めるかどうかについては、ここでは断定しません。

戸籍と出生届では、どう扱われる?

出生の届出は、子が生まれた後にするものです。届書には出生の年月日時分と場所を記載し、出生から14日以内(国外で生まれたときは3か月以内)に届け出ます(戸籍法49条)。そのため、胎児のうちは出生の届出がなく、戸籍にまだ子の記載がないのが通常です。

相続人を確認するときは、被相続人や相続人の戸籍を集めて読み取ります。ところが、生まれる前の子は、これらの戸籍には現れません。戸籍がそろっていて相続人が確定したように見えても、被相続人が亡くなった時に妊娠中の方がいなかったかは、戸籍とは別に確認が必要になります。

なお、父が胎内にいる子を認知する制度もあります。この場合は、母の承諾を得たうえで(民法783条1項)、届書に胎内の子を認知する旨と母の氏名・本籍を記載し、母の本籍地に届け出ます(戸籍法61条)。認知については認知された子の相続分でも触れています。

遺産分割や登記は、どう進める?

共同相続人は、協議によって遺産の分割をすることができます(907条1項)。では、胎児が共同相続人に含まれる場合に、生まれる前に協議をまとめてよいのか、胎児の側を誰がどのように代理するのか。この点は、886条の条文そのものには書かれていません。

不動産の相続登記など、名義に関わる手続を出生前に進めたいときの取扱いも、状況によって異なります。出生か死産かで相続人の範囲が変わるため、相続人が確定する前に手続を進めると、後から協議や申請をやり直す必要が出るおそれがあります。進める時期や方法は、個別に確認して決めるのが安全です。

まとめ

胎児は、相続については「すでに生まれたもの」とみなされ、相続人になる資格をもちます(民法886条1項)。ただし、死体で生まれたときは、このみなしは適用されません(同条2項)。胎児のうちは戸籍に子の記載がないのが通常のため、相続人の確認では、戸籍に現れない子がいないかにも注意が必要です。遺産分割や登記をいつ、どのように進めるかは事案ごとに異なります。ご自身のケースで迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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