この記事の要点
- いわゆる「高齢者消除」は、戸籍上の整理をするための行政上の措置で、これによって死亡の効果が直ちに生じるものではないと、法務省の資料で説明されている
- そのため、高齢者消除だけを理由に、その人の相続が始まったと扱ったり、ほかの人の相続で相続人から外したりすることはできない
- 相続の手続きを進めるには、失踪宣告や不在者財産管理人の選任など、家庭裁判所の手続きが必要になる場合がある
戸籍に残る「生きているはずのない年齢」の人
相続人を確定するために戸籍をさかのぼっていくと、生まれた年から数えるとかなりの高齢になるのに、死亡の記載がないまま戸籍に残っている人が見つかることがあります。死亡届が出されないまま年月が過ぎると、戸籍の上では生きている状態が続くためです。
こうした高齢の人について、戸籍を整理するためにその人を戸籍から消除(除籍)する扱いがあり、一般に「高齢者消除」と呼ばれています。戸籍に高齢者消除の記載がある人を見つけたとき、「この人は亡くなったものとして相続人を数えてよいのか」が問題になります。
結論:高齢者消除は「死亡」ではない
結論から言うと、高齢者消除は死亡と同じ扱いにはなりません。法務省の法制審議会の資料では、高齢者消除は「戸籍上の整理をするための行政措置」であり、これにより「死亡の効果が直ちに生ずるものではない」と説明されています(法制審議会民法・不動産登記法部会資料38)。
民法882条は「相続は、死亡によって開始する」と定めています。高齢者消除はこの「死亡」にあたらないため、高齢者消除がされたというだけでは、その人について相続が始まったことにはなりません。
同じ資料では、死亡(相続開始)の効果が生じる場合として、家庭裁判所の失踪宣告と、いわゆる認定死亡が挙げられています。失踪宣告を受けた人は「死亡したものとみなす」とされます(民法31条)。認定死亡のしくみは遺体が見つからなくても戸籍に「死亡」と載る?で解説しています。
相続人の確定で外せない理由
高齢者消除が相続人の確定にかかわる場面は、大きく2つあります。
- 高齢者消除された人の名義の財産がある場合……たとえば土地の名義人が高齢者消除されていても、それだけでは名義人の相続は始まっていません。先の法務省の資料も、相続開始の効果が生じるためには失踪宣告を要すると説明しています
- 高齢者消除された人が、別の人の相続人にあたる場合……たとえば亡くなった方の兄弟姉妹のなかに高齢者消除された人がいても、法律上は死亡の効果が生じていないため、その人が先に亡くなっていたものとして扱うことはできません。高齢者消除だけを理由に、その人を相続人の範囲から外すことはできないのが基本です
相続人の一人の生死や行方がわからないときの全体的な進め方は、相続人の一人が行方不明──遺産分割はどう進める?で解説しています。
家庭裁判所の手続きが必要になる場合がある
高齢者消除された人がかかわる相続を進めるには、家庭裁判所の手続きが必要になる場合があります。代表的なのは次の2つです。
- 失踪宣告……不在者の生死が7年間明らかでないとき、家庭裁判所は利害関係人の請求により失踪の宣告をすることができます(民法30条1項)。宣告を受けた人は、7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされます(民法31条)。戦地にいた人や沈没した船に乗っていた人など、死亡の原因となる危難に遭った人については、期間と死亡とみなされる時点に別の定めがあります(民法30条2項・31条)
- 不在者財産管理人……従来の住所や居所を去った人が財産の管理人を置かなかったとき、家庭裁判所は利害関係人などの請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができます(民法25条1項)。一般に、不在者財産管理人の選任と呼ばれる手続きです
失踪宣告では、死亡とみなされる時点が「宣告の日」ではなく、7年の場合は「期間が満了した時」になります。この時点と、ほかの親族が亡くなった時点との前後関係によって、だれが相続人になるかが変わることがあります。どの手続きを使えるか、認められるかは事情によって異なり、最終的には家庭裁判所が判断します。
なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。
まとめ
戸籍に高齢者消除の記載があっても、それは戸籍上の整理のための措置で、死亡の効果が生じるものではありません。そのため、高齢者消除だけを理由にその人の相続が始まったと扱うことも、ほかの人の相続で相続人から外すこともできず、失踪宣告や不在者財産管理人の選任など、家庭裁判所の手続きが必要になる場合があります。戸籍の読み取りや相続人の確定に迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第25条・第30条・第31条・第882条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務省「法制審議会民法・不動産登記法部会 部会資料38 不動産登記法の見直し(2)」: https://www.moj.go.jp/content/001326293.pdf