この記事の要点
- 条文の「別段」は「特に異なる、特別の」という意味で、条文が置いた原則を、別の決め方で置き換えてよいとあらかじめ認める受け皿の言い回しです。「法令に別段の定めがある場合を除き」なら法令の別の規定(同じ法律の他の条文や、別の法令)が、「定款に別段の定めがある場合を除き」なら会社の定款が、「遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う」なら遺言者の意思が、条文の原則より優先します
- 誰が原則を変えられるのかは、「別段」の直前に置かれた言葉(法令に/定款に/遺言者がその遺言に)で決まります。遺言の条文に多い「別段の意思」は、遺言者が遺言の中で表示した意思を指しています
- 民法91条は「別段」ではなく「異なる意思を表示したときは」という言い回しで、当事者の取り決めで変えられる規定(任意規定)の一般ルールを定めています。逆に、遺留分の侵害額の請求(民法1046条)や遺留分の放棄(1049条)の条文には受け皿がなく、侵害額をお金で請求できる仕組みや、相続開始前の放棄に家庭裁判所の許可を求める仕組みから、遺言者が一方的には変えられないと読み取れます
条文には、原則を書いたうえで、「別の決め方があればそちらに従う」という逃げ道をあらかじめ用意しているものがあります。その合図になるのが「別段」という言葉です。同じ項の中で例外を作るただし書や、別の条文を名指しして原則を上書きする「〜の規定にかかわらず」とは、少し役割が違います。遺言と登記の条文を例に、実際の文言で見ていきます(執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です)。
「別段」とは──原則の置き換えをあらかじめ認める言葉
「別段」は、日常語では「別段変わったことはない」のように使いますが、条文では「特に異なる、特別の」という意味で、「別段の定め」「別段の意思」という形で現れます。共通するのは、条文が原則を書いたうえで、その原則と違う決め方が別の場所にあるなら、そちらに従うとあらかじめ認めている点です。言い換えると、その条文の外にある決め方(法令の別の規定、定款、遺言者の意思)のために、条文が場所を空けておく言い回しです。
読み方のポイントは一つで、「別段」の直前に置かれた言葉から、誰が原則を変えられるのかを確かめることです。
「法令に別段の定めがある場合を除き」──法令の別の規定が優先する
登記の条文から見ていきます。権利に関する登記の申請の原則を定める不動産登記法60条は、こう書かれています。
権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。
原則は、登記で利益を受ける側(登記権利者)と不利益を受ける側(登記義務者)が一緒に申請する共同申請です。その手前に「法令に別段の定めがある場合を除き」とあるので、原則を変えられるのは法令です。相続による権利の移転の登記は登記権利者(相続人)が単独で申請できると定める同法63条2項のように、法令の別の規定(同じ不動産登記法の他の条文でも、別の法令でもかまいません)が共同申請と違う決め方をしていれば、そちらが優先します。この「別段の定め」と「〜の規定にかかわらず」の関係は、「〜の規定にかかわらず」と「〜を妨げない」の違いで扱いました。
「別段の定め」を置く主体は、法令に限りません。会社法348条2項は、取締役会を置かない株式会社の業務の決め方について、次のように定めています。
取締役が二人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。
ここでは「定款に別段の定めがある場合を除き」ですから、原則(取締役の過半数で決める)を変えられるのは、その会社の定款です。同じ「別段の定めがある場合を除き」でも、直前の言葉が「法令に」なら法令が、「定款に」なら定款が、原則を置き換える役割を持っていることが分かります。
「遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う」──遺言者の意思が優先する
遺言の条文には、「別段の意思」という形がくり返し出てきます。遺贈(遺言で財産を与えること)が効力を失った場合の財産の行き先を定める民法995条です。
遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
本文の原則は、遺贈を受けるはずだった人(受遺者)が遺言者より先に亡くなるなどして遺贈が効力を生じなかったときや、受遺者が遺贈を放棄したときは、その財産は相続人のものになる、というものです。ただし書が、「遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う」と続きます。原則を変えられるのは遺言者で、条文の文言上、その意思を表示する場所は「その遺言に」、つまり遺言の中です。
遺言執行者(遺言の内容を実現する役目の人)に関する条文にも、同じ形が並びます。
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。(民法1016条1項)
遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。(民法1017条1項)
遺言執行者が他の人に任務を任せられること(1016条1項本文)も、遺言執行者が複数いるときは過半数で決めること(1017条1項本文)も、条文が置いた原則にすぎず、遺言者が遺言の中で別の決め方を示していれば、そちらに従う、という構造です。
登記とつながる例も挙げておきます。「この不動産を長男に相続させる」のように、特定の財産を特定の相続人に承継させる遺言(民法は「特定財産承継遺言」と呼びます)について、民法1014条2項は、遺言執行者が、その相続人のために「対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる」と定めています。不動産なら、対抗要件は登記です。同条3項は、その財産が預貯金の場合には、遺言執行者が払戻しの請求や解約の申入れもできる(解約の申入れは、その預貯金の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る)と定めたうえで、4項がこう締めくくります。
前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
ここでは「遺言者がその遺言に」ではなく「被相続人が遺言で」という書き方ですが、遺言の中で表示した意思が条文の原則より優先する、という構造は同じです。「〜の規定にかかわらず」と「別段の意思」が一つの文に同居している例でもあります。遺言執行者が登記の場面で何をするかは、遺言執行者──選任から、銀行・登記・税務まで「何ができるのか」をご覧ください。
なお、遺言にどのような文言があれば「別段の意思を表示した」と認められるのかは、その遺言の文言や全体の読み方によって判断が分かれることがあります。この記事では条文の形の説明にとどめます。
民法91条は「別段」と書いていない──「異なる意思を表示したときは」
ここまでの「別段の意思」は、個々の条文が自分の原則について用意した受け皿でした。これとは別に、民法には、当事者の意思が条文より優先する場面を一般的に定めた条文があります。民法91条です。
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
この条文の見出しは「任意規定と異なる意思表示」で、「公の秩序に関しない規定」が、当事者の取り決めで変えられる規定(任意規定)です。逆に、「公の秩序に関する規定」は当事者の意思で変えられない規定(強行規定)と呼ばれます。注意したいのは、91条は「別段」という語を使っておらず、「異なる意思を表示したときは」と書いている点です。相続の条文でも、特別受益の持戻しについて定める民法903条3項は「被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。」という言い回しです。「別段の意思」と「異なる(異なった)意思」は、言葉は違いますが、当事者(遺言者・被相続人)の意思が条文の原則より優先する、という働きは同じです。
もう一つ気をつけたいのは、受け皿の言い回しと、任意規定・強行規定の区別との関係です。遺言者や当事者の意思を受け皿にしている条文(「遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは」「異なる意思を表示したときは」など)は、その条文自身が、意思によって原則を変えてよいと定めているので、少なくとも受け皿が指している範囲では、意思で原則を変えられることが文言から分かります。これに対して、不動産登記法60条の「法令に別段の定めがある場合を除き」は、法令の別の規定のための受け皿ですから、当事者の合意で共同申請の原則を変えてよいという意味ではありません。ここでも、「別段」の直前の言葉で誰が変えられるのかを確かめることが大切です。
また、受け皿が付いていない条文がすべて強行規定だというわけではありません。91条の言い方を借りれば、その規定が「公の秩序に関する」ものかどうかで決まるのであって、受け皿の文言の有無だけで機械的に決まるものではありません。
「別段」の受け皿がない条文──遺留分の請求と放棄
遺言者の意思で変えられない規定の例として、遺留分(一定の相続人に保障された最低限の取り分)の条文を見ておきます。民法1046条1項と1049条1項です。
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。(1046条1項)
相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。(1049条1項)
この二つの条文には、「遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは」という受け皿がありません。そのうえで1046条1項は、遺贈や贈与によって遺留分が侵害されたときに、遺留分の権利を持つ人の側から、侵害額に相当するお金を請求できると定めています。遺言者の財産の処分が遺留分を侵害することを前提に、その処分を受けた人に対して請求できる仕組みですから、遺言者が遺言で一方的に遺留分をなくすことは予定されていない、と読み取れます。さらに1049条1項は、相続が始まる前に遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可が要ると定めており、権利を持つ本人が自分から手放す場合でさえ、家庭裁判所の許可がなければ効力を生じません。
ただし、遺留分を侵害する遺言が無効になるわけではありません。遺言はそのまま効力を持ち、侵害された人が、遺贈や贈与を受けた人(「相続させる」遺言で財産を受けた相続人なども含まれます)に対して、侵害額に相当するお金の支払いを請求できる(1046条1項)、という形で遺留分が守られます。詳しくは遺留分侵害額請求とは?をご覧ください。
なお、遺留分の章にも受け皿がまったくないわけではありません。遺留分侵害額を誰がどの割合で負担するかを定める民法1047条1項には、受遺者が複数あるときなどは目的の価額の割合に応じて負担するという原則のあとに、「ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う」という受け皿が置かれています(同項2号)。遺言者が変えられるのは、この受け皿が指している負担の割合の決め方であって、遺留分そのものではありません。受け皿がどの範囲の原則に付いているのかを、条文ごとに確かめる必要があるということです。
まとめ
- 「別段」は、条文が置いた原則を、別の決め方で置き換えてよいとあらかじめ認める受け皿の言い回し。直前の言葉で、誰が原則を変えられるのかを読み取る
- 「法令に別段の定めがある場合を除き」(不動産登記法60条)なら法令の別の規定が、「定款に別段の定めがある場合を除き」(会社法348条2項)なら定款が優先する
- 「遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う」(民法995条・1016条・1017条)は、遺言者が遺言の中で表示した意思が優先する。1014条4項の「被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは」も同じ構造
- 民法91条は「別段」ではなく「異なる意思を表示したときは」と書き、任意規定の一般ルールを定める。受け皿がないことだけで強行規定とは決まらない。遺留分の請求と放棄(1046条・1049条)は、受け皿がないことに加え、遺贈や贈与を受けた人へのお金の請求を認め、相続開始前の放棄に家庭裁判所の許可を求める条文の仕組みから、遺言者が一方的には変えられないと読み取れる。遺留分の章でも、1047条1項2号の負担の割合のように受け皿が付いている部分は、遺言者が変えられる
「別段」の読み方が分かると、「この原則は、遺言や定款で変えられるのか」「誰が変えられるのか」を条文から確かめられるようになります。実際に遺言や定款でどう書けば望んだとおりの効果が得られるかは、個別の事情と条文全体の読み方によって変わります。遺言の作成や登記の手続きで迷われたときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第91条・第903条・第995条・第1014条・第1016条・第1017条・第1046条・第1047条・第1049条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法 第60条・第63条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 会社法 第348条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086