この記事の要点

  • 「〜しなければならない」は義務を課す書き方。相続登記の申請(不動産登記法76条の2第1項)のように、怠ると過料などの不利益がつながっていることがある
  • 「〜することができる」は、するかどうかを本人が選べる(権利や裁量がある)書き方。相続人申告登記の申出(同法76条の3第1項)が例
  • 「〜ものとする」は法律の中に定義がなく、原則や方針の宣言、行政側への義務付け、念押し、読み替えの指示など、いくつかの使われ方がある。読むときは「誰が主語か」「何を定めているか」を条文ごとに確かめる

法律の条文は、同じ「する」という動作でも、語尾の書き方で意味が大きく変わります。結論から言うと、「しなければならない」は義務、「することができる」は権利や選択の余地、「ものとする」は原則の宣言や念押しなどの複数の顔を持つ言い回しです。この3つを読み分けられると、「これは必ずやらなければいけないのか、やってもやらなくてもよいのか」が条文から直接読み取れるようになります。以下は、執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。

「しなければならない」=義務を課す書き方

「〜しなければならない」は、その行為を義務づける書き方です。裁量の余地を与えずに「必ずせよ」と命じる場面で使われます。

身近な例が、2024年4月から義務になった相続登記です。不動産登記法76条の2第1項は、「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。」と定めています。語尾が「申請することができる」ではなく「申請しなければならない」なので、相続登記は「してもしなくてもよい手続き」ではなく、法律上の義務だと読み取れます。

義務の書き方には、しばしば「守らなかったときの扱い」が別の条文で用意されています。相続登記の場合は同法164条1項が、申請をすべき義務がある者が「正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。」と定めています。過料が実際にどのような場合に科されるかは相続登記の過料の記事で扱っています。

同じ「しなければならない」の書き方は、2026年4月1日から始まった住所等の変更の登記の義務にも使われています。同法76条の5は、所有権の登記名義人の氏名・名称や住所に変更があったときは「その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。」と定め、これを正当な理由なく怠ったときの過料は五万円以下とされています(同法164条2項)。語尾は同じ義務の形でも、期間(三年と二年)も過料の上限(十万円と五万円)も条文ごとに違いますので、「しなければならない」を見つけたら、あわせて期限と不利益の条文も確かめておくと安全です。

もうひとつ、民法915条1項も「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」という義務の書き方です。ただし、この条文のただし書は「この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」と続きます。ひとつの条文の中に、義務の語尾と、次に説明する選択の語尾が並んでいる例です。

「することができる」=するかどうかを選べる書き方

「〜することができる」は、その行為をする権利や資格があること、あるいはするかどうかの判断が本人に任されていることを表す書き方です。その行為をしないこと自体が違法になるわけではありません。ただし、別の条文が課している義務まで消えるという意味ではありませんので、そこは条文ごとに確かめる必要があります。

相続登記の義務と対になる制度が、不動産登記法76条の3第1項です。「前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。」──いわゆる相続人申告登記の申出です。語尾が「できる」なので、この申出をするかどうかは相続人の選択です(三年の期間内に申出をすれば、同条2項により相続登記の申請義務を履行したものとみなされます)。ここで気をつけたいのは、「できる」と書かれているのは申出という手続を選べるという意味であって、相続登記の申請義務そのものを選べるという意味ではない、という点です。申出をしなかった場合に76条の2第1項の義務がどうなるかは、その条文に立ち返って確かめる必要があります。

同じ条文の3項では、主語が登記官に変わります。「登記官は、第一項の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。」──ここでの「できる」は、登記官にその権限があることを表しています。同じ「できる」でも、主語が誰かによって「本人の選択」なのか「役所の権限」なのかが変わる点は意識しておくとよいでしょう。

「ものとする」=定義のない、いくつかの顔を持つ言い回し

「〜ものとする」は、民法や不動産登記法のどこにも意味を定めた条文がなく、法令をつくる側の慣用として使われている言い回しです。法令の書き方を解説する文献では、おおむね次のような使われ方が挙げられています。

  1. 原則や方針を宣言する。民法36条「法人及び外国法人は、この法律その他の法令の定めるところにより、登記をするものとする。」──原則を示す書き方であるため、合理的な理由があるときには従わない余地を残す表現だと説明されることがあります(これは「ものとする」という語尾一般についての説明であり、個々の条文について実際に従わない余地があるかどうかは、その分野の他の条文とあわせて判断する必要があります)。
  2. 行政機関などに対する義務付け。「しなければならない」よりやや遠慮した言い方として、役所を主語にする条文で使われます。不動産登記法14条1項「登記所には、地図及び建物所在図を備え付けるものとする。」
  3. 当然のことを念のため確認する。民法969条2項「前項の公正証書は、公証人法(明治四十一年法律第五十三号)の定めるところにより作成するものとする。」
  4. 読み替えの指示。準用の条文でおなじみの「〜とあるのは〜と読み替えるものとする」という形です(「準用する」の読み方の記事参照)

この「ものとする」をどう位置づけるかは、法令の書き方を解説する文献の中でも一様ではありません。「しなければならない」と同じく作為を求める書き方ではあるが、それよりやや含みを持たせた(やわらげた)言い方であり、合理的な理由があるときには従わない余地が残る、と整理するものが多い一方で、上の4のような読み替えの指示はそもそも義務の強弱と関係がありません。そのため、「ものとする」を見たら一律に「弱い義務」と読むことも、正確とはいえません。どちらの整理でも共通しているのは、語尾だけを見て機械的に決めつけない、という点です。

条文を読むときは、主語が誰か(国民か、役所か)と、何を定めている場面か(新しく義務を課しているのか、決まりを確認しているのか)を、その条文ごとに確かめるのが安全です。

打ち消しの形も2種類ある

「しなければならない」「することができる」には、それぞれ対になる打ち消しの形があります。参議院法制局の解説によると、「〜してはならない」は禁止(しないという義務を命じるもの)で、これに反しても法律行為としての効力には影響しないのに対し、「〜することができない」は法律上の能力や権利がないことを表し、これに反した法律行為は瑕疵(かし)があるものとして効力に影響しうる、と説明されています。同じ「だめ」に見える語尾でも、破ったときの結果の出方は違うものとして整理されているわけです。もっとも、個々の規定に反した行為の効力が実際にどうなるかは、その条文の趣旨や裁判例をふまえて判断されますので、語尾だけで結論が決まるわけではありません。

まとめ

  • 「しなければならない」=義務。相続登記の申請(不登法76条の2第1項)はこの語尾で、怠ると過料の規定(同法164条1項)につながる。2026年4月1日から始まった住所等の変更の登記の義務(同法76条の5・過料は同法164条2項)も同じ書き方
  • 「することができる」=権利・選択。相続人申告登記の申出(同法76条の3第1項)はこの語尾で、するかどうかは本人が選べる
  • 「ものとする」=原則の宣言・行政側への義務付け・念押し・読み替えなど複数の用法。条文ごとに主語と場面を確認する

条文の語尾を読み分けると、「必ずやること」と「選べること」の区別がはっきりします。ただし、実際の相続や登記の手続きでは、義務の起算点や例外の有無が個別の事情で変わります。ご自身のケースで迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月)。

※ 次の資料は法令そのものではなく、公的機関や法制執務経験者による解説資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

  • 参議院法制局「法令用語と法解釈」(法制執務コラム。「してはならない」=禁止で法律行為の効力に影響しない、「することができない」=能力・権利がないことの表現で行為に瑕疵があり効力に影響が生じうる、という整理を確認): https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column018.htm
  • 吉田利宏(元衆議院法制局参事)「人事担当者のための法律読みこなし術 第25回 する、しなければならない、するものとする」(WEB労政時報。「するものとする」について、行政庁を主語とする義務付けを「しなければならない」より遠慮がちに規定したものとする説明、読換え規定での用法、「念を押した」「確認した」という用法の説明を確認): https://www.rosei.jp/readers/article/61263
  • 高知県「骨子案での言葉の使い方」(条例の骨子案づくりに用いられた法令用語の語尾の整理表。「〜するものとする」を「弱い義務づけ」「原則や方針を示す場合」とし、「解釈として、合理的な理由があればしなくてもよいという意味も出てくるので、用い方に注意」と付記していることを確認): https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/jisinjourei-process-kentoukai-dai9kai/file_contents/2009031601062_www_pref_kochi_lg_jp_uploaded_attachment_2975.pdf

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