この記事の要点

  • 「申請」は、役所に対して許可や登記などの処分を求め、役所側が「認める・認めない」の応答をする働きかけ。行政手続法2条3号に定義があり、登記は不動産登記法16条1項で「当事者の申請」によるとされている
  • 「届出」は、役所に一定の事項を知らせる行為で、役所の応答を求めるものではない(行政手続法2条7号)。死亡届(戸籍法86条)が代表例。「申立て」は、裁判所に審判などの判断を求める働きかけで、家事事件手続法49条1項が「家事審判の申立て」の方式を定める
  • 「請求」は、相手に対して権利の内容を求める言葉で、相手が役所や裁判所とは限らない。遺留分侵害額の請求(民法1046条1項)が例。ただし民法には、家庭裁判所への働きかけを「請求」と書く条文もあり(民法915条1項ただし書など)、法令ごとに言葉の使い方が違う点に注意が必要

役所や裁判所に何かをしてもらうとき、法律の条文は「申請」「申立て」「届出」「請求」といった言葉を使い分けています。結論から言うと、**登記所(法務局)に登記を求めるのは「申請」、裁判所に判断を求めるのは「申立て」、役所に事実を知らせるだけなら「届出」、相手に権利の内容を求めるのが「請求」**というのが、おおまかな整理です。ただしこれは原則にすぎず、法令ごとに例外や別の言葉(「申出」「申述」「嘱託」など)もあります。以下は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。

「申請」=役所に応答を求める働きかけ

「申請」という言葉には、行政手続法2条3号に法律上の定義があります。同号は「申請」を、「法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているもの」と定めています。ポイントは2つで、①自分に利益になる処分を求める行為であること、②役所側に「認める・認めない」の応答をする義務があること、です。

登記も、この「申請」の言葉で動く手続きです。不動産登記法16条1項は「登記は、法令に別段の定めがある場合を除き、当事者の申請又は官庁若しくは公署の嘱託がなければ、することができない。」と定めています。相続登記の義務を定めた同法76条の2第1項も「所有権の移転の登記を申請しなければならない。」という語尾で、登記所に対する働きかけを「申請」と呼んでいます(登記申請書の出し方は登記申請の3つの出し方の記事で扱っています)。

なお、行政手続法2条3号の定義は、あくまで行政手続法という法律の中での用語の定義です。不動産登記法が「申請」という言葉を使っているのは同法16条自体の定めによるものです。そして、登記の手続きに行政手続法の規定がどこまで適用されるかについては、不動産登記法153条が「登記官の処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定は、適用しない。」と定めています。行政手続法の第2章は「申請に対する処分」、第3章は「不利益処分」についての章ですから、登記官の処分には、これらの章の規定(審査基準や標準処理期間などの定め)は適用されないことになります。このように、言葉の定義と、どの規定が適用されるかとは、それぞれの法律の条文で確かめる必要があります。

同じ16条1項には「嘱託(しょくたく)」という言葉も出てきます。これは、裁判所や官庁などの公的機関が登記所に登記を頼む場合の言葉で、私人がする「申請」と区別されています。また、相続登記の義務を果たす簡易な方法として設けられた相続人申告登記は、同法76条の3第1項で「申し出ることができる」と書かれ、「申請」ではなく「申出(もうしで)」という言葉が使われています。登記所への働きかけがすべて「申請」と呼ばれるわけではない、という例です。

「届出」=役所に知らせる行為で、応答を求めない

「届出」にも、行政手続法2条7号に定義があります。同号は「届出」を、「行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)」と定めています。「申請」との最大の違いは、役所の側に諾否(認める・認めない)の応答が予定されていない点です。届け出る側が一方的に知らせる行為で、同法37条は、形式上の要件を満たした届出が提出先の役所に「到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。」と定めています。

相続の場面で誰もが出合う届出が、死亡届です。戸籍法86条1項は「死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内(国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これをしなければならない。」と定めています。市区町村の窓口は、届出に基づいて戸籍に死亡の記載をします。戸籍の届出にも、窓口が法令の要件に照らして受理できるかを確かめる段階はあります(たとえば離婚の届出について、民法765条1項は、一定の事項を「認めた後でなければ、受理することができない。」と定めています)。それでも死亡届は、届け出る人が自分に利益となる処分を求めて「認める・認めない」の応答を受ける手続きではなく、死亡という事実を知らせることが法律で直接に義務づけられている行為です(戸籍法86条1項の「しなければならない」)。この意味で、死亡届は、言葉の性格として「申請」ではなく「届出」の典型例といえます。なお、戸籍の届出に行政手続法の届出の規定(同法37条など)がそのまま適用されるかどうかは、この記事では扱いません。

「申立て」=裁判所に判断を求める働きかけ

役所ではなく裁判所に対して「こういう判断をしてください」と求めるときは、「申立て(もうしたて)」という言葉が使われます。家事事件手続法39条は、家庭裁判所が別表第一・別表第二に掲げる事項などについて「審判をする」と定め、同法49条1項は「家事審判の申立ては、申立書(以下「家事審判の申立書」という。)を家庭裁判所に提出してしなければならない。」と定めています。相続の場面では、相続放棄の期間を延ばしてもらう「相続の承認又は放棄をすべき期間の伸長の申立て」(同法201条9項1号に出てくる言葉)がその一例です(詳しくは期間伸長の申立ての記事をご覧ください)。

ただし、家庭裁判所への働きかけがすべて「申立て」と呼ばれるわけではありません。相続放棄そのものは、民法938条が「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」と定め、家事事件手続法201条5項も「相続の放棄…の申述は、…申述書を家庭裁判所に提出してしなければならない。」としています。相続放棄は、家庭裁判所に放棄の意思を述べ(申述し)、家庭裁判所がその「申述の受理の審判」をする(家事事件手続法201条7項)という形で組み立てられており、「申立て」とは別の「申述(しんじゅつ)」という言葉が使われています。

また、民事の訴訟(裁判)を起こすときは「訴えの提起」という言葉になります。民事訴訟法134条1項は「訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。」と定めています(この条文は、もとは133条でしたが、民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)のうち、当事者の住所・氏名等を相手方に秘匿する制度を設けた部分が2023年2月20日に施行された際に、134条に番号が繰り下がっています。同じ改正法により、インターネットを使った訴えの提起などができるようになる部分は、2026年5月21日に施行されました)。審判や調停など裁判所に判断・手続を求める場面での「申立て」と、判決を求めて訴訟を起こす「訴えの提起」とは、言葉が使い分けられています。

「請求」=相手に権利の内容を求める言葉

「請求」は、ここまでの3つとは少し性格が違います。「申請」「届出」は役所に、「申立て」は裁判所に向けた言葉でしたが、「請求」は権利を持つ人が、その権利の内容を相手に求めることを表し、相手は役所や裁判所に限られません。

相続の例では、遺留分侵害額の請求があります。民法1046条1項は、「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者…又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。」と定めています。ここで請求の相手は受遺者や受贈者という私人であり、条文上、裁判所に申立てをすることが請求の要件とはされていません(遺留分の制度の中身は遺留分侵害額請求の記事で扱っています)。

ところが、民法の中には、家庭裁判所への働きかけを「請求」と書いている条文もあります。たとえば民法915条1項ただし書は、相続の承認・放棄の3か月の期間について「この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」と定めています。同じ行為が、手続きの側のルールである家事事件手続法では「期間の伸長の申立て」(同法201条9項1号)と呼ばれているわけです。後見開始の審判についても、民法7条は本人や配偶者などの「請求により、後見開始の審判をすることができる」と書いています。

なお、2026年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)により、後見と保佐の制度は廃止されて補助の制度に一元化され、民法7条は「補助開始の審判」の規定に改められます。改正後の同条も、本人や配偶者などの「請求により、補助開始の審判をすることができる」と、「請求」の言葉を使っています。この部分の施行日は、公布の日から2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日とされています。

少なくとも民法915条1項ただし書と家事事件手続法201条9項1号の組み合わせでは、同じ働きかけが、権利や制度の中身を定める法律(実体法)である民法では「請求」、裁判所での手続きの進め方を定める法律(手続法)である家事事件手続法では「申立て」と書き分けられています。

もっとも、どの条文でもそう書き分けられているわけではありません。民法の中にも、離婚の届出の受理の要件として「親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てがされていること。」(民法765条1項2号)と、「申立て」の言葉を使う条文がありますし、相続放棄については、民法938条も家事事件手続法201条5項も、ともに「申述」という言葉を使っています。「実体法なら請求、手続法なら申立て」と機械的に決めつけず、条文ごとに確かめることが大切です。

使い分けは「原則」であって、法令ごとに確かめる

以上をまとめると、おおまかには次のように整理できます。

言葉 向ける相手 相手の応答 相続・登記の条文例
申請 役所(登記所など) 諾否の応答がある 不動産登記法16条1項・76条の2第1項
届出 役所(市区町村など) 応答は予定されない 戸籍法86条1項(死亡届)
申立て 裁判所 審判・決定などの判断 家事事件手続法49条1項・201条9項1号
請求 権利の相手方(私人を含む) ─ 民法1046条1項(遺留分侵害額)

ただし、この表はあくまで原則です。同じ登記所への働きかけでも「申出」「嘱託」、同じ家庭裁判所への働きかけでも「申述」、訴訟では「訴えの提起」、民法の条文では家庭裁判所への働きかけが「請求」と、法令ごと・条文ごとに別の言葉が使われています。条文を読むときは、「誰に向けた行為か」「相手の応答が予定されているか」を手がかりにしつつ、その法律の中でその言葉がどう使われているかを個別に確かめるのが安全です。

まとめ

  • 「申請」は役所に処分を求め、役所が諾否を応答する働きかけ(行政手続法2条3号)。登記は「当事者の申請」による(不動産登記法16条1項)
  • 「届出」は役所への通知で、応答は予定されない(行政手続法2条7号・37条)。死亡届(戸籍法86条1項)が典型
  • 「申立て」は裁判所に判断を求める働きかけ(家事事件手続法49条1項)。相続放棄は「申述」(民法938条)、訴訟は「訴えの提起」(民事訴訟法134条1項)と呼び分けられる
  • 「請求」は権利の内容を相手に求める言葉で、相手は私人でもよい(民法1046条1項)。ただし民法には家庭裁判所への働きかけを「請求」と書く条文もある(民法7条・915条1項ただし書)

言葉の使い分けを知っておくと、「この手続きは誰に向けて、どういう性格の働きかけをするものか」が条文から読み取りやすくなります。もっとも、実際にどの手続きを選び、どの書類を出すかは、個別の事情によって変わります。ご自身のケースで迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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