この記事の要点

  • 「代理」は、代理人が自分で意思表示をし、その効果だけが本人に及ぶしくみです(民法99条1項)。登記の委任状に受任者として名前が載る司法書士は、登記の申請手続きについての代理人です
  • この記事で取り上げる「代表」は、会社などの法人の代表です。会社法349条は取締役・代表取締役について株式会社を「代表する」と書き、支配人について「会社に代わって」と書く会社法11条とは言葉を使い分けています。委任状では「○○株式会社 代表取締役△△」として申請人の側に立ちます
  • 「使者」は、本人が決めた内容を伝える・届けるだけの役割を指す講学上の言葉で、民法や会社法に定義した条文はありません。代理人との分かれ目は、内容を決めているのが誰かです

登記を司法書士に依頼するときの委任状には、「委任者 ○○株式会社 代表取締役△△」と「受任者 司法書士□□」という二つの肩書が並びます。似た言葉ですが、会社法や不動産登記令の条文では「代表」と「代理」が書き分けられています。さらに、書類を窓口へ届けるだけの人は、どちらにもあたらない「使者」として整理されます。三つの違いは、誰が内容を決めているか、誰の行為として扱われるかで読み分けると整理しやすくなります。なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の条文に基づく一般的な解説です。

「代理」──意思表示をするのは代理人、効果が及ぶのは本人

民法99条1項は、「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる」と定めています。この一文には、代理の三つの要素が入っています。①代理人に権限(代理権)があること、②「本人のためにすることを示して」いること、③効果が本人に直接生じることです。②は「顕名(けんめい)」と呼ばれ、これを示さずにした意思表示は、原則として代理人自身のためにしたものとみなされます(民法100条本文。相手方が本人のためにすることを知り、または知ることができたときは別です=同条ただし書)。

ここで注目したいのは、意思表示をしているのは代理人自身だという点です。契約の内容を相手と詰め、申込みや承諾の意思表示をするのは代理人で、本人はその結果だけを引き受けます。登記の場面でいえば、申請書に記載する内容を整え、法務局に対して申請という手続き上の行為をするのが代理人である司法書士です。委任状は、不動産登記令7条1項2号が求める「当該代理人の権限を証する情報」を書面にしたものなので、そこに受任者として名前が載る人が代理人、という読み方になります。委任状の有効期限や、本人が亡くなった場合の代理権の扱いは、登記の委任状に有効期限はある?で整理しています。

なお、代理権がないのに他人の代理人として契約をした場合を「無権代理」といい、本人が追認しなければ、原則として本人に効力は生じません(民法113条1項)。追認の意味や効果の詳しい内容は、「追認」とは?をご覧ください。

「代表」──法人の名前で、法人の側に立って行為する立場

この記事で取り上げる「代表」は、会社などの法人の代表です。会社法349条1項は「取締役は、株式会社を代表する」と書き(他に代表取締役などを定めた場合は別です=同項ただし書)、同条4項は「代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」と定めています。条文は「代理する」ではなく「代表する」という言葉を選んでいます。

同じ会社法の中で、支配人については別の言葉が使われています。会社法11条1項は「支配人は、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」とし、見出しも「支配人の代理権」です。「一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限」という表現は349条4項と共通ですが、代表取締役には「代表」、支配人には「会社に代わって」=代理という言葉があてられています。法人の代表を代理と本質的に同じものとみるかどうかは、条文の言葉だけからは決まりません。

学説の流れとしては、代表者の行為は法人そのものの行為であって代理ではない、という説明が従来の一般的なものでしたが、契約などの法律行為については結局は代理の形式によらざるを得ないなど、代理との違いを見出せないとする批判が有力となり、今日の教科書・体系書の多くは、代理と異なる「代表」を論じることに意義を見出していないと整理されています。他方で、代表権の制限などを考える土台として、この性質の議論は避けて通れないとする見解もあります(以上、後藤元伸「続・法人学説の再定位」政策創造研究14号〔2020年〕35〜37頁)。この記事では一つの答えを示すことはしませんが、少なくとも条文を読むときは、この言葉の使い分けをそのまま受け取るのが出発点になります。

登記の委任状でも、この違いははっきり現れます。会社が登記を申請する場合、委任状の委任者欄には「○○株式会社 代表取締役△△」と書きます。委任状のうえでは、代表取締役は受任者(代理人)の側ではなく、会社そのものの側(申請人の側)に立つ人です。不動産登記令3条も、申請情報として「申請人が法人であるときは、その代表者の氏名」(2号)と「代理人によって登記を申請するときは、当該代理人の氏名又は名称及び住所」(3号)を別の号に分けて挙げています。添付情報の側でも、会社法人等番号を持たない法人については「当該法人の代表者の資格を証する情報」(同令7条1項1号ロ)、代理人については「当該代理人の権限を証する情報」(同項2号)と、「資格」と「権限」で言葉が違います。委任状に記名押印する人を「申請人又はその代表者」と定める同令18条1項も、代表者が申請人の側にいることを前提にした書き方です。

「使者」──決めるのは本人、伝える・届けるだけ

「使者」は、本人が決めた意思表示を相手に伝える人、あるいは本人が作った書類を相手に届ける人を指す言葉です。民法にも会社法にも、使者を定義した条文はありません。e-Gov法令検索で現行の法令を「使者」で検索しても、「議決権行使者」「親権行使者」のように別の言葉の一部として現れるだけで、代理と対比される意味での「使者」を定めた条文は見つかりません(2026年10月確認)。つまり使者は、条文上の用語ではなく、代理と区別するために学説が整理してきた講学上の概念です。

代理人との分かれ目は、内容を決めているのが誰かです。代理人は自分で判断して意思表示をしますが、使者は本人が決め終えた内容をそのまま伝えるだけで、自分の判断を差し込む余地がありません。本人が書き上げた手紙を届ける人、本人が決めた返事をそのまま伝える人が典型です。もっとも、使者が内容を伝え間違えたときに誰の問題として扱うかなど、細かな点は条文に書かれておらず、解釈に委ねられています。この記事では「決めるのは本人、伝えるのは使者」という骨格の理解にとどめます。

登記の場面に戻ると、委任状は代理人の権限を証する書面なので、書類を法務局まで運ぶだけの人の名前を書く欄ではありません。委任状に受任者として名前を書くということは、その人に申請という行為を任せる(代理人にする)という意味を持ちます。「届けてもらうだけだから」と気軽に名前を書くものではない、と押さえておくと混同を防げます。

三つの立場の読み分け

内容を決めるのは 誰の行為として扱われるか 登記の委任状での現れ方
代理 代理人 効果が本人に及ぶ(民法99条1項) 受任者欄(司法書士など)
代表 代表者 法人の業務に関する行為をする権限を持つ(会社法349条4項) 委任者欄の「代表取締役△△」
使者 本人 本人の意思表示を伝えるだけ(条文上の定義なし) 名前は現れない

まとめ

「代理」は代理人が自分で意思表示をして効果だけが本人に及ぶしくみ(民法99条1項)、「代表」は会社などの法人の名前で、法人の側に立って行為する立場(会社法349条)、「使者」は本人の決めた内容を伝える・届けるだけの役割を指す講学上の言葉です。登記の委任状には、委任者側の「代表取締役」と受任者側の「代理人」が同時に現れ、不動産登記令も両者を別の号・別の言葉で書き分けています。委任状に誰の名前をどの欄に書くべきか迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

  • 後藤元伸「続・法人学説の再定位―ドイツ法人論におけるサヴィニーとギールケの現代的再評価と法人の機関論―」政策創造研究(関西大学政策創造学部)第14号(2020年3月)27〜80頁(関西大学学術リポジトリ): https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/records/15894

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