この記事の要点

  • 遺産分割協議で不動産を相続したときの申請書は、法務局の様式「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)」と記載例に沿って、上から順に埋めていきます。
  • 「原因」に書く日付は、遺産分割協議がまとまった日ではなく、亡くなった方が亡くなった日です。
  • 登録免許税は「課税価格(固定資産課税台帳の価格の合計、1,000円未満切り捨て)×1000分の4」で計算し、100円未満を切り捨てます。
  • 2026年10月5日以降に申請する場合は、「国籍等」の欄と添付情報の「国籍等を証する情報」が加わった新しい様式を使います。
  • 不動産の表示は、登記事項証明書に書かれているとおりに写します。迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

この記事は、遺産分割協議で不動産を相続することが決まった方が、ご自身で相続登記の申請書を作るときに、各欄に何をどう書くかをまとめたものです。戸籍集めから登記完了までの全体の流れは、相続登記の流れを最初から最後までやさしく解説で説明していますので、ここでは申請書の中身に絞ります。

なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の制度と、法務局・法務省が公開している様式・記載例に基づく一般的な解説です。

まず、法務局の様式と記載例を手元に用意する

申請書は、法務局のホームページ「不動産登記の申請書様式について」からダウンロードできます。「2 所有権の移転」の「2-1 相続」にある「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)」が、遺産分割協議で相続した場合の様式です。様式(白紙のひな型)と記載例(書き方の見本と解説)が、それぞれWord版とPDF版で公開されています。

あわせて、法務省民事局が作成した「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」(令和8年4月)も同じページから開けます。申請書の項目ごとの説明が載っているので、記載例と並べて読むと理解しやすくなります。ただし、このご案内の申請書の見本には、2026年10月5日から加わる「国籍等」の欄と「国籍等を証する情報」がまだ載っていません(2026年9月30日に確認)。10月5日以降に申請する場合、この2点は、次に紹介する新しい様式・記載例に合わせてください。

2026年10月5日以降に申請するなら、新しい様式を使う

2026年9月30日に法務局のホームページで確認したところ、遺産分割用の様式・記載例は2種類が並べて掲載されています。

  • これまでの様式と記載例
  • 「R8.10.5以降に申請する場合」の様式と記載例(令和8年9月11日更新)

ページには「10月5日以降は、登記名義人となる方の国籍等を申し出ていただくことになります」と注記されています。新しい様式では、相続人の欄に「国籍等」が、添付情報の欄に「国籍等を証する情報」が加わっています。どちらを使うかは、申請する日で決まります。この記事では、これから申請する方に合わせて、10月5日以降の様式に沿って説明します。国籍等の申出のしくみそのものは、住所変更登記義務化の「検索用情報の申出」とはで解説しています。

用紙と書き方の共通ルール

法務局が示している共通の注意事項は、次のとおりです。

  • A4の丈夫な用紙(上質紙など)を縦置き・横書きで使い、裏面は使わない(片面印刷)
  • パソコンで入力するか、黒のインクやボールペンではっきり書く(消えるインクや鉛筆は使えない)
  • 添付書類と一緒に、左とじにして提出する

記載例:父が亡くなり、遺産分割協議で長男が自宅を相続した場合

法務局の記載例にならい、「父が亡くなり、相続人である母・長男・長女の3人で遺産分割協議をして、父名義の土地と建物を長男が1人で相続した」という場面を想定します。氏名・住所・番号などはすべて架空のものです。

      登 記 申 請 書

登記の目的  所有権移転

原   因  令和8年2月10日相続

相 続 人  (被相続人 甲 野 太 郎)
       ○○県○○市○○町二丁目3番4号
         甲 野 一 郎  印
       氏名ふりがな  こうの いちろう
       生年月日    昭和○年○月○日
       国籍等     日本
       メールアドレス [email protected]
       連絡先の電話番号 000-0000-0000

添付情報
  登記原因証明情報 住所証明情報 国籍等を証する情報

□登記識別情報の通知を希望しません。

令和8年10月○日申請 ○○地方法務局○○支局

課税価格  金12,691,000円

登録免許税 金50,700円

不動産の表示
  所   在  ○○市○○町一丁目
  地   番  45番6
  地   目  宅地
  地   積  150・25平方メートル

  所   在  ○○市○○町一丁目45番地6
  家屋番号   45番6
  種   類  居宅
  構   造  木造かわらぶき2階建
  床 面 積  1階 60・00平方メートル
         2階 45・00平方メートル

以下、上から順に各欄の書き方を見ていきます。

各欄の書き方

登記の目的

「所有権移転」と書きます。相続登記は、亡くなった方から相続人へ所有権が移ったことを記録する「所有権の移転の登記」にあたるためです。

原因

「令和○年○月○日相続」と書きます。日付は、被相続人(亡くなった方)が亡くなった日で、戸籍に記載された死亡の日です。

ここは間違えやすいところで、法務局の記載例の解説も「遺産分割協議が成立した日ではなく」と明記しています。協議書の日付を書いてしまわないよう注意してください。なお、法務局の記載例では、日付は和暦(令和)で書かれています。

ここでの説明は、登記記録上の所有者が亡くなった方のままである場合のものです。すでに法定相続分で相続登記がされている不動産について遺産分割による登記をするときは、所有権の更正の登記によることができ、その場合は原因の日付の基準が異なります(この記事後半の【さらに深掘り】「すでに法定相続分で相続登記がされている場合」で説明します)。

相続人(申請する人)の欄

この欄には、次の順で書きます。

  1. かっこ書きで被相続人の氏名:「(被相続人 甲野太郎)」のように、亡くなった方の氏名を書きます。
  2. 不動産を相続した人の住所と氏名:住民票の写しに記載されているとおりに正確に書き、氏名の後ろに押印します。印鑑は認印でかまわないとされています。なお、窓口で登記完了後の書類を受け取るときは、申請書に押したものと同じ印鑑が必要になると案内されていますので、どの印鑑を押したかは控えておきましょう。
  3. 氏名ふりがな・生年月日・メールアドレス:申請人である相続人について書きます。メールアドレスは、ご本人だけが使っているものを書くよう案内されています。
  4. 国籍等(2026年10月5日以降の申請):日本国籍の方は、記載例のとおり「日本」と書きます。
  5. 連絡先の電話番号:申請書の内容に直すべき点があったときに、法務局から連絡を受けるための番号です。平日の日中につながる番号(携帯電話でも可)を書きます。

記載例では、相続人の欄に書かれているのは不動産を取得した長男だけで、遺産分割協議で不動産を取得しなかった母と長女は書かれていません。

氏名ふりがな・生年月日・メールアドレスは、2026年4月から始まった住所・氏名の変更登記の義務化と関係しています。法務局の記載例の解説によると、法務局は定期的に住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)でこれらの情報を使って住所や氏名の変更を確認し、変更があればメールで連絡したうえで、ご本人の了解を得て法務局の側で変更の登記をする、とされています。

また、住所の後ろに住民票コード(住民票の写しなどに記載されている番号)を書くこともできます。書くかどうかは任意ですが、書いた場合は、添付情報の住所証明情報(住民票の写し)の提出を省略できます。

添付情報

欄には、書類の名前ではなく「登記原因証明情報 住所証明情報」と、情報の種類を書きます(法務局の様式には、この文言があらかじめ印字されています)。2026年10月5日以降の様式では、これに「国籍等を証する情報」が加わっています(記載例の見本では「国籍を証する情報」と表記されています)。実際に添付するものは、次のとおりです。

欄に書く名前 主な中身(遺産分割の場合)
登記原因証明情報 遺産分割協議書と、協議に加わった相続人の印鑑証明書(協議書に押した実印のもの。誰の分まで必要かは下の注意点参照)/被相続人の出生から死亡までの経過がわかる戸籍・除籍の証明書/遺産分割協議に加わった相続人全員の戸籍の証明書(被相続人が亡くなった日以後に証明されたもの)
住所証明情報 不動産を相続した人の住民票の写し(マイナンバーの記載がないもの)
国籍等を証する情報(10月5日以降) 日本国籍の方は、相続人であることがわかる戸籍の証明書で足り、重ねて出す必要はないとされています

添付情報について、記載例の解説には次の点も書かれています。

  • 遺産分割協議書に添付する印鑑証明書は、作成後3か月以内のものでなくてもかまいません。誰の分が必要かは、法務局の記載例では「遺産分割協議を行った相続人全員の印鑑証明書」、法務省のご案内(遺産分割協議編)では「遺産分割協議を行った相続人(ただし、登記申請人である相続人を除く。)」と、資料によって書き方が異なります。協議に加わった相続人全員の分をそろえておけば、どちらの案内にも足ります。
  • 被相続人の最後の氏名・住所が登記記録と違う場合や、本籍が登記記録上の住所と違う場合は、登記記録上の名義人と同じ人であることがわかる住民票の除票や戸籍の附票の写しなどが必要です。
  • 法定相続情報一覧図の写しを出すか、申請書に法定相続情報番号を書けば、被相続人の死亡がわかる戸籍と、相続人であることがわかる戸籍の添付に代えられます。一覧図の写しに相続人の現在の住所が書かれていれば、住所証明情報にも代えられます。
  • 「相続関係説明図」を一緒に出すと、戸籍の証明書の原本を、登記の調査が終わった後に返してもらえます。

遺産分割協議書そのものの作り方は、この記事の範囲外です。あわせて読みたい欄の記事をご覧ください。

登記識別情報の通知を希望しない場合のチェック欄

登記が完了すると、新しく名義人になった申請人に「登記識別情報」(アラビア数字などの組合せからなる12桁の符号)が通知されます。これは、その後の登記の申請で本人確認の手段の一つとして使われる情報です。通知を希望しない場合にだけ、□にチェックを入れます。

申請日と申請先の法務局

申請する年月日と、申請先の法務局の名前を書きます。申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局(本局・支局・出張所)です。管轄は、法務局ホームページの「管轄のご案内」で調べられます。

課税価格

登録免許税を計算するもとになる金額です。書き方のポイントは次のとおりです。

  • 市区町村の固定資産課税台帳の価格を使います。毎年市区町村から届く固定資産課税明細書で「価格」または「評価額」と書かれている金額で、「固定資産税課税標準額」ではない、と法務局は注意しています。
  • 課税明細書は、申請する年度のものを使います。手元にない場合は、市区町村が発行する証明書で確認できます。
  • 土地と建物など複数の不動産を1通の申請書で申請するときは、それぞれの価格を合計してから、1,000円未満を切り捨てます。
  • 私道などで固定資産課税台帳の価格がない場合は、法務局が認定した価格になるため、管轄の法務局に問い合わせます。
  • 登録免許税が免税になる場合は、課税価格は書かなくてよいとされています。一部の土地だけが免税になる場合は、その土地の価格を合計に加える必要はないとされています。

登録免許税

登録免許税は、相続登記の申請で納める国の税金です。相続による所有権の移転の登記の税率は1000分の4で、計算は次のとおりです。

登録免許税 = 課税価格 × 1000分の4(100円未満切り捨て。1,000円に満たないときは1,000円)

冒頭の記載例(架空の数字)で計算の流れを示すと、次のようになります。

  1. 土地の価格 8,123,400円 + 建物の価格 4,567,800円 = 12,691,200円
  2. 1,000円未満を切り捨てて、課税価格は 12,691,000円
  3. 12,691,000円 × 1000分の4 = 50,764円
  4. 100円未満を切り捨てて、登録免許税は 50,700円

一定の相続登記については、2027年3月31日までの間、登録免許税が免税される措置があります。免税になる場合は、税額の代わりに免税の根拠となる法令の条項を書きます。一部の土地だけが免税になる場合は、残りの不動産の分の税額を書いたうえで、どの土地が免税になるかと根拠の条項を書きます(法務局の案内に、この場合の記載例もあります)。法務局の案内(2026年4月1日更新)では、「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」または「租税特別措置法第84条の2の2第2項により非課税」と書き、書かないと免税措置は受けられないとされています。

この条文は2026年4月1日に番号が変わっており、それより前の解説や見本では「第84条の2の3」となっていることがあるため、最新の法務局の案内で確認してください。どんな場合に免税になるかは、相続登記の登録免許税が『ゼロ』になる土地で解説しています。

納める方法は、書面で申請する場合、現金で納付した領収証書か収入印紙を、申請書に直接ではなく別の白紙(台紙)に貼り、申請書と一緒にとじます。収入印紙には割印や消印をしないよう案内されています。

不動産の表示

相続する不動産を、登記記録(登記事項証明書)に書かれているとおりに正確に書きます。

  • 土地:所在・地番・地目・地積
  • 建物:所在・家屋番号・種類・構造・床面積

ふだん使っている住所ではなく、登記事項証明書に書かれた所在・地番・家屋番号を写すのがポイントです。登記事項証明書の取り方は、登記事項証明書交付申請書の書き方で解説しています。

登記事項証明書に記載されている13桁の不動産番号を書いた場合は、所在・地番・地目・地積(建物なら所在・家屋番号・種類・構造・床面積)を省略できます。不動産番号の記載は任意なので、わからなければ書かなくてもかまいません。分譲マンション(敷地権付き区分建物)は書く項目が異なるため、法務局のご案内で該当する記載例を確認してください。

なお、登記事項証明書に書かれた内容が今の土地や建物の様子と違う(たとえば増築した部分が登記されていない、地目が現況と違う)と気づくことがあるかもしれません。その場合でも、この申請書の不動産の表示は登記記録どおりに書きます。地目や地積、建物の表示の変更といった「表示に関する登記」の調査・測量や申請手続の代理は、土地家屋調査士の業務です(土地家屋調査士法3条1項)。

最後に:契印ととじ方

  • 申請書が2枚以上になるときは、各用紙のつづり目に契印をします(申請人が2人以上いる場合は、そのうち1人の契印でよいとされています)。
  • 収入印紙などを貼った台紙は申請書の次に重ね、左側の余白の2か所をホチキスでとめ、申請書と台紙との間にも契印をします。
  • 添付書類は、ホチキスでとめた申請書と台紙の後ろに、クリップでとめるなどしてまとめます。

法務局は、申請前に確認するためのチェックリストも公開しています。押印・電話番号・契印・収入印紙の貼り忘れなどを、提出前に確認しておくと安心です。

まとめ

  • 遺産分割協議で相続した場合の申請書は、法務局の「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)」の様式と記載例に沿って、上から順に埋めます。
  • 「原因」の日付は亡くなった日。相続人欄には不動産を取得した人を、住民票どおりに書きます。
  • 課税価格は固定資産課税台帳の価格の合計(1,000円未満切り捨て)、登録免許税はその1000分の4(100円未満切り捨て)です。免税の場合は根拠条文を書きます。
  • 2026年10月5日以降の申請では、国籍等の欄と「国籍等を証する情報」が加わった新しい様式を使います。
  • 不動産の表示は登記事項証明書どおりに写し、現況との違いに気づいたときの表示に関する登記の調査・測量や申請の代理は土地家屋調査士の業務です。

戸籍の読み方や、相続人・不動産が多い場合など、ご自身で進めてよいか迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 相続登記を自分で申請すると、費用はどのくらいかかりますか?

主な費用は登録免許税で、課税価格(固定資産課税台帳の価格の合計)の1000分の4です。このほか、戸籍の証明書・住民票の写し・印鑑証明書・登記事項証明書などの取得手数料や、郵送する場合の郵便料金がかかります。司法書士に依頼する場合は別に報酬がかかり、金額は事務所ごとに異なります。

Q. 申請書の作成に手間取って、期限に間に合わないとどうなりますか?

相続登記は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請することが義務になっています。2024年4月1日より前に相続したことを知った不動産で、まだ相続登記をしていないものは、2027年3月31日までに申請する必要があります。正当な理由がないのに申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法164条1項)。時間がたつと相続人の中で亡くなる方が出て、手続きがより複雑になることもあります。

Q. 本当に自分で書けますか? わからないときはどこに相談すればいいですか?

法務局は様式と記載例、手続きのご案内を公開しており、ご自身で申請することもできます。申請書類の作成でわからない点は、管轄の法務局に相談するよう案内されています。ただし、法務局では遺産分割の方法や遺産分割協議書の作成についての相談には応じられないとされています。数次相続や相続人が多い場合など、判断に迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】申請書・添付書類・登記記録の突き合わせと、申請書の形が変わる場面

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

申請書の各欄に求められる「合致」

不動産登記法25条は、登記官が登記の申請を却下しなければならない場合を列挙しています。その中には、次のような「合致しないとき」や「提供されないとき」が含まれています。

  • 申請情報の内容である不動産または登記の目的である権利が、登記記録と合致しないとき(6号)
  • 申請情報の内容が、登記原因を証する情報(登記原因証明情報)の内容と合致しないとき(8号)
  • 申請情報と併せて提供しなければならない情報が提供されないとき(9号)

法務局が公開している記載例の解説(遺産分割〔数次相続〕の記載例)は、申請書の欄ごとに、何と「合致していることを要する」か(不動産の表示については「符合していることを要する」か)を明記しています。整理すると次のとおりです。

申請書の欄 合致が求められる相手
被相続人の氏名(括弧書き) 登記記録と、登記原因証明情報(戸籍の証明書など)。合致しない場合は同一性を証する書面を添付
相続人の住所・氏名(2人以上なら持分も) 登記原因証明情報と、住所証明情報(住民票の写し)
不動産の表示 登記記録の土地・建物の表示

遺産分割による相続登記では、戸籍の証明書などとあわせて遺産分割協議書が登記原因証明情報となり、どの不動産を誰が取得したかは協議書に書かれます。法務省民事局の「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」に載っている遺産分割協議書のイメージでも、相続する不動産は、所在・地番・地目・地積(建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積)という、登記記録と同じ項目で書かれています。申請書の不動産の表示と、協議書に書かれた不動産とが同じものを指しているかどうかは、8号の「合致」にかかわる点です。

もっとも、25条には柱書のただし書があり、申請の不備が補正できるものである場合に、登記官が定めた相当の期間内に申請人が補正したときは、却下されません。法務局の記載例の解説は、申請書の記載内容等に補正すべき点がある場合に登記所から連絡するための電話番号を書くよう求めています。また、東京ブロック管内の法務局が公開しているQ&Aは、申請書に押す印鑑は実印でなくてよいとしたうえで、その印鑑は「申請書の補正や登記識別情報の受領の場合に必要」になるので、登記の完了まで紛失しないよう案内しています。本文では受け取りの場面に触れましたが、補正の場面でも同じ印鑑が必要とされています。

1件の申請書にまとめられる範囲

申請情報は、登記の目的と登記原因に応じて、一つの不動産ごとに作るのが原則です。同じ登記所の管轄区域内にある二つ以上の不動産について、登記の目的と登記原因・その日付が同じときなどに限って、1件の申請書にまとめることができます(不動産登記令4条)。

相続登記について、東京ブロック管内の法務局のQ&Aは、次のように案内しています。

  • 不動産によって相続人が異なる場合は、相続人・持分が一致する不動産ごとに申請書を作成する必要がある
  • 登記名義人である被相続人が不動産ごとに異なる場合は、1件の申請書では申請できず、被相続人と相続人・持分が一致する不動産に限って1件の申請書で申請できる

本文の記載例は、土地と建物を長男1人が相続する場面なので1通にまとまっています。これに対し、たとえば遺産分割協議の結果、自宅は長男、別の土地は長女が相続することになった場合は、申請書が分かれることになります。また、登記の事務は不動産の所在地を管轄する登記所がつかさどるため(不動産登記法6条1項)、管轄の異なる登記所の不動産は、それぞれの登記所に申請します。

相続人の一部がすでに亡くなっている場合

相続人の中に亡くなった方がいるときは、亡くなったのが被相続人の相続の開始以前か後かで、申請書への影響が大きく異なります。

相続の開始以前に亡くなっていた場合(代襲相続)

被相続人の子が相続の開始以前に亡くなっていたときは、その者の子が代襲して相続人となります(民法887条2項。被相続人の直系卑属でない者は除かれます)。東京ブロック管内の法務局のQ&Aも、被相続人が亡くなる前に子Aが亡くなっていた場合、Aに子C(被相続人の孫)がいるときは、CがAを代襲し、配偶者やほかの子と共に共同相続人になると説明しています。

この場合も、原因の日付は被相続人が亡くなった日です。違いが出るのは、遺産分割協議の当事者となる相続人の範囲と、法定相続人を特定するために集める戸籍の範囲です。同Q&Aは、相続の順位や相続の内容に応じた戸籍謄本が必要となる場合がある、としています。

相続の開始後、登記をする前に亡くなった場合(数次相続)

被相続人が亡くなった後、その相続の登記をしないうちに相続人が亡くなると、相続が重なります。法務局は、この場面のための様式と記載例「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)(数次相続)」を、本文で紹介した遺産分割の様式と同じページに掲載しています(2026年10月5日以降に申請する場合の版もあります)。記載例の解説によると、原因の欄は二つの相続を連ねて書きます。

原   因  令和○年○月○日(中間の相続人の氏名)相続
       令和○年○月○日相続

1行目には、最初の被相続人(登記記録上の名義人)が亡くなった日と、その相続の相続人(中間の相続人)の氏名を、2行目には、その中間の相続人が亡くなった日を書きます。いずれも戸籍に記載されている日です。記載例では、括弧書きの被相続人の欄には登記記録上の名義人である最初の被相続人の氏名が、相続人の欄には最終の相続人が書かれています。

ただし、このように1件の申請で登記できる場面には限りがあります。記載例の解説は、「最終の相続以外の相続について、共同相続人数名が権利を取得している場合には、一件の申請では登記することができません」としています。東京ブロック管内の法務局のQ&Aも、最初の相続が単独相続である場合(遺産分割、相続放棄または他の相続人に相続分のないことによる単独相続を含む)に限り、登記原因とその日付を連記したうえで、登記名義人から最終の相続人名義に直接相続登記を申請できる、と案内しています。途中の相続で誰が権利を取得したかによって申請の組み立てが変わるため、数次相続では、申請書を書き始める前に相続関係の全体を整理しておくことが前提になります。

すでに法定相続分で相続登記がされている場合

本文の様式(登記の目的「所有権移転」、原因「年月日相続」)は、登記記録上の所有者が亡くなった方のままであることを前提にしています。一方、法定相続分による相続登記は、相続人のうちの一人が申請人となってすることもできるため(法務省民事局「登記申請手続のご案内(相続登記②/法定相続編)」)、遺産分割協議がまとまる前に、すでに相続人全員の共有名義になっていることがあります。

このような不動産について遺産分割協議がまとまった場合について、法務省民事局長の通達(令和5年3月28日付け法務省民二第538号)は、法定相続分での相続登記がされている場合に遺産の分割の協議等による所有権の取得に関する登記をするときは、所有権の更正の登記によることができ、登記権利者が単独で申請できるとしています(令和5年4月1日以後にされる登記の申請から)。登記権利者とは、その登記によって登記上直接に利益を受ける者をいいます(不動産登記法2条12号)。同通達によると、本文の場面とは次の点が異なります。

  • 登記の形:所有権の更正の登記によることができます。通達の登記記録例では、もとの相続登記に付記する形で「3番所有権更正」と記録されています。
  • 原因とその日付:「年月日遺産分割」とし、日付は遺産分割の協議(または調停)が成立した日、あるいは審判が確定した日です。本文で説明した「原因の日付は亡くなった日」とは、日付の基準が異なります。
  • 登記原因証明情報:遺産分割協議書(協議書に押印した申請人以外の相続人の印鑑に関する証明書を含む)、遺産分割の審判書の謄本(確定証明書付き)、遺産分割の調停調書の謄本などが該当するとされています。
  • 第三者の承諾:登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、その承諾がなければ申請できないことなどは従前のとおりとされています(同通達。不動産登記法66条等)。

どちらの場面に当たるかは、申請する時点の登記記録を見れば分かります。申請書を書き始める前に、登記事項証明書の権利部(甲区)で、所有者がまだ亡くなった方の名義のままかを確認しておくことが、様式の取り違えを防ぐ手がかりになります。

なお、法定相続分での相続登記がされた後に遺産分割があったときは、その遺産分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した相続人は、遺産分割の日から3年以内に、その結果に基づく登記を申請する義務があります(不動産登記法76条の2第2項)。2024年4月1日より前に遺産分割があった場合は、同日から3年以内、つまり2027年3月31日までです(民法等の一部を改正する法律〔令和3年法律第24号〕附則5条6項)。正当な理由がないのに怠ると、本文のよくある質問で触れた10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法164条1項)。「すでに相続登記がしてあるから期限はない」とはならない点に注意が必要です。

遺産分割協議書の原本を返してもらうとき

本文で触れた「相続関係説明図」による原本の返却は、戸籍の証明書等が対象です。法務局の記載例の解説は、相続関係説明図を提出した場合には戸籍の証明書等の原本を返すことができるとしたうえで、「遺産分割協議書については、別にその謄本を提出する必要があります」としています。

書面で申請した申請人は、添付書面の原本の還付を請求でき、その場合は原本と相違ない旨を記載した謄本を提出します(不動産登記規則55条1項・2項)。法務省民事局の「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」は、そのやり方として、コピーに「原本に相違ありません」と記載し、登記申請書に押印した申請人がそのコピーに署名(記名)押印して、原本と一緒に提出する方法を案内しています。原本が返されるのは、登記所での調査が終わった後です(同規則55条3項)。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。


あわせて読みたい