この記事の要点

  • 公正証書遺言は、公証役場への事前相談→資料の提出→文案の確認→作成当日→正本・謄本の受け取り、という流れで作るのが一般的です
  • 作成当日には証人2人以上の立会いが必要で、推定相続人や財産を受け取る人などは証人になれません(民法974条)
  • 手数料は「財産を受け取る人ごとの金額」を基準表に当てはめて合算し、加算をのせて決まります。2025年10月1日に手数料の額が改定されています
  • 2025年10月1日から、公正証書は原則として電子データで作成されるようになり、条件を満たせばウェブ会議での手続も制度上可能になりました
  • まずは必要書類をそろえ、内容のメモを作ってから公証役場に相談するのが近道です

公正証書遺言は、公証人(公証役場で公正証書の作成などを担当する法律の専門家)が、遺言をする人から内容を聞き取って作る遺言です。作り方の大きな流れは、公証役場に相談し、必要書類と内容のメモを出し、公証人が作った文案を確認したうえで、作成当日に証人2人の立会いのもとで仕上げる、というものです。

自分で書く自筆証書遺言とどちらを選ぶかで迷っている場合は、自筆証書遺言と公正証書遺言の比較記事で違いを整理しています。この記事では、公正証書遺言を作ると決めたあとの「公証役場での手順」に絞って解説します。

公正証書遺言の法律上のルール

民法969条は、公正証書で遺言をするときの方式として、次の2つを定めています。

  • 証人2人以上の立会いがあること
  • 遺言をする人が、遺言の趣旨を公証人に「口授」すること(口頭で伝えること)

公正証書そのものは、公証人法の定めるところにより作成されます(民法969条2項)。口がきけない方の場合は、口授に代えて、公証人と証人の前で通訳人の通訳により申述するか、自書しなければならないと定められています(民法969条の2)。

また、遺言は、遺言をする時点でその能力(内容を理解して判断できる状態)があることが前提です(民法963条)。

公証役場での手順

日本公証人連合会の案内をもとに、一般的な流れを順に見ていきます。細かな進め方は公証役場ごとに異なることがあるため、実際には相談先の公証役場の指示に従ってください。

1 事前の相談・依頼

公証役場に連絡して相談します。士業や銀行を通さず、遺言をする本人や家族が直接公証役場に連絡することもできると案内されています。日本公証人連合会の案内では、相談は無料とされています。作成当日に公証人に自宅や病院へ来てもらいたい(出張を頼みたい)場合は、相談の段階で伝えておくとスムーズです。

2 資料の提出

「誰に、どの財産を渡したいか」をまとめたメモと、必要書類を公証役場に提出します。メモは、たとえば次のように財産と受け取る人を対応させた簡単なもので足ります。

  • 自宅の土地・建物 → 〇〇
  • 〇〇銀行の預金 → 〇〇

どのような内容にするか(誰に何をどれだけ渡すか)は、遺言をする人自身が決めることです。家族関係や財産の状況によって考えるべき点が変わるため、内容の組み立てに不安がある場合は、作成前に専門家へ相談してください。

3 文案の確認・修正

公証人が、提出されたメモと資料をもとに遺言公正証書の文案を作り、提示します。内容を確認し、直したいところがあれば伝えて修正してもらい、文案を確定させます。財産の書き方(不動産の所在や地番、口座の特定のしかた)に誤りがないかも、この段階で確認しておきます。

4 作成日時の決定

文案が固まったら、作成当日の日時を決めます。公証役場に出向くのが基本ですが、高齢や病気などで出向くことが難しい場合には、公証人が自宅や老人ホーム、病院などに出張して作成することもできます(公証人法49条)。

5 作成当日

日本公証人連合会の案内では、当日はおおむね次の順序で進みます。

  1. 遺言をする人が、証人2人の前で、遺言の内容を公証人に口頭で伝える
  2. 公証人が、確定した文案をもとに準備した遺言公正証書の原本を、遺言をする人と証人に読み聞かせるか閲覧させて、内容に間違いがないかを確認する
  3. 遺言をする人と証人が電子サインをし、最後に公証人が電子署名をして完成する(電子データで作成する場合)

日本公証人連合会の案内では、遺言をする人が自分の真意を自由に述べられるように、当日の手続の際には利害関係人に席を外してもらう運用が行われているとされています。付き添いの家族が推定相続人(相続人になる予定の人)など利害関係人に当たる場合は、席を外すよう求められることがあると知っておくとよいでしょう。なお、民法974条は証人になれない人を定めた規定であり、その場に居合わせること自体を禁じる条文ではありません。

6 正本・謄本の受け取りと原本の保管

完成した公正証書の原本は、公証役場側で保管されます。電子データで作成された原本は、日本公証人連合会が運営するシステムで保管されると案内されています。遺言をする人には、原本の内容を記録・記載し、原本と同一であることの証明を付したもの(日本公証人連合会の案内では「従来の正本に相当するもの」と説明されています)と、原本の内容を記録・記載したもの(同じく「従来の謄本に相当するもの」)が交付されます。いずれも、書面で受け取る方法のほか、電子データで受け取る方法も選べます(公証人法44条1項・43条1項)。

日本公証人連合会の案内によると、遺言公正証書の原本は、遺言者の死亡後50年、証書作成後140年または遺言者の生後170年間保存する取扱いとされています。また、平成元年以降に作成された公正証書遺言は、日本公証人連合会のシステムで検索することができ、検索の申出は、相続人などの利害関係人に限られます(遺言者が亡くなる前は、遺言者本人だけが申し出ることができます)。

なお、公正証書遺言は、相続が始まったあとの家庭裁判所での検認(遺言書の状態を確認する手続)が不要です(民法1004条2項)。

2025年10月から変わったこと──電子化とウェブ会議

民事関係手続のデジタル化を進める法律(令和5年法律第53号)による公証人法の改正が、2025年(令和7年)10月1日に施行されました。法務省民事局の資料で示されている主な変更点は次のとおりです。

  • 公正証書は、原則として電子データで作成され(公証人法36条)、原本も電子データのまま保存される。押印に代えて電子サインで内容を承認する
  • 嘱託した人が希望し、公証人が相当と認めるときは、ウェブ会議を使って手続を進めることができる(公証人法37条2項・40条3項)
  • 正本・謄本は、書面に加えて電子データで受け取ることもできる

ウェブ会議の利用は、本人の希望があれば必ず認められるものではなく、公証人が相当と認めることが条件です。利用できる場面や必要な機器・通信環境については、相談先の公証役場に確認してください。

証人2人──証人になれない人

公正証書遺言には、証人2人以上の立会いが必要です(民法969条1項1号)。民法974条は、次の人は遺言の証人になれないと定めています。

  • 未成年者
  • 推定相続人、受遺者(遺言で財産を受け取る人)、およびこれらの配偶者と直系血族(親や子など)
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人

遺言をする人の配偶者や子などの推定相続人は、遺言で財産を受け取るかどうかにかかわらず、証人になれません。証人は遺言をする人の側で手配するのが基本ですが、日本公証人連合会の案内では、適当な証人が見当たらない場合は公証役場で紹介することも可能とされています。証人を頼む人が決まったら、その人が上記に当たらないかを事前に公証役場へ確認しておくと安心です。

なお、証人になれない人の範囲を見直す内容を含む法律(令和8年法律第45号)が2026年6月に公布されていますが、この記事の時点(2026年10月)では、この部分はまだ施行されていません。施行後に作成する場合は、その時点の条文を確認してください。

必要書類の一般例

日本公証人連合会の案内では、一般的な必要書類として次のようなものが挙げられています。事案によって追加の書類を求められることがあるため、最終的には相談先の公証役場の指示に従ってください。

  • 遺言をする人の印鑑登録証明書(発行後3か月以内のもの)。顔写真付きの官公署発行の身分証明書で代えることもできます
  • 遺言をする人と相続人との続柄がわかる戸籍謄本(除籍謄本)
  • 相続人以外の人に財産を渡す場合は、その人の住民票など(法人の場合は登記事項証明書など)
  • 財産に不動産がある場合は、登記事項証明書と固定資産評価証明書など
  • 預貯金がある場合は、通帳またはそのコピー
  • 証人を自分で手配する場合は、証人予定者の氏名・住所・生年月日のメモ

戸籍や不動産の登記事項証明書は取り寄せに日数がかかることもあるため、早めに準備を始めるのがおすすめです。

手数料の考え方

公正証書遺言の手数料は、公証人手数料令で定められています。具体的な金額表は比較記事の費用の章にまとめているため、ここでは「どう計算されるか」の考え方を整理します。

  1. 財産を受け取る人ごとに、その人が受け取る財産の価額を出す
  2. それぞれの価額を、手数料令の基準表(別表)の区分に当てはめて手数料額を求める(手数料令9条)
  3. 受け取る人ごとの手数料額を合算する

日本公証人連合会の案内でも、このように「財産の相続または遺贈を受ける人ごと」に算出して合算する方法が示されています。これに、次のような加算や実費がのることがあります。

  • 遺言加算:遺言の目的の価額が1億円以下のときは、1万3000円が加算されます(手数料令19条1項)
  • 枚数による加算:電子データで作成する場合、出力した書面が3枚を超えると、超える1枚ごとに300円が加算されます(手数料令25条)
  • 病床での作成:遺言をする人の病床で作成したときは、手数料(遺言加算などを加える前の額)にその5割の額が加算されます(手数料令32条)
  • 出張の場合:公証人の日当(1日2万円、4時間以内は1万円)と、交通費などの旅費がかかります(手数料令43条)
  • 正本・謄本に相当するもの:書面で受け取る場合は1枚300円、電子データで受け取る場合は2500円です(手数料令40条・40条の2)

なお、基準表の金額や遺言加算の額は、2025年10月1日施行の改正(令和7年政令第263号)で改定されています。それより前の情報をもとにした解説では金額が異なることがあるため、注意してください。正確な金額は、文案ができた段階で公証役場から示されます。

まとめ

公正証書遺言は、公証役場への事前相談から始まり、必要書類と内容のメモの提出、文案の確認を経て、作成当日に証人2人の立会いのもとで完成します。原本は公証役場側で保管され、相続が始まったあとの検認も不要です。2025年10月からは原則として電子データで作成されるようになり、条件を満たせばウェブ会議での手続も可能になりました。

一方で、誰に何を渡すかという中身は、遺言をする人が自分で決める必要があります。作成後に相続手続をどう進めるかまで見据えておきたい場合は、遺言執行者の役割もあわせて確認しておくと安心です。手続の準備や書類のそろえ方で迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 公正証書遺言を作る費用はどのくらいかかりますか?

公証人の手数料は、財産を受け取る人ごとの価額を基準表に当てはめて合算し、遺言加算(目的の価額が1億円以下なら1万3000円)などをのせて決まります。財産の額や受け取る人の数、出張の有無で変わるため、一律の金額はありません。正確な額は文案ができた段階で公証役場から示されます。専門家に準備を依頼する場合は、その報酬が別にかかります。

Q. いつまでに作ればよいですか?放置するとどうなりますか?

遺言を作ること自体に期限はありません。ただし、遺言は作成する時点で内容を理解し判断できる状態であることが前提のため(民法963条)、判断能力が衰えてからでは作れなくなるおそれがあります。遺言がないまま相続が始まると、原則として相続人全員で遺産の分け方を話し合うことになります。作成後に事情が変われば、遺言の方式に従って撤回・作り直しもできます(民法1022条)。

Q. 自分だけで作れますか?どこに相談すればよいですか?

遺言をする本人や家族が、直接公証役場に相談して作ることもできます。内容の組み立てや書類の準備に不安がある場合は、専門家に相談するとよいでしょう。相続人どうしの争いや遺留分(一定の相続人に保障された取り分)が心配な場合は弁護士、相続税が気になる場合は税理士へ。相続登記を見据えた書類の準備などは、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】公正証書遺言の方式をめぐる条文の組み立て──証人・方式の特則・ウェブ会議・遺言執行者

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

1 遺言の証人は「公証人法の証人」とみなされる

民法969条3項は、公正証書遺言の証人(同条1項1号)について、公証人法30条に規定する証人とみなして、公証人法の規定を適用すると定めています。このため、たとえば次の点は公証人法の規定から導かれます。

  • 証人は、嘱託人(公正証書の作成を頼む人。遺言では遺言をする人)が選定する(公証人法35条1項)
  • 証人も「列席者」に含まれ(公証人法37条2項かっこ書)、公証人から証書の読み聞かせまたは閲覧を受けて、記載・記録が正確であることを承認し、署名またはこれに代わる措置をとる(公証人法40条1項・5項)

一方で、民法969条3項は、公証人法35条3項(証人になれない人の定め)を適用対象から除いています。公正証書遺言の証人になれない人は、公証人法35条3項ではなく民法974条で判断する、という組み立てです。公証人法35条3項が掲げる人(嘱託事項の代理人、嘱託人の同居人や被用者など)と民法974条が掲げる人とは範囲が一致しないため、一般の公正証書の証人についての説明を、そのまま遺言の証人に当てはめないよう注意が必要です。

2 口がきけない人などの方式の特則

口がきけない人が公正証書遺言をする場合には、民法969条1項2号の「口授」に代えて、公証人と証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述するか、自書しなければなりません(民法969条の2第1項)。公証人は、この方式に従って作成したときは、その旨を証書に記載し、または記録します(同条2項)。

耳が聞こえない人については、現行の民法969条の2には特別の定めが置かれていません。公正証書の作成手続の一般的な定めとしては、作成した公正証書を列席者に「読み聞かせ、又は閲覧させ」て正確なことの承認を得るとする公証人法40条1項や、嘱託人が聴覚などの障害で音声言語による意思疎通が難しく、かつ、視覚による表現の認識や文字の理解も難しい場合などに通訳人の通訳を義務づける公証人法29条があります。どの方法で進めるかは、事前相談の段階で公証役場に伝えて確認しておく事項です。

また、成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時に遺言をするには、方式を問わず、医師2人以上の立会いが必要です(民法973条1項)。

3 ウェブ会議方式と証人の立会い

公証人法37条2項は、嘱託人からの申出があり、公証人がその申出を相当と認めるときは、法務省令の定めるところにより、公証人と列席者が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をする方法で、公正証書を作成するための事実の確認(条文上の「事実の実験」)を行うことができると定めています。読み聞かせ・閲覧と承認についても同じ趣旨の定めがあります(公証人法40条3項)。

公証人法31条は、「前二条の場合において」、つまり同法29条・30条により通訳人や証人が関わる場面を前提として、証人を映像と音声の送受信による方法で公正証書の作成に立ち会わせることができると定めています。公正証書遺言の証人は、公証人法30条の証人とみなされ、同法の規定が適用される(民法969条3項)ため、条文の組み立てとしては、遺言の証人もこの前提に当たると読めます。これを受けた公証人法施行規則は、公証人法37条2項または40条3項の映像と音声の送受信による方法で遺言公正証書を作成する場合に、「証人が嘱託人と同席しているときは、その旨」を公正証書の記載・記録事項として定めており(同規則24条10号)、遺言の証人が遺言をする人と同じ場所にいない形でウェブ会議に加わる場面が、省令の上でも想定されています。また、この方法で公正証書を作成するときは、公証人が、通話をする人と、その人のいる場所の状況が手続を行うのに適切であることを確認しなければなりません(同規則23条)。ただし、いずれの規定も「嘱託人の申出」と「公証人が相当と認めること」が要件であり、証人を含めてどの範囲をウェブ会議で行えるかは、個別に公証役場へ確認することになります。

4 遺言執行者の指定を入れておく意味

遺言をする人は、遺言で、1人または数人の遺言執行者を指定し、またはその指定を第三者に委託することができます(民法1006条1項)。遺言執行者がいる場合の主な効果を、条文で確認しておきます。

  • 遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる(民法1012条2項)
  • 相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができず、これに反する行為は無効となる。ただし、善意の第三者には対抗できない(民法1013条1項・2項)
  • 遺産分割の方法の指定として特定の財産を相続人に承継させる旨の遺言(特定財産承継遺言)があるときは、遺言執行者は、その相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。預貯金債権であれば、払戻しの請求や、その全部が遺言の目的である場合の解約の申入れもできる(民法1014条2項・3項)。ただし、遺言で別段の意思を表示したときはそれに従う(同条4項)
  • 遺言執行者は、任務を開始したときは、遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければならない(民法1007条2項)

なお、未成年者と破産者は遺言執行者になることができません(民法1009条)。遺言執行者が相続後に担う手続の全体像は、遺言執行者の役割の記事で整理しています。

5 相続開始後──検認が不要であることの意味

民法1004条1項は、遺言書の保管者などに、相続の開始を知った後、遅滞なく家庭裁判所に遺言書を提出して検認を請求することを求めていますが、同条2項により、公正証書による遺言にはこの規定は適用されません。そのため、公正証書遺言であれば、家庭裁判所の検認手続を経ることなく、相続登記などの相続手続の準備に進むことができます。

令和8年法律第45号による改正後の民法1004条(この記事の時点で未施行)でも、公正証書による遺言に検認の規定を適用しない定め(同条2項)は維持されています。

2025年10月1日以降に電子データで作成された公正証書遺言について、相続手続でどのような形(書面で受け取った正本・謄本か、電子データか)で提出するかは、提出先ごとの取扱いを確認しておく必要があります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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