この記事の要点

  • 遺贈寄付とは、遺言で「遺贈」という方法を使い、亡くなったあとに財産の全部または一部を団体などに寄付することを指す呼び方です
  • 遺贈には、財産を割合で渡す「包括遺贈」と、特定の財産を指定して渡す「特定遺贈」があり(民法964条)、受け取る団体にとっての負担が大きく違います
  • 団体は遺贈を断ることができ(民法986条)、とくに不動産は受け入れていない団体もあるため、遺言を作る前に受け取る側への確認が欠かせません
  • 不動産や株式などを法人に遺贈すると、値上がり分に所得税がかかる「みなし譲渡所得課税」の対象になることがあり(所得税法59条)、その申告は相続人が行うことになります。税金の判断は税理士に確認しましょう
  • 遺贈を確実に実現するために、遺言で遺言執行者を決めておくことが大切です

遺贈寄付とは、遺言によって、自分が亡くなったあとに財産の全部または一部を、公益的な活動をしている団体などに渡すことです。「遺贈寄付」は法律の条文にある言葉ではなく、遺言による「遺贈」という仕組みを使った寄付を、一般にこう呼んでいます。

お金のように分けやすい財産であれば比較的シンプルですが、不動産を寄付しようとする場合には、受け取る団体に断られることがある点と、相続人に税金の申告が回ってくる点に、とくに注意が必要です。この記事では、遺贈寄付の基本的な仕組みと、つまずきやすいポイントを順に整理します。

なお、「遺贈」そのものの意味や、「相続させる」と書く遺言との違いは「相続させる」と「遺贈する」はどう違う?で解説しています。

遺贈寄付は「遺言」があって初めて成り立つ

遺贈寄付の出発点は遺言です。遺言がなければ、財産は法律で決まった相続人に受け継がれ、団体に渡ることはありません。相続人が一人もいない場合でも、遺言がなければ、清算の手続きを経て、特別縁故者(生前に特別な関係があった人)への分与がされなかった財産は最終的に国のものになる流れが基本です(この流れはおひとりさまの相続準備で整理しています)。

つまり、「お世話になった団体や、応援している活動に財産を役立ててほしい」という思いは、遺言という形にしておかなければ実現しません。遺言の方式には、自分で書く自筆証書遺言や、公証役場で作る公正証書遺言などがあります。公正証書遺言の手順は公正証書遺言の作り方を参照してください。

包括遺贈と特定遺贈──団体にとっての負担が違う

民法964条は、遺言をする人は「包括又は特定の名義で」財産の全部または一部を処分できると定めています。遺贈には次の2種類があります。

種類 渡し方のイメージ 受け取る側の立場
包括遺贈 「財産の全部」「財産の3分の1」のように、割合で渡す 相続人と同一の権利義務を持つ(民法990条)
特定遺贈 「○○銀行の預金」「この土地」のように、財産を特定して渡す 指定された財産だけを受け取る

遺贈寄付を考えるうえで大事なのは、包括遺贈を受けた団体は「相続人と同一の権利義務」を持つという点です(民法990条)。そのため、亡くなった方に借金などのマイナスの財産があれば、割合に応じてそれも引き継ぐ立場になります。また、「財産の3分の1」のように一部を割合で遺贈され、相続人がほかにいる場合には、受け取る団体も相続人と一緒に遺産の分け方の話し合い(遺産分割協議)に加わることになると一般に解されています。

団体の側から見ると、包括遺贈は「何がどれだけあるか分からない財産を、借金も含めて割合で引き受ける」ことになり、負担が大きくなりがちです。これに対し特定遺贈は、受け取る財産がはっきりしているため、団体側で受け入れの判断がしやすいといえます。どちらの形で書くかによって、受け取る側の負担がこれだけ違う、という点は押さえておきましょう。

団体は遺贈を「断る」ことができる

遺贈は、遺言をする人が一方的に決めるものなので、受け取る側には断る自由があります。民法986条は、受遺者(遺贈を受ける人や団体)は、遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄できると定めています。なお、この規定が適用されるのは特定遺贈で、包括遺贈については、包括受遺者が相続人と同一の権利義務を持つことから(民法990条)、相続放棄と同じく家庭裁判所への申述(民法938条)によると一般に解されています(放棄の期限の違いは、末尾の関連記事で整理しています)。

断られた財産はどうなるのでしょうか。民法995条は、遺贈が放棄によって効力を失ったときは、受遺者が受けるはずだったものは相続人に帰属すると定めています(遺言で別の定めをしていれば、それに従います)。つまり、団体に断られると、寄付したかったはずの財産が結局は相続人のもとに戻ることになります。

とくに不動産は断られることがある

遺贈寄付で断られる可能性が特に高いのが不動産です。団体の側には、次のような事情があるためです。

  • 受け取った後の管理(草刈り、修繕、固定資産税など)に手間や費用がかかる
  • 活動にそのまま使えない場合、売却してお金に換える必要があるが、すぐに売れるとは限らない
  • 建物の老朽化や境界の問題など、受け取ってみないと分からないリスクがある

こうした事情から、受け入れる財産の種類や条件は団体ごとに異なり、現金などに限っている団体や、不動産は条件付きでしか受け付けない団体もあるとされています。不動産のままではなく、売却してお金に換えた形であれば受け入れられるかどうかも、団体ごとの判断です。

いずれにしても、遺言を作る前に、受け取ってほしい団体に「この財産を遺贈で受け入れてもらえるか」を確認しておくことが、遺贈寄付を空振りに終わらせないための基本です。

不動産を法人に遺贈すると、相続人に所得税の申告が回ってくる

不動産を寄付するときに見落とされやすいのが税金です。

所得税法59条1項1号は、法人に対する遺贈によって不動産や株式などの資産が移転した場合、その時の価額(時価)で売ったものとみなして、譲渡所得を計算すると定めています。これを「みなし譲渡所得課税」といいます。実際にはお金を受け取っていないのに、取得したときより値上がりしている分について、亡くなった方が売却して利益を得たのと同じように所得税の計算をする、という仕組みです。現金を遺贈する場合には、この問題は生じません。

この所得税は、亡くなった方のその年の所得として、相続人(包括遺贈を受けた者を含みます)が亡くなった方に代わって申告することになります(所得税法125条1項・2条2項。いわゆる準確定申告)。財産を受け取っていない相続人のもとに、申告と納税の負担が回ってくる可能性があるという点は、遺贈寄付を考えるうえで大きな注意点です。

一方で、国や地方公共団体への遺贈や、公益法人などへの遺贈のうち一定の要件を満たして国税庁長官の承認を受けたものについて、この課税を非課税とする特例があります(租税特別措置法40条)。ただし、要件や手続きは細かく定められており、実際に課税されるか、特例が使えるか、税額がいくらになるかは、必ず税理士に確認してください。

遺言執行者を決めておく意味

遺贈寄付を確実に実現するために、遺言で遺言執行者(遺言の内容を実現する手続きを担う人)を決めておくことが大切です。民法1006条1項により、遺言で遺言執行者を指定することができます。

民法1012条2項は、遺言執行者がいる場合には、遺贈の履行(財産を受遺者に引き渡す手続き)は遺言執行者だけが行えると定めています。遺言執行者がいれば、預金の払戻しや不動産の名義変更といった遺贈の手続きを、遺言執行者が中心となって進めることができます。

逆に、遺言執行者がいない場合、遺贈の手続きは相続人の協力に頼ることになります。相続人が寄付に納得していなかったり、そもそも相続人がいなかったりすると、手続きが止まってしまいかねません。その場合は家庭裁判所に遺言執行者の選任を求めることができますが(民法1010条)、時間と手間がかかります。受け取る団体にとっても、手続きの窓口がはっきりしているほうが受け入れの判断をしやすいと考えられます。遺言執行者の役割については、末尾の関連記事もあわせてご覧ください。

遺留分への配慮も必要

配偶者や子など、遺留分(法律で一定の相続人に保障された最低限の取り分)を持つ相続人がいる場合には、遺贈寄付の内容によっては、その相続人から受け取った団体に対して、遺留分に相当するお金の支払いを求められる可能性があります(民法1042条・1046条)。

寄付した財産をめぐって相続人と団体の間でもめごとが起きることは、遺言をした本人の本意ではないはずです。遺留分を持つ相続人がいる場合には、そうした事態が起こり得ることを踏まえて内容を考えることが大切です。

まとめ

遺贈寄付は、遺言によって亡くなったあとに財産を団体などに遺す方法です。包括遺贈は受け取る団体が借金も含めて引き継ぐ立場になるため負担が大きく、また団体は遺贈を断ることができます。とくに不動産は受け入れられないことがあるため、遺言を作る前に受け取る側への確認が欠かせません。さらに、不動産などを法人に遺贈するとみなし譲渡所得課税の対象になることがあり、その申告は相続人が行うことになるため、税金の点は税理士への確認が必要です。

遺言の書き方や、遺言執行者の決め方、不動産の名義変更の手続きについて不安がある場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 遺贈寄付をするのに費用はかかりますか? 遺言を作る費用(公正証書遺言なら公証人の手数料など)がかかります。亡くなったあとには、遺言執行者を専門家に頼む場合の報酬や、不動産であれば名義変更の登記費用がかかります。不動産や株式を法人に遺贈する場合は、相続人の側にみなし譲渡所得課税による所得税が生じる可能性もあります。税額の見込みは税理士に確認してください。

Q. 遺言を作らずにいると、どうなりますか? 遺言がなければ、財産は相続人に受け継がれ、団体に寄付されることはありません。相続人がいない場合も、清算の手続きを経て、特別縁故者への分与がされなかった財産は最終的に国のものになる流れが基本です。また、遺言を作っていても遺言執行者がいないと、団体が遺言の存在を知らないまま手続きが進まなかったり、相続人の協力が得られず止まってしまったりするおそれがあります。

Q. 自分で準備できますか?どこに相談すればよいですか? 自筆証書遺言であれば自分で書くこともできますが、方式に不備があると無効になるおそれがあります。受け入れの可否は寄付先の団体に、税金の見込みは税理士に、遺言の内容や不動産の名義変更の手続きは司法書士に、と相談先を分けて確認すると整理しやすくなります。遺言の作成や手続きに不安がある場合は、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】遺贈寄付を実現させる遺言の書き方と名義変更の流れ

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

受け取る団体は「名称」と「所在地」で特定する

遺贈寄付の遺言では、受け取る団体を誰が読んでも一つに決まるように書くことが基本です。不動産の名義変更の登記では、権利を取得した者の「氏名又は名称及び住所」が登記される事項とされています(不動産登記法59条4号)。法人であれば、正式な名称と主たる事務所(会社であれば本店)の所在地を、登記事項証明書などで確認したとおりに書いておくと、遺言の記載と登記の内容を結びつけやすくなります。略称や活動名だけで書くと、どの法人を指すのかの確認に手間がかかるおそれがあります。

また、遺言を作ってから効力が生じるまでに年月がたつと、団体の名称や所在地が変わっていることもあります。その場合は、遺言に書かれた団体と現在の団体が同じであることを、遺言の執行の段階で確認する作業が必要になります。

団体が受け取らなかったときの行き先も書いておく

本文で触れたとおり、遺贈が放棄されると、受け取るはずだった財産は原則として相続人に帰属しますが、遺言で別の意思を示しておけばそれに従います(民法995条ただし書)。遺贈寄付の遺言では、この「ただし書」を受けて、団体が受け取らなかった場合に財産をどうするか(別の受け取り手に渡すのか、相続人に渡すのか)をあらかじめ書いておくことが考えられます。行き先を書いていないと、財産は相続人に帰属し、寄付したいという思いは実現しないまま終わります。

不動産を売って、お金で渡す「清算型遺贈」

団体が不動産のままでは受け取れない場合に用いられる方法として、遺言執行者が不動産を売却してお金に換え、そこから費用などを差し引いた残りを団体に渡す、という内容の遺贈があります。一般に「清算型遺贈」と呼ばれます。

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を持ちます(民法1012条1項)。清算型遺贈では、遺言の中に、売却して換価すること、差し引く費用の範囲、残ったお金を誰に渡すかを具体的に書き、遺言執行者を指定しておくことが大切です。不動産そのものは団体には渡らず、売却や名義変更の手続きは遺言執行者が中心になって進めるため、その手順は団体に不動産を直接遺贈する場合とは異なります。また、不動産を売却する以上、譲渡所得の課税関係が生じ得ます。誰がどのように申告するのかを含め、税金の扱いは税理士に確認してください。

団体への遺贈による名義変更は「共同申請」

不動産の名義変更などの権利に関する登記は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者(権利を得る側)と登記義務者(権利を失う側)が共同して申請するのが原則です(不動産登記法60条)。2023年(令和5年)4月1日からは、遺贈による所有権の移転の登記を、受遺者が一人で申請できるようになりましたが、これは相続人に対する遺贈に限られています(同法63条3項)。

そのため、相続人ではない団体への遺贈による名義変更は、包括遺贈か特定遺贈かを問わず、原則どおりの共同申請になります。登記権利者は受け取る団体(法人である場合を想定しています)で、登記義務者(登記上、直接に不利益を受ける登記名義人。同法2条13号)は、名義人であった亡くなった方の側です。亡くなった方の側の手続きは、遺言執行者がいる場合には、遺贈の履行は遺言執行者だけが行えるため(民法1012条2項)、遺言執行者が行います。遺言執行者がいない場合は、亡くなった方の権利義務を引き継いだ相続人(民法896条)がその立場で申請に関わることになり、相続人の協力が得られないと名義変更が進みません。本文で遺言執行者の指定をすすめているのは、この登記の場面でも意味を持ちます。

遺贈寄付と公益信託の違い

遺言で財産を社会貢献に役立てる方法には、団体に財産そのものを渡す遺贈寄付のほかに、信託を使う方法もあります。信託は遺言によって設定することもでき(信託法3条2号)、2026年4月1日に施行された公益信託に関する法律(令和6年法律第30号)は、公益信託を、受益者の定めのない信託であって公益事務を行うことのみを目的とするものと定めています(同法2条1項1号)。公益信託は信託契約か遺言の方法によってしなければならず(同法4条1項)、行政庁の認可を受けなければ効力を生じません(同法6条)。

遺贈寄付では財産が団体のものになるのに対し、公益信託では、受託者が信託の目的に従って財産を管理し、公益のための事務を行う、という構造になります。遺言で公益信託を設定する場合には、受託者となる者が引き受けてくれるか、認可を受けられる内容になっているかまで含めた設計が必要です。

税金の面では、遺言で公益信託を設定して不動産や株式などを信託した場合も、亡くなった方から受託者に遺贈によって財産が移ったものとして扱われ(所得税法67条の3第10項。2026年4月1日施行)、受託者が個人か法人かを問わず、本文で触れたみなし譲渡所得課税の対象になり得ます(同法59条1項1号)。国税庁長官の承認による非課税の特例(租税特別措置法40条)も、公益信託の受託者に対する遺贈を対象に含む形になっています。実際に課税されるか、特例が使えるかは、遺贈寄付の場合と同じく税理士に確認してください。制度の概要は、末尾の関連記事で解説しています。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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