事業が軌道に乗って、別の地域にもう一つ拠点を構えたい――。そんなとき、「支店を出すなら登記がいるのだろうか」「本店のある法務局と、支店のある法務局の両方に届け出るのか」と迷う経営者の方は少なくありません。

実はこの点、数年前の会社法改正で手続きが一つ減って、シンプルになりました。今回は、支店を設けるときの登記が今どうなっているのかを整理してみます。

そもそも「支店」とは何か

会社法でいう「支店」とは、単なる作業場や倉庫ではなく、本店から離れた場所で、ある程度独立して事業の取引をおこなう拠点を指すと一般に説明されます。支店長が契約を結べる営業所、といったイメージです。

ここで注意したいのは、看板に「○○支店」と掲げているかどうかと、会社法上の「支店」にあたるかどうかは別の話だという点です。実態として独立した営業活動の拠点になっているかどうかで判断され、単なる連絡所や資材置き場は会社法上の支店にはあたらないことが多いとされています。逆に「営業所」と呼んでいても実質が支店なら登記が必要になる場合があります。

自社の拠点が会社法上の「支店」にあたるかどうかは、個別の実態によって判断が分かれる論点です。迷う場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

どうやって決める?──機関による決定

支店を設けると決めるのは、会社の意思決定機関です。

  • 取締役会を置いている会社:取締役会の決議で決めます(業務執行に関する決定。会社法362条2項1号)
  • 取締役会を置いていない会社:取締役が複数いれば、その過半数で決定します(会社法348条2項)

定款(会社のルールブック)に支店についての定めを置いていなければ、定款を変更する必要はありません。逆に、定款で支店の場所まで定めている会社が、その範囲を超える場所に支店を設ける場合には、定款の変更(株主総会の特別決議)が必要になることがあります。決定の内容は、後で登記の添付書類になりますので、議事録などの形できちんと残しておくことが大切です。

登記は「本店のある法務局」で

支店の所在場所は、会社の登記事項の一つです(会社法911条3項3号)。支店を設けたら、本店の所在地を管轄する法務局に対して、支店設置の登記を申請します。

期限は、支店を設けてから2週間以内です(会社法915条1項)。役員変更などと同じく、この期限を過ぎても登記そのものはできますが、登記を怠ると過料(行政上のペナルティとしての金銭負担)の対象になり得る点は知っておきたいところです(会社法976条1号)。

ここが変わった:「支店所在地での登記」の廃止

かつては、支店を設けると、

  1. 本店のある法務局での登記(支店を設けた旨)
  2. 支店のある法務局での登記(商号・本店・支店の所在場所など、ごく一部の事項)

という二か所での登記が必要でした。本店と支店で管轄が違えば、それぞれの法務局に申請する手間と費用がかかっていたわけです。

これが、令和元年(2019年)の会社法改正により、②の「支店の所在地における登記」が廃止されました。施行は令和4年(2022年)9月1日で、それ以降は、支店を設けても、支店のある法務局に別途登記をする必要はなく、本店のある法務局での登記だけで済みます

廃止の背景には、インターネットで会社の登記情報を全国どこからでも調べられるようになり、支店の場所の法務局にわざわざ登記を置いておく意味が薄れた、という事情があるとされています。会社にとっては、申請の手間と費用が一つ減ったことになります。

費用の目安

支店設置の登記には、登録免許税という税金がかかります。支店の数に応じてかかる点が特徴で、支店1か所につき6万円です(登録免許税法別表第一)。複数の支店を同時に設けるときは、その数に応じて加算されます。

このほか、登記事項証明書の取得費用などの実費がかかります。なお、ここでいう登録免許税は登記にかかる税金の話であり、支店を新設したことに伴う法人住民税の均等割など地方税の取り扱いは別の問題です。拠点が増えると地方税の申告先が増えることがありますので、税務の詳細は税理士にご確認ください

あわせて確認したい「登記の外」の手続き

支店を出すと、登記以外にも動くものがあります。

  • 許認可が必要な業種(建設業の従たる営業所登録など)では、支店の開設にあわせて許認可の手続きが別途必要になることがあります。許認可については各所管の窓口や行政書士にご確認ください。
  • 労働保険・社会保険は、支店で人を雇う場合に新たな手続きが必要になることがあります。詳しくは社会保険労務士にご確認ください。

登記はあくまで「会社の基本情報を公示する手続き」です。事業を実際に動かすための許認可や保険の手続きとは別物だと整理しておくと、抜け漏れを防げます。

まとめ

  • 会社法上の「支店」は、独立して取引をおこなう拠点。看板の呼び名ではなく実態で判断される
  • 支店を設けるかどうかは、取締役会(または取締役の過半数)で決める
  • 登記は本店のある法務局で、設置から2週間以内
  • 改正により、支店のある法務局での登記は不要になり、手続きが一つ減った
  • 登録免許税は支店の数に応じてかかる。地方税・許認可・社会保険は登記とは別の手続き

支店の設置は、決定の仕方や添付書類が会社の機関設計によって変わります。自社のケースで何が必要になるか迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】支店設置登記の実務──決定機関・添付書類・登録免許税の区分

ご注意 以下は執筆時点(2026年6月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。

支店設置の登記は、手続き自体は比較的シンプルですが、「どの機関がどう決めたか」によって添付書類が変わります。ここでは申請の組み立てに沿って、もう一段踏み込んで整理します。

1. 決定機関と添付書類の対応

支店の設置は会社の業務執行に関する事項として決定します。会社の機関設計によって、決定する主体と、登記に添付する書類が変わります。

機関設計 決定する主体 登記の添付書類
取締役会設置会社 取締役会の決議(会社法362条2項1号) 取締役会議事録
取締役会を置かない会社 取締役の過半数の一致(会社法348条2項) 取締役の過半数の一致があったことを証する書面(取締役の決定書)

定款に支店に関する具体的な定め(「当会社は○○市に支店を置く」等)を置いている場合は、その定款規定との整合性を確認します。定款で支店の場所まで特定して定めているケースで、その範囲を超える支店を設けるときは、定款変更(株主総会の特別決議。会社法466条、309条2項11号)が必要になる場合があります。多くの中小企業は定款に支店の具体的定めを置いていないため、その場合は定款変更は不要で、決定機関の議事録等のみで足ります。

設置を決めたら、本店の所在地を管轄する法務局に、設置から2週間以内に支店設置の登記を申請します(会社法915条1項)。期限を徒過しても登記はできますが、過料の対象になり得ます(会社法976条1号)。

2. 登録免許税の区分

支店設置の登記の登録免許税は、支店の数を基準に課税される点が、定款変更系の登記(定額3万円が多い)と異なります。支店の設置は1か所につき6万円(登録免許税法別表第一第24号(1))で、複数の支店を同時に設ける場合は、その数に応じて加算されます。

なお、支店の移転廃止の登記は設置とは別区分で、いずれも3万円(同第24号(1))と税額の考え方が異なります。正確な税額の当てはめは、申請する登記の種類ごとにご確認ください。

ここで扱うのはあくまで登記にかかる登録免許税です。支店新設に伴う法人住民税の均等割など地方税の負担・申告は別問題であり、税務の詳細は税理士にご確認ください

3. 改正で「支店所在地での登記」がなくなった

実務上もっとも変わったのは、支店の所在地を管轄する法務局での登記が不要になったことです。

かつては、本店所在地での登記に加えて、支店の所在地の法務局でも、商号・本店・その支店の所在場所といった一部事項を登記する必要がありました。本店と支店の管轄が異なれば、それぞれに申請する手間と費用(支店所在地分の登録免許税)が発生していました。

この支店の所在地における登記の制度は、令和元年改正会社法により廃止され、令和4年9月1日から施行されています。登記情報がインターネットを通じて全国どこからでも取得できるようになり、支店の所在地に重ねて登記を置く必要性が乏しくなったことが理由とされています。施行日以降に支店所在地での登記を申請しても却下されます(商業登記法24条2号)。現在は、支店を設けても本店の所在地での登記のみで完結します。

4. 「設置」だけでなく「移転」「廃止」も同じ発想

支店は、設けるときだけでなく、場所を移すとき(移転)たたむとき(廃止)にも、本店所在地での変更登記が必要です。いずれも2週間以内が原則で、決定機関(取締役会または取締役の過半数)で決めて議事録等を添付する流れは共通します。拠点の見直しをするときは、設置・移転・廃止のどれにあたるかを最初に切り分けると、必要書類と費用の見通しが立てやすくなります。

5. 登記の前後で動く「登記以外」の手続き

支店の開設では、登記とあわせて次のような手続きが絡むことがあります。いずれも登記とは別の専門領域です。

  • 許認可業種(建設業の従たる営業所登録など)の手続き → 各所管の窓口・行政書士へ
  • 労働保険・社会保険の新規適用(支店で従業員を雇う場合)→ 社会保険労務士へ
  • 株主間の対立などで決議の有効性に争いがある場合 → 弁護士へ

登記は会社の基本情報を公示する手続きであり、事業を実際に動かす許認可や保険の手続きとは切り分けて準備するのが安全です。自社のケースで何をどの順で進めるべきか迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。