この記事の要点

  • 相続による所有権移転の登記は相続人が単独で申請できる登記なので、亡くなった方の権利証(登記済証)は原則として添付書類にならない
  • 実務で上申書が使われるのは「権利証が見つからないから」ではなく、登記簿上の住所と戸籍の本籍がつながらず、戸籍上の被相続人と登記上の所有者が同じ人だと示せないとき
  • 上申書は法令に定められた添付書類ではなく登記官の判断を補う書面で、何をどこまで求めるかは登記所によって差がある

古い実家の名義を相続人に変えようとして、「権利証が見つからないのですが、登記できますか」とご心配になる方は少なくありません。結論から申し上げると、相続登記の場面では、亡くなった方の権利証は原則として必要ありません。それでも実務で「上申書(じょうしんしょ)」という書面が登場することがあるのですが、それは権利証の紛失そのものが理由ではありません。

相続登記に亡くなった方の権利証は要らない

権利証(登記識別情報)の提供が求められるのは、不動産登記法22条が定める場面、つまり登記権利者と登記義務者が共同して申請する場合などです。売買や贈与のように、名義を手放す側の本人が申請に加わる登記がこれにあたります。

一方、相続による権利の移転の登記は、相続人が単独で申請できる登記とされています(不動産登記法63条2項)。同法22条がもう一つ挙げる「登記名義人が政令で定める登記の申請をする場合」についても、不動産登記令8条1項が合筆の登記や順位変更の登記などを列挙しており、その中に相続登記は入っていません。

このことは、法務局が公表している一般向けの案内でも確かめられます。「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」では、相続登記の添付情報として挙げられているのは「登記原因を証する書面(登記原因証明情報)」と「住所を証する書面(住所証明情報)」の二つで、権利証は登場しません。

なお、権利証をなくした場合の事前通知・公証人による本人確認・資格者代理人による本人確認という三つの方法は、売買や贈与のように登記義務者本人が申請に加わる場面のしくみです。こちらは権利証(登記識別情報)をなくしたら──3つの対処法と不正使用を防ぐ備えで解説していますので、本記事では相続登記の場面に絞ります。

上申書が出てくるのは「同じ人かどうか」を示せないとき

では上申書はどこで登場するのか。鍵になるのは、登記簿に記録された所有者の住所と、戸籍に記載された本籍が食い違っている場合です。

先ほどの法務局の案内では、「被相続人の登記上の住所」が「戸籍の証明書に記載された本籍」と異なる場合には、戸籍上の被相続人と登記上の所有者とが同一人であることを証明するため、①住民票の写し、②住民票の除票の写し、③戸籍の附票の写しのいずれか(いずれも登記上の住所と同じ住所が記載されているもの)を添付する、と書かれています。

問題は、この①〜③がどれも取れないことがある点です。住民票の除票と戸籍の附票の除票は、現在は消除・改製の日から150年間保存すると定められていますが(住民基本台帳法施行令34条1項)、この保存期間は令和元年6月20日施行の改正で5年から延長されたもので、それ以前に保存期間を過ぎて廃棄されたものは交付を受けられません。相続登記が何十年も放置された古い名義や、数次相続で世代をまたいだ実家では、まさにここでつまずきます。詳しくは戸籍の附票の使いどころ──登記簿の住所がつながらないとき、行方のわからない相続人を探すときをご覧ください。

そこで実務では、権利証(登記済証)、固定資産税の納税証明書や評価証明書、不在籍証明書・不在住証明書といった間接的な資料を組み合わせ、あわせて相続人全員が実印を押し印鑑証明書を添えた上申書を提出して、登記官に同一人であると認めてもらう、という進め方が用いられてきました。この運びを条文の側から説明するとき、不動産登記令の別表二十二の項がよく引かれます。同項の添付情報欄は「相続又は法人の合併を証する市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報)及びその他の登記原因を証する情報」と定めており、公務員が作成した書面が手に入らない場面に備えた受け皿が置かれています。

ただし、この括弧書きは、文言のうえでは相続があったこと自体を証する情報(登記原因証明情報)について置かれたものです。被相続人の同一性を証する資料について正面から定めた規定ではありません。同一性を証する資料もこの枠の中で捉える、という実務上の理解を前提にしてはじめて受け皿として働くという関係にあり、条文の文言から直ちに導かれるものではない点はご承知おきください。

「上申書がなくてもよい場合」を示すとされる二つの通知(原典は確認できていません)

この場面については、法務省民事局から次の二つの通知が出ていると紹介されています。

一つは平成29年3月23日付法務省民二第175号通知(同日付第174号回答)で、被相続人の同一性を証する情報として、登記上の住所が記載された住民票の写しや戸籍の附票の写し、あるいは所有権に関する被相続人名義の登記済証のいずれかがあれば、不在籍証明書・不在住証明書などの追加資料を求めることなく同一性を確認できる、という趣旨のものと紹介されています。この紹介のとおりであれば、権利証は、相続登記の必須書類ではないものの、見つかれば同一性の説明を短くしてくれる資料ということになります。

もう一つは令和5年12月18日付法務省民二第1620号通知で、住民票の写し(または戸籍の附票の写し)、固定資産税の納税証明書または評価証明書、不在籍証明書・不在住証明書が提供され、不動産の表示・氏名・住所などの記載が相互に一致していると登記官が確認できるときは、相続人全員の上申書を求めることなく登記して差し支えない、とする内容が紹介されています。遺言公正証書が提供された場合についても同様の整理が示されているとされます。

ただしここは正直に申し上げます。これら二つの通知は、法務省ホームページの「不動産登記関係の主な通達等」の一覧には掲載されておらず、今回、通知そのものの原典は確認できませんでした。日付・番号・内容が複数の司法書士事務所の解説で一致している、というところまでを確認したものとしてお読みください。

上申書は「お願い」の書面──取扱いに差がある

押さえておきたいのは、上申書という書面そのものを添付書類として定めた法令の規定はない、という点です。先ほど触れた「これに代わるべき情報」という括弧書きも、公務員が作成した書面に代わる資料を認める余地を置いているだけで、上申書を出しなさいと定めたものではありません。登記官に事情を説明し、判断の材料にしてもらうための補足的な書面ですから、どの資料をどこまで求めるかは、登記所(法務局・支局・出張所)ごとに、また事案ごとに判断が分かれ得ます。全国一律のルールがあるわけではありません。

したがって、「この書類をそろえれば必ず通る」という説明はできません。同じ書類の組み合わせでも、管轄が違えば追加の資料を求められることがあります。古い名義や数次相続で住所がつながらないことが分かった時点で、管轄の登記所に事前に相談し、どの資料で足りるかを確かめてから集め始めるほうが、結果的に手戻りが少なくて済みます。

執筆時点(2026年08月)の制度に基づく一般的な解説です。

まとめ

相続登記に亡くなった方の権利証は原則として要りません。上申書が登場するのは、権利証が見つからないからではなく、登記簿の住所と戸籍がつながらず、同じ人だと示せないときです。そして上申書は法令上の添付書類ではないため、取扱いには登記所ごとの差があります。実家の名義がずっと昔のままになっているなど、住所のつながりに不安がある場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年08月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく解説記事などの二次資料ですが、本文で紹介した二つの通知の日付・番号・内容の確認に用いたため、一次情報と区別して掲載しています。通知そのものの原典は確認できていません。

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