この記事の要点
- 家族信託は、信託契約で定めた事由(委託者兼受益者の死亡など)が生じたとき、委託者と受益者が合意したとき、受託者が欠けたまま1年たったときなど、法律が定める場面で終わります
- 信託が終わっても、その場で名義が変わるわけではありません。清算受託者が支払いなどを済ませたうえで、残った財産を「残余財産受益者」や「帰属権利者」に引き渡します
- 不動産では、受け取る人への名義の移転の登記と、信託の登記の抹消をあわせて申請します。抹消の登録免許税は不動産1個につき1,000円です
- 名義を移す登記の登録免許税は、「始めから委託者だけが受益者で、その委託者に戻す」場合は課税されず、「委託者の相続人が受け取る」一定の場合は相続と同じ千分の四、それ以外は原則として千分の二十と、場面によって分かれます
- まずは信託契約書と信託目録で、終了の事由と残った財産の行き先を確かめましょう
家族信託は、始めるときだけでなく、終わるときにも手続きが必要です。結論から言うと、信託が終わると「清算」という後始末の段階に入り、残った不動産は、信託の定めで指定された人に名義を移して引き渡します。 このとき、不動産を委託者本人に戻すのか、委託者の相続人などが引き継ぐのかによって、名義を移す登記にかかる登録免許税の扱いが変わります。
この記事では、①信託が終わる場面(終了事由)、②終わったあとの清算と、残った財産の行き先、③不動産を「戻す」場合と「引き継ぐ」場合の登録免許税の違い、の3点を順に整理します。家族信託の仕組みそのものは家族信託(民事信託)とはを、信託を始めるときに登記簿がどう変わるかは家族信託と不動産登記をご覧ください。なお、この記事は執筆時点(2026年11月)の制度に基づく一般的な解説です。
信託が終わる場面──法律が定める終了事由
信託がどのような場合に終わるかは、信託法163条と164条に定められています。主なものを整理すると、次のとおりです。
| 終わる場面 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 目的の達成・不達成 | 信託の目的を達成したとき、または達成できなくなったとき | 信託法163条1号 |
| 受託者が受益権のすべてを持つ状態が続いたとき | 受託者が受益権の全部を自分自身の財産として持つ状態が1年間続いたとき | 同条2号 |
| 受託者がいない状態が続いたとき | 受託者が欠け、新しい受託者が就任しない状態が1年間続いたとき | 同条3号 |
| 裁判所が終了を命じたとき | 予見できなかった特別の事情がある場合や、公益の確保のために、裁判所が信託の終了を命じたとき | 同条6号(165条・166条) |
| 信託契約で定めた事由が生じたとき | 「委託者兼受益者が亡くなったとき」など、契約で決めておいた事由が生じたとき | 同条9号 |
| 委託者と受益者の合意 | 委託者と受益者は、いつでも合意で信託を終わらせることができる | 同法164条1項 |
このほか、信託財産が足りずに受託者が費用の償還などを受けられない場合に受託者が信託を終了させたとき(同法163条4号・52条)、信託の併合(複数の信託を一つにまとめること)がされたとき(同条5号)、信託財産や委託者の破産手続などに関する事由が生じたとき(同条7号・8号)も、終了事由として定められています。
家族信託でよく見られる終わり方
家族信託では、親が委託者(財産を託す人)と最初の受益者(信託から利益を受ける人)を兼ね、子が受託者(託されて管理する人)になる形がよく見られます。この形では、信託契約に「委託者兼受益者が亡くなったときに信託は終了する」と定めておく例があり、その場合は親の死亡が、契約で定めた終了事由(信託法163条9号)にあたります。
一方、親が元気なうちに、親子の合意で信託を終わらせることもあります(信託法164条1項)。ただし、この合意による終了については、信託契約に別段の定めがあればそれに従うとされています(同条3項)。もっとも、合意による終了を認めない(同条1項の適用を排除する)定めについては、最高裁判所が、その定めが別段の定めとして効力を持つには、信託の目的の達成のために合理的に必要と認められることを要すると判断しています(最高裁判所第三小法廷令和8年6月17日決定)。また、委託者が現に存しない場合には、合意による終了の規定は適用されません(同条4項)。
「1年間」が区切りになる場面にも注意
見落とされやすいのが、受託者に関する2つの終了事由です。
- 受託者が亡くなるなどして受託者が欠け、新しい受託者が就任しないまま1年間たつと、信託は終了します(信託法163条3号)
- 受託者が受益権のすべてを自分自身の財産として持つ状態が1年間続いたときも、信託は終了します(同条2号)。たとえば、親が亡くなったあと、受託者である子が次の受益者として受益権のすべてを取得するような設計では、この点が関わってきます
終了の事由はどこで確かめるか
その信託がどのような場合に終わるのかは、まず信託契約書で確かめます。不動産が信託されている場合は、登記簿の信託目録にも「信託の終了の事由」が記録されています。信託目録のどの欄を見ればよいかは、登記簿の「信託目録」の読み方で解説しています。
信託が終わったあとの「清算」
信託が終わると、原則として清算をしなければなりません(信託法175条。信託の併合で終わった場合などは除かれます)。そして信託は、終わったあとも、清算が終わるまではなお続いているものとみなされます(同法176条)。
清算を担うのは「清算受託者」
信託が終わった時以後の受託者は「清算受託者」と呼ばれ、次の仕事をします(信託法177条)。つまり、信託が終わった時の受託者が、そのまま清算受託者として後始末を担うことになります。
- やりかけの仕事を終わらせること
- 信託財産の債権を取り立て、信託の債務を支払うこと
- 受益者への給付のうち、残余財産の給付以外のものを支払うこと
- 残った財産(残余財産)を、受け取る人に引き渡すこと
清算受託者は、原則として、信託の債務などを支払ったあとでなければ、残った財産を受け取る人に引き渡すことができません(信託法181条。支払いに必要な財産を残しておく場合は別です)。たとえば信託した賃貸物件に未払いの費用などがあれば、その整理が先になります。
名義は、清算の中で移していく
このように、信託が終わっても、その瞬間に登記簿の名義が受け取る人に変わるわけではありません。名義は受託者のままで、清算の中で登記を申請して、初めて名義が移ります。この点や、登記の申請を誰がするのかといった手続きの流れは、前掲の「信託目録の読み方」の記事の深掘りで整理しています。
残った財産は誰のものになるか──残余財産受益者と帰属権利者
信託が終わったあとに残った財産(残余財産)は、信託の定めで指定された次のいずれかの人に帰属します(信託法182条1項)。
- 残余財産受益者:残余財産の給付を受ける権利(受益債権)を持つ受益者として指定された人(同項1号)
- 帰属権利者:残余財産が帰属すべき人として指定された人(同項2号)
どちらも「信託が終わったら残った財産を受け取る人」ですが、法律上の位置づけが異なります。残余財産受益者は、条文の文言のとおり「受益者」として指定された人です。これに対して帰属権利者は、信託の定めで指定されていれば、当然に残余財産の給付を求める権利を取得し(信託法183条1項。信託の定めに別段の定めがあればそれによります)、信託の清算中に限って受益者とみなされます(同条6項)。なお、帰属権利者は、受託者に対してその権利を放棄する意思表示をすることができますが、帰属権利者が信託契約の当事者である場合は放棄できません(同条3項)。
指定がない場合
信託の定めに残余財産受益者や帰属権利者の指定がない場合や、指定された人の全員が権利を放棄した場合は、委託者またはその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する定めがあったものとみなされます(信託法182条2項)。それでも行き先が決まらないときは、残余財産は清算受託者に帰属します(同条3項)。
指定がなく委託者の相続人に帰属する扱いになると、相続人を確かめるための戸籍の収集などが必要になり、相続人が複数いれば、その間での確認や調整も必要になります。残った財産の行き先をめぐって関係者の意見が対立しているような場合は、弁護士にご相談ください。
不動産の登記──「委託者に戻す」か「相続人などが引き継ぐ」かで登録免許税が変わる
信託が終わって不動産を受託者以外の人に引き渡すときは、その人への所有権の移転の登記と、信託の登記の抹消を同時に申請します(不動産登記法104条1項)。申請の手順はここでは繰り返さず、登録免許税の扱いに絞って整理します。
信託の登記の抹消
信託の登記の抹消は、登録免許税法別表第一第1号(十五)の「登記の抹消」にあたり、不動産1個につき1,000円です。同じ申請書で20個を超える不動産の抹消を受ける場合は、申請1件につき2万円とされています。
名義を移す登記
名義を移す登記(所有権の移転の登記)は、誰に、どのような信託から移すのかによって、扱いが次のように分かれます。
| 場面 | 登録免許税の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 信託の効力が生じた時から引き続き委託者だけが元本の受益者である信託で、その受益者(引き続き委託者である人に限る)に財産を移す=委託者に戻す | 課税されない | 登録免許税法7条1項2号 |
| 同じく、信託の効力が生じた時から引き続き委託者だけが元本の受益者である場合で、財産を受け取る受益者が「信託の効力が生じた時における委託者の相続人」であるとき | 相続による移転とみなされ、不動産の価額の千分の四 | 同法7条2項、別表第一第1号(二)イ |
| 上のいずれにもあたらない場合 | 移転の原因に応じた税率。相続・法人の合併・共有物の分割以外の原因なら、不動産の価額の千分の二十 | 同法別表第一第1号(二)ハ |
いずれも、「信託の効力が生じた時から引き続き委託者だけが信託財産の元本の受益者である」ことが前提になっています。途中で委託者以外の人が受益者になっていた信託では、この要件との関係で慎重な検討が必要です。どの区分になるかは、信託契約の定めと、信託目録に記録された受益者の移り変わりをもとに確かめることになります。
よく見られる形にあてはめると
親が委託者兼受益者、子が受託者という形を例にとると、次のように考えることになります。
- 親が元気なうちに合意で終わらせ、不動産を親に戻す場合:始めから親だけが元本の受益者であれば、名義を親に戻す登記は登録免許税法7条1項2号の対象となり、課税されません(信託の登記の抹消の1,000円/個は別にかかります)
- 親の死亡で終わり、親の相続人が帰属権利者として受け取る場合:7条2項の「受益者」と、帰属権利者の関係(帰属権利者は清算中は受益者とみなされること)を踏まえて、相続と同じ千分の四の扱いになるかを確かめることになります。この点に関する国税局の文書回答事例(受託者である子自身が帰属権利者となった事案についてのもの)は、家族信託の費用の考え方の深掘りで紹介しています
- 委託者の相続人にあたらない人が受け取る場合:7条1項2号・2項のいずれにもあたらないため、別表第一第1号(二)の区分に従い、相続・法人の合併・共有物の分割以外の原因による移転であれば千分の二十になります
なお、受託者である子自身が帰属権利者として不動産を受け取る場合は、名義人が受託者のまま変わらないため、登記の組み立てが別に問題になります(前掲の「信託目録の読み方」の記事の深掘りを参照)。
税率をかける「不動産の価額」の考え方や、信託を始めるとき・受託者が交代するときなどを含めた場面別の一覧は、前掲の「家族信託の費用の考え方」の記事の深掘りで整理しています。
登録免許税以外の税金は税理士へ
信託が終わって財産が移ると、受け取る人に相続税や贈与税がかかることがあり、不動産取得税がかかるかどうかも場面によって異なります。こうした税金がかかるかどうか、いくらになるかは、税理士にご確認ください。
終わるときに慌てないために、確かめておきたいこと
- 終了の事由:どのような場合に信託が終わるのか(信託契約書・信託目録)
- 残った財産の行き先:残余財産受益者・帰属権利者が誰と定められているか、定めがない場合はどうなるか
- 受益者の移り変わり:始めから委託者だけが受益者だったか、途中で受益者が変わったか(名義を移す登記の登録免許税の区分に関わります)
- 信託の債務や未払いの費用:清算で先に支払うものがあるか
- 信託している不動産の数:信託の登記の抹消の登録免許税は、不動産1個ごとにかかります
これらは、信託を始める段階で契約書をどう定めておくかにも関わります。始めるときの費用だけでなく終わるときの費用も含めて見通しておくと、あとで想定外の負担に驚かずに済みます。
まとめ
家族信託は、信託契約で定めた事由が生じたとき、委託者と受益者が合意したとき、受託者が欠けたまま1年たったときなど、法律が定める場面で終わります。終わったあとは清算の段階に入り、清算受託者が支払いなどを済ませてから、残った財産を残余財産受益者や帰属権利者に引き渡します。不動産では、名義を移す登記と信託の登記の抹消をあわせて申請し、名義を移す登記の登録免許税は、委託者に戻すのか、委託者の相続人などが引き継ぐのかによって扱いが分かれます。信託契約書と信託目録の内容を確かめたうえで、終わるときの登記の進め方や登録免許税の見込みについては、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 信託が終わったときの登記には、どれくらいの費用がかかりますか?
信託の登記の抹消の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。名義を移す登記の登録免許税は、委託者に戻す場合(要件を満たせば課税されません)、委託者の相続人が受け取る一定の場合(不動産の価額の千分の四)、それ以外の場合(原則として千分の二十)で変わります。このほか、書類の取り寄せの費用や、手続きを頼む場合の報酬がかかります。具体的な金額は、お近くの司法書士に見積もりを依頼して確認してください。
Q. 信託が終わったあと、登記をしないまま放っておくとどうなりますか?
信託の登記の抹消について定めた不動産登記法104条は、名義を移す登記などと同時に申請することを定めていますが、申請の期限は定めていません。不動産登記法が申請の期限を定めているのは、相続による所有権の移転の登記(同法76条の2)や土地・建物の表示に関する登記など別の種類の登記で、信託の終了にともなう名義を移す登記や信託の登記の抹消について期限を定める規定はありません。ただし、登記をしないままだと名義は受託者のままで、受け取った人がその不動産を売ったり担保に入れたりするには、先に名義を移す必要があります。時間がたって受託者や受け取る人が亡くなると、関係者が増えて手続きが複雑になるおそれもあります。信託が終わったら、早めに清算と登記を進めることが大切です。
Q. 自分たちで手続きできますか? どこに相談すればよいですか?
終了の事由にあたるか、残った財産を誰が受け取るか、名義を移す登記の登録免許税がどの区分になるかは、信託契約書や信託目録の内容によって判断が分かれます。登記の手続きと登録免許税の扱いはお近くの司法書士に、相続税・贈与税・不動産取得税は税理士に相談するのが一般的です。残った財産の行き先などをめぐって家族の間で争いになっている場合は、弁護士にご相談ください。
【さらに深掘り】信託の「終わり方」を始める段階で考えておく──終了事由・帰属先・清算受託者の定めと終了時の手続き
ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文では、信託が終わったあとの清算と登記の流れを整理しました。ここでは視点を契約の段階に戻し、信託を始めるときに「終わり方」をどう定めておくかが、終了時の手続きにどう響くのかを、信託法の条文に沿って整理します。どの設計がよいかを示すものではなく、個別の契約条項の書き方を示すものでもありません。検討するときの観点の整理です。
なお、契約書の定めと費用の関係(後継の受託者の定め、信託監督人など)は家族信託の費用の考え方の深掘りで、終了時の登記の申請の手順は登記簿の「信託目録」の読み方の深掘りで扱っていますので、ここでは繰り返しません。
終了事由は「起きたかどうか」を確かめられる形かどうか
信託行為(家族信託では信託契約)で定めた事由が生じたとき、信託は終了します(信託法163条9号)。終了事由として何を定めるかは契約で決められますが、終了時の手続きを見通すうえでは、その事由が起きたこと、起きた時点を、あとから確かめられるかどうかが一つの観点になります。
- 信託が終わると清算が始まり(信託法175条)、不動産であれば受け取る人への名義の移転の登記を申請します。権利に関する登記の申請では、登記原因を証する情報を提供しなければならないとされています(不動産登記法61条)
- 「委託者兼受益者の死亡」のように公的な書類で確かめられる事実と、「財産の管理の必要がなくなったとき」のように評価を含む事由とでは、終了したかどうか、いつ終了したかについて、関係者の認識がそろいやすいかどうかが違ってきます
また、委託者と受益者はいつでも合意で信託を終了できますが(信託法164条1項)、受託者に不利な時期に終了したときは、やむを得ない事由がある場合を除いて、受託者の損害を賠償しなければならないとされています(同条2項)。この1項・2項とは異なる定めを信託契約に置くこともできます(同条3項)。ただし、委託者兼受益者と受託者の信託契約に1項の適用を排除する定め(合意による終了を認めない定め)を置いた場合について、最高裁判所第三小法廷令和8年6月17日決定は、その定めが3項の別段の定めとして効力を持つには、信託の目的の達成のために合理的に必要と認められることを要するとし、さらに、受託者がその定めを理由に委託者兼受益者からの終了の申入れを拒んで任務を続けることが許されるには、その行為が信託の目的の達成のために合理的に必要と認められることを要するとしています。合意による終了を認めるのか、認めるとしてどのような方法によるのかも、終わり方を考えるときの検討の対象になります。
委託者の死亡で「終わる」設計と「終わらない」設計
家族信託では、委託者兼受益者の死亡を終了事由として定め、その時点で清算に入る設計と、死亡後も次の受益者(第二次受益者)を定めて信託を続ける設計があります。どちらをとるかで、委託者の死亡後に使える手続きが変わります。
- 終わる設計:委託者兼受益者の死亡で終了し(信託法163条9号)、清算を経て、残余財産は信託の定めで指定された人に帰属します(同法182条1項)。死亡後の財産の行き先は、主に残余財産の帰属先の定めで決まることになります
- 終わらない設計:信託は委託者の死亡後も続きます。ここで注意したいのは、委託者が現に存しない場合には、委託者と受益者の合意による終了の規定(信託法164条1項・2項)が適用されないことです(同条4項)。信託の変更についても、委託者・受託者・受益者の合意による変更の規定(同法149条1項)などが適用されないとされています(同条5項)。続ける設計では、委託者の死亡後にどのような事由で、またどのような方法で信託を終わらせるのかを、契約の段階で定めておくかどうかが検討の対象になります(終了の事由の定め=同法163条9号、合意による終了についての別段の定め=同法164条3項。信託の変更についても別段の定めを置くことができます=同法149条4項)
もっとも、契約による信託で委託者が亡くなったとき、その相続人が委託者の地位を引き継ぐかどうかには議論があり、委託者の死亡がそのまま「委託者が現に存しない場合」にあたるとは限りません。この点は、前掲の「家族信託の費用の考え方」の深掘り(受託者の辞任の項)で整理しています。また、続ける設計で受益者を順に定めていく場合(受益者連続型)の期間の制限は、家族信託(民事信託)とはの深掘りをご覧ください。
どちらの設計でも、委託者の死亡によって財産や受益権が移ることに伴い、相続税などの課税関係が問題になります。具体的な課税関係は、設計の段階から税理士にご確認ください。
受託者が受益権のすべてを持つ形と「1年」(163条2号)
受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間続くと、信託は終了します(信託法163条2号)。たとえば、親が委託者兼受益者、子が受託者という信託で、親の死亡後の受益者を受託者である子だけと定めた場合、「終わらない設計」のつもりでも、この状態が1年間続けば信託は終了します。
この場合に効いてくるのが、残余財産の帰属先の定めです。信託の定めに残余財産受益者や帰属権利者の指定に関する定めがなければ、委託者またはその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する定めがあったものとみなされます(信託法182条2項)。委託者が亡くなっていれば、受託者である子以外の相続人も帰属権利者に含まれうることになり、「受託者である子に財産をまとめる」という当初の意図どおりにならない可能性があります。受益者を受託者一人にする形をとるかどうかは、この1年の規定と帰属先の定めをあわせて見ておく必要があります。なお、受託者以外にも受益者がいる場合は、受託者が受益権の「全部」を持つ状態にはあたりません。
受託者が欠けた場合の「1年」(163条3号)への備え
受託者個人の死亡など(信託法56条1項各号)で受託者の任務が終了し、新しい受託者が就任しない状態が1年間続くと、信託は終了します(同法163条3号)。後継の受託者を契約で定めておくことや、定めがない場合の選任の手続きについては、前掲の「家族信託の費用の考え方」の深掘りで整理しています。
ここで押さえておきたいのは、1年たって信託が終了しても、手続きが不要になるわけではないという点です。
- 信託が終了すると、原則として清算をしなければなりません(信託法175条)
- 清算を担うのは「信託が終了した時以後の受託者」(清算受託者)です(同法177条)。受託者が欠けたまま終了した場合は、終了した時点で受託者がいないため、清算を担う受託者を選ぶ手続きが別に必要になると考えられます
- 「終わらない設計」をとっていた場合でも、この事由で終了すれば、信託は続かず、残余財産の帰属の段階に移ります(同法182条)
つまり、受託者が欠けた状態を放置して1年が過ぎると、受託者を選ぶ手続きが結局必要になると考えられるうえに、当初予定していた信託の継続も失われることになります。後継の受託者を誰にするか、指定した人が引き受けない場合にどうするかは、この1年の規定を意識して検討しておくことが大切です。
残余財産受益者と帰属権利者──どちらで定めるかで変わること
残った財産を受け取る人の定め方には、残余財産受益者として定める方法と、帰属権利者として定める方法があります(信託法182条1項1号・2号)。本文で触れた法律上の位置づけの違いは、終了時の手続きの面でも次のような違いにつながります。
- 信託が続いている間の立場:残余財産受益者は、条文の文言上「受益者」として指定された人で、受益者として指定された人は、信託行為に別段の定めがない限り、当然に受益権を取得するとされています(信託法88条1項)。これに対して帰属権利者は、信託の清算中に限って受益者とみなされます(同法183条6項)。このため、残余財産受益者として定めた人は、信託が続いている間も受益者の一人にあたると考えられ、委託者と受益者の合意による終了(同法164条1項)や信託の変更(同法149条1項)の場面で、その人の関与が問題になりえます
- 指定された人への通知:受託者は、帰属権利者となるべき者として指定された人がそのことを知らないときは、遅滞なく通知しなければならないとされています(信託法183条2項による88条2項の準用。信託行為に別段の定めがあればそれによります)。帰属先に定めた人に契約の内容を伝えているかどうかも、終了時の進めやすさに関わります
- 権利の放棄:残余財産受益者は受益権を(信託法99条1項)、帰属権利者はその権利を(同法183条3項)、受託者に対する意思表示で放棄でき、放棄すると当初から権利を有していなかったものとみなされます(同法99条2項・183条4項)。いずれも、その人が信託行為の当事者である場合は放棄できません。指定された人の全員が放棄すると、前述の182条2項の扱いになります
このほか、条文は、指定された人が信託の終了より前に亡くなっていた場合の扱いを直接には定めていません。帰属先に定めた人が委託者より先に亡くなる可能性もあるため、その場合の行き先まで定めておくかどうかも、設計の段階で検討の対象になります。
なお、受託者自身を帰属権利者とする場合の登記の組み立ては前掲の「信託目録の読み方」の深掘りを、委託者の相続人である帰属権利者への移転の登記と登録免許税の関係は前掲の「家族信託の費用の考え方」の深掘りをご覧ください。
清算受託者は「終了した時の受託者」──清算の担い手を見通しておく
信託が終わったあとの清算を担うのは、原則として、信託が終了した時の受託者です。受託者の任務の終了事由としては「信託の清算が結了した場合」が挙げられており(信託法56条1項柱書き)、信託の終了そのものは、信託行為でそう定めた場合(同項7号)を除き、任務の終了事由として挙げられていません。清算受託者には、次のような権限と職務があります。
- 信託の清算のために必要な一切の行為をする権限(信託法178条1項。信託行為に別段の定めがあればそれによります)
- 信託の債務などを支払ってから、残余財産を給付すること(同法181条)
- 職務を終えたときに、遅滞なく最終の計算を行い、信託が終了した時の受益者や帰属権利者のすべてに承認を求めること(同法184条1項)。承認を求められてから1か月以内に異議を述べなかった人は、承認したものとみなされます(同条3項)
また、受け取る人が受け取りを拒んだり受け取れなかったりする場合に相当の期間を定めて催告したとき、あるいは受け取る人の所在が不明な場合には、清算受託者は信託財産を競売に付すことができるとされています(信託法178条2項)。
このように、清算の場面では、受託者が最終の計算を示し、帰属先の全員に承認を求めるところまでが職務になります。帰属先に定める人数が多いほど、承認を求める相手も増えます。家族信託では、委託者が亡くなった後に、受託者である家族が他の家族に向けてこれらの事務を担うことが多いため、契約の段階で、終了時にも受託者がその役割を担える見通しがあるかを考えておくことが大切です。終了時の受託者とは別の人に清算を担ってもらう形を考える場合は、受託者の任務の終了事由(信託法56条1項7号)や新受託者の定め(同法62条1項)との関係で組み立てを検討することになり、個別の検討を要します。
終了の事由や帰属先の定め方は、家族の状況や財産の内容によって考え方が変わります。財産の行き先をめぐって家族の間で意見が対立している場合は弁護士に、終了に伴う相続税・贈与税などの課税関係は税理士にご確認ください。
【さらに深掘り】信託終了の登記で書類と当事者を確かめる──登記原因証明情報・清算受託者・関係者が亡くなっていた場合
ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
信託が終わったときの登記のしくみ(名義はすぐには変わらないこと、名義を移す登記と信託の登記の抹消を同時に申請すること、誰が申請するか)は登記簿の「信託目録」の読み方の深掘りで、場面ごとの登録免許税は家族信託の費用の考え方の深掘りで整理しています。ここでは、その手前で問題になりやすい「申請の材料をどうそろえるか」と「関係者が亡くなっていた場合にどう進めるか」を、条文に沿って整理します。
登記原因証明情報で明らかにすること
権利に関する登記を申請するときは、登記原因を証する情報(登記原因証明情報)を提供しなければなりません(不動産登記法61条、不動産登記令7条1項5号ロ)。信託の終了にともなって受託者から受け取る人へ名義を移す登記では、少なくとも次の流れが、この情報から読み取れるようにしておく必要があります。
- どの信託か:信託契約の内容と、登記簿の信託目録の記録(信託目録には「信託の終了の事由」も記録されています。同法97条1項10号)
- 信託が終わったこと:どの終了事由が、いつ生じたか(契約で定めた事由か、合意による終了か、など。信託法163条・164条)
- 誰が受け取るのか:信託の定めで指定された残余財産受益者・帰属権利者か、指定がないため法律の定めで帰属する人か(同法182条1項・2項)
- 清算受託者が引き渡したこと:清算受託者が、その不動産を残余財産として受け取る人に給付したこと(同法177条4号)
指定がなく、委託者の相続人などに帰属する扱いになる場面(信託法182条2項)では、誰がその人にあたるのかを戸籍などで明らかにすることも必要になります。
登記原因とその日付をどう記載するかは、「信託が終わった日」と「残余財産を引き渡した日」が同じとは限らないことと関わります。清算受託者は、原則として信託の債務などを弁済した後でなければ残余財産を給付できないため(信託法181条)、清算の進み方によっては両者の日付が離れることがあります。申請情報の内容が登記原因証明情報の内容と合致しないときは申請が却下されるため(不動産登記法25条8号。補正できる場合を除きます)、終了の経過をどう整理するかを先に決め、申請書と登記原因証明情報の記載をそろえておくことが大切です。
申請の当事者となるのは「清算受託者」としての登記名義人
信託が終了した時以後の受託者が「清算受託者」です(信託法177条)。つまり、清算受託者は別に選ばれる人ではなく、終了の時に受託者だった人がそのまま務めます。登記簿の甲区の名義人も受託者のままですから、名義を移す登記の登記義務者は、登記名義人である受託者(清算受託者)になります。
- 信託は、清算が結了するまではなお存続するものとみなされます(信託法176条)。清算受託者は、清算の職務として残余財産を給付する立場にあり(同法177条4号)、名義を移す登記はこの清算の中で申請することになります
- 登記義務者は、原則として自分の登記識別情報を提供する必要があります(不動産登記法22条本文)。家族信託では、信託を始めたときに受託者が名義人となる登記を受けているため、そのとき受託者に通知された登記識別情報が手元に保管されているかを、終了の手続きに入る前に確かめておくと安心です。提供できない正当な理由がある場合の扱いは、同条ただし書に定めがあります
- 清算受託者は、職務を終えたときは遅滞なく最終の計算をして、受益者や帰属権利者の承認を求めなければなりません(信託法184条1項)。残余財産の給付は清算受託者の職務の一つですから(同法177条4号)、名義を移す登記は、職務を終えて最終の計算をする前の段階で済ませるものとして、清算の段取りの中に組み込んでおくことになります
信託が終わる前に受託者が亡くなっていた場合
受託者個人が亡くなると、受託者の任務は終了し(信託法56条1項1号)、信託財産は法人とされます(同法74条1項)。信託財産は受託者の相続人に引き継がれるのではなく、受託者の相続人などは、新しい受託者など(または信託財産法人管理人)が信託事務を処理できるようになるまで、信託財産を保管し、信託事務の引継ぎに必要な行為をする立場にとどまります(同法60条2項)。
そのため、受託者が亡くなっていたときは、次の順で進めることになります。
- 新しい受託者を決める:信託契約に後継の受託者の定めがあれば、指定された人が引き受けることで新受託者となります。定めがない場合や、指定された人が引き受けない場合などは、委託者と受益者の合意で(委託者が現に存しない場合は受益者が)新受託者を選任します(信託法62条1項・8項)。協議が調わないときなどは、利害関係人の申立てにより裁判所が選任することもできます(同条4項)
- 名義を新しい受託者に移す:新受託者が就任すると、前の受託者の任務が終了した時に権利義務を承継したものとみなされ(信託法75条1項)、受託者の変更による権利の移転の登記は、新受託者が単独で申請できます(不動産登記法100条1項)
- そのうえで終了の登記をする:信託が終わったときは、新受託者が清算受託者として、名義を移す登記と信託の登記の抹消を申請します
登記簿の名義が亡くなった受託者のままでは、申請情報に記載する登記義務者と登記記録が合致しないため(不動産登記法25条7号)、2の登記を飛ばして3に進むことはできない点に注意が必要です。受託者の変更による移転の登記の登録免許税の扱いは、前掲の「家族信託の費用の考え方」の深掘りを参照してください。
なお、受託者が欠けて新受託者が就任しない状態が1年間続くと、信託は終了します(信託法163条3号)。ただ、終了しても清算は必要ですから(同法175条)、清算を担う受託者がいない状態のままでは手続きが進みません。この場合も、結局は新受託者の選任から始めることになると考えられます。受託者が亡くなったら、1年を待たずに後継の受託者を決めることが、終了の手続きを進めるうえでも重要です。
信託が終わったあと、登記を済ませる前に清算受託者が亡くなった場合も、受託者の任務の終了として、新受託者の選任から検討するのが出発点になります。ただし、亡くなった時点までに清算がどこまで進んでいたかによって登記の組み立てが変わりうるため、個別の確認が必要です。
名義を移す相手が亡くなっていた場合
信託の定めで帰属権利者として指定された人は、当然に残余財産の給付を求める債権を取得します(信託法183条1項。信託の定めに別段の定めがあればそれによります)。名義を移す相手が亡くなっていた場合は、亡くなったのが「信託が終わる前」か「信託が終わったあと、名義を移す前」かで、確かめることが変わります。
- 信託が終わる前に亡くなっていた場合:まず信託契約に、次の順位の帰属権利者などの定めがあるかを確認します。定めがない場合に、残余財産の行き先を法律の定め(信託法182条2項・3項)によって考えることになるのかは、信託契約の定め方も含めて検討が必要です
- 信託が終わったあと、名義を移す前に亡くなった場合:相続人は、亡くなった人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条。一身に専属したものを除きます)。残余財産の給付を求める権利を相続人が引き継ぐと考える場合、亡くなった時点で不動産の所有権がすでに帰属権利者に移っていたと評価できるかどうかで、登記の組み立てが分かれます。移っていたと評価する場合は、亡くなった帰属権利者の名義にする登記を相続人が申請し(不動産登記法62条)、そのあとで相続人への相続の登記をする流れが考えられます。移っていなかったと評価する場合は、清算受託者から相続人に名義を移す形が考えられます。どちらによるかは、終了の経過と清算の進み具合をもとに判断することになり、登記原因証明情報の書き方にも直結します
名義を受け取る人が変わると、登録免許税の扱いも変わることがあります。たとえば、相続による移転とみなされる扱い(登録免許税法7条2項)は、受け取る受益者が「信託の効力が生じた時における委託者の相続人」であることが要件になっているため、受け取る人が帰属権利者の相続人になった場合に、この要件にあたるかを改めて確かめる必要があります。相続税・贈与税・不動産取得税の扱いは、税理士にご確認ください。また、帰属権利者の相続人のあいだで、誰が受け取るかをめぐって意見が対立している場合は、弁護士に相談すべき領域です。
終了の手続きに入る前に確かめておきたい書類
ここまでの整理をまとめると、信託が終わったときの登記に向けて、次のものを早い段階でそろえておくと手続きが滞りにくくなります。
- 信託契約書(終了の事由・残余財産受益者や帰属権利者の定め・後継の受託者の定め)と、登記簿の信託目録
- 受託者が名義人となったときの登記識別情報
- 終了の事由が生じたことを示す資料(委託者兼受益者の死亡で終わる場合の戸籍、合意で終わる場合の合意の書面など)
- 受託者や帰属権利者が亡くなっている場合は、その死亡と相続関係がわかる戸籍など
- 信託の債務や未払いの費用の状況(清算で先に支払うものがあるか)
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。
- 信託法 第52条・第56条・第60条・第62条・第74条・第75条・第88条・第99条・第149条・第163条〜第166条・第175条〜第178条・第181条〜第184条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
- 不動産登記法 第22条・第25条・第61条・第62条・第76条の2・第97条・第100条・第104条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 第7条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 登録免許税法 第7条・別表第一第1号(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 民法 第896条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 最高裁判所 裁判例検索「受託者解任申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件」最高裁判所第三小法廷 令和8年6月17日決定(令和6年(許)第30号): https://www.courts.go.jp/hanrei/96463/detail2/index.html (全文PDF: https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-96463.pdf )
- 名古屋国税局 文書回答事例「信託の終了に伴い、受託者兼残余財産帰属権利者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」(平成30年12月18日回答): https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/bunshokaito/sonota/181200/index.htm