この記事の要点

  • 家族信託の費用は「これ一つ」ではなく、公正証書にする場合の公証人の手数料、不動産を信託する場合の登記の実費(登録免許税)、信託口口座の開設、専門家への報酬などの組み合わせで決まります
  • 実費(公証人の手数料・登録免許税など)は法令で計算方法が決まっている部分が多く、専門家への報酬は財産の内容や設計の複雑さ、頼む作業の範囲で変わります
  • 契約を結ぶときだけでなく、受託者や受益者が変わったとき、信託が終わったときにも登記などの費用がかかることがあります
  • 見積もりを受け取ったら、「報酬と実費が分けて書かれているか」「どこまでの作業が含まれているか」「あとから追加になる費用はあるか」を確かめましょう
  • 具体的な金額は各事務所・各窓口へ。登録免許税以外の税金については税理士にご確認ください

家族信託にかかる費用は、家庭ごとに大きく変わります。結論から言うと、家族信託の費用は「法令で計算方法が決まっている実費」と「専門家への報酬」に分けて考えると、全体像がつかみやすくなります。 実費には、公正証書にする場合の公証人の手数料や、不動産を信託する場合の登録免許税などがあり、報酬は、財産の内容や設計の複雑さ、どこまでの作業を頼むかによって決まります。

この記事では、費用の内訳を一つずつ整理したうえで、見積もりを受け取ったときに確かめたい項目をまとめます。それぞれの費用が手続きのどの段階で出てくるかは、家族信託の手続きの流れとあわせてご覧ください。なお、この記事は執筆時点(2026年11月)の制度に基づく一般的な解説です。

費用の全体像

家族信託を始めるときにかかる主な費用を、一覧にします。

費用の項目 かかる場面 何で決まるか
公証人の手数料 契約書を公正証書にする場合 公証人手数料令の定め(目的の価額など)
登録免許税(登記の税金) 不動産を信託する場合 登録免許税法の定め(不動産の価額と税率)
書類の取り寄せの費用 登記や契約の準備 登記事項証明書・印鑑証明書などの取得手数料
信託口口座の開設 お金を信託する場合 各金融機関の定め
専門家への報酬 設計・契約書・登記などを頼む場合 財産の内容・設計の複雑さ・頼む作業の範囲
税理士への相談 税金の確認をする場合 各税理士の定め

このうち、上の4つは主に「実費」、下の2つは「報酬」にあたります。どの費用が必要になるかは、何を信託するか(不動産があるか、お金だけか)や、契約書を公正証書にするかどうかによって変わります。

公正証書にする場合の公証人の手数料

家族信託の契約書は、公正証書(公証人が作る公文書)にすることがあります。契約による家族信託は、公正証書にしなくても効力が生じるとされていますが、契約の内容を確かなものにしておくために公正証書にする方法がとられることがあります。また、信託口口座を開く際に、契約書を公正証書にしていることを条件としているかどうかは金融機関ごとに異なるため、事前に確認が必要です。

公正証書にする場合、公証人に手数料を支払います。手数料の額は公証人手数料令という政令で定められています。

  • 基本の手数料:契約などの法律行為の公正証書は、その「目的の価額」の区分に応じて手数料が決まります(公証人手数料令9条・別表)。たとえば、目的の価額が1,000万円を超え3,000万円以下なら2万6,000円、5,000万円を超え1億円以下なら4万9,000円と定められています
  • 信託の公正証書の加算:信託の公正証書については、原則として、上の基本の手数料に1万3,000円が加算されます。ただし、信託財産の価額が1億円を超えるときは、この加算はありません(同令22条の2)
  • そのほかの加算:証書の枚数による加算などが別にかかることがあります(同令25条)

信託の場合に「目的の価額」をどう算定するか、実際にいくらになるかは、信託する財産の内容によって変わります。手数料の額や必要な書類は、作成を依頼する公証役場で確認してください。

不動産を信託する場合の登記の実費(登録免許税)

自宅やアパートなどの不動産を信託する場合は、法務局で登記をします。このときにかかる税金が登録免許税です。

家族信託で不動産を託すときは、名義を委託者(財産を託す人)から受託者(託されて管理する人)に移す登記と、その不動産が信託財産であることを示す「信託の登記」を同時に申請します。このうち、信託のために名義を移す登記の部分は登録免許税がかからないとされ、信託の登記の部分に登録免許税がかかります(登録免許税法7条1項1号)。信託の登記の登録免許税は、不動産の価額に、法律で定められた税率をかけて計算します。

登記簿がどう変わるかや、登録免許税の仕組みについては、家族信託と不動産登記──信託すると登記簿はどうなる?で解説しています。

このほか、登記や契約の準備のために、登記事項証明書、固定資産税の評価額がわかる書類、印鑑証明書などを取り寄せる費用がかかります。

信託口口座の開設にかかる費用

お金を信託する場合、受託者は信託されたお金を自分自身のお金と分けて管理する必要があり、そのための専用の口座(一般に「信託口口座」と呼ばれます)を開くことがあります。

口座の開設に手数料がかかるか、いくらかかるかは、金融機関ごとに異なります。また、口座を開く前に契約書の内容の確認を求める金融機関もあるため、費用だけでなく、求められる書類や条件もあわせて確認しておくと安心です。口座の種類や金融機関への確認事項は、信託口口座とはで整理しています。

専門家への報酬──何で決まるのか

設計の相談、契約書の作成、信託の登記などを専門家に頼む場合は、報酬がかかります。報酬の額は事務所ごとに定めているため、この記事では金額には触れず、報酬がどのような項目で決まるかを整理します。

  • 財産の内容と数:信託する不動産の数(登記の件数)、預貯金など財産の種類が多いほど、確認や手続きの作業が増えます
  • 設計の複雑さ:受託者が続けられなくなったときの後継者の定め、受益者が亡くなった後の次の受益者の定め、信託の終わり方と財産の行き先など、決めることが多いほど検討に時間がかかります
  • 頼む作業の範囲:設計の相談だけか、契約書の作成まで頼むか、公正証書にするための公証役場とのやり取りや、信託の登記の申請まで頼むか
  • ほかの窓口との調整:金融機関との口座の調整や、税理士との連携が必要かどうか
  • 契約後のサポート:受託者・受益者が変わったときの登記や、信託が終わったときの登記などを、あとから頼む前提かどうか

同じ「家族信託」でも、頼む作業の範囲が違えば、報酬の比べ方も変わります。金額だけで比べるのではなく、何が含まれているかをそろえて比べることが大切です。

契約のあとにかかる費用もある

家族信託は、契約を結んで終わりではありません。始めたあとにも、次のような費用がかかることがあります。

  • 受託者や受益者が変わったときの登記:受託者が亡くなって交代するときや、受益者が変わるときには、登記の手続きが必要になることがあり、手続きを頼む費用や、場面によっては登録免許税がかかります
  • 信託が終わったときの登記:信託が終わると、信託の登記を消し、財産を受け取る人への名義の変更などの登記が必要になります
  • 管理の費用:受託者に報酬を払うかどうかは契約で決めます。また、信託財産の管理にかかる費用(不動産の修繕費など)も生じます

始めるときの費用だけでなく、こうした「その後の費用」も含めて検討しておくと、あとで想定外の出費に驚かずに済みます。

税金について──登録免許税以外は税理士へ

家族信託では、登録免許税のほかにも、誰を受益者にするかなどによって贈与税・相続税・所得税・不動産取得税などの税金が関わることがあります。こうした税金がかかるかどうか、いくらになるかは、家族の状況や設計によって変わります。具体的な税額については、税理士にご確認ください。 設計の段階で税理士に確認しておくと、あとで想定外の税負担が生じるのを防ぎやすくなります。

見積もりで確かめたい項目

専門家から見積もりを受け取ったら、次の点を確かめておくと安心です。

  • 報酬と実費が分けて書かれているか:公証人の手数料や登録免許税などの実費と、事務所の報酬が区別されているか
  • どこまでの作業が含まれているか:設計の相談、契約書の作成、公証役場とのやり取り、信託の登記の申請、金融機関との調整のどこまでが含まれているか
  • 公正証書にする前提か:公正証書にするかどうかで、公証人の手数料の有無が変わります
  • 登記の件数と不動産の数:信託する不動産がすべて含まれているか、件数が増えたときの扱いはどうか
  • 実費の見込みの根拠:登録免許税の見込み額が、どの不動産の価額をもとに計算されているか
  • 追加の費用が生じる条件:設計の変更や家族の話し合いが長引いたとき、書類の取り寄せが増えたときなどに、追加の費用がかかるか
  • 契約後のサポートの扱い:受託者・受益者の変更や信託の終了の際の手続きが含まれるのか、別料金なのか
  • 税理士の費用の扱い:税金の確認が必要な場合、税理士への依頼が別になるのか
  • 支払いの時期:着手のときか、完了のときか、分けて支払うのか

わからない項目は、遠慮せずに質問して、納得してから依頼することが大切です。

まとめ

家族信託の費用は、公正証書にする場合の公証人の手数料、不動産を信託する場合の登録免許税、書類の取り寄せや信託口口座の開設にかかる費用、そして専門家への報酬などの組み合わせで決まります。実費は法令や各窓口の定めで計算方法が決まっている部分が多く、報酬は財産の内容や設計の複雑さ、頼む作業の範囲で変わります。契約のあとにも登記などの費用がかかることがあるため、始めるときの費用だけでなく全体で考えておきましょう。具体的な見積もりや進め方に迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 家族信託の費用は、全部でいくらくらいかかりますか?

信託する財産の内容、不動産の数、契約書を公正証書にするかどうか、どこまでの作業を専門家に頼むかによって大きく変わるため、一律には言えません。公証人の手数料や登録免許税などの実費は法令で計算方法が決まっています。報酬を含めた具体的な金額は、各事務所に見積もりを依頼して確認してください。

Q. 費用が気になって先延ばしにしていますが、問題はありますか?

家族信託を始めること自体に法律上の期限はありません。ただし、家族信託は本人(財産を託す人)が結ぶ契約なので、本人の判断能力が下がると契約を結べなくなるおそれがあります。費用の見積もりを取って比べる段階から、早めに動き始めることが大切です。

Q. 費用を抑えるために、自分たちだけで進めることはできますか? どこに相談すればよいですか?

契約は家族の間で結ぶものですが、設計を誤るとあとのトラブルにつながりやすく、不動産を信託する場合は登記の手続きも必要です。設計や契約書、信託の登記はお近くの司法書士に、税金は税理士に、公正証書の作成は公証役場に、口座の扱いは取引銀行に相談するのが一般的です。家族の間で争いになっている場合は、弁護士にご相談ください。


【さらに深掘り】信託契約の定め方と、あとから生じる手続き・費用の関係

ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

家族信託の費用は、契約を結ぶときの費用だけでなく、受託者が交代したとき、信託が終わったときなど「その後」の場面でも生じます。そして、その場面でどのような手続きが必要になるかは、契約書に何を定めておいたかによって変わります。ここでは、信託法の規定を手がかりに、契約書のどの定めが、あとの手続き(誰の合意が要るか、裁判所の手続きが要るか、登記が要るか)に関わるのかを整理します。いずれも「どの設計がよいか」を示すものではなく、検討の際の観点の整理です。

信託財産の範囲と、あとから財産を加える場合

最初にどの財産を信託するかによって、契約時に必要な登記の件数や、信託口口座の要否が変わります。あわせて考えておきたいのが、あとから財産を加える(一般に「追加信託」と呼ばれます)可能性です。

  • 不動産を信託財産とする場合、信託の登記をしなければ、その不動産が信託財産に属することを第三者に対抗できないとされています(信託法14条)。あとから不動産を加えるときも、その不動産について改めて登記の手続きが必要になります
  • 契約書に、追加信託ができるかどうかや、その方法の定めがない場合の扱いは、個別の検討が必要です。内容によっては、信託の変更の手続きをとることも考えられます。信託の変更は、原則として委託者・受託者・受益者の合意によってすることができ(信託法149条1項)、信託行為(契約)に別段の定めがあるときはその定めによるとされています(同条4項)

「当初は最小限の財産で始め、必要に応じて加える」という考え方をとる場合は、加えるときに誰の関与が必要になるのか、その時点で委託者の判断能力が保たれているかといった点も含めて、契約時に想定しておくことが大切です。

受託者の交代と、後継の受託者の定め

受託者の任務は、受託者個人の死亡、後見開始・保佐開始の審判、辞任、解任、信託行為で定めた事由などによって終了します(信託法56条1項。後見開始・保佐開始については信託行為に別段の定めがあればその定めによるとされています)。このとき、契約書に後継の受託者(新受託者)の定めがあるかどうかで、その後の手続きが変わります。

  • 契約書に新受託者の定めがないとき、または指定された人が引き受けないときは、委託者と受益者の合意で新受託者を選任できるとされています(信託法62条1項)。委託者が現に存しない場合は、受益者が選任します(同条8項。委託者が亡くなった場合がこれに当たるかは、後述の受託者の辞任の項を参照)
  • 合意に向けた協議の状況などから必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、裁判所が新受託者を選任することができます(同条4項)。裁判所の手続きを経る場合は、そのための時間や費用がかかります
  • 受託者個人が亡くなって任務が終了した場合、信託財産は法人とするとされ(信託法74条1項)、必要があるときは裁判所が管理人による管理を命ずることができます(同条2項)
  • 受託者が欠けた状態で、新受託者が就任しない状態が1年間続くと、信託は終了するとされています(信託法163条3号)
  • 新受託者が就任したときは、原則として、前の受託者の任務が終了した時に、信託に関する権利義務を承継したものとみなされます(信託法75条1項)。不動産が信託財産にあれば、受託者が変わったことを示す登記の手続きが必要になります

後継の受託者を契約書で指定しておくと、交代の場面で選任のための合意形成や裁判所の手続きが必要になる可能性を減らせる場合があります。一方で、指定された人が実際に引き受けるかどうかは交代の時点まで確定しません(指定された人に就任するかどうかの確答を求める催告の制度があります。信託法62条2項・3項)。また、後継の受託者が当初の受託者や委託者と近い世代であれば、同じ時期に任務を続けられなくなるおそれもあります。誰を後継に指定するかは、こうした点も含めて検討することになります。

受託者の辞任にも注意が必要です。受託者は委託者及び受益者の同意を得て辞任できるとされていますが(信託法57条1項。信託行為に別段の定めがあるときはその定めによります)、委託者が現に存しない場合には、この同意による辞任の規定は適用されないとされています(同条6項)。契約書に辞任についての定めがなく、委託者が現に存しない場合には、辞任は、やむを得ない事由があるときに裁判所の許可を得る方法(同条2項)によることになると考えられ、その分の手続きの負担が生じえます。

もっとも、委託者が亡くなったことが、そのまま「委託者が現に存しない場合」に当たるとは限りません。信託法は、遺言による信託について、委託者の相続人は原則として委託者の地位を相続により引き継がないと定めていますが(信託法147条)、契約による信託には同じ趣旨の規定がありません。委託者の相続人が委託者の地位を引き継ぐと考える場合には、委託者が亡くなった後も、相続人が委託者として存在することになります。契約による信託で委託者の相続人が委託者の地位を引き継ぐかについては、立案の段階で、相続により引き継ぐとする案と、引き継がないとする案が併記されていました(法務省民事局参事官室「信託法改正要綱試案 補足説明」173〜175頁)。委託者が亡くなった後に誰の同意で辞任できるかで迷わないよう、辞任の方法を契約書で定めておくこと(信託法57条1項ただし書)も検討の対象になります。

なお、成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)と、それに伴う関係法律の整備法(令和8年法律第46号)が2026年6月24日に公布されています。整備法の施行後は、信託法56条1項2号の「後見開始又は保佐開始の審判」が「特定補助人を付する処分の審判」に改められます。施行日は、公布の日から2年6か月を超えない範囲で政令で定める日とされており、執筆時点ではまだ定まっていません。施行前に後見開始・保佐開始の審判を受けた人についての経過措置も設けられています(令和8年法律第46号附則2条)。

受託者の報酬と、信託事務の費用

本文で触れたとおり、受託者に報酬を払うかどうかは契約で決めます。信託法上も、受託者は、商法512条の適用がある場合のほか、信託行為に信託財産から信託報酬を受ける旨の定めがある場合に限り、信託財産から信託報酬を受けることができるとされています(信託法54条1項)。報酬を受ける定めがあって、額や算定方法の定めがないときは「相当の額」とされます(同条2項)。

また、受託者が信託事務の処理に必要な費用を自分の財産から支出したときは、信託財産から償還を受けることができ、費用を要するときは信託財産から前払を受けることもできるとされています(信託法48条1項・2項。いずれも信託行為に別段の定めがあるときはその定めによります)。登記の費用や修繕費などを、信託財産からどのように支出するかを契約書で整理しておくと、家族の間での行き違いを防ぎやすくなります。

信託監督人・受益者代理人などの関与者

契約書では、受託者の事務をチェックする信託監督人(信託法131条1項)や、受益者を代理する受益者代理人(信託法138条1項)となるべき人を指定することができます。

  • 信託監督人は、商法512条の適用がある場合のほか、信託行為に報酬を受ける旨の定めがある場合に限り、受託者に報酬を請求できるとされ、事務の処理に必要な費用も受託者に請求できます。これらの支払いについて、受託者は信託財産に属する財産のみをもって履行する責任を負うとされています(信託法137条による127条1項・3項・4項の準用)
  • 契約書に定めがない場合でも、受益者が受託者の監督を適切に行うことができない特別の事情があるときは、利害関係人の申立てにより、裁判所が信託監督人を選任できるとされています(信託法131条4項)

関与者を置くと、受託者の事務に対するチェックが働きやすくなる一方で、報酬の定めを設ければその分が信託財産から継続的に支出されることになり、関係者の連絡・調整の手間も増えます。置くか置かないか、置く場合に報酬をどう定めるかは、受益者自身が監督できる状況か、家族の関係はどうかといった事情を踏まえて検討することになります。

信託の終わり方と、残余財産の帰属先の定め

信託は、信託の目的を達成したときや、信託行為で定めた事由が生じたときなどに終了します(信託法163条1号・9号)。また、委託者及び受益者は、いつでも合意により信託を終了することができますが(信託法164条1項)、信託行為に別段の定めがあるときはその定めにより(同条3項)、委託者が現に存しない場合にはこの合意による終了の規定は適用されないとされています(同条4項)。

信託が終了すると清算が行われ(信託法175条)、清算受託者が、現務の結了、債権の取立て・債務の弁済、残余財産の給付などの職務を行います(信託法177条)。つまり、信託が終わった後にも、清算のための事務と、それに伴う費用が生じます。

このとき大きく効いてくるのが、残余財産の帰属先をどう定めたかです。

  • 残余財産は、信託行為で指定された残余財産受益者または帰属権利者に帰属します(信託法182条1項)
  • その指定に関する定めがない場合や、指定された人の全員が権利を放棄した場合は、委託者またはその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなされます(同条2項)
  • それでも帰属が定まらないときは、残余財産は清算受託者に帰属します(同条3項)

帰属先を契約書で明確に定めておけば、清算受託者からその人への名義の変更などの手続きを進めることになります。反対に、定めがなく委託者の相続人に帰属する扱いになる場合は、相続人を確定するための戸籍の収集が必要になり、相続人が複数いるときはその扱いをめぐって関係者の確認・調整が必要になることがあります。その分、終了の場面での手続きの手間と費用が増えうる点に留意が必要です。

なお、信託が終わって財産が誰に移るかによって、贈与税・相続税などの課税関係が問題になることがあります。具体的な課税関係や税額は、設計の段階から税理士にご確認ください。

設計を検討するときの視点

  • 契約書の定めを細かくすると、契約時の検討・作成の作業は増えますが、あとの場面で合意形成や裁判所の手続きが必要になる可能性を減らせる場合があります
  • 一方で、定めを細かくしすぎると、事情が変わったときに柔軟に対応しにくくなることもあります。信託の変更の方法を信託行為で定めておくことができる点(信託法149条4項)も含めて、全体の設計を考えることになります
  • 「受託者が交代するとき」「関与者が必要になったとき」「信託が終わるとき」のそれぞれについて、誰が、どの手続きをすることになるのかを契約前に確認しておくと、見積もりで「契約後のサポート」の範囲を比べる際の手がかりにもなります

【さらに深掘り】信託の登記にかかる登録免許税の仕組み──設定・受託者の交代・変更・終了の場面別

ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文では、不動産を信託するときに登録免許税がかかることを紹介しました。ここでは不動産登記実務の観点から、信託に関係する登記の場面ごとに、登録免許税が「かかるのか・かからないのか」「どの区分の税率になるのか」を、登録免許税法・租税特別措置法・不動産登記法の条文に沿って整理します。税額の具体的な計算例は扱わず、計算の考え方までにとどめます。

信託を始めるとき──移転の登記は非課税、信託の登記に課税

不動産を信託するときは、委託者から受託者への所有権の移転の登記と、信託の登記を同時に申請します(不動産登記法98条1項)。この二つは登録免許税の扱いが分かれます。

  • 所有権の移転の登記:「委託者から受託者に信託のために財産を移す場合における財産権の移転の登記」は、登録免許税を課さないと定められています(登録免許税法7条1項1号)
  • 信託の登記:登録免許税法別表第一第1号(十)に区分があり、所有権の信託の登記は、課税標準が「不動産の価額」、税率が千分の四です(同号(十)イ)。なお、抵当権などの信託の登記(同ロ)やその他の権利の信託の登記(同ハ)は、別の課税標準・税率が定められています

土地の信託の登記には軽減措置がある(期限つき)

所有権の信託の登記のうち土地については、租税特別措置法72条1項2号により、税率が千分の三に軽減されています。適用期間は、同項の原文で「平成二十五年四月一日から令和十一年三月三十一日までの間」と定められており、この期間内に土地に関する所有権の信託の登記を受ける場合が対象です。

同条が対象としているのは「土地に関する登記」であり、建物の信託の登記は同条の対象ではありません。土地と建物をあわせて信託する場合、土地と建物で税率が異なるため、それぞれ分けて計算することになります。また、この軽減措置は期限のある特例です。期限の延長や内容の見直しは税制改正で行われるため、申請の時点の条文で確認する必要があります。

課税標準となる「不動産の価額」の考え方

信託の登記の課税標準である「不動産の価額」は、登記の時における不動産の価額によるとされています(登録免許税法10条1項)。もっとも、当分の間は、固定資産課税台帳に登録された価格を基礎として政令で定める価額によることができるとされており(同法附則7条)、その価額は、課税台帳に登録された価格のある不動産については、登記の申請の日の区分に応じて、前年12月31日現在または当年1月1日現在の登録価格に百分の百を乗じた金額とされています(登録免許税法施行令附則3項)。課税台帳に価格のない不動産については、類似する不動産の登録価格を基礎として登記機関(不動産の登記では登記官)が認定した価額になります(同項)。所有権の持分を信託する場合は、不動産の価額に持分の割合を乗じた金額が課税標準になります(同法10条2項)。

税額は、この課税標準に上記の税率をかけて計算します。計算した金額が千円に満たない場合は、税額は千円とされます(同法19条)。

受託者が交代するとき

受託者が亡くなったり、後見開始の審判を受けたりして任務が終了し、新しい受託者に交代する場合は、受託者の変更による所有権の移転の登記が必要になります(新受託者が単独で申請できる場面について、不動産登記法100条1項)。同項の「後見開始若しくは保佐開始の審判」の部分も、前述の整備法(令和8年法律第46号)の施行後は「特定補助人を付する処分の審判」に改められます。

  • 移転の登記:「受託者の変更に伴い受託者であつた者から新たな受託者に信託財産を移す場合における財産権の移転の登記」は、登録免許税を課さないと定められています(登録免許税法7条1項3号)
  • 信託目録の受託者の記録:信託法75条1項・2項による権利の移転の登記をするときは、登記官が職権で信託の変更の登記をすることとされています(不動産登記法101条1号)

また、受託者である登記名義人の住所や氏名が変わった場合は、登記名義人の住所等の変更の登記を申請することになり、これにあわせた信託の変更の登記は登記官が職権で行うとされています(同法101条3号)。

受益者など信託目録の記録事項が変わるとき

信託目録に記録されている事項(委託者・受託者・受益者の氏名住所、信託の目的、信託財産の管理方法、信託の終了の事由など。不動産登記法97条1項各号)に変更があったときは、受託者は遅滞なく信託の変更の登記を申請しなければなりません(同法103条1項)。たとえば、信託契約の定めにより受益者が交代した場合が典型です。

この場合、所有権の登記名義人は受託者のままで、所有権の移転は生じません。信託の変更の登記は、登録免許税法別表第一第1号(十四)の「登記事項の…変更の登記」に当たり、税額は不動産の個数1個につき千円です。不動産の価額に税率をかける定率課税ではなく、個数に応じた定額課税になる点が、設定時の信託の登記や終了時の所有権の移転の登記と異なります。

信託が終わるとき──委託者と受益者が同じかどうかで扱いが分かれる

信託が終了し、信託財産だった不動産を受託者から受け取る人に移すときは、所有権の移転の登記と信託の登記の抹消を同時に申請する必要があります(不動産登記法104条1項)。信託の登記の抹消は、受託者が単独で申請できます(同条2項)。

信託の登記の抹消は、登録免許税法別表第一第1号(十五)の「登記の抹消」に当たり、不動産の個数1個につき千円です。ただし、同一の申請書で20個を超える不動産について抹消を受ける場合は、申請件数1件につき2万円とされています。

所有権の移転の登記は、次のように扱いが分かれます。

  • 信託の始めから委託者だけが元本の受益者で、その人に財産を戻す場合:信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託で、受託者からその受益者(効力が生じた時から引き続き委託者である者に限ります)に財産を移す場合の移転の登記は、登録免許税を課さないと定められています(登録免許税法7条1項2号)
  • 同じ条件の信託で、委託者の相続人に財産を移す場合:信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合に、受益者が「信託の効力が生じた時における委託者の相続人」であるときは、その移転の登記を相続による移転の登記とみなして登録免許税法を適用するとされています(同条2項)。この場合、相続による所有権の移転の登記の税率(別表第一第1号(二)イ、千分の四)によることになります
  • 上記のいずれにも当たらない場合:別表第一第1号(二)の区分に従います。相続・法人の合併・共有物の分割以外の原因による移転の登記であれば、同号(二)ハの千分の二十です

家族信託では、親が委託者と受益者を兼ねる形で始めることが多いため、終了時に7条1項2号や2項が問題になる場面があります。ただし、いずれも「信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である」ことが要件とされています。途中で受益者が委託者以外の人に変わっていたり、受益者が加わっていたりする信託では、この要件との関係で慎重な検討が必要になります。どの区分になるかは、信託契約の定めと信託目録に記録された受益者の変遷をもとに判断することになるため、終了時の登記の扱いは個別に確認する必要があります。なお、7条2項は財産を「受益者」に移す場合の規定ですが、信託法上、帰属権利者は信託の清算中は受益者とみなされます(信託法183条6項)。これを前提に、委託者兼受益者の死亡で終了した信託で、委託者の相続人である帰属権利者への移転の登記に7条2項の適用を認めた国税局の文書回答事例があります(名古屋国税局審理課長 平成30年12月18日回答)。ただし、照会の事実関係を前提とした回答で、事実関係が異なれば結論が変わりうるとされているため、個別の確認が必要であることに変わりはありません。

場面別の整理

場面 登記 登録免許税の扱い 根拠
信託の設定 委託者→受託者の所有権の移転 課税されない 登録免許税法7条1項1号
信託の設定 所有権の信託の登記(建物) 不動産の価額×千分の四 同法別表第一第1号(十)イ
信託の設定 所有権の信託の登記(土地) 不動産の価額×千分の三(令和11年3月31日まで) 租税特別措置法72条1項2号
受託者の交代 前受託者→新受託者の所有権の移転 課税されない 登録免許税法7条1項3号
受益者などの変更 信託の変更の登記 不動産1個につき千円 同法別表第一第1号(十四)
信託の終了 信託の登記の抹消 不動産1個につき千円(同一申請書で20個超は1件2万円) 同法別表第一第1号(十五)
信託の終了 委託者兼受益者(始めから)への移転 課税されない 同法7条1項2号
信託の終了 上記の場合で委託者の相続人への移転 相続による移転とみなす(千分の四) 同法7条2項、別表第一第1号(二)イ
信託の終了 上記以外の移転 原因に応じた区分(相続等以外は千分の二十) 同法別表第一第1号(二)

設計の段階で見ておきたいこと

信託の登記の登録免許税は、始めるときの税率だけでなく、受益者の定め方や信託の終わり方によって、終了時の移転の登記の扱いが変わります。また、信託の変更の登記や抹消の登記は不動産の個数ごとにかかるため、信託する不動産の数が多いほど、その後の手続きのたびに負担が積み重なります。費用を見通すときは、設定時の登記だけでなく、受託者の交代・受益者の変更・終了という将来の場面も含めて、どの登記がどの区分で課税されるかを確認しておくことが大切です。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。

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