この記事の要点
- 私道の掘削承諾書は、主に水道・ガスの事業者が工事の申込みの際に提出を求めてきた書類で、「共有者全員のハンコが必ず要る」と民法に書かれているわけではない
- 誰の承諾が法律上問題になるかは、私道の持ち方で変わる。私道全体をみんなで共有する私道(共同所有型)では、共有者が自分の給水管を通すのに他の共有者の同意は要らないという整理が法務省のガイドラインで示されている
- 各家が通路の一部を別々の筆で持つ私道(相互持合型)では、他人の筆を掘ることになるため、民法213条の2の設備設置権の問題になる
- 承諾書が取れなくても、設備設置権が成立する場合には民法上は設置が可能。ただし事業者ごとに求める書類が違うので、まず工事を申し込む事業者に確認する
- 私道の名義が亡くなった方のままなら、承諾を求める相手を確かめるために、まず登記事項証明書で名義人を確認するところから
家を建て替えるときや、古い水道管を引き直すとき、水道工事店やガス会社から「私道の所有者全員から掘削承諾書をもらってきてください」と言われることがあります。前の道が私道だと、数軒、場合によっては十数軒分のハンコを集めることになり、なかには連絡のつかない人や、亡くなった方の名義のままになっている人がいる──こうした場面で手が止まってしまう方は少なくありません。
最初に結論を書くと、掘削承諾書は、民法が「全員の承諾がなければ工事できない」と定めている書類ではありません。 主に、水道やガスの事業者が工事の申込みを受けるときに、手続として提出を求めてきた書類です。そして、2023年4月1日に施行された改正民法で、ライフラインを引くための「設備設置権」が明文化され、承諾書がなくても民法上は設備を設置できる場面があることがはっきりしました。
この記事では、承諾書という書類の実務に絞って、誰の承諾が問題になるのか、共有者が多い私道や持ち主が替わった場合はどう考えるのか、承諾が取れないときに設備設置権で進められるのかを整理します。設備設置権という制度そのもの(要件・事前の通知・償金など)は、ライフラインを隣地に通せる「設備設置権」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
なお、この記事は執筆時点(2026年11月)の制度に基づく一般的な解説です。個別の私道で工事ができるかどうかの判断や、相手方との交渉の進め方には踏み込みません。
掘削承諾書は、誰が・なぜ求めているのか
水道の場合
自分の敷地に水を引くには、公道の下にある水道の本管(配水管)から、自分の家まで給水管を引き込む必要があります。その途中に他人の土地(私道)があると、水道事業者が申込みの際に、その土地の所有者からの承諾書を提出するよう求める例があります。
法務省が公表している「所有者不明私道への対応ガイドライン(第2版)」(共有私道の保存・管理等に関する事例研究会・令和4年6月。以下「共有私道ガイドライン」)は、この取扱いについて国から出された通知の要旨を紹介しています。それによると、
- 承諾書の提出を求める手続は、給水装置工事を円滑に進めることに役立つものである
- その一方で、承諾書を得るために金銭を求められる、土地の所有者と連絡が取れず承諾書が得られない、といった事情も生じている
- 水道事業者には、給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは正当な理由がなければ拒んではならない、という給水義務がある(水道法15条1項)。承諾書の提出がないことは、この給水義務を解除する正当な理由には当たらない
とされています(共有私道ガイドライン88頁。平成28年11月28日付け厚生労働省水道課長通知〔生食水発1128第1号〕の要旨として掲載)。同じ通知は、土地の所有者との調整を申込人が一義的に行うことを確認したうえで申込みを受け付けることや、その土地を使わない別の工事方法を提案することまでは否定していません。
ガスの場合
都市ガスの導管については、共有私道ガイドラインが、ガス導管事業者の託送供給約款に、需要家等のために私道に導管を埋設する場合は需要家等が私道所有者の承諾を得る必要がある旨の規定がある、と紹介しています。実際には、需要家本人や工事業者が、ガス導管事業者あての導管設置工事の承諾書を私道所有者からもらい、事業者に提出するのが通常とされています(共有私道ガイドライン97頁)。
なぜ「全員分」になりがちなのか
共有私道ガイドラインは、その「はじめに」で、共有私道の補修工事などについて、民法の共有物の保存・管理などの解釈が必ずしも明確ではなかったため、事実上、共有者全員の同意を得る運用がされてきたと説明しています。その結果、共有者の一部と連絡がつかないケースで、必要な工事が進まないという支障が指摘されてきました。
つまり、「全員のハンコ」は、法律がそう定めているからというより、解釈がはっきりしない中で、後から苦情や争いが出ないように安全側に倒した運用として広がってきた、という面があるのです。
なお、下水道の排水管については、下水道法11条1項に、他人の土地に排水設備を設置できる場合についての規定が別に置かれており、水道・ガスとは枠組みが異なります。
誰の承諾が要るのか──私道の「持ち方」で変わる
私道には、大きく分けて2つの持ち方があります。共有私道ガイドラインは次のように区別しています。
| 持ち方 | どんな形か |
|---|---|
| 共同所有型私道 | 私道全体を複数の人が所有し、民法の共有の規定が適用されるもの |
| 相互持合型私道 | 私道が複数の筆に分かれていて、隣り合う宅地の所有者などがそれぞれの筆を所有し、互いに利用させ合うもの |
どちらの型かは、私道部分の地番を公図で確かめ、その地番の登記事項証明書を取れば分かります。1つの地番に何人もの名前が持分付きで載っていれば共同所有型、道が細長い何筆にも分かれていて、それぞれ別の人の単独名義なら相互持合型、というのが典型です。
共同所有型──共有者が自分の給水管を通すなら、他の共有者の同意は要らないという整理
民法249条1項は、各共有者は共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができると定めています。
共有私道ガイドラインは、1筆の私道を5人で共有していて、そのうちの1人が自宅の新築に伴い、私道の下に自分の給水管を通して公道の配水管につなぐ、という事例を取り上げています。そのうえで、その共有者は持分に応じて私道の全部を使用できるので、掘削工事をすることについて、所在が分からない他の共有者の同意を得る必要はない、また給水管を設置しても自己の持分を超えて使用するものとは解されないから、他の共有者への対価の償還義務(民法249条2項)も負わない、と整理しています(共有私道ガイドライン103頁・事例11)。
もっとも、この整理は、共有者の間に私道の使い方についての取決めがない場合のものです。共有私道ガイドラインは、共有者間で私道の管理方法などの取決めがあるとき(長年の利用の中で形成された黙示の合意を含む)は、工事はまずその取決めに従い、取決めがない場合に民法の共有の規定で対応するとしています(16〜17頁)。
共有私道で工事をする場合の基本的な区分は、令和3年の民法改正後、次のように整理されています。
| 区分 | 誰が決めるか | 条文 |
|---|---|---|
| 保存(現状を維持する行為) | 各共有者が単独でできる | 民法252条5項 |
| 管理(形や効用を著しく変えない「軽微な変更」を含む) | 持分の価格の過半数で決める | 民法252条1項 |
| 変更(形や効用を著しく変えるもの) | 共有者全員の同意が必要 | 民法251条1項 |
共有私道ガイドラインの概要資料は、舗装の傷んだ部分の補修は保存行為として単独で、私道の下に公共下水管を新設する工事は管理に関する事項として持分の過半数で、砂利道を新たにアスファルト舗装する工事は軽微変更として持分の過半数で決める、という対処例を示しています。同じ「私道を掘る工事」でも、誰が何のために掘るのかによって区分が変わるということです。
また、持分の過半数で決める場合でも、その決定が、共有者間の決定に基づいて私道を使っている共有者に「特別の影響」を及ぼすときは、その共有者の承諾が必要です(民法252条3項)。共有私道ガイドラインは、決定に基づいて私道に給水管を設置している共有者について、過半数の決定でその設置場所を変え、相当期間水道水の供給が止まるようなケースは、これに当たり得るとしています(18頁)。
相互持合型──他人の筆を掘るなら、設備設置権の問題になる
相互持合型の私道では、自分の家まで給水管を引くには、他の人が単独で所有している筆の下を通すことになります。この場合は、共有の規定ではなく、民法213条の2の設備設置権が関わってきます。
共有私道ガイドラインは、5筆に分かれた私道を5人が1筆ずつ所有していて、そのうちの1人が他人の筆の下に給水管を設置する以外に宅地に水を引き込む方法がない、という事例について、他の所有者の同意を得なくとも、通知を行ったうえで、継続的給付を受けるために必要な限度で給水管を設置することができるとしています。所在が分からない所有者には、公示による意思表示(民法98条)で通知を行うことになる、とも述べています(共有私道ガイドライン105〜106頁・事例12)。
あわせて同じ事例では、私道を構成する土地を提供した人たちが、地上の通行だけでなく、通路の地下に配水管へつなぐための給水管を設置することも、互いに明示または黙示に承諾していたと考えられる場合には、給水管の設置を目的とする地役権が設定されていると解される、という考え方も示されています。
ここで押さえておきたいのは、法律の上で承諾や通知の相手として問題になるのは、管を通す土地の所有者(通知については、その土地を現に使用している人も)だという点です(民法213条の2第3項)。もっとも、事業者の手続としてどの範囲の人の承諾書を求めるかは、事業者ごとに決められています。
共有者が多い私道、連絡がつかない人がいるとき
分譲地の私道では、共有者や筆の所有者が十数人に及ぶことも珍しくありません。全員から書面をもらおうとすると、次のような壁に当たります。
- 所有者の一人が転居して連絡先が分からない
- 登記簿上の名義人がすでに亡くなっていて、誰が相続したのか分からない
- 返事をくれない人がいる
名義が亡くなった方のままになっているケースは、とくに注意が必要です。私道の持分は宅地とは別の地番であることが多く、宅地の相続登記は済んでいても私道持分だけが亡くなった方の名義のまま、ということが起こりがちです(私道の相続登記を忘れずにで整理しています)。この場合、承諾を求める相手は、その持分を相続した人ということになり、まず誰が相続人なのかを確かめるところから始まります。
民法には、こうした場面のための仕組みも置かれています。
- 共有物の管理について、所在が分からない共有者や、相当の期間を定めて賛否を明らかにするよう催告しても返答しない共有者がいる場合、裁判所の裁判を得て、それ以外の共有者の持分の過半数で決めることができる(民法252条2項)
- 共有物の変更について、所在が分からない共有者がいる場合、裁判所の裁判を得て、それ以外の共有者の同意で変更を加えることができる(民法251条2項)
- 設備設置権による通知の相手が分からない・所在不明のときは、公示による意思表示(民法98条)を使う(前述の事例12)
ただし、これらは裁判所の手続を伴うもので、時間も費用もかかります。共同所有型の私道で共有者が自分の給水管を通す場面のように、そもそも他の共有者の同意が要らないと整理されている場面もあるため、「全員分が集まらないから工事ができない」と決めつける前に、どの区分の話なのかを整理することが大切です。
事業者の側でも、取扱いを見直す動きがあります。共有私道ガイドラインは、京都市が、他人の土地を使わなければ給水管を埋設できない場合の給水申請で、従前求めていた土地所有者の承諾書の写しの提出をやめ、「土地所有者等から異議があった場合には給水申請者の責任で解決する」旨を明記した申請書類を出せば足りるとした例を紹介しています(共有私道ガイドライン89頁)。そのうえでガイドラインは、承諾書の提出の要否は各地方公共団体が実情に応じて判断するものとしつつ、設備設置権が成立する場合には承諾書がなくとも民法上は設備設置が可能であることを踏まえ、承諾書の提出を求める正当性について点検されることが望ましい、としています(同88頁)。
実際にどの書類を求められるかは、申し込む水道事業者・ガス事業者によって異なります。 工事を頼む前に、事業者の窓口や工事店に、承諾書が必要か、必要ならどの範囲の人の分か、通知や誓約書で代えられるかを確認してください。
持ち主が替わったとき、以前の承諾はどうなるか
売買や相続で、私道の所有者や、承諾をもらった側の宅地の所有者が替わることがあります。このとき、以前に交わした承諾書がそのまま効き続けるのかが気になるところです。
まず前提として、掘削承諾書という書類そのものが登記簿に記録されるわけではありません。不動産登記法3条は、登記できる権利として所有権・地上権・地役権・賃借権などを列挙しており、承諾書は登記の対象として挙げられていません。
承諾がどのような法的な中身を持つのかは、ケースによって異なります。共有私道ガイドラインも、水道事業者やガス導管事業者が私道の所有者から設定を受けている地下利用の権利の性質について、使用貸借などの契約に基づく利用権や区分地上権など、一様ではないようだと述べています(共有私道ガイドライン87頁・97頁)。そのため、新しい所有者に以前の承諾の効力が及ぶかどうかは、承諾の中身や事情によって変わることになり、一律には言えません。
一般的な整理として言えるのは、次の点です。
- 地役権のように登記できる権利として設定し、登記しておけば、その後に土地を取得した第三者にも権利を主張しやすくなる(民法177条。地役権は不動産登記法3条4号で登記できる権利とされている)
- 地役権は、設定行為に別段の定めがない限り、便益を受ける側の土地(要役地)の所有権とともに移転する(民法281条1項)
- 設備設置権は「土地の所有者」に認められる権利なので(民法213条の2第1項)、承諾をもらった側の宅地の持ち主が替わった場合は、新しい所有者について、あらためて条文の要件にあてはまるかを考えることになる
また、承諾書の範囲にも注意が必要です。共有私道ガイドラインによれば、ガス導管の承諾書は、現在のものは導管の補修・取替えなどの工事も承諾の対象にしているものの、過去に結ばれた一部の承諾書には補修・取替えの工事についての承諾が含まれていないものがあり、その場合は工事の際にあらためて私道所有者から承諾書を出してもらっている、とされています(共有私道ガイドライン97頁)。
私道に面した家を買うとき、あるいは相続するときは、
- 以前の工事でどのような承諾書が交わされているか(写しが残っているか)
- その承諾書が、新設だけでなく補修や取替えまで対象にしているか
- 私道の各持分・各筆の名義人が今どうなっているか
を確認しておくと、後の工事で慌てずに済みます。
承諾書が取れないとき──設備設置権で進められるか
民法213条の2第1項は、他の土地に設備を設置しなければ電気・ガス・水道水の供給などを受けることができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置することができると定めています。共有私道ガイドラインの概要資料も、設備設置権が成立する場合には、隣地所有者の承諾書がなくても民法上は設備設置が可能であること、そして隣地所有者から不当な承諾料を求められても応ずる義務はないことを明記したと説明しています。
ただし、次の3点は分けて考える必要があります。
- 権利が成立するかどうかは個別の判断になる 条文は「設置し……なければ……受けることができないとき」という書き方をしており、他に引き込む方法があるか、どのルートが損害が最も少ないかといった事情によって結論が変わります。この記事では、個別の私道で設備設置権が使えるかどうかの見通しには踏み込みません。要件や、事前の通知・償金のルールは設備設置権の解説記事をご覧ください。
- 民法上できることと、事業者の手続は別の話 民法上は承諾書なしで設置できる場面であっても、事業者が申込みの手続としてどの書類を求めるかは、事業者ごとの取扱いによります。承諾書の代わりに、民法213条の2第3項の通知をしたことの記載や誓約書で受け付けるかどうかも含め、申込先の事業者に確認してください。
- 相手が反対している場合は紛争の領域 「民法上は設置が可能」というのは権利があるかどうかの話で、相手が反対しているときに工事をどう進めるかは別の問題です。承諾を断られている、承諾料の支払いを求められている、工事を止められそう、といった状態になったら、交渉や争いの解決が必要な段階で、弁護士に相談する場面です。承諾料をいくら払うのが妥当かといった金額の判断も、この記事では扱いません。
なお、私道の境界がはっきりしない、どこを通すのが最も損害が少ないかを図面で確かめたい、という点は測量・調査の領域で、土地家屋調査士の分野になります。
一方、話し合いがまとまった場合に、その内容を口約束や承諾書だけで終わらせず、地役権として登記に残しておくという選択肢があります。将来、私道の所有者が替わったときにも権利関係を示しやすくなります。この登記の手続や、承諾を求める相手を確かめるための名義の調査、私道持分の相続登記は、司法書士が扱う分野です。
まとめ
私道の掘削承諾書は、主に水道・ガスの事業者が工事の申込みの際に提出を求めてきた書類で、「共有者全員の承諾がなければ工事できない」と民法が一律に定めているわけではありません。全員分を求める運用が広がった背景には、改正前は共有の規定の解釈がはっきりしなかったことがあると説明されています。
法律上誰の承諾が問題になるかは、私道の持ち方で変わります。私道全体をみんなで共有する共同所有型で、共有者が自分の給水管を通す場合は、他の共有者の同意は要らないという整理が示されています。他人の筆を掘る相互持合型では、民法213条の2の設備設置権の問題になり、要件を満たせば、事前の通知を行ったうえで、承諾書がなくても民法上は設置が可能です。ただし、事業者がどの書類を求めるかは事業者ごとに違うため、工事の前に申込先に確認することが欠かせません。
持ち主が替わった場合の承諾の効力は、承諾の中身によって変わります。私道の名義が亡くなった方のままになっていないか、承諾書がどの範囲の工事を対象にしているかを、早めに確認しておくと安心です。私道の名義の確認や相続登記、地役権の登記について気になることがあれば、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 掘削承諾書をそろえるのに、費用はかかりますか。
承諾をもらう相手を確かめるために、私道部分の登記事項証明書を取得するのが一般的な出発点です。手数料は書面で請求する場合1通600円(登記手数料令2条1項)、オンラインで請求して郵送してもらう場合は1通520円(同令3条1項)です。共有私道ガイドラインは、設備設置権が成立する場合には、いわゆる承諾料を求められても応ずる義務はないとしています。なお、設備設置権によって設置する場合でも、その土地の損害に対する償金の支払いは別に定められています(民法213条の2第5項)。ただし、個別の金額をめぐって話がまとまらない場合は、弁護士にご相談ください。
Q. 承諾書がそろわないまま放置すると、どうなりますか。
事業者によっては承諾書がないと申込みを受け付けてもらえず、建て替えや引越しの日程が組み直しになることがあります。また、私道持分が亡くなった方の名義のままだと、承諾を求める相手を確かめるのに時間がかかります。私道持分も相続登記の申請義務の対象で、相続により取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならず(不動産登記法76条の2第1項)、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象とされています(同法164条1項)。
Q. 自分で手続きできますか。どこに相談すればよいですか。
承諾をお願いすることや、事業者への申込み自体は、ご自身や工事店で進めることができます。どの書類が必要かは、申込先の水道事業者・ガス事業者に確認してください。私道の名義人の確認や相続登記、合意した内容を地役権として登記に残す手続は、お近くの司法書士にご相談ください。境界や管を通すルートの測量は土地家屋調査士、相手方が反対している・承諾料でもめているといった紛争は弁護士の分野です。
【さらに深掘り】承諾の相手を登記で確かめる実務──名義人の追い方・所在等不明共有者・地役権登記の前提
ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文では、掘削承諾書が誰の承諾を問題にしているのかを、私道の持ち方ごとに整理しました。ここでは、その「相手」を登記記録からどう特定するか、記録と現実がずれているときに何が手がかりになるか、合意を登記に残す場面で何が前提になるかを、条文と共有私道ガイドラインの記載に沿って掘り下げます。私道部分の地番を公図・地積測量図で特定する手順は私道の相続登記を忘れずにの深掘りで、地役権の登記事項や地役権図面はセットバック・位置指定道路とはの深掘りで扱っていますので、ここでは繰り返しません。
1. 登記記録で確かめる3点──所有形態・現在の名義人・乙区
共同所有型か相互持合型かは、登記記録の上では次のように現れます。
- 共同所有型:私道の1筆の甲区に、複数の名義人が持分とともに記録されます。登記名義人が2人以上であるときは名義人ごとの持分が登記事項とされているためです(不動産登記法59条4号)。共有者が多く甲区の記録が長く続いている場合は、現在の所有権の登記名義人の氏名(法人なら名称と法人識別事項)・住所と各自の持分を記載する「所有者証明書」(不動産登記規則196条1項4号)で一覧にする方法もあります。交付請求書での選び方は登記事項証明書交付申請書の書き方で整理しています
- 相互持合型:通路が複数の筆に分かれ、筆ごとに名義人が異なります。管を通す経路が何筆にまたがるかによって、確認すべき登記記録の数が変わります。どの筆の下を通るのかを現地と図面で確かめる作業は、測量・調査の領域(土地家屋調査士の分野)です
もう一つ見ておきたいのが乙区です。所有者証明書には現在の名義人と持分しか記載されないため、乙区は全部事項証明書などで確認します。すでに地役権の登記があれば、地役権設定の目的と範囲が登記事項として記録されています(同法80条1項2号)。もっとも、地役権者が他人の土地を自己の土地の便益に供することができるのは、設定行為で定めた目的に従ってです(民法280条)。登記の目的欄の記載だけでは、導管の設置まで含む内容かどうかを判断しきれない場合があります。
逆に、乙区に何も記録されていないからといって、地役権がないとは限りません。共有私道ガイドラインは、相互持合型私道の各所有者は互いに通行等を目的とする地役権を設定していると考えられており、分譲の際に開設された相互持合型私道では黙示の地役権の設定がされていることが通常であるとしています(27頁)。さらに、ライフラインの設置経路としても設計された相互持合型私道では、地役権の内容は通行のみならずライフラインの設置・利用を含むことになるのが通常としています(28頁)。黙示に設定された地役権は、設定の登記がされていなければ登記記録には現れません。
2. 名義人の住所が古いとき──住所変更登記の義務化で変わったこと
登記記録の住所は、その名義人が登記を受けた時点、またはその後に変更の登記をした時点のものです。転居しても変更の登記がされなければ、登記記録は古い住所のまま残ります。
この点は、2026年4月1日から制度が変わっています。
- 所有権の登記名義人の氏名・名称や住所に変更があったときは、変更があった日から2年以内に変更の登記を申請しなければならない(不動産登記法76条の5)。正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象とされている(同法164条2項)
- 施行日より前に変更があった場合にも適用され、その場合の期間は、変更があった日と施行日のいずれか遅い日から数える(民法等の一部を改正する法律〔令和3年法律第24号〕附則5条7項)
- 登記官が職権で氏名・住所の変更の登記をする仕組みも設けられた(同法76条の6)。共有私道ガイドラインは、個人の場合は住基ネット、法人の場合は商業・法人登記のシステムと連携して得た情報に基づくものと説明しています(15頁)。ただし、名義人が個人の場合は、本人の申出があるときに限られる(同条ただし書)
義務化によって、登記記録の住所が現在の住所に近づいていくことは期待できます。ただ、施行前からの古い住所がすぐに一斉に更新されるわけではなく、個人の名義人について職権で変更の登記がされるのは申出があるときに限られます。承諾をお願いする連絡先として登記記録の住所を使う場合は、それが「登記をした時点の住所」であることを前提にしておく必要があります。
3. 名義人が亡くなっているとき──登記記録から分かること・分からないこと
名義人が亡くなっている場合、承諾を求める相手はその相続人です。相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し(民法898条1項)、共有に関する規定を適用するときは、法定相続分(同法900条から902条までにより算定した相続分)をもって各相続人の共有持分とするとされています(同条2項)。共同所有型の私道持分であれば、「近隣どうしの私道の共有」の中に、さらに「相続人どうしの共有」が入れ子になる形です。
相続登記の申請義務を負うのは、相続により所有権を取得した者です(不動産登記法76条の2第1項)。承諾を求める側から見て、登記記録上の手がかりになり得る記載には次のものがあります。
- 相続人申告登記の付記:相続人である旨の申出があったときは、登記官は職権で、その旨と申出をした者の氏名・住所等を所有権の登記に付記することができる(同法76条の3第3項)。ただし、共有私道ガイドラインが説明するとおり、この登記では持分の割合までは登記されず、相続によって権利を取得したことまでは公示されません(15頁)。申出をした人が相続人の一人であることは分かっても、その人が私道持分を取得したのか、ほかに誰が相続人なのかまでは、登記記録からは分かりません
- 権利能力を有しないこととなった旨の符号:登記官は、所有権の登記名義人(法務省令で定めるものに限る)が権利能力を有しないこととなったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、職権でその旨を示す符号を表示することができる(同法76条の4。2026年4月1日施行)。表示は「することができる」とされているので、符号が表示されていないことが、名義人の存命を意味するわけではありません
登記記録で追えない先は、戸籍などによる相続人の調査が必要になります。相続人の存在が分からないまま行き詰まった場合は、次の4で触れる裁判の要件との関係が問題になります。
4. 所在等不明共有者の裁判は、登記記録の名義を変えない
本文で紹介した民法251条2項(変更)・252条2項1号(管理)の裁判は、「共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」が要件です。所在が分からない場合だけでなく、誰が共有者なのかを特定できない場合も含まれます。共有私道ガイドラインは、自然人である共有者が死亡しているが、その相続人の存在が不明であるケースは、相続財産管理人等がいない限りこの要件に該当するとしています(21頁)。なお「相続財産管理人等」はガイドラインの表現で、現行の民法では、相続人のあることが明らかでない場合に家庭裁判所が選任するのは「相続財産清算人」(民法952条1項)と呼ばれ、これとは別に、相続財産の保存のために選任される「相続財産管理人」(同法897条の2第1項)の制度があります。
登記記録との関係で押さえておきたいのは次の点です。
- 登記記録だけで「不明」とはいえない:要件を満たすには、私道の不動産登記簿や住民票等の公的記録の調査など必要な調査をしても、他の共有者を特定できない、又はその所在を知ることができないことが必要で、事案によっては私道の利用状況の確認や、連絡のつく他の共有者への確認も必要になると解されています(共有私道ガイドライン21頁)。同ガイドラインの図でも、登記簿上の共有者の氏名等や所在が不明であるだけでなく、住民票調査など必要な調査を尽くしても不明であることを証明する必要があると整理されています(23頁)
- 手続の枠組み:申立ては共有物の所在地を管轄する地方裁判所に対して行います(非訟事件手続法85条1項)。裁判所が申立てがあったことや異議の届出をすべきことなどを公告し、異議の届出期間(1か月以上)が経過した後でなければ、裁判はされません(同条2項)。裁判は確定しなければ効力を生じません(同条5項)
- 裁判で変わるのは「決め方」まで:この裁判は、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意(変更)や、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数(管理)で決められるようにする効力を有するにとどまり、実際に工事をするには、別途その同意や決定が必要とされています(共有私道ガイドライン22頁)。持分が移るわけではないため、登記記録の名義はそのまま残ります
- 返事をしない共有者を除いて決める裁判は「管理」に限られる:相当の期間を定めて賛否を明らかにするよう催告しても返答しない共有者がいる場合の裁判(民法252条2項2号)は、管理に関する事項についての制度です。変更についての民法251条2項は、他の共有者を知ることができない・所在を知ることができない場合だけを定めています
所在等不明共有者の持分そのものを取得する制度(民法262条の2)もあり、こちらは持分が移るため登記を伴います。手続と登記の書類は兄弟と共有の実家、どう動かす?の深掘りで扱っています。私道持分の場面で注意したいのは、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る)、相続開始の時から10年を経過していないときは、この取得の裁判をすることができないとされている点です(同条3項)。名義人が亡くなって間もない私道持分には、この制度を使えない場面があります。
5. 合意を地役権として登記に残すときに、先に確かめること
承諾が得られ、その内容を将来の所有者にも示せる形で残したいとき、地役権の設定の登記を検討することがあります。登記事項や地役権図面の扱いは前述の記事に譲り、ここでは申請の前提になる点を整理します。
- 申請は承役地の名義人との共同申請:権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者と登記義務者が共同してしなければなりません(不動産登記法60条)。地役権の設定の登記では、負担を受ける側の土地(承役地)の所有権の登記名義人が登記義務者の立場に立ちます
- 名義人の氏名・住所が古ければ、先に変更の登記:申請情報の内容である登記義務者の氏名・住所が登記記録と合致しないときは、申請は却下されます(同法25条7号)。承諾をくれた人の現在の住所が登記記録と違っていれば、前提として住所の変更の登記が必要になります
- 名義人が亡くなっていれば、先に相続の登記:相続人と新たに設定の合意をする場合、相続人は登記記録上の名義人ではないため、前提として相続の登記が必要になります。名義人が生前に設定の合意をしていたが登記をしないまま亡くなった場合には、相続人がその登記を申請することができるとされています(同法62条)
- 要役地の側の登記:要役地に所有権の登記がないときは、承役地に地役権の設定の登記をすることができません(同法80条3項)。便益を受ける側の土地の名義が整っているかも、あわせて確認します
- 私道の持ち方による違い:相互持合型では、管が通る筆ごとに、その筆の名義人が登記義務者になります。共同所有型では私道の1筆が承役地になりますが、共有者のどの範囲の同意で地役権を設定できるかは、設定する権利の内容によって整理が分かれ得ます。共有私道ガイドラインは、地方公共団体が私道の地下に公共下水管を設置するための利用権を設定する契約について、私道の機能に変更は生じないことや共有者自身も公共下水管を使うことから管理に関する事項に当たり、持分の過半数で決することができるとし、あわせて、地下の一部だけの利用権の設定は共有者による土地の使用を排除しないため民法252条4項の賃借権等の設定には当たらない、とする整理を示しています(134〜135頁)。私人の導管のための地役権に同じ整理が当てはまるかは個別の検討を要し、本稿では立ち入りません
登記記録は、承諾を求める相手を探す出発点ですが、記録と現実がずれていることを前提に読む必要があります。住所の変更の登記や相続の登記が済んでいない私道ほど、承諾の相手の特定にも、合意を登記に残す場面にも時間がかかります。どの筆の誰の記録を確かめるべきか、地役権の登記を検討するかどうかは、お近くの司法書士にご相談ください。承諾の交渉や承諾料、相手方との争いは弁護士、管の経路や境界の確認は土地家屋調査士の分野です。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第98条・第177条・第213条の2・第249条・第251条・第252条・第262条の2・第280条・第281条・第897条の2・第898条・第952条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法 第3条・第25条・第59条・第60条・第62条・第76条の2〜第76条の6・第80条・第164条、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記規則 第196条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 非訟事件手続法 第85条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000051
- 水道法 第15条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000177
- 下水道法 第11条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/333AC0000000079
- 登記手数料令 第2条・第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/324CO0000000140
- 法務省「共有私道の保存・管理等に関する事例研究会(第2期)」(ガイドライン掲載ページ): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00280.html
- 共有私道の保存・管理等に関する事例研究会「複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~(第2版)」(令和4年6月): https://www.moj.go.jp/content/001374239.pdf
- 法務省民事局「所有者不明私道への対応ガイドライン(第2版)の概要」(令和4年6月): https://www.moj.go.jp/content/001374238.pdf