この記事の要点
- 信託目録とは、信託された不動産について、委託者・受託者・受益者や、信託の目的・管理方法・終了の事由などを記録した登記簿の一部です
- 登記事項証明書は、請求のときに信託目録の証明を求めないと、信託目録の記載が省かれます(手数料は窓口・郵送の書面請求で1通600円)
- 受託者から不動産を買う・担保に取るときは、受託者の処分の権限にかかわる定め(信託財産の管理方法・その他の信託の条項)を見ます
- 受益者や委託者が亡くなったときは、信託の終了の事由・受益者の定め・残余財産を受け取る人の定めを順に見ます
- 読み方に迷うときや、目録の記録が今の状況と合わないときは、お近くの司法書士に確認しましょう
信託目録とは、家族信託などで信託財産になった不動産について、「誰が、誰のために、どんな目的で、どう管理し、いつ終わるのか」を記録した、登記簿の一部です。甲区(所有者の欄)を見ると名義人は受託者になっていて、その名義が信託によるものであることは甲区の記録から分かりますが、信託の中身は、信託目録を見て初めて分かります。
信託を始めるときに信託目録に何が記録されるのか、なぜ信託目録が必要なのかは、家族信託と不動産登記──信託すると登記簿はどうなる?で解説しています。この記事では、すでに信託されている不動産の登記簿を外から読む側の立場に立ち、場面ごとにどの欄を見ればよいかに絞って整理します。委託者・受託者・受益者の関係など家族信託の仕組みそのものは、家族信託(民事信託)とはをご覧ください。
信託目録は、甲区の「信託」の登記とセットで読む
登記簿(登記事項証明書)の基本的な読み方は、登記簿(登記事項証明書)の見方で紹介しています。信託された不動産の場合、甲区には、受託者への所有権の移転(登記の原因は「信託」)と、信託の登記が記録されます。
登記官は、信託の登記をするときに信託目録を作り、目録番号を付けたうえで、その番号を信託の登記の末尾に記録します(不動産登記規則176条1項)。甲区の信託の登記に目録番号が書かれていたら、その番号の信託目録が、この不動産の信託の中身です。
信託目録に記録される事項は、法律で決まっています(不動産登記法97条1項)。委託者・受託者・受益者の氏名と住所のほか、信託の目的、信託財産の管理方法、信託の終了の事由、その他の信託の条項などです(一覧は前掲の記事で紹介しています)。この記事では読みやすさのため、これを次の2つのまとまりに分けて見ていきます。
- 人の欄:委託者・受託者・受益者(受益者代理人や信託管理人が置かれていれば、その人も)
- 中身の欄(登記事項証明書の様式では「信託条項」の欄):信託の目的・信託財産の管理方法・信託の終了の事由・その他の信託の条項
なお、受益者の指定に関する条件や受益者を定める方法、信託管理人、受益者代理人などが登記されている場合には、受益者本人の氏名・住所は登記しなくてよいとされています(受益者代理人の場合は、その代理人が代理する受益者に限ります。不動産登記法97条2項)。受益者の欄に名前が見当たらないときは、こうした定めが記録されていないかを確かめます。
まず「信託目録付き」で取得する
最初のつまずきどころは、取得の段階にあります。登記事項証明書を請求するときに、信託目録に記録された事項の証明を求める旨を伝えないと、信託目録の記載は省略されます(不動産登記規則193条1項5号・197条3項)。甲区に信託の登記があるのに中身が分からないという場合は、信託目録の証明もあわせて請求し直します。
登記事項証明書は、誰でも手数料を納めて請求できます(不動産登記法119条1項)。手数料は、窓口や郵送で書面を請求する場合は1通600円、オンラインで請求する場合は1通490円(証明書を郵送で受け取る場合は520円)です。1通の枚数が50枚を超えると、50枚ごとに100円が加算されます(登記手数料令2条1項・3条1項)。
場面1:受託者から不動産を買う・担保に取るとき
見る欄は「信託条項」──信託財産の管理方法と、その他の信託の条項
信託された不動産の売主は、甲区の名義人である受託者です。信託法は、受託者に信託財産の管理や処分をする権限があるとしたうえで、信託の定め(信託行為)によってその権限に制限を加えることも認めています(信託法26条)。
そのため、受託者がその不動産を売ることができるのか、売るときに誰かの同意が必要とされていないかといった、処分の権限にかかわる定めは、信託目録の「信託条項」の欄に、信託財産の管理方法やその他の信託の条項の定めとして記録されていることがあります。たとえば、売却や担保の設定について受益者などの同意を条件とする定めや、そもそも処分を予定していないことがうかがえる定めが書かれていることがあります。
なぜ買う側が信託目録を見るのか
受託者が権限の外で不動産を売ってしまった場合について、信託法は、受益者がその売買を取り消せる場面を定めています。登記ができる財産の場合、取消しができるのは、①その当時、信託の登記がされていたこと、②買主などの相手方が、権限の外の行為であることを知っていたか、知らなかったことに重大な過失があったこと、の両方にあてはまるときに限られます(信託法27条2項)。
つまり、信託の登記がされている不動産では①の条件は満たされるため、取消しを受けるかどうかは、②の、買主などが権限の外の行為であることを知っていたか、重大な過失で知らなかったかにかかってきます。取引の前に信託目録で受託者の処分の権限にかかわる定めを確かめておく意味は、ここにあります。どのような場合に「重大な過失」にあたるかは、個別の事情によって判断されます。
あわせて見る点:受託者の記録が今の状態と合っているか
受託者が亡くなって新しい受託者が就任した場合などには、新しい受託者への権利の移転の登記がされ、それにあわせて信託目録の記録も登記官が職権で変更します。受託者の氏名や住所の変更の登記がされたときも同じです(不動産登記法101条、不動産登記規則176条3項)。
一方、受益者が代わったときなど、それ以外の記録事項に変更があったときは、受託者が遅滞なく信託の変更の登記を申請しなければならないとされています(不動産登記法103条1項)。申請がされていなければ、信託目録の記録が今の状態と合っていないこともあり得ます。甲区の名義人と信託目録の受託者が同じ人か、受益者の記録が今の状況と合っているかは、あわせて確かめておきたい点です。
売れたあとの登記簿
受託者から買主に売却されて、不動産が信託財産でなくなる場合、信託の登記の抹消は、買主への所有権の移転の登記と同時に申請することとされています(不動産登記法104条1項)。
なお、信託目録から分かるのは、登記された信託の内容までです。その不動産を買うかどうか、価格が見合うかといった判断は、信託目録だけでは決まりません。
場面2:受益者・委託者が亡くなったとき
家族信託では、親が委託者と最初の受益者を兼ね、子が受託者になる形がよく見られます。この形で親が亡くなっても、不動産の名義はもともと受託者にあるため、甲区の名義がそのまま親の相続人に移るわけではありません。その不動産がこの先どうなるかは、まず信託の定めによって決まります。信託目録では、次の3点を順に見ていきます。
①信託の終了の事由:その死亡で信託が終わるのか
信託法は、信託が終わる場面のひとつとして「信託行為において定めた事由が生じたとき」を挙げています(信託法163条9号)。「委託者兼受益者の死亡」が信託の終了の事由として記録されていれば、その死亡によって信託は終了します。死亡が終了の事由として挙がっていない信託では、次の受益者に引き継がれて続いていく定めになっていることがあります。
②受益者の定め:次の受益者は誰か
信託が続く場合、次の受益者が誰になるかは、受益者の欄のほか、「受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定め」(不動産登記法97条1項2号)や、その他の信託の条項に記録されていることがあります。受益者が代わったときは、受託者が信託の変更の登記を申請し(同法103条1項)、信託目録の受益者の記録が変更されます(不動産登記規則176条3項)。
③残余財産の行き先:信託が終わったら誰が受け取るか
信託が終了したあとに残った財産(残余財産)は、信託の定めで指定された人(残余財産を受け取る受益者や、帰属権利者と呼ばれる人)に帰属します(信託法182条1項)。指定の定めがない場合などには、委託者やその相続人などを帰属権利者とする定めがあったものとみなされます(同条2項)。
こうした残余財産の行き先の定めは、信託目録の「信託条項」の欄に、信託の終了の事由やその他の信託の条項の定めとして記録されていることがあります。信託が終わったあとの登記の流れ(信託の登記の抹消と、帰属権利者などへの名義の移転)は、家族信託と不動産登記の「信託が終了したときの登記」の節で紹介しています。
受託者が先に亡くなったとき
受託者である子が先に亡くなることもあります。受託者の死亡は受託者の任務が終わる事由の一つで(信託法56条1項1号)、信託財産は受託者の相続人のものになるわけではなく、新しい受託者が就任するまでは法人とされます(同法74条1項)。新しい受託者が就任すると、前の受託者の任務が終わった時点の信託に関する権利義務を引き継いだものとみなされます(同法75条1項)。新しい受託者への名義の移転の登記は、新しい受託者が単独で申請できます(不動産登記法100条1項)。
信託目録では、後継の受託者についての定めが、「信託条項」の欄(その他の信託の条項など)に記録されていないかを見ます。なお、受託者がいなくなり、新しい受託者が就任しない状態が1年間続くと、信託は終了します(信託法163条3号)。
税金や、争いになったとき
受益者が代わったり、信託が終わって残余財産を受け取ったりする場面では、相続税や贈与税の課税が問題になることがあります(相続税法9条の2)。具体的な税額や申告が必要かどうかは、税理士にご相談ください。また、信託の定めの解釈をめぐって受益者と受託者の意見が対立しているようなときは、弁護士への相談が必要になります。
信託目録を読むときの注意点
信託目録に記録されるのは、登記の申請で示された信託の内容です。信託契約書に書かれていることがすべて信託目録に載っているとは限らないため、目録だけで信託の全体が分かるわけではありません。
また、登記事項証明書で下線が引かれている記載は、抹消された記録です(不動産登記規則197条5項)。受託者や受益者が代わっている信託目録では、下線の付いた古い記録と、今の記録を取り違えないように読みます。
まとめ
信託目録は、甲区の信託の登記にひもづく「信託の中身」の記録です。取得するときは、信託目録の証明もあわせて求めないと記載が省かれる点に注意が必要です。受託者から買うときは、受託者の処分の権限にかかわる定め(信託財産の管理方法・その他の信託の条項)と、受託者の記録が今の状態と合っているかを確かめます。受益者や委託者が亡くなったときは、信託の終了の事由、次の受益者の定め、残余財産の行き先の定めを順に見ていきます。信託目録の読み方や、その後に必要になる登記について迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 信託目録付きの登記事項証明書は、いくらで取れますか?
手数料は通常の登記事項証明書と同じで、窓口や郵送で書面を請求する場合は1通600円、オンラインで請求する場合は1通490円(郵送で受け取る場合は520円)です(登記手数料令2条1項・3条1項)。信託目録の分だけ枚数は増えますが、1通が50枚を超えるまでは加算されません。請求のときに、信託目録の証明を求める旨を伝えるのを忘れないようにしましょう。
Q. 受益者が亡くなったのに、信託目録の記録が書き換わっていません。そのままでよいのですか?
受益者が亡くなって次の受益者に代わった場合など、信託目録の記録事項に変更があったときは、受託者が遅滞なく信託の変更の登記を申請しなければならないとされています(不動産登記法103条1項)。一方、その死亡で信託が終わる定めになっている場合は、信託の変更ではなく、信託の終了にともなう登記(深掘りで紹介します)が問題になります。記録が今の状況と合っていないと、のちに不動産を売ったり信託を終えたりする際に、確認の手間や追加の登記が必要になることがあります。まずは受託者と状況を確認しましょう。
Q. 信託目録は自分で読めますか? どこに相談すればよいですか?
登記事項証明書は誰でも請求できるので、取得して欄の意味を確かめることは自分でもできます。記録の読み方や、変更・抹消などの登記の手続きはお近くの司法書士に、相続税・贈与税の扱いは税理士に相談するのが一般的です。信託の定めの解釈をめぐって家族の間で争いになっている場合は、弁護士にご相談ください。
【さらに深掘り】信託が終わったときの登記──信託の登記の抹消と名義の移転を同時に申請するしくみ
ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文では、場面ごとに信託目録のどの欄を見るかを整理しました。ここでは、信託が終了したあとに登記簿がどう動くのかを、不動産登記法と信託法の条文に沿って整理します。
信託目録の様式は4つの欄に分かれている
信託目録の登記事項証明書の様式は、不動産登記規則の別記第五号様式と定められています(不動産登記規則197条2項5号)。この様式では、記録の欄が「1 委託者に関する事項」「2 受託者に関する事項」「3 受益者に関する事項等」「4 信託条項」の4つに分かれています。
様式に示されている欄はこの4つだけで、信託の目的・信託財産の管理方法・信託の終了の事由・その他の信託の条項(不動産登記法97条1項8号〜11号)を分ける欄は、様式には設けられていません。欄の名前と構成からすると、これらは「4 信託条項」の欄の中にまとめて記録されることになると考えられます。信託の終了の事由や、残余財産を受け取る人の定めを探すときは、この信託条項の欄を読むことになります。
信託が終了しても、名義はすぐには変わらない
信託は、終了したあとも、清算が結了するまではなお存続するものとみなされます(信託法176条)。信託が終了した時以後の受託者は「清算受託者」と呼ばれ、残余財産の給付などの職務を行います(同法177条)。信託の定めで帰属権利者として指定された人は、残余財産の給付を求める債権を取得します(同法183条1項。信託の定めに別段の定めがあれば、それによります)。また、帰属権利者は、信託の清算中は受益者とみなされます(同条6項)。
このように、残余財産は清算受託者の給付を通じて帰属権利者などに引き渡されるしくみになっており、委託者兼受益者の死亡などで信託が終了しても、その時点で甲区の名義が変わるわけではありません。名義は受託者のままで、受託者以外の帰属権利者などに不動産を引き渡す場合は、そのための登記を申請して、初めて登記簿の名義が変わります。
信託の登記の抹消は、権利の登記と同時に申請する
信託財産に属する不動産の権利が、移転・変更・消滅によって信託財産に属しないことになった場合、信託の登記の抹消は、その権利の移転の登記・変更の登記・抹消の登記の申請と同時にしなければなりません(不動産登記法104条1項)。信託が終了して、受託者以外の帰属権利者などに名義を移す場面では、権利の移転の登記と信託の登記の抹消を同時に申請することになります。
同時に申請されたこれらの登記は、権利部の相当区に一つの順位番号を用いて記録されます(不動産登記規則175条2項)。
誰が申請するのか
信託の登記の抹消は、受託者が単独で申請することができます(不動産登記法104条2項)。
一方、帰属権利者などへの権利の移転の登記は、権利に関する登記の一般原則である共同申請(同法60条)によることになり、登記権利者となる帰属権利者などと、登記義務者となる受託者が共同して申請するのが基本です。本文で触れた、受託者の任務が死亡などで終了し、新しい受託者が選任された場合の権利の移転の登記を新しい受託者が単独で申請できるという定め(同法100条1項)とは、扱いが異なります。
なお、家族信託では、受託者自身が帰属権利者として定められていることもあります。この場合は名義人が受託者のまま変わらないため、ここで説明した「受託者以外の帰属権利者などへの権利の移転」の形にはそのままあてはまりません。不動産が信託財産から受託者の固有財産となった場合の権利の変更の登記について登記権利者・登記義務者を定めた規定(同法104条の2第2項)との関係も含めて、登記の組み立てが別に問題になるため、具体的な手続きは司法書士にご確認ください。
受託者が手続きに応じない、帰属権利者が誰になるかについて関係者の意見が分かれているといった、争いのある場面は弁護士に相談すべき領域です。また、残余財産を受け取ることにともなう相続税・贈与税の扱いは、税理士にご確認ください。
抹消されたあとの信託目録
信託目録は、信託の登記の抹消をした日から20年間保存されることとされています(不動産登記規則28条7号)。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 不動産登記法 第60条・第97条・第98条・第100条・第101条・第103条・第104条・第104条の2・第119条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記規則 第28条・第175条・第176条・第193条・第197条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 不動産登記規則 別記第五号様式(信託目録)(e-Gov法令検索・添付PDF): https://laws.e-gov.go.jp/api/2/attachment/417M60000010018_20261005_508M60000010023?src=./pict/2FH00000055046.pdf
- 信託法 第26条・第27条・第56条・第74条・第75条・第163条・第176条・第177条・第182条・第183条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
- 登記手数料令 第2条・第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/324CO0000000140
- 相続税法 第9条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 法務省「登記手数料について」(令和7年4月1日~): https://www.moj.go.jp/MINJI/TESURYO/