この記事の要点

  • 遺言代用信託とは、生前に信託契約を結び、自分が亡くなった後に財産の利益を受ける人(受益者)を決めておく信託です(信託法90条)
  • 受益者連続型信託とは、「妻が亡くなったら次は長男」のように、受益者が亡くなると次の人が新たに権利を得ると定めておく信託です(信託法91条)
  • 遺言に「妻の次は長男へ」と書くことについては、効力をめぐって見解が分かれています。信託には、こうした定めについての条文があります
  • 信託でも限界は残ります。信託がされた時から30年を過ぎた後の期間制限、遺留分、相続税などの税金、受託者の負担がその代表です
  • 信託は誰にでも合う仕組みではありません。ご家族の状況で何が問題になるかを整理したいときは、お近くの司法書士にご相談ください

「妻の次は長男へ」のように、自分の次だけでなく、その次の行き先まで決めておく定めについて、信託法に条文があるのが受益者連続型信託です。そして「自分の次は妻」の部分にあたるのが、遺言代用信託です。

ただし、信託を使えばどこまでも思いどおりに決められるわけではありません。期間には制限があり、遺留分や税金の問題も残ります。この記事では、家族信託の基本(家族信託(民事信託)とは)を踏まえて、この2つの仕組みを順に説明し、遺言との違いと限界を整理します。特定の方法を勧めるものではなく、制度を知るための一般的な説明です。

なお、「全財産を妻に」という遺言の後に何が起きるかは、『全財産を妻に』の遺言と二次相続で取り上げています。

まず、登場する人と言葉を確認する

信託には、3つの立場の人が登場します。

  • 委託者(いたくしゃ):財産を託す人。この記事の例では夫です
  • 受託者(じゅたくしゃ):託された財産を、信託の目的に従って管理や処分をする人です(信託法2条5項)
  • 受益者(じゅえきしゃ):信託から利益を受ける権利(受益権)を持つ人です(信託法2条6項・7項)

信託された財産は「受託者に属する財産」とされています(信託法2条3項)。つまり、財産の名義人として管理するのは受託者で、利益を受けるのは受益者です。この「名義と利益が分かれる」点が、以下の説明の前提になります。

似た名前の言葉がいくつかあるので、先に区別しておきます。

言葉 意味
遺言代用信託 生前の信託契約などで、委託者の死亡後の受益者を決めておく信託(信託法90条の信託を指す呼び名)
受益者連続型信託 受益者の死亡により、次の人が新たに受益権を得ると定めた信託(信託法91条の信託など)
遺言信託(信託法上) 遺言によって信託を設定する方法(信託法3条2号)
遺言信託(信託銀行のサービス) 遺言書の作成の相談・保管・遺言の執行などを行うサービスの名前。信託法上の遺言信託とは別のもの

遺言代用信託──「自分の次」を生前の契約で決める

遺言代用信託という呼び名は条文の中にはなく、信託法90条1項に挙げられた次の2つの信託を指して使われています。

  1. 委託者が亡くなった時に、受益者として指定された人が受益権を取得すると定めた信託(1号)
  2. 委託者が亡くなった時以後に、受益者が財産の給付を受けると定めた信託(2号)。この受益者は、信託行為に別段の定めがなければ、委託者が亡くなるまで受益者としての権利を持ちません(同条2項)

たとえば、次のような形です。夫が自分名義のアパートについて、長女を受託者として信託契約を結びます。夫が生きている間は夫自身が受益者として家賃などの利益を受け、夫が亡くなったら妻が受益者になる、と定めます。

この形には、次のような特徴があります。

  • 契約の時から動き出す:信託契約による信託は、原則として契約の締結によって効力を生じます(信託法4条1項。条件や始期を付けることもできます。同条4項)。遺言が亡くなった時に効力を生じる(民法985条1項)のとは、この点が違います
  • 亡くなった後の受益者が決まっている:信託の定めで受益者として指定された人は、信託行為に別段の定めがなければ、当然に受益権を取得します(信託法88条1項)
  • 受益者を変えられるのが原則:委託者は受益者を変更する権利を持ちます。ただし、信託行為に別段の定めがあれば、それに従います(信託法90条1項)

遺言代用信託という名前は、信託銀行などの商品でも使われています。信託協会の案内によると、この商品では、本人が金銭を信託銀行等に信託し、受取人を相続人や近しい親族に限っているケースが多いとされています。扱いは信託銀行等や商品によって異なるので、内容は各社に確認が必要です。家族が受託者になる信託とは、前提が違います。

受益者連続型信託──「妻の次は長男」まで定める

信託法91条は、次のような定めのある信託について規定しています。

  • 受益者が亡くなると、その受益者の受益権は消滅し、他の人が新たな受益権を取得する、という定め
  • 受益者が亡くなると、順次、他の人が受益権を取得する、という定め

先ほどの例で言えば、夫が亡くなったら妻が受益者になり、妻が亡くなったら長男が受益者になる、という定めです。「自分の次は妻」が遺言代用信託の部分、「妻の次は長男」が受益者連続型の部分にあたり、1つの信託の中に両方の定めが入ることがあります。

遺言との大きな違いは、妻が持つのが財産の所有権ではなく受益権だという点です。名義は受託者のままで、定めが上の1つ目の形なら、妻の受益権は妻が亡くなると消滅し、長男が新たな受益権を取得します。条文の形から見ると、財産が妻の遺産に入ってから妻の相続人の間で分ける、という流れとは異なります。もっとも、受益者を変更できる権利が誰かに与えられているなど、信託の定め方によって変わる部分があります。税金の扱いはこれとは別です(後の「税金」の項で触れます)。

一方で、妻の立場から見ると、自分の判断で自由に売れる財産を受け取るわけではありません。信託された財産の管理や処分をするのは受託者で、その範囲は信託の定めによって決まります。

信託には終わりもあります。信託が終わった後に残った財産(残余財産)は、信託行為で指定された人に帰属し、指定がないなどの場合は、委託者やその相続人などを帰属先とする定めがあったものとみなされます(信託法182条1項・2項)。「長男の次」をどうするかは、受益者の順番だけでなく、信託の終わり方の問題でもあります。不動産の場合の登記は、家族信託と不動産登記、登記簿の「信託目録」の読み方、家族信託が終わるときで取り上げています。

遺言とどう違うのか

両者の違いを表にまとめます。

比べる点 遺言 遺言代用信託・受益者連続型
効力が生じる時 遺言者が亡くなった時(民法985条1項) 信託契約なら、原則として契約の締結の時(信託法4条1項)
生きている間の名義 本人のまま 信託した財産は受託者に移る
亡くなった後に動く人 遺言執行者や相続人 受託者
対象になる財産 遺言で定めた財産 信託した財産に限られる
「妻の次」の指定 効力をめぐって見解が分かれる 信託法91条に定めがある(期間の制限あり)
内容を変えたいとき いつでも遺言の方式に従って撤回できる(民法1022条) 受益者の変更は委託者ができるのが原則(信託法90条1項)。信託の変更は原則として関係者の合意による(信託法149条1項)

遺言に「妻の次は長男へ」と書くとどうなるか

妻に財産を渡し、妻が亡くなったら次は長男へ、と遺言に書くことは、「後継ぎ遺贈(あとつぎいぞう)」と呼ばれます。その効力については、見解が分かれています。2022年の論文によると、民法上の効力に否定的な見解が多数説といわれてきた一方、現在は有効とする説のほうが通説だとみる発言もあり、後継ぎ遺贈が有効か否かを論じた判例はないとされています(西希代子「信託法と相続法」信託研究奨励金論集43号〔2022年〕)。遺言に書けば必ずそのとおりになる、とは言えない状態です。

予備的遺言や妻自身の遺言との違い

混同しやすいのが予備的遺言です。予備的遺言は、財産を渡す相手が自分より先に亡くなった場合に備えるものです。妻が財産を受け取った後の行き先を決めるものではありません。

妻自身に遺言を書いてもらう方法もあります。妻の相続について決められるのは妻本人です。ただし、遺言はいつでも撤回できるので(民法1022条)、夫が亡くなった後に妻が内容を変えることも、制度上は妨げられません。

どちらか一方を選ぶものではない

信託の定めが及ぶのは、信託した財産だけです。信託しなかった財産の行き先を決めるには、遺言など別の方法が必要です。そのため、両方が併用されることもあります。どちらが合うかは、財産の内容やご家族の事情によって変わります。

信託にも限界がある

期間の制限(30年のルール)

受益者連続型信託には、期間の制限があります。信託法91条によると、この定めのある信託は、「信託がされた時から30年を経過した時以後」に現に存する受益者が定めによって受益権を取得した場合に、その受益者が亡くなるまで、またはその受益権が消滅するまでの間、効力を持ちます。

「30年が過ぎたら信託がすぐ終わる」という決まりではありません。条文の形に沿って整理すると、次のようになります。

  • 信託がされた時から30年を過ぎた後に、定めによって新たに受益権を取得した人がいると、その人が亡くなるまで(または受益権が消滅するまで)が、この信託が効力を持つ期間の終わりになる
  • 「妻の次は長男」の例では、30年を過ぎてから長男が受益権を取得した場合でも、長男が亡くなるまでは効力がある
  • 長男の次に孫、その次にひ孫まで順に決めていても、たとえば30年を過ぎてから孫が受益権を取得したのであれば、孫が亡くなった時より先には及ばない

何世代先までも自由に決められる仕組みではない、ということです。

遺留分

兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分(法律上保障された最低限の取り分)があります(民法1042条1項)。遺留分を侵害された人は、侵害額に相当するお金の支払いを請求できます(民法1046条1項)。たとえば、夫の次は妻、妻の次は長男と定めて次男に何も渡らない形にすると、次男の遺留分が問題になることが考えられます。

信託を使えば遺留分の問題を避けられる、とは言えません。先ほどの2022年の論文によると、信託を設定しただけで遺留分侵害額請求を一律に免れるわけではないという点で、学界はほぼ一致しているとされています。一方で、遺留分を計算するときに信託財産と受益権のどちらの価額を基礎にするか、請求の相手方を受託者と受益者のどちらとみるかについては、考え方が分かれています。

同じ論文は、2018年の相続法改正前の事案で、遺留分制度を潜脱する(逃れる)意図で信託制度を利用したものとして信託の一部を公序良俗に反し無効とした裁判例を紹介しています(東京地裁平成30年9月12日判決・金融法務事情2104号78頁)。個別の事案についての判断で、無効とした点には同じ論文も疑問を示しており、評価は分かれています(後の深掘りで触れます)。信託協会の案内は、遺言代用信託の商品について、各信託銀行等が相続人の遺留分を侵害しないよう、信託契約時に遺留分などを十分考慮して信託金額を決めていると説明しています。

遺留分がいくらになるか、請求するかどうか、請求された場合にどう対応するかは、争いに関わる問題です。遺留分侵害額請求の制度を確認したうえで、具体的なことは弁護士にご相談ください。

税金

信託にしても、税金の問題はなくなりません。相続税法には、適正な対価を負担せずに受益者になった人は、信託に関する権利を贈与または遺贈によって取得したものとみなす、という定めがあります(相続税法9条の2第1項・第2項)。受益者連続型信託については、特例の規定もあります(同法9条の3)。このように相続税・贈与税が関係します。

このほか、信託の内容によって、所得税や、不動産の登記・取得に関わる登録免許税・不動産取得税などが関係します。信託協会の案内は、遺言代用信託の商品について、普通に相続した場合と相続税の金額に違いはないと説明しています。実際にどの税金がいくらかかるかは、信託の内容とご家族の状況によって変わるので、税理士にご相談ください。

受託者の負担と、続けられなくなったとき

連続型の信託は、妻の代、長男の代と長い期間続くことがあります。その間、受託者には、受益者のために忠実に事務を行う義務(信託法30条)、信託財産を自分の財産と分けて管理する義務(同法34条)、帳簿などを作成する義務(同法37条)などがあります。

受託者が欠けて、新しい受託者が就任しない状態が1年間続くと、信託は終了します(信託法163条3号)。また、受託者が受益権の全部を自分の財産として持つ状態が1年間続いた場合も、信託は終了します(同条2号)。たとえば、長男が受託者を兼ねていて、妻が亡くなった後に長男だけが受益者になると、この規定が問題になります。受託者の選び方は受託者に誰を選ぶかで取り上げています。

事情が変わっても、簡単には変えられない

長い期間の間には、次の受益者として指定した長男が先に亡くなる、家族の関係が変わるなど、予定していなかったことが起こります。その場合にどうなるかは、信託の定めの内容によります。信託の変更は、原則として委託者・受託者・受益者の合意によって行います(信託法149条1項)。委託者が現に存しないときは、この定めは適用されません(同条5項)。委託者が存命中の受益者の変更(信託法90条1項)を除くと、遺言者が一人の判断で書き直せる遺言とは、勝手が違います。

このほか、法律で人に譲れないとされている財産は信託できないこと、本人の判断能力が失われた後は新しく始められないことなど、信託そのものの制約もあります。家族信託が向かないケースもあわせてご覧ください。

まとめ

遺言代用信託は、生前の信託契約などで委託者の死亡後の受益者を決めておく信託で、受益者連続型信託は、受益者が亡くなった後の次の受益者まで定めておく信託です。遺言で「妻の次」まで決めることについては効力をめぐって見解が分かれているのに対し、信託には信託法91条の定めがあります。

一方で、信託がされた時から30年を過ぎた後の期間制限があり、遺留分や税金の問題も残ります。受託者の負担や、事情が変わったときの変えにくさもあります。ご自身やご家族の状況で何が問題になるのかを整理したいときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 遺言代用信託や受益者連続型信託の費用はどれくらいかかりますか?

家族が受託者になる場合は、契約書の作成にかかる専門家への報酬、公正証書にする場合の公証人の手数料、不動産を信託する場合の登録免許税などがかかります。受益者が代わったときや信託が終わったときの登記にも費用がかかります。内訳は家族信託の費用の考え方で整理しています。信託銀行などの商品の費用は、個々の契約や会社によって異なります。

Q. いつまでに決める必要がありますか?放っておくとどうなりますか?

法律で決まった期限はありません。ただし、信託契約は本人が内容を理解して結ぶものなので、意思能力がない状態で結んだ契約は無効になります(民法3条の2)。遺言も、遺言をする時に遺言能力が必要です(民法963条)。何も決めないまま亡くなると、夫の相続は遺産分割などで、妻の相続は妻の側の事情で進むことになります。

Q. 自分たちで進められますか?どこに相談すればよいですか?

信託法は、信託契約について公正証書で作ることを効力の条件にはしていません(信託法3条1号・4条1項)。もっとも、受託者の義務、登記、遺留分、税金が関わるので、内容の確認なしに進めるのは難しい分野です。仕組みや不動産の登記についてはお近くの司法書士に、税金については税理士に、相続人の間の争いについては弁護士に、信託銀行などの商品についてはその会社にご相談ください。


【さらに深掘り】信託法91条の読み方と受益者の変更権、遺留分の争点──条文で言えること・言えないこと

ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文では、遺言代用信託と受益者連続型信託の仕組みと限界を説明しました。ここでは、その限界のうち、条文の組み立てから言えることと、条文だけでは決まらないことを分けて整理します。どの仕組みがよいかや、契約の条項の書き方を示すものではありません。

受益者連続型の課税の枠組みは遺言執行者の深掘りで、信託の終わり方は家族信託が終わるときの深掘りで扱っていますので、ここでは繰り返しません。

91条の「30年」はどこから数え、何に及ぶのか

信託法91条の期間制限について、法務省民事局長は国会で、あまりに長期のものは適当でないという意見と、中小企業の営業の継続なども考えると一定の範囲では認めるのがよいという意見を踏まえ、その範囲を30年としたと説明しています(参議院法務委員会平成18年12月7日)。

条文の文言から言えるのは、次の点です。

  • 数え始めは「信託がされた時」です。委託者が亡くなった時でも、受益者が最初に代わった時でもありません。信託契約による信託は、原則として契約の締結によって効力を生じますから(信託法3条1号・4条1項)、本文の例では、夫が存命の間の年数もこの30年に含まれると読めます
  • 区切りになるのは、30年を過ぎた後に「当該定めにより受益権を取得した」受益者です。その受益者の死亡または受益権の消滅までが、効力の終わりになります。この文言に沿って読めば、30年を過ぎても妻が受益者のまま存命であれば、妻が亡くなって長男が受益権を取得し、その長男が亡くなるまでが効力の及ぶ範囲になります。立案担当者も国会で、30年を経過した後にその時点で存する受益者が受益権を取得する信託については、その受益者が死亡するまで、または受益権が消滅するまでの間、効力を認めると説明しています(前掲・参議院法務委員会平成18年12月7日)
  • 対象は「受益者の死亡により」受益権が移る定めです。年数の経過で受益者が交代する定めなどは、文言上この要件には当たりません。もっとも、そこから期間の制限なく認められるとまでは言えません。立案段階の資料も、受益者連続の信託について、あまりに長期に連続受益者を指定することは公序良俗(民法90条)に反するのではないかという問題を挙げていました(法務省民事局参事官室「信託法改正要綱試案 補足説明」171頁。以下「補足説明」)

なお、相続税法9条の3の「受益者連続型信託」は、信託法91条の信託のほか、受益者指定権等を有する者の定めのある信託(信託法89条1項)なども含むと定義されています。同じ言葉でも範囲が同じではない点には注意が必要です。税の扱いは税理士にご確認ください。

一方、条文だけでは決まらない点、読み方が一つに定まっていない点もあります。

  • 条件付きの信託や遺言による信託の数え始め:停止条件や始期が付いた信託はその成就や到来によって、遺言による信託は遺言の効力の発生によって効力を生じます(信託法4条4項・2項)。91条が使うのは「信託がされた時」という言葉で、4条の「効力を生ずる」とは表現が異なり、これらの信託でどの時点から数えるのかを条文は直接示していません
  • 効力が終わった後の組み立て:91条の主語は「定め」ではなく「定めのある信託」で、条文は、その受益者の死亡または受益権の消滅までの間「その効力を有する」と定めるだけです。信託の終了事由を列挙した信託法163条の各号に91条は挙げられておらず、その後に信託がどうなるのかの組み立てを条文は明示していません。解釈としては、立案担当者の見解と多数説は、信託設定時から30年を経過した後に生存者が受益権を取得すると、その者の死亡または受益権の消滅によって信託は消滅すると解していると整理されています(渡辺宏之「受益者等〔研究・信託法 第6回〕」信託282号〔2020年〕31頁。同45頁注8は寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』261頁注7などを挙げます)。信託が終了するのであれば、残った財産の行き先は残余財産の定め(同法182条)の問題になります
  • 条文の読み方そのもの:受益者連続型の信託は、信託法の中でも、条文の文理的な解釈の面でも相続法との関係でも疑義が多い制度だと指摘されています(西希代子「信託法と相続法──信託と遺留分制度との関係を中心として」信託研究奨励金論集43号〔2022年〕1頁)。たとえば「順次」の部分について、複数回の連続を指すとする見解や、間に空白期間があってもよいという意味とする見解など、いくつかの読み方が示されています(渡辺・前掲31頁)。上の整理も、条文の文言から言える範囲を示したものにとどまります

委託者の受益者変更権と、委託者の地位のゆくえ

信託法90条1項は、信託行為に定めがなくても、委託者に受益者を変更する権利を認めています(別段の定めがあればそれに従います。同項ただし書)。権利を持つ者の定めがある信託についての89条とは、この点が異なります。立案段階の資料は、遺言代用の信託の委託者はいつでも受益者を変更できるという意思を持つのが通常だと説明し、死亡後の受益者に委託者の生存中から受益者の権利を認めると、信託の変更や終了にその者の同意が必要になって委託者の通常の意図に沿わないとしていました(補足説明169頁)。現行法では、委託者の死亡の時以後に給付を受ける受益者(90条1項2号)は、別段の定めがなければ委託者の死亡まで受益者としての権利を持ちません(同条2項)。

では、委託者が変更権を行使しないまま亡くなるとどうなるのでしょうか。

信託法89条5項は、受益者指定権等は別段の定めがない限り相続によって承継されないと定めています。ただし、同条が規定するのは「定めのある信託」であり、90条の権利にこの5項が直接及ぶかどうかを条文は明示していません。立案段階の資料は、受益者指定権等の規律の説明の中で、受益者変更権も相続の対象にならないと解されるとして、行使しないまま死亡した場合はその時点の受益者に受益権が確定的に帰属するという考え方を示し(補足説明167頁)、遺言代用の信託の規律をこの規律の特則と位置づけていました(同168頁)。現行法の解説にも、90条の変更権を89条の受益者変更権と位置づけるものがあります(渡辺・前掲31頁)。立案途中の説明と解説からの推論で、条文が直接定めたものではありませんが、本文の例でいえば、夫の相続人である次男が夫の変更権を引き継いで受益者を変える、という見方はとりにくいと考えられます。夫の死亡後に「妻の次」を動かせる人がいるかどうかは、信託行為で誰かに受益者指定権等が与えられているか(信託法89条)や、信託の変更の枠組み(同法149条)の問題です。

委託者の地位そのものが相続されるかは、これとは別に論じられています。信託法147条は、遺言による信託(同法3条2号)について、委託者の相続人は原則として委託者の地位を相続により承継しないと定めています。信託契約による遺言代用信託は、この条文の対象ではありません。契約による信託については同趣旨の条文がなく、立案段階で承継する案としない案が併記されていた経緯(補足説明173〜174頁)は、家族信託の費用の考え方の深掘りで紹介しています。法律の成立後に出た立案担当者の解説は、新法が委託者の地位の相続性を肯定する考え方をとっていると説明しています(寺本昌広『逐条解説 新しい信託法』〔商事法務、平成19年〕335頁。川口幸彦「信託法改正と相続税・贈与税の諸問題」税大論叢57号〔2008年〕285頁による)。147条がこれと異なる扱いをする理由について、同じ解説は、遺言信託では法定相続分と異なる財産承継を図るもので、委託者の相続人と受益者の利害が一致するとは限らないことなどを挙げています(寺本・前掲336頁。川口・前掲284頁による)。

遺言による信託については、立案段階では承継する案としない案が併記されており、承継しないとする案の理由は、遺言による信託では信託の受益者と遺言者の相続人とが信託財産について相対立する利害を持つ立場にある、という点にありました(補足説明172頁)。現行の147条は、この承継しないとする方向で定められています。遺言代用の信託も、生前の行為で死亡後の財産の分配を図るもので、死因贈与と類似する機能を持つとされています(補足説明168頁)。本文の例の次男のように、相続人が受益者と利害の対立する立場に立つ場面は考えられます。147条と同じ考え方を遺言代用信託に及ぼすかどうかは、条文からは決まりません。委託者の地位が相続されるとした場合に90条の変更権まで相続人に移るのかも、条文は直接示していません。

ある信託でこの点がどうなるかを見るときは、委託者の権利についての定め(信託法145条1項)や、委託者の地位の移転についての定め(同法146条1項)があるかどうかが手がかりになります。家族信託では、委託者の地位は承継されない旨を信託行為に定めることがしばしばあるようだとされています(渡辺宏之「委託者/信託の終了等〔研究・信託法 第7回〕」信託283号〔2020年〕5頁)。委託者が亡くなった後に使える手続きとの関係は、前掲の「家族信託が終わるとき」の深掘りをご覧ください。

遺留分──争いの少ない点と、分かれている点

ここでは、前掲の西希代子「信託法と相続法──信託と遺留分制度との関係を中心として」の整理を中心に、本文で触れた争点を分けて見ていきます(以下の頁は同論文のものです)。金額の算定や請求の当否を示すものではありません。

争いが少ない点として、次の2つが挙げられます。

  • 信託を設定しただけで遺留分侵害額請求を一律に免れるわけではないこと(4頁)。立法時にも、法務省民事局長が、後継ぎ遺贈型の信託でも遺留分の侵害は起こりうるもので、相続法の秩序が優先すると答弁しています(衆議院法務委員会平成18年10月25日。当時の遺留分減殺請求を前提とする答弁です)
  • どの時点で遺留分制度を適用するか。受益者連続型では、前の順位の受益者が亡くなるたびに適用するのか、委託者の死亡の時だけなのかが問題になります。立案時の解説は、第2次以降の受益者についても委託者の死亡の時を基準とする立場で(寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』260頁以下。同論文15頁注40による)、学説上も争いはないとされています(7頁)。この立場によれば、本文の例で基準になるのは妻の死亡の時ではなく夫の死亡の時です。もっとも同論文は、東京地裁平成30年9月12日判決が第2順位の受益者の受益権を考慮しておらず、明示がないため立場は明らかではないものの、立案担当者と異なる立場のようにも読めるとしています(7頁)

分かれている点が、遺留分を計算する基礎と請求の相手方です。通常の贈与や遺贈と違い、信託では財産は受託者に、実質的な利益は受益者に帰属します(7頁)。そして、民法1046条1項が請求の相手方として挙げるのは「受遺者」「受贈者」で、受託者や受益者という言葉はありません。考え方は次のように整理されています(8頁の表による)。

受益権説(受益者説) 信託財産説(受託者説) 折衷・双方説
計算の基礎に含める価額 受益権の価額の総額 信託財産の価額 信託財産または受益権の価額
遺留分を侵害する行為 受益権の付与 信託財産の移転(信託の設定) 信託財産の移転または受益権の付与
請求の相手方 受益者(受益者の定めがない信託の場合などは受託者) 受託者 受託者または受益者

どの考え方が多数かは、資料によって書き方が異なり、この記事では断定しません。資料から言えるのは次のことまでです。

  • 同論文は、信託法の立案時の立場は信託財産説と考えられるとしたうえで(7頁)、著者自身は受益権説を妥当としています(8頁)。注では、相手方を常に、または一定の場合に受託者と受益者の双方とするものも少なくないとしています(16頁注43)
  • これと異なる立場として、渡辺宏之「受益者等」は、信託行為を分解せず一体として遺留分侵害行為と捉える考え方(著者は信託行為説と呼びます)をとり、請求の相手方は原則として受託者とすべきだとしています(信託282号40〜41頁、44頁)
  • 今川嘉文「受益者連続信託による財産承継と遺留分制度の適用」(かんぽ財団・平成29年度調査研究報告書)は、相手方については受託者と受益者の双方とする説が有力説とされてきたとし(16頁)、減殺請求の対象となる財産が受益債権であることは「多数説または有力説」としています(21頁)。いずれも2018年の相続法改正前の遺留分減殺請求を前提とする記述です
  • 西論文は、結びで、受益権の評価や遺留分侵害額の負担順序などはなお曖昧な点が多く、残された課題が少なくないとしています(11頁)
  • 裁判例では、東京地裁平成30年9月12日判決は受益権説の立場に立っているようにも読めるものの、必ずしも明らかではないとされています(7頁)。渡辺論文も、受益権説と呼んでよいかは疑問で、信託財産説に親和的な部分があるとしています(信託282号43〜44頁)。東京高裁平成28年10月19日判決(判例時報2325号41頁)は、傍論ながら、遺言信託に対する遺留分減殺の意思表示は受託者に対して行うべきとしたと紹介されています(8頁、13頁注19)
  • 東京地裁平成30年9月12日判決が信託の一部を公序良俗違反で無効とした点については、評価が分かれます。西論文は、先行評釈には肯定的な見方が多いとしつつ、遺留分を侵害する処分は当然に無効となるのではなく請求の対象となるにとどまることなどから、疑問が残るとしています(5〜6頁)。なお、この事件は令和元年9月に東京高裁で裁判上の和解が成立したとされています(渡辺・信託282号43頁)

受益権説に立つ場合には、受益権の評価が問題になります。妻の受益権はいつまで続くかが分からず、長男の受益権は取得できるかどうかも分かりません。民法1043条2項は、条件付きの権利や存続期間の不確定な権利は家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従うと定めており、同論文はこの規定またはその類推適用によるとしています(8頁)。そのうえで、受益者の平均余命や地価の変動率のほか、後の順位の受益者は実際には受益できない可能性があることなども考慮すべき点だとしています(同頁)。

計算の基礎に算入される範囲(民法1044条)にも、信託の性質の見方が関わります。同論文によれば、遺言信託は遺贈に準じ、遺言代用型でない生前の信託は生前贈与に準じて扱うことに異論は少ないとされる一方、遺言代用信託については、遺贈に類似するとみる見解もあるものの、贈与に類似するとみる見解が多く、その中でも死因贈与に類似するとする見解が多いとされています(9頁)。また、委託者が受益者変更権を持つ信託は遺贈に近い面があり、変更権が制限されていれば生前贈与に近いとして、一律に性質を決めるのではなく信託ごとに検討すべきだとしています(10〜11頁)。

なお、ここで述べた基準の時点や評価は、遺留分についての話です。相続税法には、受益者が代わったときに前の受益者から贈与や遺贈で取得したものとみなす定め(9条の2第2項)や、受益者連続型信託の権利に付された一定の制約を付されていないものとみなす定め(9条の3第1項)があり、遺留分とは別の規律です。相続税・贈与税の課税関係は税理士に、遺留分の額や請求、請求された場合の対応は弁護士にご相談ください。

信託目録での見え方

信託目録のどの欄に受益者の定めが記録されるかは、登記簿の「信託目録」の読み方で取り上げています。ここでは受益者連続型に関わる点だけを補足します。

  • 受益者が代わっても、甲区の名義は動きません:名義人は受託者のままで、受益者についての登記事項に変更があれば、受託者が信託の変更の登記を申請し(不動産登記法103条1項)、信託目録の記録が変更されます(不動産登記規則176条3項)
  • 受益者の欄だけでは足りないことがあります:受益者の指定に関する条件や受益者を定める方法の定めなどを登記したときは、受益者の氏名・住所を登記することを要しません(不動産登記法97条2項)。誰が今の受益者かは、その定めとあわせて読むことになります
  • 30年の経過は、登記事項として挙げられていません:不動産登記法97条1項各号に「30年」に当たる項目はなく、登記簿が経過を示してくれるわけではありません。数え始めの手がかりは信託の登記の登記原因の日付(同法59条3号)や信託の条項ですが、条件付きの信託などでどの時点から数えるかは、先に述べたとおり条文からは直接決まりません

ある信託で受益者の順番がどう定められているか、登記をどう読むかを確かめたいときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

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